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長谷川 知子「遺伝科外来から平成9年春のメッセージ」
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遺伝いでん外来がいらいから平成へいせいねんはるのメッセージ」

長谷川はせがわ 知子ともこ 1997****

last update:20130718


静岡しずおか県立けんりつこども病院びょういん遺伝いでん染色せんしょくたい
長谷川はせがわ知子ともこ

 わがが、ダウン症だうんしょうなど、まれつきの疾患しっかんをもっていると、おやごさんたちがそんなわがをうけとめるのに時間じかんがかかるのは当然とうぜんです。いろいろつらおもいをされたほうおおいことでしょう。しかし、ふつうのをもっていてはづかなかった、人々ひとびとやさしさにふれられたほうおおいとおもいます。
 もし、つら気持きもちしんじこめてしまいくちせなくなって、「この否定ひていしてはいけない、可愛かわいいとけとめなければならない」と、本心ほんしんさえておられるとすれば、それはよくありません。しんぶたをして、こんなおもいをずっともちつづけていると、おやごさんのほうが慢性まんせいてきしん病気びょうきになってしまいます。どもの本当ほんとう姿すがたられなくなってしまいます。
 そうならないためには、勇気ゆうきして、わかってくれそうでひとはなしてみましょう。おなじような病気びょうきおやごさんであれば、たいていのひと否定ひていてきかんがえをもっていたでしょうから、よくわかってくれるとおもいます。おたがいに本音ほんねはなえば、「でもね、…」「これでいいじゃない」と、だんだん肯定こうていてきなほうにかんがえがかってくるものです。

 ひとは、きず自然しぜんなお自己じこ治癒ちゆりょくというのが備っています。しんきずおなじです。ただ、手当てあて間違まちがえてなおりにくくなっていることもあります。しんぶたをしてしまうことも手当てあてあやまりによるものなのです。
 もし、どうしてもひとえなければ、かみいてみて、自分じぶん気持きもちをつめることもできます。それには、「どうしてこうかんがえたのかしら?」「そのにはかんがかたがないのだろうか?」と自分じぶんいかけつつ、かんがえつくことをしてみるのです。そうすると、自分じぶん問題もんだい解決かいけつすることができます。
 ただあたまなかかんがえているだけですと、どうどうめぐりになってしまいますから、なんらかの方法ほうほう自分じぶんしんそとしたほうがなおりやすくなるのです。

 いま問題もんだいになっているトリプルマーカーテストなど出生しゅっしょうぜんスクリーニングについて、それを支持しじする意見いけんは、ダウン症だうんしょうまれてなかなかけとめられないひとがいるからやむをない、ということのようですが、一般いっぱんひとがこれをうのであればわかります。それにたいしておやごさんたちやわたしたちは、そういうひとたちの偏見へんけんのぞき、どもたちが社会しゃかいはいっていけるようにはたらきかけていくことが必要ひつようです。
 しかし、すでに受容じゅようしているはずのおや遺伝いでん医療いりょう専門せんもんが、このような、どもの存在そんざい否定ひていするようなことをうとしたら、それは問題もんだいではないでしょうか。「おとこはつらいよ」の柴又しばまたとらさんの有名ゆうめいなことばに「それをっちゃあ、おしまいよ」というのがありました。
 受容じゅようしたはずのおやダウン症だうんしょう専門せんもんで、「ダウン症だうんしょう突然とつぜんまれてこまっているおやおおいから、そのようなことのないように出生しゅっしょうぜんスクリーニングをすすめたほうがいい」とひとはなしいて、わたしは、「それをっちゃあ、おしまいよ」というとらさんのことばがあたまうかんだのです。

 すでにわが受容じゅようしたおおくのおやごさんたちは、からまれたおやごさんたちがつらおもいをしていればしあわせになれるよう援助えんじょしていこう、どもを社会しゃかい自然しぜんれられるようはたらきかけていこう、という姿勢しせい日夜にちや努力どりょくしておられます。こういうおやごさんたちのはなしいていますと、出生しゅっしょうぜんスクリーニングなんか必要ひつようのないなかにしていこうというかんがえで頑張がんばっておられるのがよくわかります。せっかくさずかった大切たいせついのちなのですから、わが本当ほんとう意味いみ受容じゅようしてほしい、それにはおや一緒いっしょ成長せいちょうしていくことが必要ひつようです。そして、家族かぞく負担ふたんをできるだけらしていきたい、妊娠にんしん中絶ちゅうぜつなどは本当ほんとうにやむをえない場合ばあい最後さいご選択せんたくなのだとかんがえるのが、わたしたち診療しんりょうにあたるもの当然とうぜん態度たいどだとおもいます。
 つらおもいをするならばまないことが解決かいけつだというのは、おやにとっても医療いりょう専門せんもんにとっても本末転倒ほんまつてんとうかんがかたではないでしょうか。



作成さくせい小川おがわ 浩史こうじ
REV: 20091016, 20130718
長谷川はせがわ 知子ともこ  ◇ダウン症だうんしょう Down's Syndrome  ◇全文ぜんぶん掲載けいさい
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