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穏土ちとせ「言葉のマジックに惑わされることなく」
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言葉ことばのマジックにまどわされることなく

穏土 ちとせ(おんど・ちとせ) 2005/06/25
安楽あんらく尊厳そんげん法制ほうせい阻止そしするかい発足ほっそく集会しゅうかい資料集しりょうしゅう


言葉ことばのマジックにまどわされることなく」(MS Wordばん


  この春休はるやすみ、アメリカのテリ・シャイボさんの「尊厳そんげん」をみとめるかみとめないか、おっと両親りょうしんあいだあらそわれているというニュースを最初さいしょたとき、わたしうえむすめ高2こうに)とともにひどくショックをけました。すぐにむすめつけてきたシャイボさんのホームページで、普段ふだんのシャイボさんの姿すがたをビデオ映像えいぞうて、衝撃しょうげきはさらにおおきくなりました。画面がめんうつるシャイボさんの姿すがたは、重度じゅうど障害しょうがいはあっても、彼女かのじょなりの方法ほうほうでしっかり「きている」ことをしめしていました。それは、まさに4ねんまえそら旅立たびだったむすめさいわいみのる姿すがたであり、たくさんのバクバクのかい人工じんこう呼吸こきゅうをつけたおやかい)のどもたちの姿すがたかさなるものであったからです。そんな姿すがたを「(きていたいとおもわないであろう)こんな状態じょうたい」などとけられることを、とう本人ほんにんたちがいたらどうおもうでしょうか。
  シャイボさんのケースでは、自力じりきでの食事しょくじはできないとしても、けいかん栄養えいようによれば確実かくじつきていくことができるにもかかわらず、「尊厳そんげん」をみとめるかみとめないかあらそわれていました。おっと主張しゅちょうにより栄養えいようチューブがはずされ、両親りょうしん主張しゅちょうにより再度さいどチューブがつけられ、そしてまた、はずされようと…とシャイボさんのいのち翻弄ほんろうされていました。シャイボさんのおっとは、「本人ほんにん元気げんきだったころ、『あんな(植物しょくぶつ状態じょうたいになってまではきていたくない』とっていたから、『尊厳そんげん』させるのが彼女かのじょ希望きぼうかなっているはず。」と主張しゅちょうしているとのことでした。わたしは、「じゃあ、彼女かのじょ餓死がししたいとっていましたか?」「じににすることが彼女かのじょ希望きぼうかなっているのですか?」と、ききかえしてやりたいとおもいました。
  たしてなかに、「自分じぶんぬときにはじににしたい」とわざわざねがひとがいるでしょうか。「リヴィング・ウィル」「尊厳そんげん」「自己じこ決定けってい」と、とても綺麗きれい言葉ことばならび、おおくのひとたちは、そんな言葉ことばのマジックで誤魔化ごまかされ、効率こうりつ主義しゅぎ思惑おもわくからられているのではないかとおもうのです。そのうえ、「栄養えいよう補給ほきゅう装置そうち」だの「生命せいめい維持いじ装置そうち」だのとむずかしそうな言葉ことばならべたてられるのですから、それが自分じぶんりかかるとしたらどういうことなのか具体ぐたいてきにイメージをえがくことができないまま、「そんなおどろおどろしいことしてまできたくない。」とかんがえてしまうのではないかと想像そうぞうしています。おそらく「栄養えいよう補給ほきゅう装置そうちはずす」ということが、イコール<ごはんきでいたる>ということで、「人工じんこう呼吸こきゅうはずす」ということが、<窒息ちっそくしていたる>ということだとはおもいもよらずに…。当然とうぜんそこには「うつくしくやすらか」とは程遠ほどとお場面ばめんともなっていることでしょう。シャイボのニュースでも、「生命せいめい維持いじ装置そうちはずす」という言葉ことばだけがおどっていました。
  それでも、最初さいしょにニュースをいたときは、大統領だいとうりょうも「はっきりこたえがない場合ばあいは、きるほう優先ゆうせんさせるべきである。」とっているだから、いくらなにでもなせる方向ほうこうにはいかないだろうとしんじていました。(いいえ、そうしんじたかったのです。)しかし、それから1ヶ月かげつつかけいたたないうちに、「おっとのいいぶんほうみとめられて、2週間しゅうかんまえ栄養えいよう補給ほきゅう装置そうちはずされ、昨日きのう、シャイボさんはいきりました。」と報道ほうどうされました。おもわず「2週間しゅうかんみずものももらえなかったら、だれだってぬよ。それって、虐待ぎゃくたいじゃないの!」とさけびました。世間せけんでは、どもにごはんべさせずに餓死がしさせたり、故意こい窒息ちっそくさせたりした家族かぞくを「おに」と徹底的てっていてき非難ひなんするけれど、重度じゅうど障害しょうがいしゃ難病なんびょう患者かんじゃだったら、餓死がしさせられても窒息ちっそくさせられても、「尊厳そんげん」させてあげたって、賞賛しょうさんされるというのでしょうか。
  日本にっぽんの「尊厳そんげん法案ほうあん成立せいりつさせようとしているひとたちに、ALS患者かんじゃさんやバクバクったち、人工じんこう呼吸こきゅうユーザーや重度じゅうど障害しょうがいをもってきているがわ危機ききかんうったえても、かれらは、「心配しんぱいにはおよびません。わたしたちが問題もんだいにしているのは、本人ほんにん意思いし尊重そんちょうしようということなのだ。」とはぐらかされることでしょう。でも、「尊厳そんげん法案ほうあんがいったんかよってしまうと、経済けいざい効率こうりつだいいち主義しゅぎのようないま状況じょうきょうでは、おかね人手ひとで莫大ばくだいかかり、生産せいさんせいひくいとおもまれている重度じゅうど障害しょうがいしゃ難病なんびょう患者かんじゃやその家族かぞくたいして、「『無駄むだ延命えんめい措置そちはせず、ひと迷惑めいわくをかけないでうつくしくぬという選択せんたくもありますよ!」と世間せけん無言むごん圧力あつりょく確実かくじつせてくるにちがいありません。
  そして、「尊厳そんげん法制ほうせいすることは、結局けっきょくは、重度じゅうど障害しょうがいしゃ難病なんびょう患者かんじゃかぎらず、すべての人々ひとびと未来みらいにもおおきくかかわってくることに気付きづいてほしいとおもいます。だれでもみんなねんをとっていきます。いまはどんなに元気げんきでも、いずれなんらかの障害しょうがい病気びょうきとつきあうことになるでしょう。そうなったとき、無言むごん圧力あつりょくは、きっとあなたのいのち翻弄ほんろうするにちがいありません。いまのうちからどうぬかとかんがえるよりも、重度じゅうど障害しょうがいをもっても、むずかしい病気びょうきになっても、安心あんしんしてらすことができるような、「尊厳そんげん」をもって「きていくことができる」ような、そんななかになるように、政治せいじのみなさんもわたしたち市民しみんちからそそいでいくほうがよほど建設けんせつてきだとはおもいませんか。言葉ことばのマジックにまどわされることなく…。

  (2005.6月「尊厳そんげん法制ほうせい阻止そしするかい」へ寄稿きこうしたもの)


UP:20060830
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