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新聞記事「貧困率、実態把握へ一歩――要因、過程 詳細分析を」
新聞記事「貧困率、実態把握へ一歩――要因、過程 詳細分析を」
『京都新聞』朝刊:3 20091019
貧困率、実態把握へ――要因、過程 詳細分析を
国、初算出へ
政権交替で実現する見通しとなった「貧困率」の算出は、格差が広がり、不況が長引く中で社会保障政策を見直すための重要なモノサシになると期待されている。ただ、貧困脱却への支援強化には、さらなる財政負担が避けられない上、各省の「縦割り行政」もネックになる。実態を踏まえてセーフティーネット(安全網)をどう張り直すか。政治の決断が問われそうだ。
貧困率の測定について、花園大の吉永純教授(公的扶助論)は、「社会保障政策の大きな転換点」と評価する。
これまで国は、生活保護が受けられる対象者がどれだけいるかも示してこなかった。対象者の中で受給者の割合を示す「生活保護捕捉率」は、専門家の試算では20%台にとどまっているとされる。欧州では捕捉率を上げる政策をすすめ、多くの国が50%を超えているが、「日本では公式な数字がない以上、政策効果は見えなかった」(吉永教授)。
国は1953年から、国民生活基礎調査の前身の「厚生行政基礎調査」を基に消費額の少ない世帯数を公表してきたが、高度経済成長期の65年に打ち切った。「戦後、経済大国となり、近年進んだ貧困を国は直視してこなかった」と吉永教授は指摘する。
今後は、きめ細かい実態把握をどう実現するかが課題となる。
非正規労働者の労働組合「ユニオンぼちぼち」(京都市南区)の橋口昌治委員長(31)は「貧困に陥る過程は実に多様、地域別で、定住先を持たない派遣労働者や『ネットカフェ難民』の実態調査を行い、要因を細かく分析、有効な政策を講じてほしい」と求める。
生活保護、届かぬ人も――重い教育負担「格差の再生産」に
これまで日本は「最後の安全網」として、生活保護を位置付けてきた。昨秋以降、受給率は増え続け、7月には約172万人と1963年度以来の水準となった。一方で、自治体が「働ける年齢だ」などの理由で窓口で申請を阻む「水際作戦」などの問題が指摘されてきた。非正規労働の増加や不況の長期化が「ワーキングプア(働く貧困層)」や「派遣切り」などを生み、保護の網の目からこぼれ落ちている人が多いとの批判も根強い。
こうした親の貧困が、子どもの貧困を生み出す「格差の再生産」も指摘されている。立教大の湯沢直美教授は「低所得世帯や一人親家庭への支援率が乏しい上に、先進国の中でも教育費の負担が重すぎて生活を圧迫してしまう」と話す。
今後、貧困の実態が明らかになれば、これまで以上の財源が必要になる可能性が高い。だが、本年度の生活保護費の国庫負担は過去最高の2兆1239億円。保護費の4分の1を負担している地方自治体も財政難から、「国に全額負担してほしい」(大阪市)と悲鳴を上げる。
「反貧困ネットワーク」の湯浅誠事務局長は今月17日に東京都内で開いた集会後、記者団に「鳩山政権は子ども手当などを個別に打ち出すのではなく、さまざまな政策を組み合わせて貧困削減を達成すべきだ」と語った。
現状では失業者向けの住宅政策は国土交通省、低所得世帯の子どもの学習支援は文部科学省などと、省庁ごとに対策が分かれている。湯浅氏は「省庁を横断して貧困対策に取り組むべきだ」との考えを、自身がメンバーとなる政府の国家戦略室で訴えていく構えだ。
091019『京都新聞』朝刊:3
*作成:岡田清鷹