八国見山

高速こうそくの中国ちゅうごく道どう、七塚ななつかSAのあたりで、北きたに尖とがった山やまが見みえるでしょう。鉛筆えんぴつの先さきのような尖峰せんぽうなんですよ。
気きになっていたが、判わかりました、口和くちわ町まちにある八国見山やくにみやまがそうだと判わかりました。
釜峰山かまみねさんに登のぼっていると、八国見山やくにみやまが、次つぎはこっちだよ、お出いでお出いで、と手招てまねきするんですよ。
今日きょうはほんとは東城とうじょうの山やまに登のぼるつもりだったんですよ。登山とざん口こうに着ついてカメラを忘わすれたのに気きがついた。しょうがないので取とりに戻もどったが、ずいぶんと時間じかんのロスをしたもんだなぁ。
そうだ、こんな時じこそ手近てぢかの八国見山やくにみやまに行いくべきだね。
口和くちわ町まちは口くち南みなみと口くち北きたの地区ちくに分わかれているんですよ。その間あいだに峠とうげがあるのだが、その峠とうげから八国見山やくにみやまの尖とがった峰みねがよぉく見みえる、ええなぁ、低ひくい山やまだが、姿すがたがええよね。

麓ふもとの谷たにに近ちかづいて八国見山やくにみやまを仰あおぎ見みる、三角形さんかっけいの姿すがたは、ほんまに幾何きか学がくのカタチだなぁ。
道みちは、八国見山やくにみやまの肩かたでふたつに別わかれるんですよ。かたっぽは大だい規模きぼ林道りんどうで比和ひわ町まちのほうへ、かたっぽは県道けんどうで高野たかの町まちへ。
県道けんどうのほうが道幅みちはばが細ほそいんですよ。冬ふゆの始はじめに、登のぼろうと志こころざしたことがあるんです。そのときは県道けんどうのほうに、冬季とうき通行止つうこうどめ、と看板かんばんがあって、これ以上いじょう入はいるのを止とめにしたことがあります。
その後ご、ロケーション調査ちょうさで寄よって見みました。看板かんばんの奥おくには集落しゅうらくがあるじゃないか、山越やまごえの道みちは積雪せきせつで通行止つうこうどめ、ただし、生活せいかつ道路どうろは冬ふゆでもちゃんと生いきている、こういうことだったんですね。
徒然草つれづれぐさのなかの仁和寺にわじの僧正そうじょう、先達せんだつはあらまほしきものなり、まさにその通とおりだね。ま、トライ・アンド・エラー、やってみなくちゃ解わからないものね。

県道けんどうの先さきに入はいってほんのわずか、細ほそい道みちの先さきで道みちがふくらんでいる、ここに車くるまを止とめさせてもらおうか。
看板かんばんがあって、八国見山やくにみやま県けん環境かんきょう保全ほぜん区域くいき、地図ちずがあるからイメージを把握はあくしとこうね。
引ひき返かえして、民家みんかの蔵くらのそばから入はいっていくんですよ。入はいると、広ひろい道みちと狭せまい道みちに別わかれている、どっちだろ。
広ひろい道みちはたんぼへの道みちだろう、草くさに埋うずもれた細ほそい道みちがそうじゃないかね。
あたり、こっちを選択せんたくして正解せいかいだった。道みちは用水路ようすいろの丸太まるた橋きょうを渡わたって、杉林すぎばやしへと誘導ゆうどうしているよ。
この道みちはあまり踏ふまれている道みちではないね、たまに誰だれかが訪たずねてくるという程度ていどだろう。
山やまの北側きたがわに谷たにがある、道みちはその谷たにに近ちかづいていくんだよ。谷たにの流ながれがせり上あがって道みちと同おなじ高たかさになる。

滝たきではないが、急きゅうな傾斜けいしゃだよねぇ、富士山ふじさん地形ちけいなんだもの、渓流けいりゅうは全部ぜんぶ、滝たきみたいに滑すべり落おちて行いくことになるよね。
渓流けいりゅうのそばに炭窯すみがまの跡あとがある、ここから谷たにと離はなれるのだね。
何なん度ども道みちを切きり替かえながら登のぼっていく、平たいらな場所ばしょがあるが、ここも炭窯すみがまの跡あとなんだね。
道みちの真まん中なかにブナの幹みきが曲まがって伸のびている、クヌギの樹き相しょうが旺盛おうせいなんだが、ブナもちらほらと点在てんざいするね。
急きゅうな坂さかを乗のり切きって、とりあえず、稜線りょうせんに出でたよ。八国見山やくにみやまから北きたへ伸のびる山波さんばの稜線りょうせんなんだね。
北きたの稜線りょうせんだからかね、シャクナゲの群落ぐんらくが見みえる。花はなの盛もりの当時とうじは素晴すばらしいだろうが、今いまは、その姿すがたを想像そうぞうするしかしょうがないよね。

めぐるましく道みちが折おれ曲まがる、左ひだりが下しただったのが今いまは右みぎが下したになっている、これが曲まがらずに真まっ直すぐな道みちだったら、とても登のぼれるもんじゃないよ。
梢こずえ越ごしに北きたの風景ふうけいが見みえる、口和くちわ町まちの田口たぐちの集落しゅうらくだね。集落しゅうらくの東ひがしに熊山くまやま(笠尾かさお山やま)があるのだ、これもいずれは登のぼる候補こうほに挙あげとこうね。
さらに奥おくの山やまは県境けんきょうの山やまなんだろうな。梢こずえが邪魔じゃまして、山容さんようが判然はんぜんとしないね。
北きたから西にしへとぐるっとまわって、山やまの南側みなみがわを歩あるいていることになる、反はん時計とけい周まわりに螺旋らせんを描えがいたことになるんだね。
ここだけ伐採ばっさいして、展望てんぼうがよくなっている、山主やまぬしの好意こういなんだね。
展望てんぼう地ちからは八国見山やくにみやまから流ながれ出だす宮内くない川がわの谷たにがよく見みえるなぁ。

比ひ熊山くまやま・高谷山たかたにやまがあれ、ということは三さん次じの街まちはあそこ、東ひがしに比叡ひえい尾山おやまが続つづくから、我わが家やはあのあたり、おっとっと、これ以上いじょう詳くわしいことは言いわないでおこうね。
目めを転てんじると、釜峰山かまみねさんが見みえる、里さとからは姿すがたかたちが素晴すばらしく見みえるのに、ここから見みると、平凡へいぼんでのっぺりしているな。
その間あいだのはるか南みなみに尖峰せんぽうが見みえる、カシミールで確認かくにんしたところでは男鹿山おじかやま、女鹿山めじかやまらしい、その隣となりの山塊さんかいは岳山たけやまなんだろうな。
頂上ちょうじょうは？　この先さきかい。なんだ、ほんの直すぐで頂上ちょうじょうだった。
木立こだちに包つつまれて展望てんぼうはないな。頂上ちょうじょうは森もりの中なかの平たいらなんだな。三角さんかくの鋭するどい山容さんようなんだから、山頂さんちょうも尖とがった姿すがたでいてほしかったが、それは無理むりというものだね。

八国見山やくにみやま、やくにみやま、ここから八やっつの国くにが見みえるのだろうか。
備後びんご、安芸あきは間違まちがいなく見みえる、備中びっちゅう、出雲いずもも、ま、見みえるわね、伯耆ほうきの国くにも見みえるとしようか、石見いわみもかろうじて見みえるとしようか。
これで六むっつだよ、あとのふたつはどうしたの。
これこれ、それを言いっては野暮やぼというもの、美辞麗句びじれいくなんですよ。たぁくさんの国こくが見みえるのだよぉ、という意味いみなのさ。文字通もじどおりに受うけ止とめず、見立みたてて、こしらえ、を味あじわってほしいね。
あんまり姿すがたが秀麗しゅうれいなので、神かみ奈備の山やまとして祭まつった、その祭まつりの名残なごりが国見山くにみさん、美辞麗句びじれいくで飾かざった八国見山やくにみやまとして、今いまにある、ということだと思おもうよ。

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