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櫻井 浩子 配布資料「NICU において親と子がどのように関係性を築いていくのか――18 トリソミー児の親の語りから」
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配布はいふ資料しりょう「NICU においておやがどのように関係かんけいせいきずいていくのか――18 トリソミーおやかたりから」

櫻井さくらい 浩子ひろこ 2008/02/29
立命館大学りつめいかんだいがくグローバルCOEプログラム「生存せいぞんがく創成そうせい拠点きょてん 20080229
『PTSDと「記憶きおく歴史れきし」――アラン・ヤング教授きょうじゅむかえて』
立命館大学りつめいかんだいがく生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター,生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター報告ほうこく1,157p. ISSN 1882-6539 pp.139-153

last update: 20151225

配布はいふ資料しりょう
NICU においておやがどのように関係かんけいせいきずいていくのか
―18 トリソミーおやかたりから―
櫻井さくらい 浩子ひろこ立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん 先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう

1.問題もんだい所存しょぞん―NICU におけるおや関係かんけいせいきず
 日本にっぽんでは 1980 年代ねんだいから新生児しんせいじ集中しゅうちゅう治療ちりょうしつ(NICU: Neonatal IntensiveCare Unit)をそなえたしゅうさん医療いりょう施設しせつ設立せつりつされるようになり、先天せんてんせい疾患しっかん出産しゅっさん事故じこなどにより高度こうど治療ちりょう必要ひつようどもたちは、新生児しんせいじ集中しゅうちゅう治療ちりょうしつ搬送はんそうされている。現在げんざい日本にっぽんにはやく 360 施設しせつ新生児しんせいじ集中しゅうちゅう治療ちりょうしつがある。
 どもが健康けんこうであった場合ばあい出産しゅっさんから育児いくじへ、おや関係かんけい継続けいぞくせいをもってきずかれる。しかし、どもに先天せんてんせい疾患しっかんなど障害しょうがいがあった場合ばあいおや関係かんけい一旦いったんかれることになる。おや不在ふざいのまま NICU で育児いくじ開始かいしされる。最近さいきんでははや段階だんかい親子おやこ接触せっしょく可能かのうになってきたものの、おやどもになにこっているか理解りかいできないまま、こっている事実じじつれなければならない。
 NICU という医療いりょうシステムにまれながら、18 トリソミーのどもとおやがどのように関係かんけいせいきずいていくのか報告ほうこくしたい。

2.染色せんしょくたい異常いじょうしょう「18 トリソミー」と医療いりょう現状げんじょう
 18 トリソミーは染色せんしょくたい異常いじょうしょうのひとつで、18 ばん染色せんしょくたいが3ほんあるために、成長せいちょう発達はったつおくれや様々さまざま合併症がっぺいしょう特質とくしつである。1960 年代ねんだいに John H.Edwards らによってはじめて報告ほうこくされた。3,000 にんから 8,000 にんに 1 にん割合わりあい誕生たんじょうするとわれ、やく 94%のどもは出生しゅっしょうまえ死亡しぼうする。いいかえれば、このせいけるどもは 6%であり、18 トリソミーをちながらも、生命せいめいりょくのあるどもたちであるともえる。教科書きょうかしょてきには、1 さいまでの生存せいぞんりつは 10%、つまり1さい誕生たんじょうむかえられるどもは 10 にんに1にんである。しかし近年きんねんでは、アメリカや日本にっぽんでも 10 だい、20 だいまで生存せいぞんしたれいもある。
 報告ほうこくしゃは 1997 ねん 3 がつ長女ちょうじょ出産しゅっさんしたが、むすめは 18 トリソミーのため生後せいご 75 にち死亡しぼう。2001 ねん患者かんじゃかい「18 トリソミーのかい」(http://www.18trisomy.com/)を設立せつりつし、代表だいひょうつとめている。患者かんじゃかい活動かつどうなかかんじことは、医療いりょう従事じゅうじしゃは「延命えんめいどもの苦痛くつうつよい、おや重荷おもに背負しょわせるものであろう」とかんがえがちであるということ、一方いっぽうおやは、はじめて病名びょうめい医療いりょう情報じょうほうまずしさ、医師いしからの説明せつめい専門せんもん用語ようごばかり、突然とつぜんどもの宣告せんこく予想よそうもしなかったどものいのちにかかわる重大じゅうだい場面ばめんに、右往左往うおうさおうしている。
 日本にっぽんでは、18 トリソミーのどもについて、合併症がっぺいしょう様子ようす生命せいめいきびしさにかんする報告ほうこくはされてきたが、治療ちりょう健康けんこう管理かんりはどうしたらいいのか、どもやおやがどのような在宅ざいたく生活せいかつおくっているかなど、おや医療いりょう現場げんば本当ほんとう必要ひつよう情報じょうほうとぼしいものである。情報じょうほうすくなさから、18 トリソミーのどもにたいして、気管きかん切開せっかい手術しゅじゅつなど積極せっきょくてき治療ちりょうこころみる病院びょういんもあれば、診断しんだんがついた時点じてん治療ちりょう制限せいげん検討けんとうする病院びょういんもあるなど、医療いりょう現場げんば混乱こんらんまねいた。

3.ほん報告ほうこくのベースとなる調査ちょうさ
 今回こんかい報告ほうこくは、18 トリソミーのかいでおこなった実態じったい調査ちょうさ結果けっかをベースに検討けんとうしたい。この調査ちょうさは、全国ぜんこく規模きぼおこなわれたわがくにはつの 18 トリソミー調査ちょうさである。世界せかいてきには、米国べいこく SOFT のかい(Support Organizationfor Trisomy 18, 13 and Related Disorders in U.S.A(SOFT)http://www.trisomy.org/index.php)とユタ大学だいがく小児科しょうにかのグループが 1992 ねんった 13トリソミーおよび 18 トリソミーの健康けんこうめん調査ちょうさぐもので、医療いりょう生活せいかつ福祉ふくし心理しんりめんにわたる包括ほうかつてき調査ちょうさとしては世界せかいはつである。

ひょう1 実態じったい調査ちょうさ概要がいよう
調査ちょうさ対象たいしょう;18 トリソミーのかい会員かいいん
調査ちょうさ期間きかん;2003.5 〜 2003.8
調査ちょうさ方法ほうほう;アンケートひょうもちいた後方こうほうてき検討けんとうはつ おく かず; 125 つう回答かいとうすう:88 つう有効ゆうこう回答かいとうりつ:70%(内訳うちわけ生産せいさん81 つう 死産しざん 7 つう
おも調査ちょうさ項目こうもく
(1)こころのケアデータ
 医師いしからの説明せつめい初回しょかい面会めんかい状況じょうきょうとこころのケアの有無うむどもが入院にゅういんちゅう医療いりょう従事じゅうじしゃからけたこころのケアの有無うむ満足まんぞく医療いりょう従事じゅうじしゃのぞむこころのケア
(2)医学いがくてきデータ
 妊娠にんしん分娩ぶんべんれき妊娠にんしん合併症がっぺいしょう分娩ぶんべん様式ようしき出生しゅっしょう計測けいそく蘇生そせいなど)、出生しゅっしょう管理かんり合併症がっぺいしょう手術しゅじゅつふくめた治療ちりょう入院にゅういん期間きかんなど)、成育せいいくれき在宅ざいたく状況じょうきょう呼吸こきゅう管理かんり成長せいちょう発達はったつじょうきょう予防よぼう接種せっしゅなど)、死亡しぼう原因げんいん

4.初対面しょたいめん
 妊娠にんしんがわかってからおやは、日々ひびおおきくなるおなか胎児たいじのエコー写真しゃしんながら、どういう気持きもちで出産しゅっさんまでをごすのだろうか。おおくのおや元気げんき五体ごたい満足まんぞくどもの誕生たんじょういのりながら、新品しんぴんのベビー用品ようひん購入こうにゅうしたり、あたらしい家族かぞく生活せいかつゆめたくしていく。しかし、出産しゅっさん同時どうじどもに障害しょうがいがあることがわかった場合ばあいおやはどのような感情かんじょうつのだろうか。はじめての面会めんかい感想かんそうについて回答かいとうをまとめた。
かんとかいろいろ治療ちりょうされたのちで、かわいそうだとおもった
自分じぶんどもと半分はんぶんみとめたくない。外表そとおもて奇形きけいがあったため、こわかった。
るまでエコーでうさぎさんのおかおなんておもってすこ期待きたいしていたけど、タオルで身体しんたいつつんでいて、おもった以上いじょうみにくかおにショックをけた。
ちいさい、なんてちいさいの、なんでこんなにちいさいの。
・ このようにんでしまってもうわけない気持きもちでいっぱいだった。かわいいとおもったし、いとおしいともおもったが、「ごめんね」としかえなかった。
五体ごたい満足まんぞくんでやれなくて、もうわけない。
 どもの外表そとおもて奇形きけいおもえがいていたどもとのちがいにたいする戸惑とまどい、どもがけている治療ちりょう負担ふたんたいする気持きもちやくなってしまうかもしれない不安ふあんかなしみ、さまざまな気持きもちをかんじていた。
 一方いっぽうで、どもの可愛かわいさや、やっとえたよろこびをかんじているおやもいた。
・ すごくかわいい。そして美人びじんだ。わたしあかちゃん、いままであかちゃんのなかで一番いちばんかわいい。
帝王切開ていおうせっかいいたみがのこっていたが、はじめてえてっこできたよろこびでいっぱいだった。
・ああ、頑張がんばっているんだ。

 Edna Massilla の「天国てんごく特別とくべつども」(こう掲)というがある。この出会であったとき、どもの告知こくち絶望ぜつぼうのどんぞこにいるおおくのおや、は共感きょうかんおぼえる。その心理しんりは、現実げんじつめる苦悩くのうのなかで、どもを次元じげん一旦いったんき、「てんからさづけられたども」としてあらためて受容じゅようするためなのかもしれない。「障害しょうがいんだおや」から、「どもにえらばれたおや」という主体性しゅたいせい転換てんかんでもある。いいかえれば、「障害しょうがいおや」という社会しゃかいからのラベリングや自責じせきねんからの脱却だっきゃくなのかもしれない。Solnit A, Stark M はつぎのようにかたっている(Solnit A., &Stark M. 1961:523-537)。「障害しょうがい誕生たんじょうなかで、障害しょうがい誕生たんじょうは『期待きたいしたどもの』である。その過程かてい持続じぞく安定あんていさせなければ、期待きたいした健康けんこうどもへの切望せつぼうが、亡霊ぼうれいのように家族かぞくになじむのをさまたつづける」。


5.NICU における『不幸ふこうのルーチン The Routinization of Disaster』
 Daniel F. Chambliss はそと世界せかいでは特別とくべつ悲壮ひそう深刻しんこくかんがえられることでも、病院びょういんなかでは日常にちじょうのほとんどでありきたりになっていることを「不幸ふこうのルーチン」とった。不幸ふこうのルーチンには、感情かんじょうのルーチンのルーチン世界せかいのルーチン部外ぶがいしゃたいするルーチンがある(Chambliss 1996=2002:19,24,39,51,57)。
 医療いりょう従事じゅうじしゃのルーチンは、日常にちじょう空間くうかんをおくおやにとって、異常いじょう価値かちかんかんじる。そして、ルーチンは医療いりょう従事じゅうじしゃがまったくがつかぬまま無意識むいしきに、おやどものしんふかきずつけているのである。

(1)誕生たんじょう言葉ことば
 いままで医療いりょう従事じゅうじしゃは、障害しょうがいのあるどものおやたいして「おめでとう」とわなかった。健康けんこうどもをんだ場合ばあいだけが「おめでとう」なのである。あたらしいいのち誕生たんじょうしたことへの「おめでとう」であり、どもの障害しょうがい有無うむべつ次元じげんではないだろうか。18 トリソミーのかい会員かいいんおおくが、どもの誕生たんじょういわってもらわなかったとべ、「おめでとう」とってしかったとおもっていた。そこには、「どもの誕生たんじょうをかけがいのない存在そんざいとしてれてもらいたい」というおもいがある。
どもが元気げんきで、みんなから大切たいせつにされているといったことを実感じっかんできるあかししかった。
・ どんな病気びょうきをもったどもであろうとも、健常けんじょうどもと同様どうように、まずは「おめでとう」という姿勢しせい必要ひつよう
どもが、このいのち祝福しゅくふくされていて、だれからもあいされる資格しかくがあるのだとおもわせてしかった。

(2)きられないとして
 「きること」にっているどもをまえにして、生存せいぞんできる可能かのうせいがないことや、のこされた期間きかんばかり強調きょうちょうされることがある。18 トリソミーの場合ばあいおおくのおやは「蘇生そせいしない」「積極せっきょくてき治療ちりょうはしない」「手術しゅじゅつしない」など治療ちりょう制限せいげんする説明せつめいけている。そのなかには、出産しゅっさんまえ治療ちりょう方針ほうしん決定けっていされているなど、けっしてどもの状態じょうたいおうじた治療ちりょう選択せんたくされているとはおもえないれいもある。染色せんしょくたい異常いじょうたいする根本こんぽんてき治療ちりょう不可能ふかのうであるばかりではなく、どもの苦痛くつうのぞくための治療ちりょうまで否定ひていされてしまうこともあり、おやどものいのち医療いりょうから見捨みすてられたとかんじる。
・ 「18 トリソミーの場合ばあいまれてきてもながくないから、本当ほんとう帝王切開ていおうせっかいをするのは、もったいない」と医師いしげられた。
・ チューブをれるとき、人工じんこう呼吸こきゅうはずすときなど、かならず「死亡しぼうするかも」とわれた。
・ 「医師いしきているどものことでいそがしい」とわれた。うちのだってきているのに。
なにかにつけて「のこされた時間じかんなかで」とかえわれた。
生後せいごあいだもなく「自宅じたく看取みとりたいですか?」とかれた。

(3)どもへの虐待ぎゃくたい
 重度じゅうど障害しょうがいっているどもほど、医療いりょうてき処置しょちおお必要ひつようとする。医療いりょう従事じゅうじしゃが、どもの身体しんたい大切たいせつあつかってくれないことなど、どもへの対応たいおうおやはよくている。どもが大切たいせつにされないとおやかんじることは、医療いりょう従事じゅうじしゃへの不信ふしんかんにもつながる。「どもを研究けんきゅう材料ざいりょうのようにあつかわれている」とかんじるような発言はつげんを、医療いりょう従事じゅうじしゃからびせられることもある。つまり、医療いりょう関係かんけいしゃどもとおや尊重そんちょうし、大切たいせつにするしんがあるかどうかに関係かんけいしているのではないだろうか。医療いりょう従事じゅうじしゃのかかわりは、どもの存在そんざい尊重そんちょうしていれば親子おやこささえるが、そうでない場合ばあいふかきずあたえることにもなる。・ さけどもを医療いりょう従事じゅうじしゃすうめいでおさえ、医療いりょう処置しょちをおこなった。
・ 「どうしてこんなまれるのだろう。おかあさん、なにわるいことでもしたの?」と看護かんごわれた。
授乳じゅにゅう練習れんしゅうのとき、ただでさえあごのちからよわ哺乳ほにゅうりょくがないのに、いていやがるどものかおわたしむねけ、くるしがっていたどものかおいまでもわすれられない。
どもが危篤きとくのとき、わらいながら治療ちりょうしている医療いりょう従事じゅうじしゃがいて、仕事しごとのひとつにすぎないとかんじた。
・ 「1さいまできているはじめてた。なにてみたいようながする」と研究けんきゅう材料ざいりょうのようにわれた。

(4)かくされる障害しょうがい
 外表そとおもて奇形きけい重度じゅうどどもは、かくそうとされる。NICU のせま空間くうかんのなかで衝立ついたてをされたり、おくすみ保育ほいくかれたり、人目ひとめにつかないように「配慮はいりょ」をされる。医療いりょう従事じゅうじしゃ親切しんせつのつもりなのだろう。しかしおやにしてみれば、どもは人目ひとめせないかく存在そんざいであるとかんじるのである。
 18 トリソミーの特徴とくちょうてき奇形きけいである overlapping finger に愛着あいちゃくおやおおい。また、ゆびしょうだいゆびを、「チェリーブロッサムようでかわいい。どもの自分じぶんあそぶつのようにまわしてあそんでいた」とかんじていたおやもいる。おや視点してんは、どもの奇形きけい障害しょうがいのみにくのではなく、べつ次元じげんにある。かくすという行為こういには、障害しょうがい不幸ふこうであるという医療いりょう従事じゅうじしゃ価値かちかんあらわれているようにかんじる。
どもの保育ほいくを NICU の一番いちばんおくかれた


ひょう2 医療いりょう従事じゅうじしゃからけたケア(n=76)
  経験けいけんした Yes経験けいけん NoNA
どもの症状しょうじょう状態じょうたいおうじて適時てきじ情報じょうほうつたえられた 81.6% 15.8% 2.6%
おやかいなど社会しゃかいてき情報じょうほうつたえられた 38.2% 59.2% 2.6%
どもの身体しんたいてきケアをていねいにしてくれた 92.1% 6.6% 1.3%
反応はんのうのあるかわいいあかちゃんとしてせっしてくれた 90.8% 6.6% 2.6%
オムツ交換こうかん沐浴もくよくなどのケアを自分じぶんおこなえるようにしてくれた 89.5% 9.2% 1.3%
ミルク、注入ちゅうにゅう吸引きゅういんなどのケアを自分じぶんおこなえるようにしてくれた 67.1% 31.6% 1.3%
言葉ことばによるなぐさめ、はげまし、助言じょげんなどをもらった 90.8% 6.6% 2.6%
さえぎらず気持きもちをいてくれた 76.3% 21.1% 2.6%
他愛たあいのないおしゃべりをしてくれた 81.6% 15.8% 2.6%
希望きぼう要求ようきゅうつたえられるように配慮はいりょしてくれた 77.6% 19.7% 2.6%
つらいとき一緒いっしょにいてくれた 52.6% 44.7% 2.6%

6.医療いりょうシステムのなかでの親子おやこ関係かんけいきず
 NICU のなかで、おやどもとのいを医療いりょうシステムにより観察かんさつされる。出産しゅっさんかれた時間じかん中断ちゅうだんを、医療いりょう従事じゅうじしゃは「親子おやこ関係かんけい確立かくりつ」にとってリスクであるととらえている。親子おやこ関係かんけいきずきの基準きじゅんは、医療いりょうシステムのなかでつくられたものである。たとえば面会めんかい回数かいすう母乳ぼにゅうってくる回数かいすうどもにはなしかけているか、どものことについて積極せっきょくてき質問しつもんするかどうか、カンガルー・ケアをよろこんでおこなっているか、などである。なかでも母乳ぼにゅうってくるという行為こういは、おやらしさを象徴しょうちょうする。そしてこのような行為こういをしないおやは、「ダメなおや」として判断はんだんされる。

7.ありのままでいられること
 どもの病気びょうき突然とつぜんげられたおやは、だれかに自分じぶんかれている状況じょうきょう理解りかいしてしいとおもっている。自分じぶん気持きもちをれてもらえている、理解りかいされているとかんじることにより、おやしんささえられている。だまってかたわらにいてもらうこと、同胞どうほう何気なにげないやさしい言葉ことばはげましもいやしになる。
 そして、おや気持きもちは日々ひびうごいている。どもの状態じょうたい一喜一憂いっきいちゆうし、なんほんものチューブや人工じんこう呼吸こきゅうけているどもの姿すがたたりにしながら、「このはどんな治療ちりょうのぞんでいるのだろうか」となやんでいる。NICU では、おやは「つよおや」をえんじがちである。医療いりょう従事じゅうじしゃからの「おやなのだから、頑張がんばらなきゃ」「あなたがこのおやでしょ」とはげましの言葉ことばも、苦痛くつうかんじるケースもある。このような言葉ことばには、医療いりょう従事じゅうじしゃの「おや」の価値かちかんふくまれているようにおもえる。おやは「頑張がんばっている、おや」でなければならないと、かなしみ、いかり、不安ふあんなどまけ気持きもちにぶたをしてしまうことがある。
 ありのままのおや気持きもちをいてくれるひと存在そんざいや、かなしみやいかりの感情かんじょう表出ひょうしゅつできる用意よういされていることも必要ひつようである。衝撃しょうげきけているおやは、自分じぶんたちが「特別とくべつ状態じょうたいかれている」と孤独こどくかんかんじやすいため、自分じぶん気持きもちをれてもらうことにより、ひとりではないという安心あんしんかんるのである。

8.時間じかんながれとともにどもと
 どもとの初対面しょたいめんのときは、現実げんじつれることができなかったおやも、月日つきひながれとともに親子おやこ関係かんけいきずいていく。一見いっけんどもをれないようで、じつ内面ないめんどもとしっかりとっている。「まれてこなければかったのに」とおも反面はんめんみじかいのちなら大切たいせつにしてみようともおもっている。はじめからどもを 100%受容じゅようすることができないおやがほとんどである。それでも、おやいのなかで、ゆっくりと関係かんけいせいきずいている。一方いっぽうで、医療いりょう従事じゅうじしゃは、とかくせっかちである。短命たんめいであるがゆえか、はや親子おやこ関係かんけいきずくようにかす。時間じかんはやさが、おや医療いりょう従事じゅうじしゃとはおおきくことなるのかもしれない。
自分じぶんどもに障害しょうがいがあるとわかったとき、まったれられなかった。嫌悪けんおかんいちはいだった。でも1ねんきられないといてすこらくになった。すこしの時間じかんだから一生懸命いっしょうけんめいそだててみようという気持きもちになった。現在げんざいどもは1さいぎ、予想よそうをはるかにえて、たくましく成長せいちょうしている。重度じゅうど障害しょうがいったまま、なんねん一緒いっしょにいるとにくくなるのではないか、はやくいなくなってしいと生後せいごまもなくおもっていたが、いまはそんな気持きもちはない。でもそうおもったひとがいても理解りかいできる。
・ 18 トリソミーとげられたとき、しばらくはどもの存在そんざい否定ひていしていた。「まなければかった」「死産しざんだったらよかった」「じょうがわかないうちにんでくれたほうがいい」こんなことをかんがえていた。しんのなかでれていいのか、んでしまうならどもの存在そんざい否定ひていしてしまったらいいのか、混乱こんらんした。「とうといのちだから、せっかくまれてきた大事だいじいのちだから、みな最善さいぜんくしましょう」とってくれるひとしかった。戸惑とまどいながらいまは、みじかいのちならおもいっきりきしめて、いのないようにあいそうという気持きもちがある。実際じっさいどもはピカピカでやわらかく、おややすらぎをくれている。

9.おや言葉ことばかたることの意味いみ
 18 トリソミーのかいには独特どくとく言葉ことばみっつある。
@「ぐーの
医療いりょう従事じゅうじしゃからみれば、この Overlapping finger は「外表そとおもて奇形きけい」のひとつである。Overlapping finger は、18 トリソミーの確定かくてい診断しんだんのひとつである。18 トリソミーのかい発行はっこうした冊子さっし表紙ひょうしは、このぐーの写真しゃしん使つかっている。あえて外表そとおもて奇形きけい表紙ひょうし掲載けいさいすることで、障害しょうがいかくすことではなくおやからみれば「かわいい」「愛着あいちゃくのある」であることを、医療いりょう従事じゅうじしゃ主張しゅちょうする手段しゅだんである。
A「受容じゅよう
 医療いりょう従事じゅうじしゃどもと、おやどもとは、見方みかたちがう。医療いりょう従事じゅうじしゃ病名びょうめいによってどもを個別こべつするので、障害しょうがい部分ぶぶんからどもをる。たとえば 18 トリソミーの○○ちゃんという見方みかたである。しかし、おや自分じぶんどもをそうぶことはない。おや医療いりょう従事じゅうじしゃに、どもの障害しょうがいのある一部分いちぶぶんだけのケアをもとめているのではなく、どものかわいさをめてくれ、愛情あいじょうをもって大切たいせつにしてくれる姿勢しせいのぞんでいる。おやどもの障害しょうがい受容じゅようしつつ、障害しょうがいというわくえてどもの存在そんざいすべてをれようとしているのである。将来しょうらいえない告知こくち悲観ひかんしながらも、おやはゆっくりと成長せいちょうしているどもに一縷いちる希望きぼうつけようとしている。
B「天使てんし
 18 トリソミーの場合ばあいどもの誕生たんじょうとともに告知こくちける。短命たんめいである、不良ふりょうであるということは、なま常時じょうじとなわせであることも意味いみする。おやどもとのかぎられた時間じかん大切たいせつ共有きょうゆうしつつも、「」という言葉ことば敏感びんかんには反応はんのう恐怖きょうふしんいている。ひるがえせば「せい」をつよ日々ひび実感じっかんしながら生活せいかつしているともえる。おやどものくなったを、「死亡しぼう」とはわず「天使てんし」という言葉ことば使つかう。なかなかどもの現実げんじつれられないおやは、天国てんごくからの特別とくべつどもの肉体にくたいてんかえし、たましいのつながりでおや関係かんけいせいつづけていこうとする。またどもがあとも、患者かんじゃかいとかかわりつづけるおやおおい。どもがくなってから入会にゅうかいするおやもいる。そのおもいは、肉体にくたいなきどものわりとして患者かんじゃかい位置いちづけ、子育こそだてを継続けいぞくするのである。患者かんじゃかいは、おやおもい(子育こそだての継続けいぞく)でささえられているが、しかしそれは、どもがあと医療いりょうシステムとの関係かんけいれずにいるともえる。

 患者かんじゃかいつくした言葉ことば使つかって医療いりょう従事じゅうじしゃかたりかけることは、不幸ふこうなルーチン無意識むいしきのズレへの警鐘けいしょうである。親子おやこ関係かんけいきずきは医療いりょうシステムを主体しゅたいとした価値かちかんかたられるのではない。おや専門せんもんせい必要ひつようとする医療いりょうにおいて、自分じぶん言葉ことばかたれないことにたいする苦痛くつうがある。NICU は、「おや素人しろうとだから、どもの治療ちりょうくちすべきではない」「医師いしどもの治療ちりょうかんして主導しゅどうけんにぎっている。それは医療いりょうチームのなかでも、医師いしおや関係かんけいにおいてもえる」、特殊とくしゅ空間くうかんである。医療いりょう従事じゅうじしゃのききてであったおやが、医療いりょう専門せんもん用語ようごたいする患者かんじゃかい独自どくじ言葉ことば使つかってかたとなる。あえて医療いりょうシステムにをおきながら、独自どくじ言葉ことばかたりはルーチンした医療いりょう従事じゅうじしゃにとって、新鮮しんせん言葉ことばとしてれられる。

10.おわりに
 障害しょうがいのあるどもをんだとき、親子おやこ関係かんけいきずきは個人こじんてきなことから医療いりょうシステムのひとつである NICU のなか観察かんさつかれる。そこにはプライベートな空間くうかんはなく、医療いりょう従事じゅうじしゃ日常にちじょうてき光景こうけいのひとつとなる。そしてその日常にちじょうてき空間くうかんにおいて、どもだけでなくおや医療いりょう従事じゅうじしゃから観察かんさつされる対象たいしょうとなる。
 一方いっぽうで、おやにとって NICU は、どものきる場所ばしょであり、親子おやこ関係かんけいきず大切たいせつ場所ばしょなのである。
 NICU において、おや医療いりょう従事じゅうじしゃたいして主張しゅちょうするじゅつっていない。医療いりょう従事じゅうじしゃどもにおこなう処置しょちおやたいする言動げんどうたいして、おや価値かちかんのズレをかんじつつもそのことをつたえにくい。どもを人質ひとじちにとられたような印象いんしょうち、自分じぶんおやとしてすべきことを医療いりょう従事じゅうじしゃにおねがいしているという遠慮えんりょがある。妊娠にんしん出産しゅっさん育児いくじ主体しゅたいおやであるにもかかわらず、どもの疾患しっかん障害しょうがい重度じゅうどであるほど、NICU での主体性しゅたいせい医師いし筆頭ひっとうとする医療いりょう従事じゅうじしゃにぎるようになる。
 医療いりょうシステムのなかつくられた医療いりょう従事じゅうじしゃ価値かちかんは、親子おやこ関係かんけいきずきのさまたげとなり、ときにはおやにとって苦痛くつうにもなる。たとえば、どもの面会めんかいない、在宅ざいたくへの移行いこうこばむ、このような行動こうどう医療いりょう従事じゅうじしゃ親子おやこぞうへの抵抗ていこうおやえんじることへの苦痛くつうなのかもしれない。
 それゆえに、おやつくった独自どくじ言葉ことばかたることは、医療いりょう従事じゅうじしゃ不幸ふこうのルーチンにまれた価値かちかん転換てんかんねらうことができる。がれた習慣しゅうかん価値かちかんは、ひととしてたりまえのことをわすれさせてしまっているのかもしれない。NICU でのルーチンは、より不幸ふこうまねく。おやにとっては人生じんせいにおいていち大事だいじであるにもかかわらず、どものさえも日常にちじょういちコマとなってしまう。そしてルーチンした出来事できごとは、けの価値かちかん傲慢ごうまん態度たいどつくす。
 おやにとってもどもの「障害しょうがい」とうことは、自分じぶん自身じしんのこころをつめる作業さぎょうである。それはくるしくつらいおもいだけかもしれない。しかし、おやはそれをえて、医療いりょうシステムにあえてきながら、中断ちゅうだんされた時間じかんめるために、親子おやこ物語ものがたりをつむぎだそうとしているのである。

文献ぶんけん】Solnit,A., & Stark,M., 1961, Mourningand the birth of a defective child. Study of the Child(16). New York: Inter-national Universities Press.
Chambliss, Daniel F., 1996, Beyond Caring ; Hospitals, Nurses, and the SocialOrganization of Ethics. The University of Chicago Press.(= 2002,浅野あさの祐子ゆうこやく『ケアのこうがわ看護かんごしょく直面ちょくめんする道徳どうとくてき倫理りんりてき矛盾むじゅん日本にっぽん看護かんご協会きょうかい出版しゅっぱんかい.)
2000,橋本はしもと洋子ようこ,『NICU とこころのケア』メディカ出版しゅっぱん

□「天国てんごく特別とくべつども」
Edna, Massilla(大江おおえ裕子ゆうこやく

会議かいぎひらかれました
地球ちきゅうからはるかとおくで。
「またつぎあかちゃん誕生たんじょう時間じかんですよ」
てんにおいでになる神様かみさまむかって
天使てんしたちはいました。
この特別とくべつあかちゃんで
たくさんの愛情あいじょう必要ひつようでしょう。
この成長せいちょう
とてもゆっくりにえるかもしれません。
もしかして
いち人前にんまえになれないかもしれません。
だから
この下界げかい出会であ人々ひとびと
とくにをつけてもらわなければならないのです。
もしかして
このおもうことは
なか々わかってもらえないかもしれません。
なにをやっても
うまくいかないかもしれません。
ですからわたしたちは
このがどこにうまれるか
注意深ちゅういぶかえらばなければならないのです。
この生涯しょうがい
しあわせなものとなるように
どうぞ神様かみさま
こののためにすばらしい両親りょうしん
さがしてあげてください。
神様かみさまのために特別とくべつ任務にんむをひきうけてくれるような両親りょうしんを。
その二人ふたり
すぐにはがつかないかもしれません。
かれにん自分じぶんたちにもとめられている特別とくべつ役割やくわりを。
けれども
てんからさづけられたこのによって
ますますつよ信仰しんこう
ゆたかなあいをいだくようになることでしょう。
やがてにん
自分じぶんたちにあたえられた特別とくべつ
かみ思召おぼしめしをさとるようになるでしょう。
かみからおくられたこのそだてることによって。
柔和にゅうわでおだやかなこのとうといさずかりものこそ
てんからさずかった特別とくべつどもなのです
木田きだみつるよんろう 1982『先天せんてん異常いじょう医学いがく中公新書ちゅうこうしんしょ

Heaven's Very Special Child

A meeting was held quite far from earth.
"It's time again for another birth",
Said the Angels to the Lord above,
"This Special Child will need much love
His progress may seem very slow,
Accomplishment he may not show;
And he'll require extra care
From the folks he meets down there.
He may not run or laugh or play,
His thoughts may seem quite far away.
In many ways he won't adapt,
And he'll be known as handicapped.
So let's be careful where he's sent;
We want his life to be content,
Please, Lord, find the Parents who
Will do a special job for You.
They will not realize right away
The leading role they're asked to play.
But with this child sent from above
Comes stronger faith and richer love.
And soon they'll know the privilege given
In caring for the gift from Heaven.
Their precious charge, so meek and mild
In Heaven's Very Special Child".


ほん資料しりょうには本来ほんらい写真しゃしんが3てん掲載けいさいされていたが、テキストにあたって削除さくじょしたことを了承りょうしょういただきたい。(ファイル作成さくせいしゃ岡田おかだ きよしたか

立命館大学りつめいかんだいがくグローバルCOEプログラム「生存せいぞんがく創成そうせい拠点きょてん 20080229 『PTSDと「記憶きおく歴史れきし」――アラン・ヤング教授きょうじゅむかえて』立命館大学りつめいかんだいがく生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター,生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター報告ほうこく1,157p. ISSN 1882-6539


UP:20100413 REV:
生存せいぞんがく創成そうせい拠点きょてん刊行かんこうぶつ  ◇テキストデータ入手にゅうしゅ可能かのうほん  ◇身体しんたい×世界せかい関連かんれん書籍しょせき 2005-  ◇BOOK
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