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高森たかもり 明あきら (こうもり あきら) 無所属むしょぞく

■報告ほうこく題目だいもく

イギリス〈障害しょうがい者しゃ〉政策せいさく史し(1)　ナショナル・ミニマムが潰つぶした可能かのう性せい

■報告ほうこくキーワード

適者てきしゃ選択せんたく / 〈雇用こよう不能ふのう者しゃ〉 / 福祉ふくし国家こっか構想こうそう

■報告ほうこく要旨ようし

　本ほん報告ほうこくでは、ウェッブ夫妻ふさいが提唱ていしょうしたナショナル・ミニマム(国民こくみんの最低限さいていげん)構想こうそうが〈障害しょうがい者しゃ〉の労働ろうどうからの締しめ出だしにどのような思想しそう的てき役割やくわりを果はたしたのかを歴史れきし的てきに考察こうさつする。

　ナショナル・ミニマムはビアトリス・ウェッブとシドニー・ウェッブが主著しゅちょ『産業さんぎょう民主みんしゅ制せい』(1897年ねん)ではじめて提唱ていしょうした政策せいさく構想こうそうだった。『産業さんぎょう民主みんしゅ制せい』の段階だんかいでは、「労働ろうどう者しゃに生産せいさん者しゃならびに市民しみんとしての資力しりょくを維持いじさせることおよび(それに)相容あいいれないような雇用こよう条件じょうけんを禁止きんしすること」を指さし、対象たいしょうは労働ろうどう者しゃに限定げんていされていた。行政ぎょうせいによって強制きょうせい的てきに実施じっしされるべき取とり組くみとしては〈児童じどう労働ろうどうの制限せいげん〉、〈生存せいぞんするのに十分じゅうぶんな賃金ちんぎん〉、〈労働ろうどう時間じかんの制限せいげんと余暇よか、休息きゅうそくの確保かくほ〉、〈労働ろうどう者しゃの健康けんこうを維持いじするための安全あんぜん衛生えいせいの改善かいぜん〉などが挙あげられていた。

　しかし、ナショナル・ミニマムを提唱ていしょうした直後ちょくごの文章ぶんしょうで、夫妻ふさいは〈雇用こよう不能ふのう者しゃ〉というカテゴリーについて言及げんきゅうする。〈雇用こよう不能ふのう者しゃ〉とはナショナル・ミニマムが実現じつげんした暁あかつきには競争きょうそう的てき労働ろうどう市場いちばに参入さんにゅうすることを禁止きんしされるべき人々ひとびとのことだった。

　ウェッブ夫妻ふさいは〈雇用こよう不能ふのう者しゃ〉を３みっつのカテゴリーに分類ぶんるいした。①児童じどう、産婦さんぷ、高齢こうれい者しゃ②身体しんたい、もしくは精神せいしんに疾患しっかんを有ゆうする者もの③先天的せんてんてきな〈無能むのう者しゃ〉である。②のカテゴリーの例れいとしては〈病弱びょうじゃく者しゃ〉、〈不具ふぐ者しゃ〉、〈白痴はくち者しゃ〉、〈癲癇てんかん者しゃ〉、〈盲者もうしゃ〉、〈聾唖ろうあ者しゃ〉、〈罪人ざいにん〉と〈見みこみのない怠なまけ者もの〉、〈道徳どうとく的てき欠陥けっかん者しゃ〉が挙あげられた。③のカテゴリーに含ふくまれるのは外見がいけん上じょうの疾患しっかんはないが、先天的せんてんてきな要因よういんにより規則きそく的てきあるいは継続けいぞく的てき就労しゅうろうができず、労働ろうどうの速度そくどや熟練じゅくれんに欠かけるとされた人々ひとびとだった。具体ぐたい的てきには同どう時代じだいに社会しゃかいの〈お荷物にもつ〉として注目ちゅうもくされた軽度けいど〈精神せいしん薄弱はくじゃく者しゃ〉のことを指さしていると考かんがえられる。

　ウェッブ夫妻ふさいは②③の〈雇用こよう不能ふのう者しゃ〉を競争きょうそう的てき労働ろうどう市場いちばから排除はいじょするとともに、〈優秀ゆうしゅう〉な労働ろうどう者しゃを競争きょうそう的てき産業さんぎょうに向むかわせるために、救貧きゅうひん法ほうの下したでその能力のうりょくに応おうじて汚物おぶつ利用りよう農場のうじょう、屠殺とさつ場じょう、酪農らくのう場じょうなど非ひ競争きょうそう的てきな業務ぎょうむに従事じゅうじさせることを提唱ていしょうした。それは、行政ぎょうせいの力ちからを借かりたより徹底てっていした〈障害しょうがい者しゃ〉の競争きょうそう的てき労働ろうどう市場いちばからの排除はいじょの主張しゅちょうだった。

　ナショナル・ミニマム構想こうそうを現在げんざいのように生存せいぞん権けん、社会しゃかい権けんの保障ほしょうという観点かんてんのみから評価ひょうかすることは禁物きんもつである。ウェッブ夫妻ふさいにとって、ナショナル・ミニマムは国民こくみんの産業さんぎょうを発展はってんさせるために労働ろうどう者しゃの〈質しつ〉を維持いじ、向上こうじょうするための政策せいさく構想こうそうであり、〈最低さいてい賃金ちんぎん〉は夫妻ふさいが〈国民こくみんの最低限さいていげん〉に値あたいしないと判断はんだんした人々ひとびとを競争きょうそう的てき労働ろうどう市場いちばから駆逐くちくするための方策ほうさくだった。ウェッブ夫妻ふさいのうち、ビアトリス・ウェッブは幼少ようしょう時じの家庭かてい教師きょうしだったハーバート・スペンサーの〈最さい適者生存てきしゃせいぞん〉の理論りろんの影響えいきょうを強つよく受うけていた。しかし、〈不適ふてき者しゃ〉は自然しぜんに淘汰とうたされていくと考かんがえたスペンサーとは異ことなり、〈最適さいてき者しゃ〉の生存せいぞんと〈不適ふてき者しゃ〉の淘汰とうたは人為じんい的てきな介入かいにゅう、制御せいぎょなしには実現じつげんできないと考かんがえていた(〈適者てきしゃ選択せんたく〉論ろん)。

　ビアトリスは貧困ひんこん調査ちょうさ、産業さんぎょう調査ちょうさ、労働ろうどう組合くみあい調査ちょうさの経験けいけんも豊富ほうふだった。劣悪れつあくな雇用こよう条件じょうけんで労働ろうどう者しゃを雇やとう〈苦く汗あせ産業さんぎょう〉で〈障害しょうがい者しゃ〉が雇用こようされる場合ばあい、工場こうじょうの欠員けついん補充ほじゅうや慈善じぜん事業じぎょう家かの口利くちききで〈障害しょうがい者しゃ〉が雇用こようされる場合ばあいがあることも把握はあくしていた。夫妻ふさいは〈障害しょうがい者しゃ〉が競争きょうそう的てき労働ろうどう市場いちばにおいて低てい賃金ちんぎんで雇用こようされることによって、最低さいてい賃金ちんぎん以上いじょうの賃金ちんぎんでなければ雇やとうことのできない〈優秀ゆうしゅう〉な労働ろうどう者しゃと競合きょうごうすることを恐おそれていた。そして、より低てい賃金ちんぎんで雇やとうことができる〈障害しょうがい者しゃ〉が雇用こようされることによって、産業さんぎょうの〈退化たいか〉が生しょうじると考かんがえ、ナショナル・ミニマムを維持いじすることによって〈退化たいか〉の阻止そしを図はかろうとしたのである。

　従来じゅうらいのイギリス障害しょうがい学がくの歴史れきし的てき理解りかいでは、産業さんぎょう革命かくめいによる工業こうぎょう化かにより、産業さんぎょうに適合てきごうできなくなった〈障害しょうがい者しゃ〉は競争きょうそう的てき労働ろうどう市場いちばから姿すがたを消けしたとする前提ぜんていでの議論ぎろんが広ひろく見みられた。工業こうぎょう化かが〈障害しょうがい者しゃ〉の労働ろうどう参加さんか状じょう況きょうに大おおきな影響えいきょうを与あたえたという点てんについては報告ほうこく者しゃも同意どういする。しかし、排除はいじょという面めんを強調きょうちょうしすぎると、19世紀せいきの競争きょうそう的てき労働ろうどう市場いちばに生いき残のこっていた〈障害しょうがい者しゃ〉の労働ろうどう参加さんか状じょう況きょうを見落みおとしてしまうのではないかと危惧きぐする。

　そして、本ほん報告ほうこくの最もっとも重要じゅうような問題もんだい提起ていきとなるが、19世紀せいき末まつにはじまる初期しょき福祉ふくし国家こっか構想こうそうおよび構想こうそうに基もとづき実現じつげんした政策せいさくが、20世紀せいきの〈障害しょうがい者しゃ〉の労働ろうどうからの排除はいじょにどのような役割やくわりを果はたしたのかが、今後こんご考察こうさつされなければならないだろう。特とくにウェッブ夫妻ふさいが所属しょぞくしたフェビアン協会きょうかいおよびその論争ろんそう相手あいてとなった慈善じぜん組織そしき協会きょうかいが行おこなった様々さまざまな社会しゃかい調査ちょうさと政策せいさく構想こうそうには注目ちゅうもくしていく必要ひつようがあると考かんがえる。


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障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）