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日野さんの演技のおかげで、骸骨でも表情があるように見えるんです 『オーバーロード』監督 伊藤尚往(第1回) | AniKo

日野ひのさんの演技えんぎのおかげで、骸骨がいこつでも表情ひょうじょうがあるようにえるんです
『オーバーロード』監督かんとく 伊藤いとうしょう往(だい1かい

今期こんきのアニメぐんなかでも、話題わだい急上昇きゅうじょうしょうちゅう作品さくひんといえば『オーバーロード』だろう。web小説しょうせつとして連載れんさいされ書籍しょせきされた原作げんさく部数ぶすうは、アニメ放映ほうえい60まんから150まんへと増加ぞうか。いかにアニメ人気にんきいたかうかがえるというものだ。ネットじょうなどで「おれTUEEEE」とばれる系譜けいふられることがおおほんさくだが、それ以外いがいにもふくあいてき魅力みりょくった作品さくひんとなっている。今回こんかい監督かんとくである伊藤いとうしょう往氏に、になる制作せいさくほうについてうかがった。

Profile
伊藤いとうしょう往 Naoyuki Ito

りゅうアニメ技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ入社にゅうしゃ。その東映とうえいアニメーションへ。原画げんがマンとして活躍かつやくし、のち演出えんしゅつとして『おジャ魔女まじょどれみ』『ワンピース』『ちはやふる』など様々さまざま作品さくひんたずさわる。監督かんとくさくとしては『Kanon』(東映とうえいばん)『イリヤのそら、UFOのなつ』などがある。

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『オーバーロード』は『ちはやふる』の経験けいけんかした作品さくひん

−— 伊藤いとう監督かんとくはこれまで多数たすう作品さくひんたずさわられていますよね。そのなかで『オーバーロード』にとく影響えいきょうあたえているのはどういった作品さくひんなのでしょうか。
伊藤いとう 意外いがいと『ちはやふる』だったりするんですよ。
−— おお。それはすこ意外いがいです。『ちはやふる』は競技きょうぎかるたを題材だいざいにした少女しょうじょマンガが原作げんさくですし、作品さくひんせい大分だいぶちがいますよね。
伊藤いとう そうですね。影響えいきょうという意味いみでは具体ぐたいてきにどこというより「シナリオのかた」なんですよね。むかしからシナリオがよければ、面白おもしろいアニメがつくれるのに、とおもっていたんです。
−— たしかに、うごきはすごいものの、はなし面白おもしろくないアニメというのもありますよね。
伊藤いとう 自分じぶんはもともと作画さくが出身しゅっしんなので、うごきが面白おもしろいアニメはきなのですが「作画さくががいい」はイコール作品さくひん評価ひょうかにつながらないんです。そこにたいしてむかしからおもうところがおおくてですね……。シナリオさえしっかりつくってあれば、はなし面白おもしろくなるのだから、いいアニメができるのに、と。しかし、なかなかシナリオまわりについて、コントロールできなかったというジレンマがあったんです。そんなおもいをかかえながら、マッドハウスさんから『ちはやふる』のはなしけてやっていると、原作げんさく面白おもしろいんですよね。毎回まいかい原作げんさくんでなみだぐんだりして……(笑)。
−— (わらい)。
伊藤いとう アニメをつくるからなんむんですよ。ですからなんかないといけない(笑)。そこで、『ちはやふる』のはなしつくかたには、ひと感動かんどうさせる仕組しくみのようなものがあるのではとかんがえたんです。その東映とうえいさんの劇場げきじょう(『映画えいが ドキドキ! プリキュア マナ結婚けっこん!!? 未来みらいにつなぐ希望きぼうのドレス』)をつくらせていただいて。そのとき監督かんとくをやらせてもらえるということで、シナリオにたいしてコミットできたので、『ちはやふる』の経験けいけんかしながらシナリオを大事だいじつくってみたんです。すると、ある程度ていど面白おもしろいよ」というリアクションをいただけた。そこで手応てごたえをつかんだがしました。
−— あの『プリキュア』の劇場げきじょうばんけますよね……。
伊藤いとう あ、ごらんいただいていますか。いいかんじですかね?(笑)
−— あれでけないひとはいないのではないかと……。あの作品さくひんは『ちはやふる』のつくかたがヒントになっていたんですね。
伊藤いとう そうですね。『ちはやふる』にもあった、おなじセリフでも前半ぜんはん後半こうはんちが意味いみつという部分ぶぶんなんかをてはめてみたりしました。
−— ネタバレになるのでくわしくはえませんが、たしかにそのあたりはあの映画えいがでのおおきなポイントでしたね。では、今回こんかいの『オーバーロード』も、その延長えんちょうということで、おはなし重視じゅうしかんがえられていた?
伊藤いとう はい。なんといっても原作げんさく面白おもしろいので、この面白おもしろさがそのまませればいいものになるんじゃないか、というのが自分じぶんなかでのっかかりだったんです。『プリキュア』でやったこととちかいのですが、前半ぜんはんっていたセリフが、後半こうはんじつはここにかかっていたという部分ぶぶんがいくつかあって、そこは極力きょくりょくかしていければとおもいましたね。
−— 具体ぐたいてきにはだい4、アインズの「無駄むだなあがきをやめ……」というセリフでしょうか。
伊藤いとう そうですね。ニグンのセリフを、そのままでアインズがいいかえしてみたり、だい8の「それをめるのは我儘わがままというものだ」からだい9の「わすれていたな、わたし非常ひじょう我儘わがままなんだ」につなげるといったところですね。ああいうハッタリはいいなと(笑)。そのあたりはポイントになるとおもってつくっていました。

第9話より。第8話(第9話アバン)のセリフを踏まえた言葉で戦闘を終わらせるアインズ。

だい9より。だい8だい9アバン)のセリフをまえた言葉ことば戦闘せんとうわらせるアインズ。

原作げんさく小説しょうせつには、あるしゅなつかしさをかんじた

−— さきほど、原作げんさく面白おもしろいとおっしゃられていましたが、だいいち印象いんしょうはどんなものだったのですか?
伊藤いとう 最初さいしょはwebばんんだんですね。そうすると文章ぶんしょうりょうがとんでもなくて、これがいつまでんでもわらないんですよ(笑)。ネットだと書籍しょせきのようにページがないから、どこが区切くぎりなのかかりづらいんです。それで、「ふう、わった。じゃあつぎしょうむか」とおもっていたら、「全然ぜんぜんちがはなしだぞ?」ということも多々たたあって。
−— しょうわりでべつひと視点してんになったりしますよね。
伊藤いとう ええ。それですすめていくと、物語ものがたりかっていくというながれが、なつかしいなとおもったんですよ。こういうあえて親切しんせつじゃないつくかたは、それこそ『(しん世紀せいき)エヴァンゲリオン』なんかをていてかんじていたことなんです。「このはなしはどこにつながるんだろう」とおもったら、ちゃんと最後さいご終着しゅうちゃくてんがある。小説しょうせつだとむかしからあった手法しゅほうですが、「ああ、こういうつくかたかしていくと面白おもしろいかもな」とはおもっていましたね。もちろん視聴しちょうしゃが、どこまでそのかりづらさにえていただけるかという部分ぶぶんもあるので、つかわないといけないのですが……。自分じぶん東映とうえいさんでやっているのはキッズけがおおいんです。「第三者だいさんしゃ回想かいそうシーンがつづはなしすうでも、主人公しゅじんこうかならしましょう」みたいな、かりやすさ優先ゆうせん手法しゅほうになりがちなんですよ。今回こんかい会社かいしゃちがいますし、そういう部分ぶぶん多少たしょう乱暴らんぼうにやったほうが面白おもしろくなるのかなとおもいました。ているうちに「ああ、ここにつながるのか」ということがかるような物語ものがたりつくかたはありだろうな、と。
−— 物語ものがたりつながるというところでいうと、作中さくちゅう、ニニャの背景はいけいなど、今回こんかいのアニメでは昇華しょうかされない伏線ふくせん一部いちぶれられているようにえるのですが……。
伊藤いとう それはそのつなげるためにれているのではなくて、そういう伏線ふくせんてき描写びょうしゃがないと、シークエンスそのものが成立せいりつしないからなんです。たとえばキャラクターとして違和感いわかんがあって、その理由りゆうがちゃんと昇華しょうかされるのがアニメされている範囲はんいにないとしても、「その違和感いわかんには理由りゆうがあるのだ」と視聴しちょうしゃづいてもらえるキーワードをほうんでおこうと。そうでないと、ただ違和感いわかんがあるだけのキャラになってしまいますからね。
−— なるほど。原作げんさく未見みけん視聴しちょうしゃたいしては、具体ぐたいてきなことはからないけど、なにかあったんだろうなとさっしてもらうことで、シークエンスとしての違和感いわかんをなくすということですね。
伊藤いとう そういうことはしています。

キャラぶつとしてきちんと表現ひょうげんしようとおもった

−— 制作せいさくにあたって、原作げんさくをアニメという媒体ばいたいあらためてとしまないといけないかとおもうのですが、どのあたりをポイントとされたのでしょうか。
伊藤いとう 「アインズは人間にんげん世界せかいもどりたいのか」という部分ぶぶんなやみましたね。最終さいしゅうてきには、今回こんかいのアニメ範囲はんいないではかたられないということもありますので、原作げんさくサイドともご相談そうだんしたうえで、かんがえないことにしようというりをしました。書籍しょせきであれば、アインズの躊躇ちゅうちょというかたちで表現ひょうげんできることでも、映像えいぞうにしたときまえすすめないだけの印象いんしょうになってしまいそうでしたので、そのしゃくれないとおもったんです。優先ゆうせん順位じゅんいとして、もっとやらなければいけないことがあったので。
−— 原作げんさくがわ現在げんざい刊行かんこうぶんですと、現実げんじつ世界せかいもどりたいのかまだからないですよね。
伊藤いとう そうですね。そのあたりのはなし原作げんさく重要じゅうよう部分ぶぶんとしておおきくれられていれば、ニュアンスをすべきだったのでしょうが、原作げんさく自体じたい帰着きちゃくてんえていない状態じょうたいでしたので、おおきくあつか必要ひつようせいをあまりかんじなかったんですね。
−— 一方いっぽうづくりにかんしてはいかがでしょうか。原作げんさくイラストを手掛てがけられたso-binさんの繊細せんさいですし、なかなかアニメにするのがむずかしそうですが。
伊藤いとう so-binさんのすご魅力みりょくてきなのですが、正直しょうじき実際じっさいにアニメにするときつらいとはおもいました(笑)。ただ、ぼくはいまえ段階だんかいで、キャラクターは吉松よしまつ孝博たかひろ)さんにおねがいするというはなしうごいていたので、一度いちど方向ほうこうせいめたらまよいなくすすめられましたね。
−— 吉松きちまつさんといえば、『TRIGUN』や『HUNTER×HUNTER』など、マッドハウスの代表だいひょうてき作品さくひんをいくつも牽引けんいんされてきたほうですよね。
伊藤いとう はい。吉松きちまつさんのパーソナリティーに方向ほうこうでいくとすれば、どういうかたちになるのかをかんがえました。げていただいたものをていると、西洋せいようのファンタジーものしかとした原作げんさく調子ちょうしともちがった、日本にっぽんきアニメのニュアンスにられていた部分ぶぶんがあったんです。であれば、作品さくひん世界せかいさい構築こうちくするために「キャラぶつ」としてきちんと表現ひょうげんするべきなのではないかと。画面がめんにたくさんのキャラクターがごちゃっといるようなかたではなく、フレームにひとりキャラがいて、それ自体じたいつような……。キャラが面白おもしろいというかたこうとおもったんです。
−— たしかに原作げんさくそのままのキャラクターだと、キャラぶつとしてはやりづらい部分ぶぶんもあるかもしれないですね。
伊藤いとう ええ。吉松きちまつさんのキャラデザインであれば、ポンと(キャラをフレームないに)いて、あとはセリフそのものの魅力みりょくでも成立せいりつするのではないかとおもったんですね。
−— so-binさんとのやりりみたいなものはあったのでしょうか。
伊藤いとう so-binさんから、ご自身じしんがイメージするキャラ設定せってい原案げんあんのようなものはいただきました。100パーセント反映はんえいはできなかったのですが、いただいたものを可能かのうかぎ使つかえるよううごいたつもりです。とくに、原作げんさくかれていつつも、イラストされていないキャラにかんしては、かなりかずしていただいています。もちろん吉松きちまつさんのオリジナルデザインのキャラもはいっているのですが、so-binさんのながら方向ほうこうせいめて調整ちょうせいしました。アルベドのフルプレートなんかは、so-binさんにしていただいたあんですね。ただ、当然とうぜんso-binさんのなので、それなりに情報じょうほうりょうおおいんですよ(苦笑くしょう)。

オープニングより。第3話、第4話に登場したアルベドのフルプレートについては、原作に絵として掲載されていなかったもの。

オープニングより。だい3だい4登場とうじょうしたアルベドのフルプレートについては、原作げんさくとして掲載けいさいされていなかったもの。

−— それは、そうでしょうね。
伊藤いとう そこは吉松きちまつさんに整理せいりしてもらっているのですが、それでもせんおおいですね。吉松きちまつさんはあのをささっとげてきてしまいますので、それはそれですごいのですが……。ただ、作画さくがさんのなかでもおなじようにえがけるひとはなかなかいないんですよ。
−— 今時いまどきめずらしいぐらいのせんおおいキャラクターですよね。そのあたりのご苦労くろうは、やはりかなりあるものですか?
伊藤いとう ええ。だい1作画さくがはいって最初さいしょおもったことが、アインズさま意外いがいなほどないんです……。そもそもくろ眼窩がんかなかあか目玉めだまがあるので、線画せんがだと仕上しあがりがからないんですよね。眼窩がんか部分ぶぶんをちゃんとグリグリってみないと印象いんしょうからない。
−— 線画せんがときくろったりしないですものね。
伊藤いとう そうなんです。あか目玉めだまおおきさによって印象いんしょうわるはずなのですが、撮影さつえいしてみないとからなかったので、苦戦くせんしています。ですから、かんがかたとしては、アインズのかお基本きほんうごかさないようにしようとめました。アニメのせんにするとどうしてもやわらかくなってしまうので、骸骨がいこつえがくとギャグっぽくなってしまうんです。できるだけ表情ひょうじょうえず、おなじようなかおえがいてもらうというニュアンスにしました。
−— それでも、やはり骸骨がいこつにはこだわりたいと?
伊藤いとう 実際じっさいはそんなに頑張がんばらなくても、フィルムのルックとしてはわらなかったのかもしれません。ただ、so-binさんもどこかのメモで、「格好かっこういい骸骨がいこつというものがある」とおはなしをされていたんですよ。たしかにso-binさんのえがいている骸骨がいこつ格好かっこういいじゃないですか。そのニュアンスはなんとかのこしたいとおもっていましたね。
−— さきほど、基本きほんてきにはおながおえがいているとおっしゃっていましたが、シーンによっては迫力はくりょくがあったり、わらっているような印象いんしょうえることもありますね。
伊藤いとう 不思議ふしぎなもので、シチュエーションでそうおもえてくるんですよね。もちろん、かげかたすこゆるくしたりはしているのですが……。あとはやっぱり芝居しばいでしょうかね。
−— ああ! 日野ひのさとし)さんのお芝居しばいですね。表情ひょうじょうわらないということでいうと、その演技えんぎすご大事だいじになってくるかとおもうのですが……。
伊藤いとう まだアニメばん声優せいゆうさんがまってなかったころ、ドラマCDを最初さいしょいたときに、「これでいいじゃないか」と正直しょうじきおもいました(笑)。実際じっさい日野ひのさんになりそうだというはなし段階だんかいで、「これでなんとかなるな」とホッとしましたね。こえ芝居しばいとしてのアインズさま日野ひのさんなんだという解釈かいしゃくさきにあって、ほうはどうするかというアプローチをしたという順番じゅんばんなんです。
−— ではさきほどおっしゃられたアインズの表情ひょうじょう固定こていにする、というのは……。
伊藤いとう ええ。まさに日野ひのさんの芝居しばいがあったからこそ判断はんだんできたことなんです。こえ芝居しばいだけで感情かんじょう表現ひょうげんできているので、下手へたかお記号きごうてきにびっくりさせたり、おこったかおつくったりはしないほうがいいのではと。くちパクも、かるくなってしまわないようパクパクうごかさず、基本きほんじたままにしてします。ぎゃく日野ひのさんのほうで芝居しばいがしやすいように、そういう余地よちつくっておくというかんがかたです。結果けっか、このてんかんしてはとてもいいかたちになったとおもいます。

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Official Website
アニメ『オーバーロード』公式こうしき
http://overlord-anime.com

Soft Information
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(C)丸山まるやまくがね・KADOKAWAかん/オーバーロード製作せいさく委員いいんかい