福田頭

福田頭ふくだがしらは地元じもと名めい、毛無山けなしざんは官かんの名前なまえ

今年ことしは冷夏れいかで、９月くがつになってもまだ稲刈いねかりの段取だんどりにはなりそうもないよ。なら、今いまのうちに山やまを稼かせいでおこうかね。
比婆ひば山さんからも、吾妻山あづまやまからも、南みなみの山やまが立派りっぱで魅了みりょうされたもんだよ。それが福田頭ふくだがしら。
たいてい、県境けんきょうにこそ際立きわだった山やまがあるもんだよ、それに反はんして南みなみに屹立きつりつする山やまがあるんだもの、訪たずねてみたくなるのは当然とうぜんでしょう。
庄原しょうばらから比和ひわへ、比和ひわの中心ちゅうしんに行いく前まえに、比和ひわ町まちで最初さいしょの交通こうつう信号しんごうがある、かさべるで、総合そうごう運動公園うんどうこうえんへの標識ひょうしきがある、ここで曲まがるんだよ。

福田ふくだ集落しゅうらくにさしかかると、かさべるでへの道みちは山やまの上うえに誘導ゆうどうされる、丘おかの上うえを切きり開ひらいてグラウンド・テニスコート・屋根やね付つきゲートボール場じょうなどを造つくったんだね。
かさべるで、とは、緑みどりの城しろ、という意味いみなんですと。さぞかし、イタリア風ふうなんだろな、と期待きたい感かんをもって、かさべるでを見上みあげると、へ、なんだい、普通ふつうの民家みんかじゃないか、瓦かわらを緑みどりに仕立したてててるのかい、天理教てんりきょうの教会きょうかいみたいじゃないか。名前負なまえまけですね。
登山とざんするひとはここへ駐車ちゅうしゃするように、と誘導ゆうどうされているそうな、わたしもそれに従したがおうね。
丘おかを下おりて、バス停ばすていへ向むかおう、バスのダイヤ表示ひょうじが見当みあたらない、一般人いっぱんじんは乗のれないスクールバスなのかな。

バス停ばすていに添そう民家みんかは、福田ふくだ地区ちくの集会しゅうかい所しょなんだ、ここに福田頭ふくだがしら登山とざん口こうの標識ひょうしきがある。
ここから見みえる山やまの姿すがたは朝霧あさぎりに溶とけ込こんで、どこが山頂さんちょうかよくわからないね。
たんぼ谷川たにがわに沿そって進すすむ、民家みんかが尽つきたよ、橋はしを渡わたるよう標識ひょうしきが誘導ゆうどうしている。
ガイドブックの表現ひょうげんがあいまいだ、道みちなりに行いくのかしら、谷たに沿ぞいに行いくのかしら、最後さいごの民家みんかで聞きいてみよう。
すみませぇん、福田ふくだ頭あたまへの道みちはどう行いけばいいのでしょうか。
正面しょうめんの道みちを行おこなってのぉ、向むこうのプレハブ小屋こやまで行いきゃぁ次じの標識ひょうしきがあるよ。あんたぁ、ひとりの？すね丸出まるだしで登のぼりんさるんの？まぁええが、まむしに気きぃ付つけて行いきんさいや。

どうもありがとう。　　　不審ふしんな輩やからを見みる目めつきだったぞ。そりゃ、そうかもね、どの程度ていどの腕前うでまえなのか見当けんとうがつかないだろうね。ひょっとしたら遭難そうなんして、面倒めんどうを押おし付つけられるかもしれないと、思おもいを巡めぐらすかもしれないね。
たんぼの野道のみちを行いけば林道りんどうに差さし掛かかる、そこにプレハブ小屋こやがある、工事こうじ現場げんばの放置ほうちされた小屋こやなんだね。
伐採ばっさい作業さぎょうが入はいって林道りんどうはぐちゃぐちゃだよ。道みちの真まん中なかに蹄の跡あとが見みえる、イノシシだ、昨夜さくや、道みちの真まん中なかを通とおったんだ。
ここが林道りんどうの最後さいご、ここから山道さんどうなんだね、案内あんない板ばんがあって、登山とざん届とどけの箱はこもある、わたしも届とどけとくね。

平成へいせい７年ねんに比和ひわ町まちが登山とざん道どうを整備せいびした、ということだが、あれから８年ねん、道みちはしっとりとして、風格ふうかくがあるコースになっているじゃないの。
道みちの両側りょうがわの草くさも刈かり込こんであって、これなら蛇へびに悩なやむこともないね、ほら、マムシがいた、すぐに見みつけて追おっぱらえる。
谷たにの傾斜けいしゃがきつくなってきた。道みちを外はずれて、一いちの滝たきがこの先さきにあるのかい。行いってみよう。
ほう、大おおきな落差らくさの滝たきだね。わずかに腰折こしおれだがトユ状じょうの滝たきなんだね。
滝たきのあるコースはきついコース、一気いっきに傾斜けいしゃを駆かけ上あがらなきゃならないものね、さぁ、ここが滝頭たきがしら、危あぶないからロープが張はってあるよ。

次つぎに、二にの滝たき、ほとんど滝たきつぼの近ちかくまで道みちは寄よってきてるんだね。
連続れんぞくした階段かいだんの滝たきなんだね。これなら、脇わきの道みちも苦くるしくなんかないぞ。
三さんの滝たきまであるんだそうだ。ここでは、滝たきつぼを渡渉としょうしていくのか。
一いちの滝たき二にの滝たきでは休やすむ場所ばしょもなかったが、ここならゆっくり休憩きゅうけいできる。絶好ぜっこうの記念きねん写真しゃしんポイントだね。
三さんの滝たきの滝頭たきがしらを越こえると、道みちは谷たにの真まん中なかになる、つまり、どこを歩あるいても水みずが流ながれてる、休憩きゅうけいする乾かわいた場所ばしょがどこにもない、ということなんですよ。

この湿地しっちにブナの林はやしは成長せいちょうしている、ここから伐きり出だして運はこび出だすのは並大抵なみたいていのことじゃないよ、経済けいざい原則げんそくに合あわないから、伐きられることなく残のこったんだよね。
やっと谷たにの芯しんを外はずれて、斜面しゃめんを行いくようになった。道みちが乾かわいているのはうれしいね。
水みず飲いん場じょう(湧水わきみず)とある、ははぁ、伏流ふくりゅう水すいをパイプで表ひょうに出だしているんだ。味あじは？　うぅん、すこし金属きんぞく味あじ、基準きじゅんが水道すいどう水すいだから、ちょっとの差さが辛つらい採点さいてんになるね。
やっと稜線りょうせんの向むこうに空そらが見みえてきた、大波おおなみ峠とうげ（おおばのとうげ）、来きた道行みちゆく道みち、道みちはこのふたつしか見当みあたらないね。
登のぼって、空そらが見みえるぞ、ここが福田頭ふくだがしらの肩かた、まだ肩かたなんだと、頭あたままではまだまだだね。

肩かたからの急きゅうな登のぼり、登のぼればすぐに頭あたまなんだろう。標識ひょうしきがある、福田頭ふくだがしらまで1000M、えぇ、まだ１キロあるのかい。
頭あたまかと思おもえば先さきへ進すすみ、また頭あたまではなく先さきへ進すすみ、なんだなんだ、福田頭ふくだがしらはノコギリの山やまじゃないか。
カシミール断面だんめん図ずでは単純たんじゅんな三角形さんかっけいだが、少すくなくとも感覚かんかく的てきには頂上ちょうじょうはノコギリ形状けいじょうだったぞ。
やっと福田ふくだ頭あたまと標識ひょうしきのある場所ばしょに着ついた。さっきの標識ひょうしきからじゅうぶん１キロ以上いじょうはあったね
東西とうざいの展望てんぼうは開あけるんだが、あいにくだね、ガス水蒸気すいじょうきに包つつまれてはっきりしないんだよ。
比婆ひば山さん連山れんざんを見みたいのだが、方向ほうこうは北きたで、北きたは樹木じゅもくに邪魔じゃまされて判然はんぜんとしないよ。

さて、下おりるかね、北きたへ向むかって歩あるいて行いこう。
途中とちゅうで、展望てんぼう所しょというのがある、本来ほんらいは麓ふもとの様子ようすが見みえるはずだが、今日きょうはだめだぁ、霞かすみの中なかでよくわからない。
稜線りょうせんを去さって山腹さんぷくに向むかうところ、ここの地名ちめいが兎うさぎ舞まい台頭たいとう、石いしの舞台ぶたいで兎うさぎが踊おどるのかしら。
昔むかしながらの名前なまえなのか、新出来しんできの名前なまえなのかは知しらないよ、センスは抜群ばつぐん、誉ほめてあげよう、あっぱれあっぱれ。
途中とちゅう、木この間ま越ごしに吾妻山あづまやまが見みえたが、枝えだが邪魔じゃま、写真しゃしんには撮とれないね。
山腹さんぷくを下おりるんだが、傾斜けいしゃは半端はんぱじゃないよ。トラロ－プが補助ほじょに張はってある、滑すべるから横よこへ逃にげて自由じゆうに道みちを選えらんで行いくよ。

ほとんど全部ぜんぶが滑すべり落おちる状態じょうたいの連続れんぞくなんだね。ストックをいっぱいに伸のばして、前まえで支ささえながら降おりていくのさ。
沢さわに出でてきた。昇竜しょうりゅうの滝たきがあるということだが、ここなのか、上流じょうりゅうなのか、見当けんとうもつかない。
顔かおを洗あらって汗あせを拭ふこう。山腹さんぷくの道みちから沢さわ沿ぞいにと、状況じょうきょうは大おおきく変かわったんだよね。
ごろごろ石いしの荒あれた沢さわ道どうで、雰囲気ふんいきは陰惨いんさん、あまり気味ぎみのええとこじゃないね。
向むこうに人工じんこう物ぶつが見みえる、林道りんどうなんじゃないか。ぱっと大だい規模きぼ林道りんどうに出でてきた。ここが福田頭ふくだがしら下山げざん口こう。
朝あさ一いち番ばんで、ここに自転車じてんしゃをデポしといたんですよ。その時とき、沢さわなど見みなかった。だから沢さわに出会であって途と惑まどったんですよ。

沢さわは、暗渠あんきょとなって林道りんどうの下したを潜もぐって放流ほうりゅうされている、橋はしを使つかわない工法こうほうなので、ここに沢さわがあるとは思おもいもしなかった。
さぁ、マウンテンバイクで戻もどるぞぉ。シュルシュルシュルゥ。４キロの道みちをあっという間あいだに帰かえれるぞ。
もとの、かさべるでの駐車ちゅうしゃ場じょう、今頃いまごろになって頂上ちょうじょうの霞かすみが晴はれている、ふぅん、あんなコースだったのかい。
国土こくど地理ちり院いんの地図ちずでは毛無山けなしざんとなっているがね。地元じもとでは、福田頭ふくだがしらと呼よんでいるよ。
中国ちゅうごく地方ちほうには、毛無山けなしざんという名前なまえの山やまが多おおいのだよ。タタラ製鉄せいてつの燃料ねんりょうに伐採ばっさいして丸坊主まるぼうずにした山やまを毛無山けなしざんと名なづけ、それがあちこちにあるわけだね。隣となり合あわせて毛無山けなしざん、という例れいもある、名前なまえをき取きとるとき、横着おうちゃくしたんだろうね。

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