布野冠山２

冠山かんざんはいくつもあるけれど、一番いちばん手近てぢかにあるということで、布野ふの冠山かんざんには愛着あいちゃく深ふかいものがある。
上布野かみふの、下布野しもふの、麓ふもとの集落しゅうらくからは前まえの山やまが邪魔じゃまをして冠かんむりの姿すがたを見みることは出来できないのだよ。
布野ふのでも、冠山かんざんから北きたへ離はなれて、島根しまね県けんへの国道こくどうの傾斜けいしゃがぐっと登のぼり加減かげんになるあたりで、振ふり向むくと、おぅ、冠かんむりの姿すがたを現あらわしてくれる。
女亀山めんがめやまを目指めざして、布野ふのから作木さくぎへ向むかうと、山腹さんぷくを縫ぬう県道けんどうからも姿すがたが見みえる。
一番いちばん顕著けんちょに見みえるのは、三さん次じ南郊なんこうの風土記ふどきの丘おかからワイナリーあたり、このへんでは、丘陵きゅうりょうの上うえから先端せんたんがポツンと尖とがった山やまがよぅく見みえます。
周囲しゅういから先さきに命名めいめいされて、現地げんちでは、そんな山やまがあるのかい、と認識にんしきした例れいなんだろうね。
前回ぜんかいは単純たんじゅんに山頂さんちょうを往復おうふくしたのだった。
布野ふの冠山かんざんは、布野ふのと君田きみたの境界きょうかいにある。君田きみたからの道みちは今いまでも健在けんざいなのだろうか。
バイクのレポを見みていると、林道りんどうはさらに続つづいていて、ぐるっと円えんを描えがいて戻もどってこれるのだそうな。
山道さんどうで林道りんどうで、バイクに出会であうのは嫌きらいだけれど、情報じょうほうは別べつだよ、好すき嫌きらいとは別べつの範疇はんちゅうだ、有効ゆうこうに使つかわせてもらうよ。

となると、駐車ちゅうしゃする場所ばしょは旧きゅう村役場むらやくばだな、三さん次じ市役所しやくしょ布野ふの支所ししょ、ここに止とめるとしよう。
山やまへ行いってんですか、ほぅ、冠山かんざんへ。ぼくも山やまへ入はいるんですよ、測量そくりょうしたり、杭くいを打うったり、仕事しごとよね。気きぃつけて行いってきんさい。
警察けいさつの駐在ちゅうざい所しょの前まえを通とおらにゃならん、こっちを見みてるぜ、呼よび止とめられた。
どこへ行いってんの、冠山かんざんね、熊くまはどうかのぉ、まぁ、注意ちゅういしての。林道りんどうは崩くずれとる箇所かしょがあるそうなけ、落おちんように。
役場やくばの職員しょくいんや警官けいかんから声せいかけを受うけるということは、異様いように見みえた、ということかもしれないぞ。
登山とざん者しゃが少すくないから目立めだつのかしら、登山とざん者しゃを装よそおいながら空あき巣すを狙ねらっていると見みられたのかしら。
坂道さかみちを登のぼって行いきながら、横目よこめで観察かんさつ、このへんの住宅じゅうたくは農家のうか仕様しようではないなぁ、古ふるびているから戦争せんそう後ごすぐの分譲ぶんじょう住宅じゅうたくなんだろうな。
登のぼりきったところで道みちがふたつに分わかれている、畜魂碑ひと石塔せきとうがあって、後うしろに牛舎ぎゅうしゃが見みえるところ。
普通ふつうは、ここに車くるまを置おいて左ひだりの道みちに進すすむんだよ。今日きょうは、ぐるっと一いち回まわりするつもりだから、ここには駐車ちゅうしゃしなかった。
左ひだりの道みちは、左右さゆうに牛舎ぎゅうしゃを見みながら通とおる道みち、ホルスタインが全員ぜんいんそろってこっちを見みている、大勢おおぜいの牛うしに見みられていると何なにやら恥はずかしいもんだね。

ここからは谷道たにみちの林道りんどうになる。キャタピラの跡あとがあるから、道みちの補修ほしゅうに重機じゅうきを入いれたものと見みえる。
重機じゅうきで踏ふんでいても道みちは草生くさわ（くさむ）しているよ。
ここで一言いちげん、生せい（む）すという言葉ことばは草生くさわ（くさむ）すの他ほかの用例ようれいは見みたことがないぞ。
海うみ行いかば水みず漬づけ（みづ）く屍かばね（かばね）
山行さんこうかば草くさ生せい（くさむ）す屍かばね（かばね）
大君おおきみ（おおきみ）の辺あたり（へ）にこそ死しなめ
かへりみはせじ
大本営だいほんえい発表はっぴょうでＮＨＫが放送ほうそうするとき、赫々かくかくたる戦果せんかを挙あげたとき、まっもるもせっめるもくっろがねのぉ、今いまじゃパチンコ屋やのテーマソングだがね、軍艦ぐんかんマーチを流ながしたんだそうな。
負まけ戦いくさのときは、海うみ行いかば、鎮魂ちんこんの曲きょくを流ながしたのだそうな。

作曲さっきょく者しゃは、曲きょくの最後さいごをクレッシェンドで元気げんきに歌うたい上あげるよう指定していしたそうだが、実際じっさいは、ピアニシモ、消きえ入いるように歌うたうのが通例つうれいなのだそうな。
何なにが言いいたいの、きみ。
いや、あのね、草生くさわ（くさむ）しているとね、死体したいが隠かくれているんじゃないか、しゃれこうべが草くさの根元ねもとにあるんじゃないか、草生くさわ（くさむ）す屍かばね（かばね）から離はなれられないのですよ。
谷たにから離はなれて山腹さんぷくを横切よこぎりながら進すすんで行いく、前まえに来きた時ときは、青葉あおばが繁しげる前まえの季き節ぶしだから布野ふのの街道かいどうがよく見みえたが、今日きょうはダメだ。枝葉えだはが繁しげって隙間すきまから眺ながめるしかないぞ。
尾根おねの突つき出だし部分ぶぶんに、測量そくりょうの赤あかい旗はたがあるが、これは国土こくど地理ちり院いんのものではないよ、自治体じちたいの測量そくりょうなんだろうね。
役場やくば支所ししょのおっちゃんの仕事しごとだろうし、国土こくど調査ちょうさと銘板めいばんのある杭くいを見みたことがあるしね。
道みちに沿そって、電柱でんちゅうが連つらなり、電気でんき電話でんわが繋つながっている。この先さきには、通信つうしん鉄塔てっとうが二に本ほんあるんですよ。
ひとつはＤｏＣｏＭｏのものだよね、もうひとつは判わからない、名前なまえが名乗なのってなかった。

電話でんわ線せんがね、光ひかりケーブルなんですよ。ああいうものは無線むせん塔とうだと思おもっていたが、光ひかりケーブルでもバックアップもしているんだねぇ。
ＮＴＴの光ひかりケーブルだが、ＤｏＣｏＭｏだけじゃなくもう片方かたがたにも繋つないであった、他た社線しゃせんだということで断ことわるわけでもないんだね。
電気でんき料金りょうきんはメーターを置おいて従したがえ量りょう制せいということはないだろ、固定こてい料金りょうきんだろうねぇ。
毎月まいつき、林道りんどうの奥おくへメーターを記録きろくしに行いくわけにはいかないもの、お願ねがいしてでも固定こてい料金りょうきんだろうねぇ。
道みちを曲まがって折おれて、最初さいしょの通信つうしん鉄塔てっとうまでたどり着ついたぞ。ここがＤｏＣｏMｏ、もう一汗ひとあせかいて、二に番目ばんめの鉄塔てっとうにたどり着つくんだよね。
二に番目ばんめの鉄塔てっとうの下したの道みちから、布野ふのの街道かいどうがよく見みえるよ。登のぼり始はじめの牛舎ぎゅうしゃまで眼下がんかに見みえる。
布野ふのの街道かいどうから見みえるのはここまで、ここから先さきは山やまの反対はんたい側がわに向むかうことになる。
前まえに来きた時ときには、崖がけに衝上断層だんそうの看板かんばんがあったが、今いまは取とり払はらわれて何なにもない。断層だんそうの断面だんめんを眺ながめてもどこが特徴とくちょう的てきなのか全然ぜんぜん判わからなかったもの。文化財ぶんかざい登録とうろくから抹消まっしょうしても問題もんだいないのじゃないかね。
どこに行いっても、衝上断層だんそうと看板かんばんを見みることは多おおいのですよ、沈下ちんか断層だんそう、陥没かんぼつ断層だんそうというのは見みたことがない。

尾根おねを重機じゅうきで破砕はさいして切きり通どおしにしてある。
ここから先さきは南みなみの風景ふうけいが遠とおくまで見みえる。カンノキ山きさん鷲ノ巣わしのす山さんは特徴とくちょう的てきですぐに判わかるぞ。世羅せら台地だいちの明神山みょうじんさんもそれと判わかる。
稜線りょうせんのすぐ下かを水平すいへいにずぅっと林道りんどうが続つづいていく。雨水あまみずで掘ほられたところも重機じゅうきで補修ほしゅうしてあるので、きわめて歩あるき易やすい、快適かいてきだね。
旧きゅう堤つつみと看板かんばんがあるのでのぞいて見みると、池いけがある。
きわめて狭せまい範囲はんいで雨水あまみずを集あつめているのにたっぷりと貯水ちょすいしてある。
ここに限かぎらず、山やまのてっぺんで池いけを見みることが多おおいが、よくまぁ、こんなとこで工事こうじしようと決心けっしんしたもんだね。ちゃんと池いけの水みずが溜たまっているのが不思議ふしぎだよ。
この先さきは、君田きみたとの境界きょうかいを歩あるいていることになる。道みちから下したを覗のぞくと、集落しゅうらくが見みえる、君田きみたの茂田しげた集落しゅうらくなんだね。稜線りょうせんと集落しゅうらくの間あいだに、落差らくさはあまり無ないように見みえるよ。
道みちの先さきに丸まるい山やまが見みえる、冠山かんざんのてっぺんも近ちかいと判断はんだんできるよ。
道みちは崖がけ鼻はなを迂回うかいする、ここだ、ここが布野ふの冠山かんざんへの取とり付つきなんですよ。
崖がけに取とり付ついて、笹ささにつかまりながら体からだを引ひっ張ぱり上あげて行いく。ここから先さきは笹原ささはらの中なか、踏ふみ跡あとがあるような、ないような、足あしで探さぐりながら進すすむしかないね。

振ふり返かえりながら、帰かえる道みちのポイントを覚おぼえておいてね。頂上ちょうじょうまでの道みちは短みじかいのだが、方向ほうこうを間違まちがえて降おりるとえらいことになるからね。
笹原ささはらの中なかに頂上ちょうじょうがある。頂上ちょうじょう看板かんばんは古ふるくて朽くちてしまいそう。笹ささの中なかを足あしで探さがせれば三角さんかく点てんがあった。
方向ほうこうを間違まちがえずに降おりて行いこうね。さぁ、降おりた。ここは冠山かんざんと湯谷ゆたに山さんが繋つながるタワの部分ぶぶんなんですよ。
林道りんどうは北きたへ降おりていっている、今日きょうの目的もくてきは、この林道りんどうがどこへ出でて行いくかを確たしかめることにある、さぁ、降おりて行いこうか。
ここから先さきはメンテナンスするのを止とめているね。草くさは繁しげったままだし、いててて、イバラが成長せいちょうしてひっかかる。
道みちは何なん箇所かしょも崩壊ほうかいしている、ここにトラックを通とおすにはえらい難儀なんぎな作業さぎょうを重かさねなきゃならないぞ。
振ふり向むけば、丸まるい山やまが見みえる、冠山かんざんの頂上ちょうじょう部分ぶぶんなんだよねぇ。
国道こくどう５４号線ごうせんの筋すじが見みえる、その先さきに見みえる山やまは女亀山めんがめやまに違ちがいないな。
北きたへ視線しせんを変かえて　、あの山やまこの山やま、何なんと言いう山ざんだろうねぇ。あれは判わかるぞ、猿政山さるまさやま、毛無山けなしざん大毛無山おおけなしやま。毛無けなし牧場ぼくじょうが隣接りんせつしている風景ふうけいに見覚みおぼえがあるよ。
林道りんどうはどんどん下したへ降おりて行いっている。地図ちずでは、君田きみたへの道みちがあるようになっているが、そんなものあるかい、廃はい道どう化かしているのだろうね。

水みずを全部ぜんぶ飲のみ尽つくしてしまったよ。谷川たにがわの水みずを補給ほきゅうして暑あつさに備そなえなくてはいけない。
この林道りんどうをバイクで走はしり抜ぬけた、ということだが、倒木とうぼくはいっぱいあるし、道みちが崩壊ほうかいしているところもあちこちあるし、走はしるなら覚悟かくごして参戦さんせんしてね。
やっと林道りんどうの分岐ぶんきに出でてきた、タイヤ跡あとが薄うすいほうから合流ごうりゅうしたのだよ、逆ぎゃくに進すすむと、まず間違まちがうだろうね、反対はんたいコースはお勧すすめしないよ。
あぁ、やっと人家じんかが見みえてきた。どこでも人家じんかに出でるところは風景ふうけいが同おなじなのはどうしてなんだろうね。
こういう風景ふうけい、家いえの配置はいちは何なん度ども見みてきた、デジャブーちゅうのか、記憶きおくの区別くべつがつかないぞ。
ここからはセメントの道みち、暑あつい季き節ぶしにこんな道どうを歩あるくのはくたびれるのだよ。
国道こくどうに出でてきた。バス停ばすていがあって明谷みょうだにというのだとさ。バスの本数ほんすうが少すくないね、時間じかんが合あわない、歩あるくしかないか。
トンネルの手前てまえで記念きねん碑ひがある、フランチェスカの鐘かね　双葉ふたばあき子こゆかりの里さととある。
双葉ふたばあき子こて岸壁がんぺきの母ははかい。それは双葉ふたば百合子ゆりこ、浪花節なにわぶしの演歌えんかだよ。東海林しょうじ太郎たろう、藤山ふじやま一郎いちろうなどと同どう時代じだいの大昔おおむかしのひとだよ。時代じだいが古ふるすぎて、フランチェスカの鐘かねの歌うたも知しらないし、どういうゆかりがあるのか看板かんばんもないぞ。

トンネルを抜ぬければ近道ちかみちなんだが、危あぶないよね、このまま旧道きゅうどうを迂回うかいして歩あるこう。
湯谷ゆたに山さんがそびえている、この裏側うらがわに冠山かんざんがあるなどうかがいようもないよ。
湯谷ゆたに山さんと通信つうしん鉄塔てっとうの稜線りょうせんの間あいだに深ふかい谷たにが刻きざまれている、この谷たにを詰つめれば冠山かんざんに到達とうたつするんだがね。
やっと旧きゅう役場やくばまで帰かえってきたぞ。
無理むりやり林道りんどうを歩あるいて一周いっしゅうしたけどさ、お勧すすめしない。面白おもしろくない。
枝葉えだはの葉はっぱが落おちた頃ころ、畜産ちくさん団地だんちから布野ふの冠山かんざんまで往復おうふくするのならええだろうね。ずっと林道りんどうを歩あるくので展望てんぼうはあるし、草道くさみちで悩なやまされることもない。
この時期じき、低てい山やまを歩あるくのは、役場やくばの職員しょくいんや警官けいかんがいぶかしがるのも道理どうりだね、ただただ暑あつい。暑あつくてたまらない。

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