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4月がつ4日にちの百物語ひゃくものがたり



油屋あぶらやの娘むすめ

にほんご(日にち语)  ・ちゅうごくご(中ちゅう文ぶん)　・日にち语＆中ちゅう文ぶん

　むかしむかし、ある村むらに、魚釣さかなつりの好すきな三さん人にんの男おとこがいました。

　ある日ひの事こと、三さん人にんが川かわで夜よる釣つりをしていると、川向かわむこうにボーッと赤あかい火ひが浮うかびあがりました。
　三さん人にんが不思議ふしぎに思おもって見みていると、火ひはパッと消きえました。
「消きえた」
「何なにだろう？」
「よし、わしが調しらべてやる」
　三さん人にんの中なかで一番いちばん勇気ゆうきのある男おとこが、小舟こぶねに乗のって向むこう岸ぎしへ渡わたってみました。
　赤あかい火ひが燃もえていた辺あたりに行いってみると、一いち軒けんのあばら屋やがあって、中なかへ入はいってみると美うつくしい娘むすめがたった一人ひとり、うつろな目めで座すわっているのです。
「あの、道みちに迷まよって困こまっておるので、今晩こんばんここへ泊とめてくださるまいか？」
　男おとこが声こえをかけると、娘むすめは急きゅうに怖こわい顔かおで言いいました。
「いけません！　ここは、恐おそろしい鬼おにの家いえです。見みつからないうちに、早はやく逃にげてください！」
「いや、そうは言いわれても・・・」
　娘むすめが何なにを言いっても男おとこがあきらめないので、娘むすめは仕方しかたなく男おとこを奥おくの部屋へやへ案内あんないしました。
　そして、こう言いいました。
「どんな事ことがあっても、決けっしてここから出でてはなりませぬ。出でれば、殺ころされます」

　さてその晩ばんの事こと、男おとこが奥おくの部屋へやで寝ねていると、
「きゃあーー！」
と、女おんなの悲鳴ひめいが聞きこえてきました。
「何事なにごとだ！」
　男おとこは飛とび起おきて部屋へやを飛とび出だそうとしましたが、途中とちゅうで娘むすめの言葉ことばを思おもい出だすと、そっと戸とを開あけて隣となりの部屋へやをのぞいて見みました。
　すると驚おどろく事ことに、大おおきな赤あか鬼おにが燃もえさかる火ひの上うえで、娘むすめを火ひあぶりにしているではありませんか。
「むごい事ことを・・・」
　さすがの男おとこも、足あしがすくんで動うごけません。
　そうするうちに火ひがパッと消きえて、同時どうじに赤あか鬼おにの姿すがたも消きえてしまいました。
「だっ、大丈夫だいじょうぶか！」
　男おとこは娘むすめのそばへ駆かけ寄よって、娘むすめを抱いだきあげました。
　娘むすめはぐったりしていますが、不思議ふしぎな事ことに火傷かしょう一ひとつしていません。
「これは、どうした訳わけじゃ？」
　男おとこがたずねると、娘むすめが言いいました。
「わたしは、大阪おおさかの油屋あぶらやの娘むすめです。
　父ちちがお客きゃくに油あぶらの量りょうをごまかして売うる為ために、私わたしは毎晩まいばん、こんな目めに合あわさせているのです。
　お願ねがいです。
　わたしの家いえへ行いき、家いえにある油あぶらを全部ぜんぶ、高野たかの山さんのお寺てらに寄附きふする様ように父ちちへ頼たのんでください」
　そして娘むすめは、証拠しょうこの印しるしに自分じぶんの片かた袖そでをちぎって渡わたしました。
「よしわかった！　任まかせておけ！」
　男おとこはさっそく、その片かた袖そでを持もって大阪おおさかの娘むすめの家いえへ行いき、主人しゅじんに事ことの次第しだいを詳くわしく話はなしたのです。
　 ところが主人しゅじんは、
「そんな馬鹿ばかな。
　娘むすめはずっと前まえから病気びょうきで、ほとんど意識いしきがないのじゃ。
　とても外そとへなど、出でられるはずがない」
と、信しんじてくれません。
　しかし男おとこの持もって来きた片かた袖そでは、まぎれもなく娘むすめの物ものです。
　主人しゅじんは念ねんの為ために、座敷ざしきの布団ふとんに寝ねている娘むすめの着物きものを見みてみました。
「あっ！」
　なんと娘むすめの着物きものの片かた袖そでが、ちぎれてなくなっているではありませんか。
　主人しゅじんはさっそく店みせの者ものに命めいじて、家いえにある油あぶらを全部ぜんぶ、高野たかの山さんのお寺てらに持もって行いかせました。
　すると不思議ふしぎな事ことに、娘むすめの病気びょうきがけろりと治なおってしまったのです。
　主人しゅじんは大だい喜よろこびすると、男おとこに言いいました。
「ありがとうございます。
　おかげで、娘むすめが救すくわれました。
　どうかこの油屋あぶらやの跡取あととりとして、これからも娘むすめを守まもってください」

　こうして男おとこは娘むすめの婿むこに迎むかえられ、幸しあわせに暮くらしたという事ことです。

おしまい