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児玉真美「Katie Thorpe事件続報」

「Katie Thorpe事件じけん続報ぞくほう」

児玉こだま真美まみ　200803　介護かいご保険ほけん情報じょうほう　2008年ねん3月がつ号ごう

last update: 20110517

★英国えいこく
世界せかい最さい高齢こうれいロックバンド　気きになる“その後ご”
　「アビーロード」といえばビートルズ最後さいごのアルバム。また彼かれらが多おおくの作品さくひんを収録しゅうろくしたスタジオの名前なまえでもある。そのアビーロード・スタジオの、ビートルズが使用しようした伝説でんせつの第だい２スタジオでデビュー・シングルを収録しゅうろくした新人しんじんユニットがある。しかもプロデュースはU2を手てがける有名ゆうめいプロデューサーだというから贅沢ぜいたくな話はなしだ。ユニットの名前なまえはthe Zimmers。昨年さくねん５月がつ28日にちにthe Whoのカバー曲きょく“My Generation”で鮮烈せんれつデビューした。
　CDジャケットはビートルズが横断おうだん歩道ほどうを渡わたる「アビーロード」のパロディで、メンバー４人にんが並ならんで歩あるく姿すがた。ただし１人にんは杖つえを突つき、先頭せんとうの女性じょせいは歩行ほこう器きを使用しよう。なにしろ、このZimmers、世界せかい最さい高齢こうれいのロック・グループなのである。40人にん以上いじょうのユニットで、平均へいきん年齢ねんれいは79歳さい。全員ぜんいんの年齢ねんれいを合計ごうけいすると３０００歳さいを超こえるそうだ。CDの売うり上あげは高齢こうれい者しゃチャリティに寄付きふされることになっている。
　ことの起おこりは、BBCテレビのドキュメンタリー番組ばんぐみ。高齢こうれい者しゃの年金ねんきん生活せいかつを取とり上あげようと取材しゅざいした番組ばんぐみ担当たんとう者しゃは、彼かれらが抱かかえている激はげしい憤いきどおりに驚おどろいた。この怒いかりの声こえを当人とうにんたちに直接ちょくせつ上あげてもらおうとの企画きかくが最終さいしゅう的てきにユニットの結成けっせいに至いたったとのこと。
　アビーロードでの収録しゅうろくでは、全員ぜんいんがパワフルにロックンロール。途中とちゅう、「90だからといって爪弾つまはじきするな」、「あたしは３年間ねんかんもアパートから出でたことがないのよ」、「施設しせつにはもうウンザリ」などと書かいたボードが掲かかげられる。番組ばんぐみで紹介しょうかいされるや、このビデオは早速さっそくYou Tubeに投稿とうこうされた。Zimmersの公式こうしきウェブ・サイトやMy Spaceでも見みることができる。
　当時とうじはラジオやテレビの出演しゅつえんが相次あいつぎ、米国べいこくツアーの話はなしまで出でる勢いきおいだった。12月には次つぎのシングルとアルバムが予定よていされていたので、そろそろ発売はつばいされたかと覗のぞいてみた。２枚まい目めのジャケットはできているようだけれど「予定よてい通どおりに出だせず申もうし訳わけないが、レコーディングは進すすんでいる」という９月くがつの記事きじがMy Spaceのブログでは最後さいご。大晦日おおみそかにテレビ出演しゅつえんもあったようだが、どこか “祭まつりの後のち”の気配けはいも漂ただよい、今後こんごが気きになるところだ。
　常つねに目新めあたらしい話題わだいを追おって移うつろうメディアのこと。企画きかく側がわは「わが国くにの高齢こうれい者しゃへのひどい扱あつかいを明あきらかにし、高齢こうれい者しゃに対たいする様々さまざまな偏見へんけんを問とう」と公式こうしきサイトでぶち上あげていたのだが、はたして、その手段しゅだんは正ただしかったのだろうか。

★英国えいこく
アルツ患者かんじゃのドキュメンタリー“臨終りんじゅう場面ばめん”めぐり論争ろんそうに
　同おなじく英国えいこくのテレビ局てれびきょくITVが去年きょねん８月がつに調査ちょうさを余儀よぎなくされたのは、51歳さいでアルツハイマー病びょうにかかった作曲さっきょく家かMalcolm Pointon氏し夫妻ふさいを11年間ねんかんに渡わたって記録きろくしたドキュメンタリー番組ばんぐみ。一連いちれんの報道ほうどうによると、１９９９年ねんの「Malcolm and Barbara: ある愛あいの物語ものがたり」の続編ぞくへんとして、去年きょねんの夏なつに「Malcolm and Barbara:愛あいの別わかれ」が製作せいさくされるに当あたり、予告編よこくへんでの“臨終りんじゅう場面ばめん”を実弟じっていが「事実じじつと違ちがう描えがき方かただ」と指摘してき。論争ろんそうが巻まき起おこった。
妻つまのBarbaraさん自身じしんが事前じぜんに「夫おっとが死しぬ姿すがたを公開こうかいすることに批判ひはんもあるでしょうが、死病しびょうなのだと訴うったえるためには必要ひつようだったのです」と語かたり、番組ばんぐみの宣伝せんでん文句もんくにも氏しの臨終りんじゅうで終おわるとの仄ほのめかしがあった。厳きびしい姿勢しせいをとった局きょくの調査ちょうさの結果けっか、実際じっさいに息いきを引ひき取とったのは撮影さつえいシーンの３日にち後ごだったことを番組ばんぐみサイドが認みとめた。放送ほうそうには説明せつめいがつけられたほか、担当たんとう役員やくいんが辞任じにん。
　問題もんだいのシーンとはBarbaraさんが夫おっとの頭あたまを軽かるくたたきながら「もういいのよ。死しは終おわりではないわ。愛あいは続つづくのだから」と語かたりかけ、そのまま氏しの顔かおの映像えいぞうがフリーズして終おわるので、亡なくなったとの印象いんしょうを与あたえたもの。
　夫おっとの死後しごBarbaraさんは精力せいりょく的てきな講演こうえん活動かつどうで認知にんち症しょう患者かんじゃと家族かぞくへの支援しえんを訴うったえている。医療いりょう職しょく・福祉ふくし職しょく養成ようせい課程かていでの認知にんち症しょう教育きょういくの必要ひつよう、利用りよう者しゃ自身じしんが支援しえん者しゃを選択せんたくできるダイレクト・ペイメントの重要じゅうよう性せい、施設しせつでの薬くすりの過剰かじょう投与とうよへの警告けいこくなど、その主張しゅちょうには耳みみを傾かたむけるべきことも多おおい。英国えいこくアルツハイマー協会きょうかいも影響えいきょう力りょくの大おおきなBarbaraさんを重要じゅうような啓発けいはつメンバーと位置いちづけ、当初とうしょから一貫いっかんして支持しじしている。
　このたび政府せいふの介護かいご者しゃ委員いいん会かいに加くわわったのを機きに受うけた昨年さくねん大晦日おおみそかのTelegraphのインタビューで、Barbaraさんは問題もんだいのシーンについて、氏しの意識いしきがなくなった後のち「孫まごたちが庭にわに出でて行いき雪ゆきだるまを作つくって、夫おっとがずっと使つかっていたスカーフを着きせるんです。命いのちが引ひき継つがれていくことが確認かくにんされる素晴すばらしいシーンなのです」と語かたり、放送ほうそうされたのが現実げんじつの臨終りんじゅうかどうかを問題もんだいにする方ほうがおかしいと、改あらためて反発はんぱつしている。
　しかし意図いとや目的もくてきがどんなに正ただしくとも、自分じぶんが介護かいごする人ひとをその手段しゅだんに貶おとしめることは、やはり決定的けっていてきに間違まちがっている、と私わたしは思おもう。

★英国えいこく
重症じゅうしょう児じからの子宮しきゅう摘出てきしゅつ却下きゃっかで障害しょうがい者しゃの人権じんけん団体だんたいたたき
最後さいごに、12月号ごうの当とう欄らんで紹介しょうかいした事例じれいの続報ぞくほうを。
　去年きょねん１月がつの米国べいこくでの重症じゅうしょう障害しょうがい児じの子宮しきゅうと乳房ちぶさ芽めの摘出てきしゅつおよび成長せいちょう抑制よくせいに続つづき、10月にも英国えいこくで同様どうようの論争ろんそうが起おこった。重症じゅうしょう重複じゅうふく障害しょうがいのある娘むすめには無用むようの子宮しきゅうを摘出てきしゅつして生理せいり痛つうを予防よぼうしたいとの母親ははおやのい分いぶんに婦人ふじん科か医いらが賛同さんどう。NHSに法的ほうてき判断はんだんを求もとめていたのだが、その結論けつろんがこのほど出だされた。「医療いりょう上じょうの必要ひつようなしに子宮しきゅう摘出てきしゅつ手術しゅじゅつは行おこなわない」。当該とうがいNHSトラストは「母親ははおやの挙あげる理由りゆうでは子宮しきゅう摘出てきしゅつは正当せいとう化かできない」と説明せつめいする（Daily Mail１月がつ17日にち他た）。
　とりあえず子宮しきゅう摘出てきしゅつが行おこなわれないことはグッド・ニュースだ。しかし残念ざんねんなのは、今回こんかいの結論けつろんに至いたる過程かていでの議論ぎろんについて、プライバシーの保護ほごを理由りゆうにNHSが「個別こべつに検討けんとうした」という以上いじょうの説明せつめいをしないこと。英国えいこくのケースは明あきらかに米国べいこくの前例ぜんれいが誘発ゆうはつしたものだが、その手続てつづきの違法いほう性せいはシアトル子こども病院びょういん自身じしんが認みとめている。英国えいこくでの検討けんとう過程かていも重要じゅうようなポイントだろう。
　英国えいこくでは折おりしも、新あたらしい後見こうけん制度せいどMental Capacity Actが施行しこうされたばかり（１月がつ号ごうにて既報きほう）。MCAが示しめしている「意思いし決定けっていできにくい人ひとの代理だいり決定けっていを行おこなう場合ばあいの然しかるべき手順てじゅん」の他ほかにも、「親おやの決定けってい権けんの範囲はんい」、「医療いりょう上じょうの必要ひつようがない手術しゅじゅつによる介護かいご問題もんだい解決かいけつの是非ぜひ」、「福祉ふくしによる支援しえんのあり方かた」、「歯止はどめなく対象たいしょうが広ひろげられる滑すべり坂ざかの懸念けねん」など、この２ふたつの事件じけんが提起ていきする問題もんだいは多おおい。母親ははおやの挙あげる理由りゆうでは不十分ふじゅうぶんだとする論拠ろんきょをNHSは具体ぐたい的てきに説明せつめいするべきではないだろうか。
　もう１ひとつ気きにかかるのは、こうした本質ほんしつ的てきな問題もんだいにほとんど触ふれないメディアの皮相ひそう的てきな報道ほうどう姿勢しせい。一部いちぶの新聞しんぶんがこの問題もんだいを「親おやの献身けんしん的てきな愛あい」vs「権利けんりを振ふりかざして邪魔じゃまする障害しょうがい者しゃ団体だんたい」という構図こうずに単純たんじゅん化かするため、激はげしい障害しょうがい者しゃバッシングが起おこっている。そうした扇情せんじょう的てきな記事きじやバッシング・コメントを読よんでいると、この“空気くうき”にはどこかで覚おぼえがある……という気きがした。イラクでバックパッカーの若者わかものが誘拐ゆうかいされた時ときに「自己じこ責任せきにん論ろん」が世論せろんをあっという間まに被害ひがい者しゃたたきへと誘導ゆうどうしていった、あの時ときの“空気くうき”──。あの時ときの「自己じこ責任せきにん論ろん」は、その後ごも急速きゅうそくに進すすむ我わが国くにの格差かくさ社会しゃかいの背後はいごに隠然いんぜんと居座いすわり、貧者ひんじゃ、高齢こうれい者しゃ、障害しょうがい者しゃ、病者びょうしゃを切きり捨すてているのではないだろうか。
　メディアが描えがいて見みせる「面白おもしろい話はなし」「美うつくしい話はなし」の分わかりやすさに曇くもらされることのない目めをもちたい。「KY…空気くうきが読よめない」などという流行りゅうこう語ごに浮うかれる前まえに、“空気くうき”を作つくっていくものをこそ、しっかり読よみ解とく力ちからを持もちたい。

＊作成さくせい：堀田ほった義太郎よしたろう

UP：20100212　REV: 20110517

◇全文ぜんぶん掲載けいさい　 ◇児玉こだま真美まみ

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