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児玉 真美「輸出入される介護労働――“現代の奴隷制”とも」
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輸出入ゆしゅつにゅうされる介護かいご労働ろうどう――“現代げんだい奴隷どれいせい”とも」

児玉こだま 真美まみ 200612 介護かいご保険ほけん情報じょうほう2006ねん12がつごう

last update: 20110517

★ フィリピン・カナダ
 輸出入ゆしゅつにゅうされる介護かいご労働ろうどう “現代げんだい奴隷どれいせい”とも
 日本にっぽん政府せいふ9月くがつにフィリピンとのあいだ経済けいざい連携れんけい協定きょうてい(JPEPA)をむすんだ。当初とうしょの2年間ねんかんでフィリピンじん看護かんご介護かいご福祉ふくし1000にんれるとのこと。そこで“労働ろうどうりょく輸出ゆしゅつ大国たいこく”フィリピンの介護かいごしょく輸出ゆしゅつ事情じじょうについて、インターネットで調しらべてみた。
 まず、Technical Education and Skills Development Authority の介護かいごしょくかんする労働ろうどう市場いちば情報じょうほうレポート15(2がつにち)。それによると、労働ろうどうりょく輸出ゆしゅつ主要しゅよう市場いちばであるアメリカとカナダに、ヨーロッパ、韓国かんこく、そして日本にっぽんくわわり、今後こんご年間ねんかん需要じゅようつづけると予測よそくする一方いっぽうで、急増きゅうぞうする養成ようせい機関きかん監査かんさにTESDAも苦慮くりょしている様子ようすだ。
 すこふるいが、林立りんりつする養成ようせい機関きかんなかにはIT専門せんもんこうにわかかに介護かいご鞍替くらがえしたり、詐欺さぎ同然どうぜんのケースもあるとの報道ほうどうにかかる(inq7.net02ねんがつ16にち)。
 就労しゅうろうさきいち番目ばんめっているのはカナダ。介護かいごしゃプログラムLCP(Live-in Caregivers Program)があり、永住えいじゅうけん市民しみんけんむすびつくことが魅力みりょくのようだ。LCP(前身ぜんしんプログラムをふくむ)をつうじてカナダにわたったフィリピンじんすでに9まんにん以上いじょう。LCPで就労しゅうろうしているひとの95%がフィリピン女性じょせいである。
 しかしその一方いっぽうで、病気びょうきになったら即座そくざ解雇かいこや、雇用こようぬしにレイプされたれいもあり、身分みぶん保障ほしょうもなく様々さまざま搾取さくしゅ差別さべつにさらされるひとすくなくない。4月しがつにはフィリピンの下院かいん議員ぎいんにんが、時給じきゅう2セントで1にち17あいだ労働ろうどうというれいげて、カナダにおけるフィリピンじん介護かいごしゃたいする虐待ぎゃくたいについて調査ちょうさもとめた(Asian Pacific Post 4がつにち)。また、入国にゅうこくねん以内いない一定いってい雇用こよう実績じっせきつくらなければ強制きょうせい送還そうかんとなる規定きていからも不幸ふこうなケースが多数たすうしょうじており、各種かくしゅ人権じんけん擁護ようご団体だんたいからLCPは人種じんしゅ差別さべつ女性じょせい差別さべつ、“現代げんだい奴隷どれいせい”だと抗議こうぎこえがっている(Bulatlat05ねん1がつ2〜8にちごう、The Manila Times9がつ14にち)。
 ネットじょうには海外かいがいでの介護かいご看護かんご子守こもり家事かじ労働ろうどうめぐ求人きゅうじん求職きゅうしょくサイトが数多かずおおられるが、そうじて若年じゃくねんそうおお失業しつぎょうりつたか途上とじょうこくが、裕福ゆうふく先進せんしんこく労働ろうどうりょく提供ていきょうする構図こうず顕著けんちょだ。
 そんななか、フィリピンのメディアも「JPEPAへの不信ふしん」を報道ほうどうしている。日本にっぽんから有害ゆうがい廃棄はいきぶつまれるのではとの疑念ぎねん根強ねづよく、透明とうめいせい保証ほしょうするためにも、政府せいふ協定きょうてい内容ないようかくさずにはや議会ぎかい提出ていしゅつすべきだと上院じょういん議員ぎいんらが提言ていげん(Sun Star Manila 11がつにち)。一方いっぽう、ニュースBulatlat(10がつ8〜14にち)は、専門せんもんしょくたんなる“輸出ゆしゅつひんあつかいにしているJPEPAは自国じこく経済けいざい発展はってん放棄ほうきする所業しょぎょうだとつよ非難ひなん専門せんもん技能ぎのうった国民こくみんやす輸出ゆしゅつするよりも、国内こくないはたら機会きかいつくるべきだと主張しゅちょうしている。

★フィリピン
看護かんご資格しかく試験しけん問題もんだい漏洩ろうえい 教育きょういく実態じったいは?
 そんな介護かいごしょく事情じじょうをリサーチしていた10がつなかば、6がつおこなわれた看護かんご資格しかく認定にんてい試験しけんでの問題もんだい漏洩ろうえいスキャンダルがんできた。
 一連いちれん報道ほうどうによると、政府せいふ看護かんご試験しけん委員いいんかいぜん委員いいんふくむ17にん起訴きそされ、合格ごうかくしゃ宣誓せんせい棚上たなあげ。政府せいふさい試験しけんめいじると今度こんど合格ごうかくしゃもう反発はんぱつ、などと大騒おおさわぎに。日本にっぽん大使館たいしかん早速さっそくわせをしている。外国がいこくじん看護かんごの8わりをフィリピンから調達ちょうたつしているアメリカは、来年らいねんから開始かいし予定よていだった現地げんちでの資格しかく試験しけん実施じっし中止ちゅうしし、フィリピン政府せいふ対応たいおう見守みまも方針ほうしんとのこと。すったもんだのすえ、27にちには合格ごうかくしゃ宣誓せんせいおこなわれたが、11月1にちになって今度こんど点数てんすうのコンピューター処理しょり操作そうさがあったと判明はんめい看護かんご試験しけん委員いいんかい全員ぜんいん辞任じにんするなど、事態じたい混迷こんめいたびふかめている(ABS・CBN Interactive, The Manila Times, Sun Star Networkその)。
しかしもっとになるのは、漏洩ろうえい報道ほうどうからえる看護かんご教育きょういく実態じったいだ。davaotoday.com(10がつ25にち)によると、看護かんご学校がっこうは99ねん以来いらい急増きゅうぞうしているが、合格ごうかくしゃは24こう卒業生そつぎょうせいのわずか8%で、看護かんご学校がっこうの4わり合格ごうかくりつ0%。この事態じたいけ、受験生じゅけんせい支援しえんのためにあらたにレビューセンターなるものがつくられた。看護かんご学校がっこうの4ねんよりも、民間みんかん会社かいしゃ運営うんえいするレビューセンターでの数ヶ月すうかげつほう合格ごうかくりつたかいともわれるが、問題もんだい漏洩ろうえい舞台ぶたいとなったのが、じつはこのレビューセンターだった──。
 これ、結構けっこうコワイばなしじゃないだろうか?

★ イギリス
施設しせつから地域ちいき生活せいかつ移行いこう でも在宅ざいたくケアは……
 さて、ところわって、こちらイギリス。72さいのマーガレットさんは、脳性のうせいまひのおっとの24あいだ介護かいごつかれてそもそもうつ状態じょうたいになり、ソーシャルサービスをもうんだ。3ヶ月かげつにソーシャルワーカーがきたが、なにごともきなかった。やっとレスパイト・サービスをけられたのは、おっと事故じここり、マーガレットさんも神経しんけいまいってしまったのちだった。「こっちのいうことなんかいちゃくれません。おかねがないんですって。だからたせっぱなしにしておくのね。そのうちあきらめるだろうとおもって」
 イギリスの高齢こうれいしゃ支援しえん団体だんたいSpainの調査ちょうさ報告ほうこくしょによれば、マーガレットさんのケースは同国どうこく高齢こうれいしゃ処遇しょぐう典型てんけいなのだとか。ソーシャルサービスの対象たいしょうしゃの3ぶんの2が高齢こうれいしゃだが、高齢こうれいしゃまわ予算よさん半分はんぶん程度ていど在宅ざいたくケアをける高齢こうれいしゃ世帯せたいは97ねんから4ぶんの1も減少げんしょうしている。Spain会長かいちょういわく。「予算よさん不足ふそくのツケは、高齢こうれいしゃ心身しんしん健康けんこう尊厳そんげん支払しはらっている」(BBC 05ねんがつ25にち
 イギリスでは近年きんねん高齢こうれいしゃ福祉ふくしかんする調査ちょうさ相次あいつぐが、なかでも在宅ざいたくケアに関心かんしんあつまる背景はいけいには、この10年間ねんかん施設しせつから在宅ざいたくへの移行いこうすすんだ事情じじょうがあるようだ。
 になるのは在宅ざいたくサービスのりょうしつである。このほどソーシャルケア監査かんさ委員いいんかい(CSCI:the Commission for Social Care Inspection)が、在宅ざいたくケアサービスにかんするはつだい規模きぼ調査ちょうさ結果けっかをまとめた(BBC,Times Online ともに10がつ18にち)。それによると、高齢こうれいしゃ人口じんこう増加ぞうかにもかかわらず、在宅ざいたくケアをける世帯せたいすう減少げんしょう報告ほうこくされている。92ねんには50まん世帯せたい地方自治体ちほうじちたい在宅ざいたくケアをけたが、05ねんには35まん4500世帯せたい減少げんしょう報告ほうこくしょはその理由りゆうを、きびしい認定にんていによっておおくの高齢こうれいしゃかれるためとしている。 そのにも、@訪問ほうもんケアで、利用りようしゃ身体しんたいあら着替きがえと整容せいようおこな時間じかん単位たんいとして設定せっていされている「15ふんモデル」は、時代遅じだいおくれで危険きけんかつ非礼ひれい、A個々ここのニーズや価値かちかん尊重そんちょうし、自己じこ選択せんたく可能かのうなサービスにけて「抜本ばっぽんてき変革へんかく」が必要ひつよう、B地方自治体ちほうじちたい重度じゅうどしゃ偏重へんちょうし、軽度けいどしゃ見過みすごされている、C様々さまざま部局ぶきょくひろ連携れんけいして高齢こうれいしゃ社会しゃかい参加さんかかんがえるべき、などのてん指摘してきされている。
 また、在宅ざいたくケア弱体じゃくたいおおきな理由りゆうとしててい賃金ちんぎんによる介護かいごしょくばなれと、それにともなうスタッフの研修けんしゅう不足ふそくげられているが、わかひと近所きんじょのスーパーのほうがよほど高給こうきゅうというのだから、あまりといえばあまりの冷遇れいぐうぶりだ。“奴隷どれい”とまではわずとも、介護かいご労働ろうどう何故なぜこうも軽視けいしされるのか。
 この調査ちょうさ結果けっかけて、高齢こうれいしゃ支援しえん団体だんたいAge Concernは「政府せいふ在宅ざいたく可能かのうにするケアサービスを強調きょうちょうするが、とっくに限界げんかいにきてしまった地方自治体ちほうじちたいいそがしすぎる現場げんばスタッフでは必要ひつようなケアを提供ていきょうできず、おおくの高齢こうれいしゃ失望しつぼうしている」とコメントしている。
 「日本にっぽんおなじなの?」というマーガレットさんのこえこえてきそうだ。



作成さくせい堀田ほった 義太郎よしたろう
UP:20100212 REV: 20110517
全文ぜんぶん掲載けいさい  ◇児玉こだま 真美まみ
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