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懺悔は乾杯の後で――小説家・松井計公式ブログ 書籍
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電子でんし書籍しょせきばん家族かぞく挽回ばんかい」リリースのおらせ



松井まついはかる著作ちょさく家族かぞく挽回ばんかい」の電子でんし書籍しょせきばんがリリースされました。

ほんさくは、「ホームレス作家さっか」「ホームレス失格しっかく」をふくめたわたしドキュメント3さく最終さいしゅうさくとなる作品さくひんです。

今回こんかい電子でんし書籍しょせきは、iBooks限定げんていでのリリースで、ダウンロード価格かかくは100えんと、大変たいへん、おもとめやすくなっております。

すで電子でんしされている「ホームレス作家さっか」「ホームレス失格しっかく」(ともに幻冬舎げんとうしゃアウトロー文庫ぶんこ)とわせておたのしみください。

■「家族かぞく挽回ばんかい電子でんしばんをダウンロードするには●こちら●から。

詳細しょうさい目次もくじ

序章じょしょう よんねん歳月さいげつ
だいしょう 再会さいかいまで――ふゆ
だいしょう 小学しょうがくいち年生ねんせい――はる
だいしょう サーズデイ・パパ――なつからあき
終章しゅうしょう 明日あしたへ――あきからふゆ、そしてまたはる

電子でんしばん発行はっこうもと メディカム
おやほん発行はっこうもと 情報じょうほうセンター出版しゅっぱんきょく
[ 2013/11/12 11:25 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

東條とうじょう英機ひでき暗殺あんさつ電子でんし書籍しょせき復刻ふっこく



わたしが2001ねんの「ホームレス作家さっか」(幻冬舎げんとうしゃ)刊行かんこうに、それまでの筆名ひつめい松井まついひさしじん本名ほんみょうあらためて、松井まついけい名義めいぎ活動かつどうするようになったことは、このブログほか様々さまざま場所ばしょかたっておりますので、ごぞんじのほうおおいこととおもいます。

このたび、その松井まついひさしじん名義めいぎ執筆しっぴつした最後さいご長篇ちょうへん小説しょうせつ東條とうじょう英機ひでき暗殺あんさつ」が、(かぶ)メディカムから電子でんし書籍しょせき復刻ふっこくされることになりました。

本名ほんみょうでの活動かつどうも13ねんむかえ、多少たしょうなりともこの名前なまえしたしんでいただいていることともおもいますので、松井まついひさしじん名義めいぎ松井まついけい名義めいぎあらためての復刻ふっこくです。

また、今回こんかい電子でんし復刻ふっこくばんは、iBooks限定げんていでのリリースで、ダウンロード価格かかくは100えんと、大変たいへん、おもとめやすくなっております。

昭和しょうわ17ねん太平洋戦争たいへいようせんそう帝都ていと東京とうきょう舞台ぶたいにした戦時せんじサスペンスの世界せかいを、ぜひ、おたのしみください。

東條とうじょう英機ひでき暗殺あんさつ」をダウンロードするには●こちら●からおはいください。

内容ないよう紹介しょうかい

昭和しょうわじゅうななねん初夏しょかたいべい戦線せんせん勝利しょうり東京とうきょう永田町ながたちょうくろ陰謀いんぼうひそかにがった。

どき首相しゅしょうであり陸軍りくぐん大臣だいじん東條とうじょう英機ひでき暗殺あんさつすべく、狙撃そげきしゅはなたれたのである。

が、じつ東條とうじょう英機ひでき暗殺あんさつ計画けいかくうらには、首相しゅしょう暗殺あんさつよりももっとおおきな陰謀いんぼう渦巻うずまいていた。

テロリスト、憲兵けんぺい、そして近衛このえへい各自かくじ指令しれいまっとうすべく、いかりと慟哭どうこく戦時せんじ裏面りめんあばいたサスペンス・アクション!!

詳細しょうさい目次もくじ

プロローグ
だい 1しょう 帝国ていこくホテル――昭和しょうわじゅうななねん初夏しょか
だい 2しょう 調布ちょうふ――ある再開さいかい
だい 3しょう かくはず――雷鳴らいめい
だい 4しょう 神楽坂かぐらざか――まくら芸者げいしゃ
だい 5しょう かくはず――くろ兵団へいだん
だい 6しょう 有楽町ゆうらくちょう――のぶふたた
だい 7しょう 帝国ていこくホテル――魑魅魍魎ちみもうりょう
だい 8しょう 神田神保かんだじんぼうまち――追跡ついせき
だい 9しょう 新橋しんばし――密談みつだん
だい10しょう 首相しゅしょう官邸かんてい――東條とうじょう英機ひでき
だい11しょう 帝国ていこくホテル――きゅうきゅうしき狙撃そげきじゅう
だい12しょう 新橋しんばし不審火ふしんび
だい13しょう 新橋しんばしかくはず調布ちょうふ――帝都ていとじゅん戒厳かいげん
だい14しょう 神楽坂かぐらざか――三浦みうら兄弟きょうだい
だい15しょう 帝国ていこくホテル――暗殺あんさつしゃあさ
だい16しょう 東京とうきょう憲兵けんぺいたい司令しれい――自白じはく
だい17しょう 帝国ていこくホテル――はじまりか、わりか
だい18しょう 神楽坂かぐらざか――出自しゅつじ
だい19しょう 神楽坂かぐらざか――ゆずものたち
だい20しょう 宮城みやぎ――大詔たいしょう奉戴ほうたい
おわり  あきら 

電子でんしばん発行はっこうもと メディカム
おやほん発行はっこうもと 白石しらいし書店しょてん
[ 2013/10/24 14:26 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

本所ほんじょ深川ふかがわなぞひかいち番手ばんて電子でんしばんのおらせ



松井まついはかる矢島やじままことさんの合作がっさく名義めいぎ松島まつしまきょうさく刊行かんこうした「本所ほんじょ深川ふかがわなぞひかいち番手ばんて」の電子でんし書籍しょせきばん刊行かんこうになりました。

今回こんかい電子でんしはiBooks限定げんていでのリリースで、ダウンロード価格かかくは100えんと、大変たいへんもとめやすくなっております。

本所ほんじょ深川ふかがわなぞひかえ・一番いちばん手柄てがら」をダウンロードするには●こちら●

時代じだい小説しょうせつ推理すいり小説しょうせつ世界せかい是非ぜひ、おたのしみください。

 【主要しゅよう作中さくちゅう人物じんぶつ紹介しょうかい

石原いしはらためきち
軽業かるわざ親分おやぶん」とばれる御用聞ごようきき。もとは、軽業かるわざ一座いちざ花形はながた芸人げいにんだったが、ある事件じけんまれて女房にょうぼう子供こどもうしなってしまう。そして、さらなる悲運ひうんきょうわれるが、半年はんとしまえ江戸えどもどり、御用聞ごようききとなった。

神崎かんざきいさむこれしん
きた町奉行まちぶぎょう所定しょていまちまわ同心どうしんちちひだりないのちおそって同心どうしんに。しかし、そのちちひだりない背後はいごにもなにやら、ふかやみひそんでいる……。

◆おたか
本所ほんじょに<たかや>という縄暖簾なわのれんしているわけありそうなおんな。<たかや>はためきちたちのまりになっている。

りくづくり
ためきち子分こぶん。ひょろりとした長身ちょうしん優男やさおとこ軽口かるくちたたくせがある。

わたるすけ
ためきち子分こぶんりくづくり弟分おとうとぶん花川戸はなかわど商家しょうか三男さんなんぼうだが、軽業かるわざきがこうじて、勘当かんどうされている。

 【詳細しょうさい目次もくじ

だいしょう 二人ふたり亡骸なきがら
 江戸えどだいあらしれた翌日よくじつ大川おおかわはしおんな死体したいがった。死体したいかおつぶれているうえ全裸ぜんらで、どこのだれだかわからない。そこへ、花川戸はなかわど大工だいく与五郎よごろう自分じぶん女房にょうぼうのおみち遺体いたい間違まちがいないと名乗なのてくるが……。

だいしょう 下手人げしゅにんにん
 清水屋しみずや番頭ばんがしら五郎助ごろすけ何者なにものかにころされた。自訴じそしてきたのは、かつてためきち見物けんぶつ評判ひょうばん二分にぶんしていた花形はながた芸人げいにんだった。海鼠なまこ水母くらげ異名いみょうつそのおとこは、血痕けっこんいた凶器きょうき出刃包丁でばぼうちょうっていた。しかし、なにかがおかしい……。

だいしょう 二人ふたり芝居しばい
 玉田たまだ長屋ながやにひとりでらしいてるおんな、おふくがのどってころされた。しかし、どうやら、遺体いたい発見はっけんされた場所ばしょと、殺害さつがい現場げんばべつらしい。探索たんさくつづけるうち、おふくの意外いがい過去かこあかるみになる。そして、んだおふくの周辺しゅうへんに、不審ふしん浪人ろうにんしゃかげがちらつく……。

電子でんしばん発行はっこうもと メディカム
おやほん発行はっこうもと 徳間書店とくましょてん
[ 2013/10/22 16:40 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

電子でんし書籍しょせきばん死者ししゃのいた場所ばしょ



拙著せっちょ死者ししゃのいた場所ばしょ」(扶桑社ふそうしゃ)の電子でんし書籍しょせきばんがリリースされました。

Kindle、スマートフォン、PCなどの電子でんし書籍しょせきストアからおもとめになれます。

定価ていかは1100えんで、かみほんよりおもとめやすくなっております。

●Kindleストアからのおもとめはこちらへ

発行はっこうもと 扶桑社ふそうしゃ
[ 2013/07/03 19:05 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

東京とうきょう長距離ちょうきょり散歩さんぽ①「エキゾティック東京とうきょう

[かんりゅうタレントショップ]

 京王けいおうせん上北沢かみきたざわにあるわたし事務所じむしょから、ほぼ一時いちじあいだ甲州こうしゅう街道かいどうをまっすぐにあるくと新宿しんじゅくく。そろそろ、心地ここちのいいつかれをかんじ、どこかでしょう休止きゅうしりたくなるころだ。わたしは、新大久保しんおおくぼあたりまであしばし、適当てきとうみせえらんではいることにした。

 だいガードをくぐり、西武せいぶ新宿しんじゅく駅前えきまえとおりをあるいて、職安しょくあんどおりにる。普段ふだんあるいているときにはほとんど気付きづかないが、小一時間こいちじかんあるいたのちだと、このあたりのみちすこ勾配こうばいがあるのに気付きづく。あしへの負担ふたんが、ややおおきくかんじられるのだ。わたしは、大江戸おおえどせん東新宿ひがししんしゅくえき方向ほうこうかって、ゆっくりととおりをあるいた。

 もう午後ごごいちぎているが、あさいちごろ、事務所じむしょちかくのコーヒーショップでかる朝食ちょうしょくったのちなにべていない。どお沿いにのきつらねる焼肉やきにくてんからながれてくるこうばしいにおいが食欲しょくよく刺激しげきしている。

 政治せいじ経済けいざい分野ぶんやでは、グローバルスタンダードがさけばれ、わたしたちは毎日まいにち、テレビや新聞しんぶん世界中せかいじゅうのニュースにれるけれども、日常にちじょう生活せいかつなかで、国際こくさい世界せかい情勢じょうせい実感じっかんすることはすくない。

 が、このあたりにくると、このくにんでいるのが我々われわれ日本人にっぽんじんだけではないことが実感じっかんされてくる。進行しんこう方向ほうこう左手ひだりてには、ハングルの看板かんばんかかげたみせばかりがならんでいるのだ。庶民しょみんレベルでの国際こくさい交流こうりゅうは、おもいのほかすすんでいるということか。

 ひさしぶりにこのあたりあるいてみて、わたしまちちいさな変化へんか気付きづいた。すこまえ――といっても、もうさんねんまえになるだろうか――には、とおりにならんでいるみせは、焼肉やきにくてん中心ちゅうしんとした飲食いんしょくてんおおかった。ところが今回こんかいは、それ以外いがいの、より生活せいかつ密着みっちゃくしたみせおおにしたのである。

 かんりゅうスターのグッズをあつかうタレントショップや来日らいにち韓国かんこくじんアーティストの公演こうえんチケットをあつかみせなどだ。わたしは、そのなかいちけんはいってみた。昼中ひるなかとあって、きゃくすくない。中年ちゅうねん女性じょせい人組にんぐみと、ほかにはわかひと一人ひとりにんいるだけである。レジにはエプロンをけた、韓国かんこくじんとおぼしいわか女性じょせいにんっている。

 タレントの顔写真かおじゃしんをプリントしたTてぃーシャツや、団扇うちわなどの小物こものなま写真しゃしんなど、ふつうのタレントショップにおいてある商品しょうひんなんわらない。ところが、そこにあるかおだけがちがう。

 わたしはあまりかんりゅうスターにくわしくないから、商品しょうひんにハングルと日本語にほんご両方りょうほうされている名前なまえても、それがどんなタレントなのか、いまひとつよくわからない。おそらく、本国ほんごくではかなり人気にんきのあるタレントなのだろう。

 商品しょうひんていると、けん中年ちゅうねん女性じょせい人組にんぐみはなこえこえてきた。彼女かのじょらは日本語にほんごはなしていたのだが、イントネーションがちがうから、わたし一瞬いっしゅん韓国かんこくひとなのかな、とおもった。が、くとはなしに、はなしいていると、どうやらちがうようだ。

「やっぱりこのあたりちがうわね。しいものばかりよ」
 一人ひとりがそんなことをいい、もう一人ひとりおおきくうなずいている。

 イントネーションのちがいは、どうやら、東北とうほく北関東きたかんとうなまりによるもので、彼女かのじょたちは、わざわざかんりゅうスターのグッズをうために、東京とうきょうてきたらしい。地方ちほうからてきたわかおんなが、タレントグッズしさにまず、原宿はらじゅくく、といったようなはなしいたことがあるけれども、まさにそれと心情しんじょうなのだろう。

 が、そこはさすがに中年ちゅうねん女性じょせいで、原宿はらじゅくもうでのわかおんなたちとは経済けいざいてき余裕よゆうちがうのか、人組にんぐみ手当てあてたり次第しだいといった恰好かっこうで、グッズをかごにれている。ひとえらぶたびに、二人ふたりたのしそうに大声おおごえわらっている。ほほえましいといえばほほえましい光景こうけいである。

 折角せっかく普段ふだんはいることのないみせったのだ。わたしなにひとつ、ってかえろうかとおもった。さりとて、あまりしいものもなし……とおもっていると、黒目勝くろめがちのおおきなひとみながかみ印象いんしょうてき女性じょせいタレントの写真しゃしんがついた団扇うちわはいった。

 ると、チョ・ウンスクといてある。らないひとだが、女優じょゆうさんだろうか。この団扇うちわって、リトルコリアともいうべき新大久保しんおおくぼまち散策さんさくするのもまた一興いっきょう、とおもったけれど、やはり、めることにした。途中とちゅう邪魔じゃまになってしまうのは間違まちがいないからだ。

 人組にんぐみものはまだまだわりそうにない。わたし彼女かのじょらのわらごえに、みせた。

[エキゾティック観光かんこうタウン]

 職安しょくあんどおりをあるいていると、つい、ここが日本にっぽんであることをわすれそうになる。そこかしこの看板かんばんは、ほとんどがハングルだし、物珍ものめずらしい韓国かんこく風物ふうぶつおおい。が、進行しんこう方向ほうこう右手みぎてると、そこはまさに日本にっぽんそのものだ。消費しょうひしゃ金融きんゆう派手はで看板かんばんかくフロアにならんだ、雑居ざっきょビルのれ。それはきわめて今日きょうてきな、日本にっぽん風景ふうけいである。

 いってみれば、職安しょくあんどおりの左側ひだりがわは、日本にっぽんなか観光かんこうとして機能きのうするリトルコリアなのだろう。むろん、それは、散歩さんぽしゃわたしにとってである。そこには、ニューカマーのコリアンたちがおおむはずで、かれらにとっては、すこしでも故郷こきょうにおいを移植いしょくしたまち、ということになるのだろうから。

 唐突とうとつに、ハングルのおおきな音声おんせいうたこえこえてきた。街頭がいとう設置せっちされた大型おおがたのオーロラビジョンが、韓国かんこくのテレビ番組ばんぐみながしていたのだ。わたしはしばし、それに見入みいった。4人組にんぐみ韓国かんこくのアイドルグループだった。

 オーロラビジョンをよくると、よるいちからは、韓国かんこくKBSテレビのよるのニュースをなまながしているらしい。わたしは、異国いこくまちちゅうにぼんやりとち、巨大きょだいなオーロラビジョンで日本にっぽんのニュースショーをながめている自分じぶん自身じしん想像そうぞうしてみた。それはそれで、物悲ものがなしい姿すがたである。

 さて、食事しょくじである。ばらった。ドンキホーテのあたりまでくると、オープンカフェしきのファーストフードショップがおおくなってくる。観光かんこう気分きぶんひたったままチヂミなどをあるきするのもよさそうだが、多少たしょうつかれがているから、できればすわってべたい。

 と、「チキンタウン」というみせまった。ここもまた、オープンカフェしきになっており、韓国かんこくふうのファストフードをべさせるみせのようだ。あか黄色おうしょく多用たようした派手はでみせつくりは、一時期いちじき青山あおやまどおあたりによくあったクレープショップをおもこさせる。わかひとけのけのみせなのだろう。

 わたしはここで「キムチチャハン」をくえした。キムチソースで味付あじつけをしたチャーハンだが、おとばさずに<チャハン>としてあるところが印象いんしょうてきだ。これは韓国かんこくしき発音はつおんをそのままカタカナにえたものなのだろうか。

 昼食ちゅうしょく時間じかんぎているからか、きゃくわたし一人ひとりで、しかも、ファーストフードショップだから、長居ながいするわけにもかない。いそいでキムチチャハンをえ、わたしみせた。と、きゅうに、くちなかからくなってきた。やはり、かなり唐辛子とうがらしいているようだ

[混沌こんとんまち]

 食事しょくじえたわたしは、ドンキホーテのかくからほそみちはいり、大久保おおくぼどおりへることにした。ドンキホーテのちかくは、オープンカフェしきのファーストフードショップや、かんりゅうタレントショップなどがならび、わかひとけのはなやかなまちかんじさせるが、いち脇道わきみちはいると、まちはまた、ちがったかおせるようになる。

 焼肉やきにくてんなどの韓国かんこくけいみせおおいことにわりはないが、韓国かんこくけいクラブなど、よるのイメージがつよくなってくるのだ。

 このあたりには元々もともと日本人にっぽんじんらしがあり、そのに、ニューカマーコリアンの文化ぶんかかさなって、いまのリトルコリアてきまち形成けいせいしているわけだが、韓国かんこくそのものとでもいいたくなるような表通おもてどおりとはちがって、脇道わきみちにはふるくからの日本にっぽん文化ぶんかおおのこっており、それらと韓国かんこくふう文化ぶんかとの融合ゆうごうが、<混沌こんとん>というものをかんじさせる。

 ハングルの看板かんばんしている焼肉やきにくてんと、韓国かんこく食材しょくざいみせあいだに、むかしながらの日本にっぽんのクリーニングてんがある。看板かんばんいてある電話でんわ番号ばんごうは、まだ市内しない局番きょくばんさんけたのままになっているから、かなりなが看板かんばんえていないのだろう。

 わたしは、そんな<雑多ざった>と表現ひょうげんするほかない脇道わきみちを、まっすぐに大久保おおくぼどおりにけるのではなく、くままかく々をがりながらあるいてみた。

 にちちゅうだというのに、ほとんどじん気配けはいがない。よるになると、街角まちかどおんなたちがあらわれたりしてにぎやかになるのだろうが、いまは、ひっそり閑としずまりかえっている。都心としんちか場所ばしょに、これほどしずかな住宅じゅうたくがいがあるのも、それはそれで不思議ふしぎおもえてくる。

 と、わたし背中せなかのほうから、おとここえこえてきた。
「おまえ、おわら芸人げいにんの××ってってるか?」
 かれは、毒舌どくぜつ有名ゆうめい女性じょせいタレントの名前なまえくちにした。かえってみると、だい後半こうはんか、さんだいはじめにえる男性だんせいが、わか女性じょせい一緒いっしょあるいていた。かみあかるいちゃめ、いサングラスをかけた女性じょせいで、タンクトップにみじかいスカートをわせている。 
ってる」
 女性じょせいおうじる。たどたどしい日本語にほんごで、どうやら韓国かんこくじん女性じょせいのようだ。
「あいつ、おまえみせのママによくてるよな」
 おとこがいった。女性じょせいは、なんかききかえしていたが、やっと意味いみするところを理解りかいしたのか、こえひそめたふくわらいをらした。

 おそらくはきっと、韓国かんこくクラブにつとめる女性じょせいきゃくおとこみせがいデートといったあたりなのだろう。こういう光景こうけいくわすのも、リトルコリアならではか。

 わたしさきほど、<混沌こんとん>としるした。それは、韓国かんこく文化ぶんかふるくからの日本にっぽん文化ぶんか混沌こんとん意識いしきしてのものだったが、このあたりにはまたべつ混沌こんとんもある。

 専門せんもん学校がっこうがいくつもあり、わか学生がくせい姿すがたおお場所ばしょに、ふるくからの日本にっぽんしき旅館りょかんやラブホテルがならんでいる。学校がっこうがわにラブホテル――この違和感いわかんを、混沌こんとんばずしてなんとぶべきだろう。

 元来がんらい都市としとは、種種しゅじゅ雑多ざったなものをすべて許容きょようし、むものである。そしてそれらが、たがいにからいながらまち形成けいせいしていく。このまちは、象徴しょうちょうてきにそれを表現ひょうげんしているようにおもえた。

[てられたまち]

 大久保おおくぼどおりにかって裏町うらまちあるいていると、福祉ふくし施設しせつおおいことにも気付きづく。うしなった女性じょせい保護ほごするキリスト教きりすときょうけい施設しせつや、社会しゃかい福祉ふくし法人ほうじん運営うんえいするDV被害ひがい女性じょせいのシェルターなどだ。ほかには、刑務所けいむしょからたばかりで、まだ住居じゅうきょ仕事しごとつけられないでいるひとたちのための施設しせつもある。

 それらは、行政ぎょうせい運営うんえいするものであったり、社会しゃかい福祉ふくし法人ほうじん行政ぎょうせいからいくばくかの援助えんじょけて運営うんえいしたりしているものだから、あまり潤沢じゅんたく資金しきんがあるわけではないのだろう。ほとんどの建物たてものが、<ひとめる>ということだけを重視じゅうししているかのような簡素かんそなつくりだ。 

 この無味むみ乾燥かんそう建物たてものこうがわには、いったい、どんな人生じんせい物語ものがたりがあるのか。わたしはつい、そんなことをかんがえてしまった。

 無礼ぶれいわたってもいけないけれども、このあたりの街並まちなみには、どこか、どんよりとしずんだものがかんじられる。むろん、それはそれで、あるしゅ人生じんせいおもみとかふかみをかんじさせて、魅力みりょくてきなものではある。

 しかし、そういったものを忌避きひする心境しんきょうもまた、人間にんげんわせているにちがいない。だからか、このあたりをあるいていると、都心としんちか場所ばしょであるにもかかわらず、どこかてられたまちのイメージがある。

 であれば、そういう場所ばしょにニューカマーのコリアンがつどい、自分じぶんたちの文化ぶんか移植いしょくして、また、まちにぎわいをもどしたということは、なんとも痛快つうかいなことではないか。

 そんなことをかんがえながらあるいているうち、大久保おおくぼどおりにた。上北沢かみきたざわてから、もうさん間近まぢかあるいている。わたしは、ちかくの喫茶店きっさてんはいって休憩きゅうけいするとともに、これからどうするかかんがえようとおもった。

 と、煙草たばこれていることに気付きづいた。大久保おおくぼどお沿いのコンビニにはいる。レジには、ネームプレートに「おう」とひらがなでいたわかおんながいた。「おう」さん。「おう」さんだろうか。そうすると、中国ちゅうごくけいちがいない。新大久保しんおおくぼは、韓国かんこくじんニューカマーだけではなく、そのくにひとおおあかしだ。

 JR新大久保しんおおくぼ駅前えきまえ喫茶店きっさてんはいっても、ハングルや中国ちゅうごくっている。庶民しょみんレベルでの国際こくさい体現たいげんしたまち、それがいま新大久保しんおおくぼなのにちがいない。

 わたしこしにつけていたディジタルしきまんけいはずした。午前ごぜんちゅう上北沢かみきたざわ出発しゅっぱつして、ここまでまんろくせんなな。さて、これからどうしよう。このまちとはまたちがったかたちで、庶民しょみんレベルでの国際こくさいすすんだまちてみたい、わたしはそうおもった。
[ 2011/11/21 16:03 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

電子でんし書籍しょせきばん「ホームレス失格しっかく」リリースのおらせ

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 先月せんげつ電子でんし書籍しょせきばんがリリースされました松井まついはかる著書ちょしょ「ホームレス作家さっか」(幻冬舎げんとうしゃアウトロー文庫ぶんこ)は、ご好評こうひょうをいただいているようでありがとうございます。さて、きたる9月くがつ30にちに、「ホームレス作家さっか」の続編ぞくへんたる「ホームレス失格しっかく」(幻冬舎げんとうしゃアウトロー文庫ぶんこ)の電子でんし書籍しょせきばんがリリースされることになりましたので、おらせいたします。

 販売はんばい価格かかくは、本体ほんたい価格かかく600えんで、以下いかかくサイトからダウンロードできます。

【9がつ30にち配信はいしん開始かいしのサイト】

●Reader Store
Reader(ソニーの読書どくしょ専用せんよう端末たんまつけ)は●こちら●

●docomoスマートフォン公式こうしき書店しょてん(honto)は●こちら●

●honto
iPhone/iPad/パソコン書店しょてん●こちら●

●TSUTAYA GALAPAGOS
シャープ GALAPAGOS(読書どくしょ専用せんよう端末たんまつおよびSHARPスマートフォンけ)は●こちら●

●LISMO BOOK STORE au by KDDI
au「biblio leaf SP02」(読書どくしょ専用せんよう端末たんまつ) / auのスマートフォンけは●こちら●

●Softbankブックストア
ソフトバンクのスマートフォンけは●こちら●

●Book Live!
パソコン、かくキャリアアンドロイド端末たんまつけは●こちら●

【10がつ16にち配信はいしん開始かいし販売はんばいさき

電子でんし文庫ぶんこパブリ(日本にっぽん電子でんし書籍しょせき出版しゅっぱんしゃ協会きょうかい運営うんえい
3キャリアケータイ電話でんわ/iPhone/iPad/パソコンは●こちら●

上記じょうき以外いがい通常つうじょうのケータイ電話でんわけのすうじゅう書店しょてんでも配信はいしんいたします。
[ 2011/09/28 21:19 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

電子でんし書籍しょせきばん「ホームレス作家さっか」のおらせ

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 松井まついはかる著書ちょしょ「ホームレス作家さっか」(幻冬舎げんとうしゃ)の電子でんし書籍しょせきばんがリリースされました。以下いかかくサイトからダウンロードできます。ダウンロード方法ほうほう、お支払しはらい方法ほうほうとうは、かくサイトによってちがいますので、アクセスさきにてご確認かくにんください。

 なお9月くがつには「ホームレス作家さっか」の続編ぞくへんである「ホームレス失格しっかく」の電子でんし書籍しょせきばん配信はいしん開始かいしされる予定よていです。

配信はいしんはじまっているおも販売はんばいさき

●Reader Store
Reader(ソニーの読書どくしょ専用せんよう端末たんまつけ)は●こちら●

●docomoスマートフォン公式こうしき書店しょてん(honto)は●こちら●

●honto
iPhone/iPad/パソコン書店しょてん●こちら●

●TSUTAYA GALAPAGOS
シャープ GALAPAGOS(読書どくしょ専用せんよう端末たんまつおよびSHARPスマートフォンけ)は●こちら●

●LISMO BOOK STORE au by KDDI
au「biblio leaf SP02」(読書どくしょ専用せんよう端末たんまつ) / auのスマートフォンけは●こちら●

●Softbankブックストア
ソフトバンクのスマートフォンけは●こちら●

●Book Live!
パソコン、かくキャリアアンドロイド端末たんまつけは●こちら●

【9がつ16にち配信はいしん開始かいし販売はんばいさき

電子でんし文庫ぶんこパブリ(日本にっぽん電子でんし書籍しょせき出版しゅっぱんしゃ協会きょうかい運営うんえい
3キャリアケータイ電話でんわ/iPhone/iPad/パソコンは●こちら●

上記じょうき以外いがい通常つうじょうのケータイ電話でんわけのすうじゅう書店しょてんでも配信はいしんいたします。
[ 2011/08/31 18:07 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

「なんだかんだの病気びょうき自慢じまん単行本たんこうぼんのおらせ

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 8がつ11にちマガジンハウスから、「なんだかんだの病気びょうき自慢じまん」が単行本たんこうぼんとして刊行かんこうされました。

 「なんだかんだの病気びょうき自慢じまん」は、雑誌ざっしクロワッサン』の毎回まいかい執筆しっぴつしゃわる連載れんさい企画きかくです。松井まついはかるは、熱中ねっちゅうしょうかかったときのエピソードをいています。

刊行かんこうもとによる内容ないよう紹介しょうかい

安藤あんどう優子ゆうこさん、石田いしだころもりょうさん、小椋おぐらけいさん、柴田しばた理恵りえさん、高畑たかはた淳子じゅんこさん.横尾よこお忠則ただのりさんなど、72にん著名ちょめいじんみずからの病気びょうきのエピソードを公表こうひょう!いかにめ、たたかい、プラスのパワーに変換へんかんしてきたかを赤裸々せきららかたります。病気びょうきになったからこそわかった、自分じぶん自身じしんのこと、本当ほんとう大切たいせつもの、これからのかた。。。雑誌ざっし「クロワッサン」に8ねんわたって連載れんさいされている人気にんきコラムから抜粋ばっすいさい編集へんしゅうした本書ほんしょは、病気びょうきかたりながら、じつはそのさきにあるきる希望きぼうをあぶりかがみでもあります。「病気びょうき自慢じまん」をみながら、読後どくごはなぜかパワーをチャージされている、そんな不思議ふしぎ体験たいけんしてみませんか?

おも執筆しっぴつしゃ(50おとじゅん

安西あんざいみずまる(イラストレーター)
安藤あんどう優子ゆうこ(ニュースキャスター)
安奈あんな あつし女優じょゆう
石田いしだころもりょう作家さっか
いずみ あさじん(コラムニスト)
井上いのうえ荒野あらの作家さっか
荻野おぎのアンナ(作家さっか
小椋おぐら けい作曲さっきょく
きた 杜夫もりお作家さっか
柴田しばた理恵りえ女優じょゆう
高畑たかはた淳子じゅんこ女優じょゆう
中島なかじま京子きょうこ作家さっか
野口のぐち けん(アルピニスト)
松井まつい けい作家さっか
横尾よこお忠則ただのり美術家びじゅつか
     ほかぜん72めい

書誌しょしデータ

●タイトル 「なんだかんだの病気びょうき自慢じまん
編者へんしゃ   クロワッサン編集へんしゅう特別とくべつ編集へんしゅう
刊行かんこうもと  マガジンハウス
はんがた   よんろくはんソフトカバー
刊行かんこう  2011ねんがつ11にち
定価ていか   1365えん税込ぜいこみ
書籍しょせきコード ISBN978-4-8387-22938

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[ 2011/08/31 17:50 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

発表はっぴょう原稿げんこう特別とくべつ公開こうかいがるひとたち」だい4・5『ひきこもり』

解説かいせつ
 2008ねん刊行かんこう拙著せっちょ、「がるひとたち」(世界文化社せかいぶんかしゃ)は、だいはじまりのうた』、だい『〇しょうはい〇セーブ』、だい『みにくいアヒルの』、だい水槽すいそうそこ』、だい『オーディション女優じょゆう』、だい推定すいてい有罪ゆうざい』、だいふうのゆくえ』のななつのエピソードからなるオムニバス小説しょうせつです。

 ところが、じつは、原稿げんこう段階だんかいではだいのあとに、だいとして『ひきこもり』というエピソードがありました。ほんさく刊行かんこうするさいに、諸般しょはん事情じじょうからこのだい『ひきこもり』を削除さくじょ当初とうしょだいとして予定よていしていた『オーディション女優じょゆう』をあらためてだいとし、ぜんのオムニバス小説しょうせつとして刊行かんこうしたのでした。

 ほんさく文庫ぶんこされるさいには、『ひきこもり』もだいとして収録しゅうろくし、コンプリートなかたち刊行かんこうしたいとかんがえておりましたが、底本ていほん刊行かんこうもと文庫ぶんこたないこともあり、いまだ文庫ぶんこ予定よていっておりませんので、まず、このブログにて、ほんさく『ひきこもり』を公開こうかいしたいとおもいます。

 原稿げんこう段階だんかいでは、だいとして執筆しっぴつしたものですが、すでに公刊こうかんされた書籍しょせきにて、だいを『オーディション女優じょゆう』としてありますので、便宜べんぎてきだい4・5として公開こうかいしたいとおもいます。いささ大仰おおぎょうないいかたになりますが、<まぼろし作品さくひん>をおたのしみください。

 「がるひとたち」は、かくはなし主人公しゅじんこう主要しゅよう登場とうじょう人物じんぶつが、ほかのエピソードにも関連かんれんち、それぞれのエピソードをあわせてむことで、全体ぜんたい長編ちょうへん小説しょうせつとして成立せいりつするかたち構成こうせいです。ほんさく『ひきこもり』にも、ほかのかくはなし登場とうじょうする人物じんぶつおおてきます(主人公しゅじんこう田辺たなべりょうちちは、だい水槽すいそうそこ』に主人公しゅじんこう主婦しゅふがほのかなおもいをせる人物じんぶつとして登場とうじょう高崎たかさきはやぶさいちだい『〇しょうはい〇セーブ』の主人公しゅじんこう、ジョージ竹原たけはらどうはなし主要しゅよう人物じんぶつ、フーミンはだい『オーディション女優じょゆう』の主要しゅよう人物じんぶつ)。したがいまして、「がるひとたち」所収しょしゅうだいからだいあわせておみいただきますと、より、ほんさく背景はいけいがご理解りかいいただけることとおもいます。

 また、すでに「がるひとたち」をおみいただいたほうには、ほんさく『ひきこもり』をおみいただきますと、だい登場とうじょうした人物じんぶつのそのや、だいのほのかな不倫ふりん背景はいけいだいにおけるフーミンの行動こうどう理由りゆうなどがよくご理解りかいいただけ、あるしゅの<ミッシングリンク>をつなぐことにもなるとおもいます。


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がるひとたち」だい4・5
ひきこもり

         1

 階下かいか玄関げんかんひらおとがした。ちち帰宅きたくしたらしい。スリッパが階段かいだんたたおとこえ、やがて足音あしおとぼく部屋へやまえまった。ぼくはパソコンの画面がめんつめたままだ。ドアのほうをくこともしない。ちちがまた、階段かいだんりていくおとこえた。
 ぼくはやっとドアをける。コンビニの弁当べんとうと、ポテトチップスがふくろ、コカコーラのいちリットルりペットボトル、それから、今日きょう発売はつばいになったばかりの格闘技かくとうぎ雑誌ざっしいてある。すべて、ぼくちちってきてくれるようにたのんだものだ。といっても、直接ちょくせつぼくちちくちいたわけではない。昨晩さくばんおそく、これらの商品しょうひんしるしたメモをドアのまえいておいた。こうしておくと、朝食ちょうしょくはこんできたちちが、その会社かいしゃがえりに、たのんだものをってきてくれるのだ。
 しばらくして、ガレージからくるまおとがした。今夜こんやちちはまた、かけるらしい。このいえにいるのが息苦いきぐるしいのだろう。こんな生活せいかつが、すでさんねんつづいている。

 高校こうこうさん年生ねんせいのとき、ぼく大学だいがく受験じゅけん失敗しっぱいした。志望校しぼうこう合格ごうかくできなかったばかりか、すべめのつもりでけた中堅ちゅうけん大学だいがくにも、ことごとくちた。最後さいご合格ごうかく通知つうちったときの、両親りょうしん落胆らくたんぶりを、ぼくいまでもはっきりとおぼえている。
 公平こうへいって、ぼく両親りょうしん最高さいこう教育きょういくあたえてもらったとおもう。子供こどもころは、おおくの書物しょもつあたえてもらったし、中学ちゅうがくからは、中高なかだか一貫いっかん教育きょういく私立しりつこうかよわせてくれた。小学校しょうがっこうだけはちかくの公立こうりつこうとおったが、それは、両親りょうしん地元じもとでの友人ゆうじん関係かんけい大切たいせつなものだとかんがえていたからである。
 そんな教育きょういく熱心ねっしん両親りょうしんだったから尚更なおさらぼく受験じゅけん失敗しっぱいには落胆らくたんしてしまったのだろう。ちちは、
「おまえは、おれかんがえていたより馬鹿ばかだったのかもれないな。まあいい、来年らいねん、きちんとした大学だいがくればいいんだ。頑張がんばるしかないんだぞ」
 とった。ははは、
「おかあさん、もうがっかりしたわ」
 とってき、ぼくに、
「どこにもからないなんて可愛かわいそうに……」
 とった。
 卒業そつぎょう予備校よびこうかよ毎日まいにちはじまったが、ぼくはどうしても受験じゅけん勉強べんきょう熱中ねっちゅうできなかった。予備校よびこうをサボって、駅前えきまえ喫茶店きっさてん時間じかんつぶすことがおおくなった。
 時々ときどき高校こうこう時代じだい友人ゆうじんから、大学だいがくでの生活せいかつぶりをかされると、尚更なおさらぼくは、受験じゅけん勉強べんきょうへの意欲いよくうしなった。やがて、
田辺たなべさんのところも大変たいへんねえ。教育きょういく熱心ねっしんで、とてもいいご家庭かていだとおもっていたのにねえ……」
 という、近所きんじょひとこえみみはいるようになった。そのたび、ははぼくつまる。やがてぼくは、自室じしつにこもったまま、いちそとない生活せいかつはじめるようになった。自室じしつ受験じゅけん勉強べんきょう集中しゅうちゅうしているとかんがえたのか、両親りょうしんはそんな生活せいかつをとがめることはなかった。とうよりもむしろ、いたれりつくせりといたい待遇たいぐうで、ぼくにとって微温びおんてき幸福こうふく毎日まいにちはじまった。
 食事しょくじはいつもははが、
りょうちゃん、まだ頑張がんばってるのね。えらいわよ」
 と、ねぎらいの言葉ことばとも部屋へやはこんでくれる。ぼくは、パソコンであそんでいるだけだったのに。そんなはは善意ぜんいちた誤解ごかいは、ぼくたちの家族かぞくに、おだやかな時間じかんあたえてくれた。ちちははも、そしてぼくも、この時期じきもっとしんやすらぐ毎日まいにちだったのかもしれない。

 ははが、これはおかしいのではないか、とかんがはじめたのは、ぼくなんにち風呂ふろはいっていないことにづいたからだろう。共稼ともかせぎの両親りょうしんは、二人ふたり職場しょくばっているにちちゅうに、ぼく入浴にゅうよくをすませているとかんがえていたらしい。ところが、ある、バスルームがまったくれていないことから、はは事実じじつがついた。
りょうちゃん、あなたお風呂ふろは?」
 部屋へや食事しょくじはこんできたとき、ははがそうった。
「うるさいな。風呂ふろなんかはいんなくていいよ」
「まさか、ずっとはいってなかったの?」
「どうでもいいだろう。いちいちうるさいな」
「ちょっと部屋へやなかせてちょうだい」
 異変いへんづいたのだろう、ははった。ぼくは、両手りょうてひらいてははせいし、
「うるさいんだよ、クソババア」
 とさけんでいた。
 あのときのははかおわすれられない。まったく理解りかい不能ふのうな、なに得体えたいれないものをるような、おそれのこもったあの。あのときからぼくは、家族かぞくにとって異物いぶつになってしまったのだろう。そのばん帰宅きたくしたちちが、
「おい、りょうけろ」
 怒鳴どなりながらドアをたたいていたが、ぼく内側うちがわからドアをつよして、ちちなかれなかった。

               2

 ちちは、ぼく大学だいがく受験じゅけん失敗しっぱいしてねている、という程度ていどかんがえていたらしい。この生活せいかつえさせるためにちちった行動こうどうは、はは食事しょくじぼく部屋へやまではこばせない、ということだった。あるあさちちぼく部屋へやまえまできて、
「おい、食事しょくじができてるぞ。はやしたりてべなさい」
 とった。
 ぼくは、それにおうじなかった。夕食ゆうしょくにもちちはまた、おなじことをしたが、やはりぼく階下かいかへはりず、ずっとかい自室じしつにこもったまま、いちにちちゅうなにべずにごした。翌日よくじつおなじことがかえされた。が、よるはちごろになって、ははがこっそり食事しょくじぼく部屋へやまえまではこんできた。
 それにづいたちちが、
「そういうふうにおまえあまやかすから、こんなことになるんだ。こんな調子ちょうしじゃ来年らいねんもまた、大学だいがくちてしまうぞ」
「だって、なにべないと、りょうちゃんがからだこわしてしまうわ」
 両親りょうしんのいいあらそこえが、ぼく部屋へやまでこえてきた。翌日よくじつから、かれらのいさかいは、日常にちじょうてき出来事できごとになった。ぼくへの悪影響あくえいきょうおそれていたのか、両親りょうしんは、ぼくどものころから、ぼくまえでは一切いっさい、いいあらそったり喧嘩けんかをしたりしないひとたちだった。
 小学生しょうがくせいころぼくは、
「ねえ、おとうさんとおかあさんはどうして喧嘩けんかをしないの? 夫婦ふうふ喧嘩けんかをしてせてよ」
 と、無邪気むじゃきったことがある。そんな両親りょうしんが、ぼくのことで毎日まいにち、いいあらそうのだ。その原因げんいんぼくにあることは、充分じゅうぶん理解りかいしている。が、ぼくは、そのことにえられなかった。
 あるばん、いつものように両親りょうしんのいいあらそこえこえてきたとき、ぼくはひっそりと部屋へやからいちかいり、
「うるさいなっ、何時いつだとおもってんだよ」
 両親りょうしん怒鳴どなりつけた。ははは、れいおそれのこもったぼくつめながら、言葉ことばうしなっている。ちちは、
なにってるんだ? だれのせいで、こうなってるとおもってるんだ」
 と、ぼく怒鳴どなりつけてくる。ぼくなかで、なにかがけた。ぼくちちかかり、
「うるさい、バカヤロー」
 さけびながら、ちちなぐりつけていた。なんなんも、ぼくちちなぐった。ははが、はん狂乱きょうらん状態じょうたいになり、
めて、めてちょうだいりょうちゃん。めて。おかあさんたちがわるかったから」
 さけびつづけている。
 ぼくは、自分じぶん自分じぶんをコントロールできなかった。ちちにくんでいるわけではない。が、どうしても自分じぶんさえられない。
あやまれ、いてあやまれ、バカヤロー」
 ぼくは、自分じぶんでもなんはつなぐったかわからないほど、ちちなぐった。やがて、かおらし、鼻血はなぢをたらしたちちが、ゆかいて、
わるかった。おとうさんたちがわるかった」
 とった。
「そんなあやまかたじゃダメだ。もうわけございませんでしたとえ、どうかゆるしてくださいとえ」
 ちちはしばらくだまっていたが、やがてゆかあたまこすりつけて、ぼくめいじたとおりの言葉ことばくちにした。背後はいごではははが、
「どうして、こんなことになるの……」
 と所々ところどころ嗚咽おえつ言葉ことばまらせながらつぶやいていた。ぼくたちの家族かぞくが、崩壊ほうかいはじめた瞬間しゅんかんだった。

 そのも、ぼくなんちちげた。いち週間しゅうかんいちは、ぼく内側うちがわにある制御せいぎょがたなにぶつかが破裂はれつし、そのたびにぼくちちなぐった。とくなにかきっかけがあるわけではない。突然とつぜん自分じぶんでもあらがうことのできないはげしい感情かんじょういてきて、そのはけぐちとしてちちへの暴力ぼうりょくはしってしまうのだ。
 そのたびにちちゆかいてぼくあやまり、ははこえころしていた。まるで儀式ぎしきのような、そんな狂騒きょうそう時間じかんわると、ぼくはやっと、自室じしつでゆっくりとねむりにけるのだった。
 ちちなぐるために階下かいかりるとき以外いがい自室じしつからない生活せいかつつづけたまま、度目どめはるむかえた。
 かいにもトイレがあったから、ようはそこでせたし、ぼくには、階下かいかりる理由りゆうは、ちちなぐること以外いがいになかった。
 そんな状態じょうたいつづいているのだから、度目どめ大学だいがく受験じゅけんなど無理むりはなしである。かたちうえでは二浪にろうということになるが、ぼくあたまなかには、もう大学だいがく受験じゅけんのことなど、欠片かけらすらなかった。
 あれは、そろそろはるわろうとする時期じきのことだったとおもう。また、ぼくちちなぐっているとき、たまりかねたははが、うしろからいてきて、ぼくめようとした。
はなせよ!」
 ぼく無意識むいしきのうちに、ははばした。ははかべあたまちつけたが、たいした怪我けがをしたわけでもなく、ゆかにしゃがみこんだ身体しんたいかべもたれかけさせたままいていた。
 翌日よくじつから、ははいえもどらなくなった。数日すうじつちちが、
「おかあさんには、ちかくのアパートにしてもらった。おまえは、いついにってもいいんだぞ」
 とって、ぼくに、ははあたらしい住所じゅうしょしるしたメモをわたしてくれた。ぼくたちのいえからあるいて十分じゅうぶんくらいの場所ばしょだった。ちちは、このときもぼくなぐられると覚悟かくごしていたのだろう。
わかったよ」
 って素直すなおにメモをぼくたとき、ちち拍子抜ひょうしぬけしたようなかおをしていた。 
 ちちがいいだしたことなのか、ははからもうたことなのか、ぼくにはわからない。いずれにしても、ちちにだけけられていた暴力ぼうりょくが、ははにもかってしまう危険きけんかんじて、緊急きんきゅう避難ひなんてきははいえた、ということなのだろう。
 もうひとつは、はははなれたところにんでいれば、そこをおとずれるために、ぼく部屋へやからるかもしれない、という期待きたいもあったのかもしれない。が、ぼくははのアパートへは、まだ、いちおこなったことがない。実質じっしつてきに、ぼく無意識むいしきのうちに、ははばしてしまったときに、ぼく母親ははおやうしなったことになる。
 その以来いらいちちぼく部屋へや食事しょくじはこんでくるのにわせて、ってきてしいものをメモした用紙ようしをドアのそといておく生活せいかつはじまった。ちちへの暴力ぼうりょくは、そのかぎりにんだ。ぼくはまるで<外部がいぶ>を拒絶きょぜつするかのように、自室じしつからまったくそとない生活せいかつはじめた。
 ぼくにとっては、すでちちも<外部がいぶ>とぶべき存在そんざいだったのだろう。であれば、もはやちちへの暴力ぼうりょくは、自分じぶんでもあらががたなにぶつかを発散はっさんするための行為こういではありえなかった。
 安全あんぜんだけは確保かくほした恰好かっこうになったちちだったが、やはり、部屋へやにこもりきりのままの、二十歳はたちちか息子むすこにんきりの生活せいかつは、いきまるような毎日まいにちだったのだろう。それまではあまり趣味しゅみらしい趣味しゅみっていなかったちちが、男女だんじょ混声こんせいサークルに参加さんかして、帰宅きたく頻繁ひんぱんかけるようになったのは、このころからだ。
 あれから、もうさんねんぎた。ぼくは、二十歳はたち誕生たんじょう部屋へやにこもったままむかえた。痛々いたいたしかったのは、そのちち行動こうどうだ。
 ちちは、ぼく部屋へや食事しょくじはこんでくるときに、コンビニの弁当べんとう一緒いっしょに、バースデイケーキと、かんビールを一本いっぽんいていった。かれなりに、ぼく誕生たんじょういわいたい心境しんきょうだったのだろうし、成人せいじんした記念きねんに、二人ふたり一緒いっしょさけみたかったのかもしれない。
 バースディケーキのつつみをると、<アリスのみち>といてあった。どものころぼくこのんだ洋菓子ようがしてんだ。<アリスのみち>は、ぼくたちのいえ最寄駅もよりえきから、新宿しんじゅく方向ほうこう快速かいそく電車でんしゃみっ駅前えきまえにある。週末しゅうまつなどに、両親りょうしん一緒いっしょにここにって、ケーキやクッキーをってもらうのがたのしみだった。
 親子おやこさんにんで、新宿しんじゅく映画えいがかんったのちかえりに途中とちゅう電車でんしゃりて、ケーキをったり、あるときなどは、いえがわ公園こうえんで、父親ちちおやとキャッチボールをしたのち、どうしても<アリスのみち>のケーキがべたくなり、ちちにせがんでわざわざ、れてってもらったこともある。
 ちち仕事しごとかえり、わざわざ途中とちゅう下車げしゃして、このみせってくれたのにちがいなかった。おそらくはかれも、ぼくどものころの、幸福こうふく時間じかんおもしていたのだろう。ぼくにしてもちちにしても、もはや、かえることのできない時間じかんかえりたくても、かえれない、そんな時間じかんだ。

             3

 パソコンでゲームをしたり、インターネットの掲示板けいじばんみをしたりしているうちに、いちにちわる。とくに、それがたのしいわけではない。ただの時間じかんつぶしだ。ゲームやネットであそんでいるうちになが時間じかんぎ、いつかとしって、そのままんでしまえれば、どんなにらくなことか。かんがえてみれば、ぼく生活せいかつは、<ゆるやかな自殺じさつ>なのかもれない。
 でも、いちも、部屋へやからようとおもわなかった、というわけではない。なんぼくは、部屋へやからてみようとかんがえたことがある。
 いちは、インターネットの掲示板けいじばんがきっかけだった。ぼく趣味しゅみは、いまおもて舞台ぶたいからえてしまった有名人ゆうめいじん消息しょうそくさぐることだ。おな趣味しゅみ連中れんちゅうあつまるサイトがあって、ぼくもそこの掲示板けいじばん常連じょうれんだった。たいていのメンバーは、かつて人気にんきのあった芸能人げいのうじん興味きょうみ中心ちゅうしんがあるのだが、ぼくこのみはすこわっている。
 むかし、ベストセラーをしたものの、いまでは著書ちょしょかけなくなった作家さっかや、引退いんたいしたスポーツ選手せんしゅぼく守備しゅび範囲はんいだ。
 その掲示板けいじばんに、フーミンというハンドルネームがあった。普通ふつうのメンバーとわらず、えた芸能人げいのうじん興味きょうみのあるおんなだった。あるとき彼女かのじょが、
「ヒポクラテスさんの専門せんもん分野ぶんやはシブイですね」
 と、ぼくみにレスをつけてくれた。<ヒポクラテス>というのは、ぼくがその掲示板けいじばん使つかっていたハンドルネームだ。
 それがきっかけで、彼女かのじょとメール交換こうかんするようになった。ぼくは、自分じぶん部屋へやにこもったままの生活せいかつをしていることはらせずに、メールやメッセンジャーで彼女かのじょはなしをした。
 やがて、一度いちどそとわないかというはなしになった。ぼくのほうからちかけたのだ。彼女かのじょ同意どういしてくれ、めた。が、結局けっきょく、そのぼく約束やくそく場所ばしょかなかった。どうしても部屋へや心境しんきょうになれなかったのだ。
 最初さいしょから、彼女かのじょだましたわけではない。彼女かのじょはなしているときには、本当ほんとういにいくつもりなのだ。ぼくきこもりの生活せいかつをしていることも、すっかりわすれている。が、その約束やくそくが、現実げんじつ世界せかい侵入しんにゅうしてくると、ぼくはどうしても部屋へやからて、約束やくそくたすことはできないのだった。
 そのばん彼女かのじょから、
「どうしてこなかったの? なにかあったの? 心配しんぱいしてます」
 というメールがきたが、ぼく返信へんしんしなかった。メッセンジャーにもしがあったが、なかった。メールアドレスもえ、彼女かのじょったサイトにも、出入でいりしなくなった。 またべつのメールアドレスとハンドルネームで、ほかのサイトへれば、はなしのできる女性じょせいはいくらでもいる。それでいい、とぼくおもった。

 そろそろ本格ほんかくてき梅雨つゆになり、あめばかりの鬱陶うっとうしいぶしになったある一度いちど帰宅きたくしたちちが、ぼく部屋へやまえ食事しょくじくと、またすぐにくるまかけていき、深夜しんやちかくになってもどってきた。
 やがて、階段かいだんのぼってくるおとこえた。もう食事しょくじはこえているわけだから、普段ふだんならそのままいちかいにある自室じしつねむるはずである。
「おい、りょう――」
 ドアをノックしながら、ちちった。ぼくは、インターネットの巨大きょだい掲示板けいじばんに、ある格闘技かくとうぎ選手せんしゅ悪口わるぐちんでいるところだった。
「まだ、きてるか?」
 ぼく返事へんじをせずに、みをつづけた。
「たまには、おとうさんとはなしをしないか」
 ここのところ、ちち食事しょくじはこんでくるときも、ぼくはなけることはなかった。なにかあったのだろうか。
「おかあさんのことだけれどね……」
 ってちちは、しばらくだまっていた。やがて、
「ひょっとしたら、おとうさんとおかあさんは離婚りこんするかもしれない」
「えっ」
 おもわずぼくは、みのめて、こえしていた。ちち階下かいかりるまで、だまっているつもりだったのに。
いてたのか、りょうおどろくのはわかる。でも、おまえいままでとなにわらないんだからな。おまえとおとうさんとの関係かんけいも、おかあさんとの関係かんけいもだ。だから、おまえなに心配しんぱいしなくていいんだ。ただ、おまえにははなしておくべきだろうとおもってな」
 それだけうと、ちち安心あんしんしたのか、いちかいりていった。ちちはは離婚りこん――そんな事態じたいは、いち想定そうていしてみたことがなかった。かんがえてみれば、ははがこのいえったのは、ぼくじゅうきゅうさいのときだ。あれからもうさんねんちちはは生活せいかつにも、様々さまざまなことがあったのだろう。
 長期間ちょうきかん別居べっきょしていた二人ふたりしんは、いつかとおはなれてしまったのかもしれない。そうかんがえて、ぼく苦笑にがわらいした。その原因げんいんつくったのはほかでもない、ぼく自身じしんだということに、あらためてづいたからだ。
 ぼくはもう、じゅうさい成人せいじんしているから、ちちははのどちらかを親権しんけんしゃめる必要ひつようもない。ははすでにこのいえんでもいないのだから、離婚りこんしてもどちらかがく、というはなしでもない。
 ちちがいうとおり、なにわらないのにちがいなかった。別居べっきょしていた両親りょうしんが、夫婦ふうふから他人たにんになるだけのことだ。でも、それでいいのだろうか。別居べっきょ原因げんいんつくったぼくが、そのははとはいちわないまま、ちちはは離婚りこん傍観ぼうかんしていていいのだろうか。

              4

 あれからさんがつほどがぎ、もうあきだった。ぼくはまだ、部屋へやからることができず、きこもりの生活せいかつつづけている。あのばん以来いらい、もうちちぼくに、ははとの離婚りこんはなしをしてくれることはなかった。もちろん、ぼくからくこともない。
 ひょっとしたら、すで両親りょうしん離婚りこん成立せいりつしてしまったのかもしれない。そうおもうと、焦燥しょうそうかんられる。はやははいたいとおもう。でも、ぼくはどうしても、部屋へやからることができず、階下かいかりてちちと、はははなしをすることもできなかった。生活せいかつなにわらないまま、時間じかんだけがぎていく。
 そんなころぼくはインターネットで、あるブログをつけた。『白球はっきゅうもとめて』というタイトルで、今年ことしはる、プロ野球やきゅう引退いんたいした高崎たかさきはやぶさいち運営うんえいしているものだ。きっかけはやはり、ぼく趣味しゅみだった。<フーミン>のことがあって以来いらい、サイトには出入でいりしないようになっていたが、ぼくえた著名ちょめいじん探索たんさくつづけていた。
 こういう趣味しゅみ人間にんげんは、次第しだいによりマイナーな存在そんざい興味きょうみはじめるもので、それは、ぼく例外れいがいではなかった。
 ちちってきてくれるようにたのんだ野球やきゅう雑誌ざっしに、かく球団きゅうだん今年ことし引退いんたいした選手せんしゅ一覧いちらんっていた。そのなかから、ぼく探索たんさくしてみたくなったのが高崎たかさきだった。甲子園こうしえん出場しゅつじょうれきもなく、ドラフト下位かい指名しめいでの入団にゅうだん。しかも一軍いちぐん出場しゅつじょうはなし。こういう存在そんざいにこそ、マニアしんかれるものなのだ。
 インターネットで、高崎たかさきはやぶさいち検索けんさくしてみると、意外いがいにもかれのブログがヒットした。それが、『白球はっきゅうもとめて』だった。おどろいたことに、高崎たかさき引退いんたい、アメリカにわたっているのだという。アメリカから、毎日まいにち、ブログを更新こうしんしているのだ。
 しかも、かたひじこわしたかれは、もうプロ野球やきゅう選手せんしゅとしては復活ふっかつできないことをっていながら、アメリカのチームで、裏方うらかたとしてはたらくのだという。はじめてブログをたときの、かれ記述きじゅつ以下いかのようなものだった。
きゅうがつじゅうはちにち。ビザの問題もんだいで、色々いろいろ苦労くろうしましたが、今日きょうからやっとチームと合流ごうりゅうしました。ジョージさんには感謝かんしゃです。チームは、バッファローにある「マーベリックス」という独立どくりつリーグの球団きゅうだんです。おれは、チームスタッフというかたちはたらきます。
 独立どくりつリーグのチームだからスタッフもすくなく、たまひろいからグランド整備せいび、アトラクションの準備じゅんびまでなんでもやります。給料きゅうりょうやすいです。でも、みんな野球やきゅうきなやつばかりで、たのしくはたらけそうです。あたらしいおれのスタートです』
 過去かこ記述きじゅつさかのぼってんでみると、日本にっぽんのプロ球団きゅうだんくびになって以降いこうのあれこれが、こまかくしるしてあった。トライアウトに参加さんかしたときにった、メジャーリーグ球団きゅうだん極東きょくとう担当たんとうスカウトをつとめるジョージ竹原たけはらというひと尽力じんりょくで、高崎たかさきはアメリカへわたることができ、独立どくりつリーグ球団きゅうだん一員いちいんになったのだ。
 すすめてくと、かなりの苦労くろうがあったことがわかる。が、高崎たかさき文章ぶんしょうからは、苦労くろうおもさは微塵みじんかんじられず、そこには溌剌はつらつとしたわかさと、よろこびがちていた。ブログにはなんも、ジョージさんという名前なまえ登場とうじょうし、かれがこの人物じんぶつ心酔しんすいしていることがれる。
 高卒こうそつプロりして、さんねんでの退団たいだんだから、高崎たかさきぼくよりひと年少ねんしょうのはずだ。ほぼどう世代せだいである。ぼくは、いちはプロ野球やきゅうくびになって辛酸しんさんめたおとこが、どうしてここまであかるく振舞ふるまえるのか、それが不思議ふしぎだった。そのから、毎日まいにち、『白球はっきゅうもとめて』をむのが、ぼくたのしみになった。
 きこもって以来いらいぼく毎日まいにち長時間ちょうじかん、インターネットをやっている。外部がいぶ拒絶きょぜつしていたぼくが、それでもインターネットをつうじてほかのひとたちと交流こうりゅうてたのは、インターネットが<架空かくう世界せかい>だからである。
 <フーミン>とのことが、いいれいだ。ネットやメールではなしている彼女かのじょは、ぼくにとって、架空かくう存在そんざいなのだ。だからこそ、ぼくもひきこもりではない架空かくうの<ヒポクラテス>になって、彼女かのじょ約束やくそくもできる。が、ちかづいて、<フーミン>が徐々じょじょ実在じつざい人間にんげんとしての姿すがたあらわはじめると、ぼくはもう、したくなってしまうのだ。
 そういう意味いみでは、『白球はっきゅうもとめて』もおなじといえばおなじである。極端きょくたんなことをえば、このブログを開設かいせつしている高崎たかさきはやぶさいち本物ほんもの高崎たかさきはやぶさいちだとはかぎらないのだ。だれかが、高崎たかさきよそおってブログを開設かいせつしている可能かのうせいもないではない。それがインターネットというものだ。
 しかし、『白球はっきゅうもとめて』は、いままでぼくせっしてきたインターネットじょうのどんなサイトともちがっていた。そこには、はげしい現実げんじつかんがあった。最初さいしょのうちは、趣味しゅみの、えた著名ちょめいじん探索たんさく興味きょうみからこのブログをんでいたのだったが、そのうちにぼくは、高崎たかさきという人物じんぶつかれるようになった。
 かれしる独立どくりつリーグでの生活せいかつは、ぼくかられば、それほどしあわせなこととはおもえない。むしろ、過酷かこくで、くるしい日々ひびのようにかんじられる。しかしそれを、高崎たかさききわめてあかるく、たのしそうにしるす。ぼくにはそれが不思議ふしぎでならなかった。何故なぜ高崎たかさきはそうできるのか。ぼくはそれがりたかった。
 じゅうがつすえちかくになって、高崎たかさきはブログに、
『もうすぐ、シーズンもわります。選手せんしゅたちはシーズン終了しゅうりょう同時どうじにちりぢりになります。来年らいねん、ここにもどってくるやつもいるし、うんのいいやつは、メジャーや傘下さんかのマイナーにうつります。
 もちろん、野球やきゅうめるやつもいる。半分はんぶんくらいの選手せんしゅとは、これでおわかれでしょう。おれたちスタッフには、シーズン終了しゅうりょうもまだすこ仕事しごとのこっていますが、十一月じゅういちがつはいったら、もう今年ことし仕事しごとはありません。
 そのあいだ、ベネズェラのウインターリーグにってみないかとジョージさんにさそわれてます。当分とうぶん日本にっぽんにはかえらないつもりです』
 としるしていた。独立どくりつリーグといえば、アメリカのプロ野球やきゅうさい底辺ていへんである。それがわかっているからこそ、高崎たかさきもメジャーや傘下さんかのマイナーリーグにうつ選手せんしゅのことを、<うんがいい>と表現ひょうげんしているわけだ。しかも、高崎たかさきはシーズン終了しゅうりょう賃金ちんぎん保証ほしょうされていない。それなのに何故なぜ、ここまできと毎日まいにちらすことができるのだ。
 『白球はっきゅうもとめて』には、メールフォームが設置せっちされていた。ぼくは、おもって高崎たかさきにメールをおくった。
はじめまして、高崎たかさきさん。いつもブログんでます。いつもたのしそうでうらやましいです』
 期待きたいしていなかったのだが、翌日よくじつ高崎たかさきから返信へんしんがあった。
『ブログんでくださってありがとう。みじかあいだでしたが、いい経験けいけんをしました。ウインターリーグでも、もっともっと、いい経験けいけんをしてきたいとおもいます』
 ブログの記述きじゅつわらない、前向まえむきで清々すがすがしい内容ないようだった。ぼくのほうからもまた返信へんしんし、やがて我々われわれは、頻繁ひんぱんにメールを交換こうかんする間柄あいだがらになった。
 かれとメールのやりりをしてみてわかったのは、『白球はっきゅうもとめて』の記述きじゅつが、まったくのかれ本心ほんしんだということだった。メールにつづられた言葉ことば端々はしばしから、かれいま生活せいかつたのしみ、きとした毎日まいにちらしていることがよく理解りかいできた。
 かれにメールをおくった時点じてんでもまだ、ぼくはどこかで、『白球はっきゅうもとめて』の記述きじゅつは、虚勢きょせいっているのではないか、とかんがえていたのだ。そんなおもいがくだかれるとともに、ぼくさらに、高崎たかさきというおとこかれていった。
 しばらくして、ぼく高崎たかさきに、自分じぶんがひきこもりの生活せいかつを、もうよんねんつづけていることを告白こくはくした。両親りょうしん離婚りこんするかもれず、ははいたいとおもっているが、部屋へやて、彼女かのじょのところに勇気ゆうきないことも。そして、そのメールの最後さいごを、
高崎たかさきさんはつよひとですよね。ぼくよわい。高崎たかさきさんみたいになりたいですよ』
 とむすんだ。いつものように、すぐに返信へんしんがあった。
ぼくつよ人間にんげんだなんてとんでもない。日本にっぽんでチームをくびになったのちは、ひとにはえないような、とんでもない生活せいかつをしていたんですよ。ブログにもけないようなひどい生活せいかつでした。
 でも、色々いろいろとあって、づいたんですよ。ぼくはピッチャーでした。野球やきゅうはボールをげてみないとはじまらないことを、ぼく一番いちばん、よくっているじゃないかって。
 じゃあ、これからさき人生じんせいおなじじゃないか。はどうなるかわからないけど、そんなことはかんがえず、とりあえず、ボールをげてみようって。そうしてみてよかったです。いまは、とてもたのしいですから』
 『ボールをげなければ野球やきゅうはじまらない』という言葉ことばが、ぼくむねった。
 翌日よくじつ、また、高崎たかさきからメールがきた。今度こんどは、写真しゃしん貼付ちょうふしてある。中南米ちゅうなんべいけいとおぼしい大柄おおがら選手せんしゅ高崎たかさきがキャッチボールをしている写真しゃしんだった。高崎たかさきは、たのしそうにわらっており、くろ日焼ひやけしたかおに、しろがよく目立めだっている。 
 メールの本文ほんぶんは、
昨日きのうえらそうなことをってごめんなさい。田辺たなべさんは、あたまがいいじんなんですよ。だから、必要ひつよう以上いじょうかんがむ。おれはずっと野球やきゅうしかやってこなかったから、単純たんじゅんなだけです。「マーベリックス」での今年ことし仕事しごとがすべてわり、明日あした、ベネズェラへ移動いどうすることになりました。
 インターネット環境かんきょうがあるかどうか、まだよくわかりません。ネット環境かんきょうととのったら、またメールします。それまでお元気げんきで』
 ぼくは、パソコンの電源でんげんとした。部屋へやさがしてみると、クローゼットのおくのダンボールばこに、グラブがふたつしまってあった。ひとつはぼく小学校しょうがっこうころ使つかっていたもの。もうひとつは、ちち使つかっていたグラブだ。中学校ちゅうがっこうはいったころ子供こどものときのグラブがちいさくなって、ちちのをぼくがもらったのだ。
 とはっても、中学ちゅうがくはいったのちは、勉強べんきょういそがしくて、このグラブを使つかったのはいちだったが。もうなんねんもダンボールのなかれたままだったから、黴臭かびくさい。
 玄関げんかんひらいた。ちち帰宅きたくしたのだ。階段かいだんがってくるおとがする。ぼくはドアをけた。いつものように、コンビニの弁当べんとうにしたちちが、一瞬いっしゅんおどろいたかおをした。
「ねえ、おとうさん、これ、おぼえてる?」
 ぼくいた。ちちはまだ、戸惑とまどがおだ。
「ああ。よくってあったな。むかしはよく、キャッチボールをしたなあ」
小学校しょうがっこうころだよね。中学ちゅうがくはいると、もうやらなくなった」
 ぼくは、子供こどもとき使つかっていたほうのグラブをはめてみた。さすがに窮屈きゅうくつで、てのひら半分はんぶんくらいまでしかはいらない。
「ねえ、おとうさん、キャッチボールやらない?」
いまからか? もうくらいぞ」
にわ電気でんきけて、すこしだけやろうよ」
 ちちうれしそうにわらってうなずき、
わかった」
 とった。そとはもう、かなりさむかった。あきふかまって、ふゆちかづいている。ひさしぶりにてみたにわは、むかしとほとんどわっていなかった。
 かるくボールをげてみる。心地ここちのいいおとてて、ボールがちちのグラブにおさまる。ちちがえそうとするのへ、ぼくはグラブをはめた左手ひだりてしめしながら、
「こんなだから、あまりつよげないでね」
 とった。ちちうなずき、ゆるいボールをげてくれた。両手りょうてつつむようにして、ぼくった。また、そのボールをちちかえす。ちちとキャッチボールをするなんて、いったい、なんねんぶりのことだろう。
「おとうさん――」
 ボールをげながら、ぼくった。
「おかあさんのところへってみたいんだけど、いいでしょう」
 ちちもボールをがえし、
「もちろんだ。自由じゆうにしていいんだぞ」
 とった。
「まだ、離婚りこんしてないんでしょう?」
 しばらくかんがえるあいだいてから、ちちうなずく。
「もう一度いちど、おかあさんと仲良なかよくしてよ。また、さんにん一緒いっしょに、このいえらそうよ」
 ぼくった。ちちはまた、しばらくだまっていたが、やがて、みをかべたかおで、おおきくうなずいた。ちちぼくに、すこつよいボールをかえしてきた。ぼくはこれを、グラブの土手どててて、そこねてしまった。
「どうしたんだ? やっぱりグラブがちいさいのか? それとも、身体しんたいにぶって下手へたになったのか」
 ちちう。ぼくは、ボールをひろって、ちちがえしたが、けそこなった本当ほんとう理由りゆうを、ちちにはげなかった。
  
[ 2011/07/23 23:33 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)

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[ 2011/03/08 00:13 ] 書籍しょせき | TB(0) | CM(-)
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松井まついはかるのプロフィール

松井 計

1958ねんがつにちまれ。大学だいがく卒業そつぎょう英語えいご講師こうし古書こしょてん店主てんしゅなどのしょく経験けいけん。1995ねんがつ短編たんぺん戦記せんき小説しょうせつしゅう血戦けっせん! 帝国ていこく艦隊かんたい進撃しんげきス――れい戦隊せんたい激闘げきとう」を松井まついひさしじん名義めいぎ刊行かんこう文筆ぶんぴつ生活せいかつはいる。2001ねん幻冬舎げんとうしゃより刊行かんこうした「ホームレス作家さっか」から筆名ひつめい本名ほんみょうもどし、以降いこう松井まついはかる名前なまえ活動かつどう現在げんざいいたる。趣味しゅみ野球やきゅうさけねこ社団しゃだん法人ほうじん日本にっぽん文藝ぶんげい協会きょうかい会員かいいん

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