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渡辺克典「書評 社会の歴史(ポール・ピアソン著,粕谷祐子監訳『ポリティクス・イン・タイム』勁草書房2010)」
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書評しょひょう 社会しゃかい歴史れきし(ポール・ピアソンちょ粕谷あらや祐子ゆうこ監訳かんやく『ポリティクス・イン・タイム』勁草書房しょぼう2010)」


渡辺わたなべ 克典かつのり 2010/09/25
名古屋大学なごやだいがく社会しゃかい学会がっかい 会報かいほうだい11ごう, 28p. pp. 18-20


  歴史れきし社会しゃかいがく社会しゃかいがく一大いちだいトピックでありつづけている。社会しゃかい理解りかいするうえで歴史れきしをどのように位置いちづけるかという問題もんだいは、ヴェーバー社会しゃかいがくいでもあった(小路こうじ[2009],折原おりはら[2010])。また、『社会しゃかいがく評論ひょうろん』と『ソシオロジ』の掲載けいさい論文ろんぶんにおける方法ほうほうろん比率ひりつ年次ねんじ比較ひかくした太郎丸たろうまるはくらの研究けんきゅうによれば、歴史れきし社会しゃかいがくは1960年代ねんだいから70年代ねんだいいちざかがったものの、計量けいりょう分析ぶんせきわるかたちで1980年代ねんだい以降いこうに「再度さいどもちいられるようになってきた方法ほうほうである(太郎丸たろうまる[2009])。歴史れきし社会しゃかいがくはいまだフロンティアでありつづけている(cf.筒井つついへん[1994:1])。
  さて、このような状況じょうきょうなかで、ピアソン『ポリティクス・イン・タイム』が翻訳ほんやくされた。このほんは「ポリティカル・サイエンス・クラシック」という政治せいじがくのシリーズの1さつであり、本来ほんらい政治せいじがくにおける方法ほうほうろんをめぐる議論ぎろんなかでとらえる必要ひつようがある。だが、本稿ほんこうではそれらの議論ぎろん横目よこめれながら、社会しゃかいがくへの視座しざについてかんがえてみたい。
  まずは、対象たいしょうしょ概要がいようについてまとめよう。ピアソンは日本語にほんごばんへの序文じょぶんで「ほとんどの社会しゃかい科学かがくしゃ歴史れきし無視むししているか、あるいは、どのようにすれば歴史れきし効果こうかてき研究けんきゅうめるかということに明確めいかく説得せっとくりょくのあるかんがえをもってない」(iiiぺーじ)としるす。歴史れきし社会しゃかいがく隆盛りゅうせい時代じだいきるわたしたちからると、このような立場たちばには疑問ぎもんしょうじるかもしれない。この疑問ぎもんこたえるためには、ピアソンが「だつ文脈ぶんみゃく革命かくめい」(222ぺーじ)とよぶ事態じたいとの対峙たいじ執筆しっぴつ動機どうきとなっていることをまえるべきだろう。本書ほんしょは、政治せいじがくにおけるゲーム理論りろん機能きのう主義しゅぎへの批判ひはん出発しゅっぱつてんとなっている。本書ほんしょはこの出発しゅっぱつてん念頭ねんとうにおいてみすすめていく必要ひつようがある。
  さて、本書ほんしょ序章じょしょうのあとに5しょうての論考ろんこうつづき、終章しゅうしょうによってじられる。だい1しょうでは、これまで曖昧あいまい概念がいねんとしてももちいられてきた「経路けいろ依存いぞん」を制度せいど発展はってんにおける自己じこ強化きょうか(ポジティヴ・フィードバック)過程かていとして位置いちづけている。つづくだい2しょうでは、歴史れきし研究けんきゅうにおけるタイミングと結合けつごうのシーケンス(時間じかんてき順序じゅんじょ、「配列はいれつ」とやくされている)について検討けんとうしている。前章ぜんしょうとの関係かんけいでいえば、シーケンスは次第しだい閉鎖へいさてき強制きょうせいてきになる制度せいど自己じこ強化きょうか関連かんれんしている。だい3しょうでは、経済けいざいがく政治せいじがくにおける短期たんきてき原因げんいん結果けっか図式ずしき批判ひはんし、累積るいせきてきで閾値効果こうかをもつような長期ちょうき持続じぞくてき過程かていへの着目ちゃくもく必要ひつようせい主張しゅちょうする。だい4しょうでは、制度せいど設計せっけいにおいて合理ごうりてき戦略せんりゃくてきなアクターを想定そうていする機能きのう主義しゅぎへの批判ひはんにもとづき、学習がくしゅう競争きょうそうのメカニズムを導入どうにゅうすることが提案ていあんされている。最後さいごに、だい5しょうでは長期ちょうきてき制度せいど変化へんかについて、アクターの調整ちょうせい制度せいど修正しゅうせい拒否きょひ経路けいろにおける費用ひよう便益べんえきとの関係かんけいから整理せいりされ、制度せいど発展はってん研究けんきゅう課題かだい提示ていじされている。
  本書ほんしょ特徴とくちょうつぎの2てんにある。だい1に、ピアソンはゲーム理論りろん機能きのう主義しゅぎ限界げんかい捕捉ほそくしつつ、それをおぎなうかたちで歴史れきし時間じかん)の問題もんだいろんじていく。このため、本書ほんしょむことで両者りょうしゃ相違そうい相補そうほ関係かんけい理解りかいできる、いわば「一粒ひとつぶおいしい」構成こうせいとなっている(もちろん、ゲーム理論りろん機能きのう主義しゅぎ批判ひはん対象たいしょうとしてげられているため、その評価ひょうかについては注意ちゅうい必要ひつようである)。だい2に、本書ほんしょ政治せいじがくにおける歴史れきし時間じかん)をめぐる議論ぎろん中心ちゅうしんとしているが、その射程しゃていひろく、社会しゃかい科学かがくとの関係かんけいについてもろんじられている。たとえば、だい1しょうでは、経済けいざいがくにおける市場いちば比較ひかくし、政治せいじがく分析ぶんせき対象たいしょうとするアクターの柔軟じゅうなんせい流動りゅうどうせいについて指摘してきしている。そして、当然とうぜんのことながら、歴史れきし社会しゃかいがくとの関係かんけいにもぺーじいている(cf.107ぺーじ、144ぺーじ)。こういった「社会しゃかい」をめぐるしょ科学かがくのなかに方法ほうほうろん位置いちづけるというこころみは、歴史れきし社会しゃかいがくじこもりがちな研究けんきゅう姿勢しせいたいする自省じせいをうながしてくれる。
  また、政治せいじがくからまなぶだけではなく、社会しゃかいがくとの接合せつごうについてもかんがえなくてはならない。このてんについては、評者ひょうしゃ現在げんざい研究けんきゅう関心かんしんからつぎの2つについて指摘してきしておきたい。だい1に、ハッキングがべるループ効果こうか経路けいろ依存いぞん問題もんだいがある。従来じゅうらい、「社会しゃかいてき構築こうちく主義しゅぎ」とよばれる立場たちばから歴史れきしげるさいには、歴史れきしてき現象げんしょう客観きゃっかんせいへの批判ひはんと、それにたいする構築こうちく過程かていという側面そくめんからげられることがおおかった(cf.上野うえの[1999:12])。それにたいしてハッキングは、社会しゃかいてき構築こうちく知識ちしき概念がいねんとそれにたいするひとびとにたいする相互そうご作用さようであるループ効果こうかとして位置いちづけた(ハッキング[1999=2006])。ハッキングのこのアイディアは、社会しゃかいを<記述きじゅつ>する課題かだいむ「概念がいねん分析ぶんせき」として結実けつじつしつつある(酒井さかい[2009])。このようなループ効果こうか制度せいどにおける経路けいろ依存いぞん関係かんけいは、歴史れきしなか変化へんかしつづけるという特徴とくちょうをもつ「社会しゃかい記述きじゅつ」にたいして、社会しゃかい問題もんだいをまなざしつつ、それへの対策たいさくとして制度せいどされる社会しゃかい政策せいさくへの経路けいろについてもひとつの視座しざあたえるとおもわれる。
  だい2に、だい2しょうにおける限定げんていされた社会しゃかいてきアクターが形成けいせいする「政治せいじ空間くうかん」と資源しげんの「社会しゃかいてき容量ようりょう」という視点してん(92ぺーじ)や、だい4しょう中心ちゅうしんろんじられる制度せいど可塑かそせいにもとづく競争きょうそう学習がくしゅうをめぐる議論ぎろんは、ブルデューが資本しほんとハビトゥスによって形式けいしきした「さかい(champ)」概念がいねんとの接続せつぞく可能かのうであるかもしれない。ブルデューへの回路かいろについては、クロスリーによる社会しゃかい運動うんどう研究けんきゅうみちびきのいととなるだろう(クロスリー[2002=2009])。ここでは、社会しゃかい運動うんどう社会しゃかい問題もんだい告発こくはつ社会しゃかい政策せいさくへの参画さんかくへの媒介ばいかいこう制度せいど変化へんかにな)として位置いちづけられることになる(cf.武川たけかわ[2009:68-70])。
  歴史れきし社会しゃかいがくこころざものは、資料しりょうい/記述きじゅつし/分析ぶんせきすることにこそ意義いぎいだす。だが、その研究けんきゅうなかで、現代げんだいの<社会しゃかい>をかんがえるうえでどのような位置いちづけにあるのか、という逡巡しゅんじゅんかんでしまうこともあるだろう。このようなときに、本書ほんしょ研究けんきゅう位置いち確認かくにんするための地図ちずのひとつとなってくれる。本書ほんしょ翻訳ほんやくよろこびたい。

対象たいしょう文献ぶんけん

Pierson, Paul, 2004, Politics in Time: History, Institutions, and Social Analysis, Princeton University Press.(=2010,粕谷あらや祐子ゆうこ監訳かんやく今井いまいしんやく『ポリティクス・イン・タイム――歴史れきし制度せいど社会しゃかい分析ぶんせき勁草書房しょぼう.)

関連かんれん文献ぶんけん

Crossley, Nick, 2002, Making Sense of Social Movements, Open University Press.(=2009,西原にしはら和久かずひさかくはじめ煥・阿部あべ純一郎じゅんいちろうやく社会しゃかい運動うんどうとはなにか――理論りろん源流げんりゅうからはんグローバリズム運動うんどうまで』新泉しんいずみしゃ.)
Hacking, Ian, 1999, The Social Construction of What?, Harvard University Press.(=2006,出口いでぐち康夫やすお久米くめあきらやくなに社会しゃかいてき構成こうせいされるのか』しょうやく),岩波書店いわなみしょてん.)
小路こうじたいじき著者ちょしゃ代表だいひょう)・折原おりはらひろしみずはやしぴょうすずめ幸隆ゆきたか松井まつい克浩かつひろ小関おぜき素明そめい,2009,比較ひかく歴史れきし社会しゃかいがくへのいざない――マックス・ヴェーバーを交流こうりゅうてんとして』勁草書房しょぼう
酒井さかい泰斗たいと浦野うらのしげる前田まえだ泰樹やすき中村なかむら和生かずおへん,2009,概念がいねん分析ぶんせき社会しゃかいがく――社会しゃかいてき経験けいけん人間にんげん科学かがくナカニシヤ出版しゅっぱん
折原おりはらひろし,2010,『マックス・ヴェーバーとアジア――比較ひかく歴史れきし社会しゃかいがく序説じょせつ平凡社へいぼんしゃ
武川たけかわ正吾しょうご,2009,社会しゃかい政策せいさく社会しゃかいがく――ネオリベラリズムの彼方かなたへ』あずましんどう
太郎丸たろうまるはく阪口さかぐち祐介ゆうすけ宮田みやた尚子しょうこ,2009,「ソシオロジと社会しゃかいがく評論ひょうろん社会しゃかいがく方法ほうほうのトレンド1952-2008」だい82かい日本にっぽん社会しゃかい学会がっかい大会たいかい.(http://tarohmaru.web.fc2.com/documents/journal.pdf
筒井つついきよしちゅうへん,1994,歴史れきし社会しゃかいがくのフロンティア』人文書院じんぶんしょいん
上野うえの千鶴子ちづこ,1998,『ナショナリズムとジェンダー』青土おうづちしゃ



UP:20110411 
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