約3兆7000億円の生活保護費のうち不正受給は0.47%(depositphotos.com)
小田原市の生活保護の担当職員がローマ字で「保護なめんな」とプリントしたジャンパーを着用したまま、受給者世帯を訪問していた事実が判明した。末尾にDREGS(カス)の英文字も刻まれていた。市は、職員の連帯感を高揚させるために作成したが、不適切な表現だったと弁明し、着用を禁止した(神奈川新聞2017年1月18日)。
報道によれば、黒色のジャンパーの左胸に「保護なめんな」のローマ字、「悪」の字に×印を重ねたエンブレム、背面に「SHAT」(生活・保護・悪を撲滅する・チーム)の文字と「私たちは正義だ」「不正受給をし 市民を欺くのであれば 私たちはあえて言おう 彼らはカスだと」と非難する英文が黄色でプリントされている。
「保護なめんな」ジャンパーを作成した背景は?
事の発端は2007年7月――。生活保護費の支給を打ち切られた男性受給者が職員3人を杖やカッターナイフで負傷させる傷害事件が発生した。この事件が引き金になり、職員の連帯感を高揚させるために、当時の係長がジャンパーを作成し、ケースワーカーら64人が自費で購入。現在は在職中の28人が所有している。
「悪」のマークは不正受給の悪は許さないため、「なめんな」は市役所内部に向けて頑張っていると訴えるため、職員の自尊心を高揚させ疲労感や閉塞感を打破するための表現だったと釈明している。
ただ、市は不適切な表現と認め、福祉健康部長以下7人を厳重注意。会見した日比谷正人部長は、市民に不快な思いをさせたと謝罪。加藤憲一市長は、市民に誤解を与えないように指導を徹底するとコメントした。
また、市のホームページの生活保護欄も修正。従来は「生活保護よりも民法上の扶養義務の方が優先されます。働く能力のある方は、その能力を最大限活用していただく」と表示していたが、扶養義務が優先する記載は好ましくないと指摘されたことから、修正した。
市は、保護を受けさせないという誤解を与えると判断し、「自分の力で生活していけるよう手助けする」のが生活保護制度の趣旨であると説明し、保護の申請を控えないように呼びかけている(朝日新聞デジタル2017年1月20日)。
このような受給者の人権やプライバシーを踏みにじる行政の逸脱行為は断じて許されない。受給者のウェル・ビーイングを支援するソーシャルワークの価値観に反するだけでなく、支援の現場で受給者を良心的に真摯に支えている担当職員やケースワーカーを冒涜する行為でもある。
このような不誠実かつ恣意的な福祉行政の大失態が露呈したのはなぜだろう?
小田原市だけの倒錯した被害者意識と同調圧力に屈した組織的エラーとは到底考えられない。生活保護制度、受給者、不正受給の実態を探ってみよう。