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安田真之「障害のある大学院生へのスカイプを用いた遠隔受講支援」
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障害しょうがいのある大学院生だいがくいんせいへのスカイプをもちいた遠隔えんかく受講じゅこう支援しえん

安田やすだ 真之まさゆき 20100918 日本にっぽん教育きょういくこう学会がっかいだい26かい全国ぜんこく大会たいかい発表はっぴょう原稿げんこう 於:金城学院大学きんじょうがくいんだいがく
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last update:20100920

以下いか筆者ひっしゃから講演こうえんろん文集ぶんしゅう掲載けいさいよう大会たいかい事務じむきょくおくったものです。引用いんようとうをされるさいかなら原典げんてん講演こうえんろん文集ぶんしゅうpp.401-402)にたってください。

<あらまし> 近年きんねん高等こうとう教育きょういく機関きかんにおいてICTを活用かつようした障害しょうがい学生がくせい支援しえんみがられるようになってきたが、それらのおおくは教室きょうしつ授業じゅぎょう時間じかんまなぶことを支援しえんするものであり、通学つうがく困難こんなん障害しょうがい学生がくせいへの支援しえんについてはいま十分じゅうぶんまれていない。ほん報告ほうこくでは、大学院だいがくいんにおけるスカイプをもちいた遠隔えんかく受講じゅこう支援しえんこころみをとおして、障害しょうがい学生がくせい支援しえんとしての遠隔えんかく受講じゅこう支援しえん課題かだい整理せいりし、今後こんごみについて提言ていげんする。

<キーワード> 高等こうとう教育きょういく障害しょうがい学生がくせい支援しえん在宅ざいたく受講じゅこう遠隔えんかく受講じゅこう、スカイプ

1.はじめに

 近年きんねん高等こうとう教育きょういく機関きかんまな障害しょうがいのある学生がくせいへの支援しえん以下いか障害しょうがい学生がくせい支援しえん)において、パソコンテイク、音声おんせい自動じどう認識にんしきもちいた情報じょうほう保障ほしょうとう、ICTを活用かつようしたみがおおられるようになってきた。しかし、それらのみのおおくは大学だいがく教室きょうしつというにおいて授業じゅぎょう時間じかんまなぶことを支援しえんするものである。そのため、授業じゅぎょうわせて通学つうがくすることに困難こんなんのある障害しょうがい学生がくせいへの支援しえんについては、実践じっせんにおいても研究けんきゅうにおいても十分じゅうぶんまれていないのが現状げんじょうである。
ほん報告ほうこくでは、大学院だいがくいんにおけるスカイプ(Skype)をもちいた遠隔えんかく受講じゅこう支援しえん試行しこうてき実施じっしとおして、障害しょうがい学生がくせい支援しえんとしての遠隔えんかく受講じゅこう支援しえんのありかたについて検討けんとうし、課題かだい整理せいりするとともに、今後こんごみについて提言ていげんする。

2.経緯けいい

 2010ねんがつ立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう以下いか先端せんたんけん)は、一人ひとり障害しょうがいのある院生いんせいむかえた。当該とうがい院生いんせいには四肢しし麻痺まひ視覚しかく障害しょうがいがあり、生活せいかつにはつね介助かいじょしゃ必要ひつようであった。また言語げんごでの発信はっしん困難こんなんであることから、当該とうがい院生いんせい独自どくじのコミュニケーション方法ほうほう対応たいおうできる介助かいじょしゃ通訳つうやくしゃ)を常時じょうじ必要ひつようとしていた(かんてんばたけ川口かわぐち2009)。東京とうきょう在住ざいじゅう当該とうがい院生いんせい授業じゅぎょうわせて京都きょうと立命館大学りつめいかんだいがくかようことには、当該とうがい院生いんせい心身しんしんへの負担ふたん複数ふくすう介助かいじょしゃとともに長距離ちょうきょり移動いどうするのにようする交通こうつう負担ふたんとうめんおおくの困難こんなんがあった。そこで先端せんたんけんでは、前期ぜんき開講かいこうされた講義こうぎ科目かもく公共こうきょうろん」において、インターネットを活用かつようして教室きょうしつ当該とうがい院生いんせい以下いか遠隔えんかく受講じゅこうしゃ相互そうごのやりりを可能かのうにすることにより、遠隔えんかく受講じゅこうしゃ在宅ざいたく状態じょうたい授業じゅぎょう受講じゅこう以下いか遠隔えんかく受講じゅこう)できるように支援しえんするこころみをおこなうこととなった。
 前述ぜんじゅつ目的もくてき達成たっせいしうるソフトウェアやサービスは多数たすう存在そんざいするが、当該とうがい遠隔えんかく受講じゅこうしゃ日常にちじょうてきにスカイプを利用りようしていたことから、ほんみにおいてはスカイプのビデオ通話つうわ機能きのうもちいることとした。また、おなじくスカイプを日常にちじょうてき利用りようしている報告ほうこくしゃが、教室きょうしつがわ機材きざい調整ちょうせいその必要ひつよう補助ほじょおこなうアシスタントをつとめることとなった。

3.みの内容ないよう

 当初とうしょはノートパソコンに内蔵ないぞうされているマイクで教員きょういんこえしゅうおんし、おなじく内蔵ないぞうのwebカメラで教員きょういん表情ひょうじょう撮影さつえいしていた。また内蔵ないぞうのマイクやwebカメラはしゅうおん撮影さつえい範囲はんいかぎられるため、質疑しつぎ応答おうとうとうでパソコンからはなれた場所ばしょでの発言はつげんがあるさいはアシスタントが復唱ふくしょうしていた。しかし、復唱ふくしょうこえになる、教室きょうしつ受講じゅこうせいせいこえ表情ひょうじょうつたえてほしいといったこえ教室きょうしつがわ受講じゅこうしゃ遠隔えんかく受講じゅこうしゃ双方そうほうからがった。
 そこで、ワイヤレスマイクおよびUSB接続せつぞくタイプのwebカメラを導入どうにゅうした。これにより、パソコンからはなれた位置いち発言はつげんがある場合ばあい発言はつげんしゃ肉声にくせいしゅうおんできるようになり、またカメラのアングルを自由じゆう調整ちょうせいできるようになったことから、当初とうしょくらべて質疑しつぎ応答おうとうとうへの対応たいおう容易よういになった。さらに、ワイヤレスマイクをまわすことで教室きょうしつにいる教員きょういん受講じゅこうしゃ遠隔えんかく受講じゅこうしゃ参加さんかをより意識いしきするようになった。発言はつげんまえ名乗なのる、固有名詞こゆうめいしをはっきりゆっくり発音はつおんするといった授業じゅぎょうちゅう配慮はいりょのみならず、授業じゅぎょう合間あいまやす時間じかん教室きょうしつ受講じゅこうしゃ遠隔えんかく受講じゅこうしゃ談笑だんしょうする場面ばめんられるようになった。
 一方いっぽう遠隔えんかく受講じゅこうしゃ教員きょういんはなし途中とちゅう質問しつもんをする場合ばあい音声おんせい映像えいぞうのみでは質問しつもんのタイミングがつかみにくく、アシスタントにたいして「こん質問しつもんしてもいいタイミングですか?」とチャットで質問しつもんする場面ばめんがあった。同様どうように、「今日きょう教室きょうしつ何人なんにんぐらいいるのですか?」といった、教室きょうしつにいなければからないその様子ようすかんする質問しつもんもあった。そうしたなかでアシスタントは、遠隔えんかく受講じゅこうしゃ教室きょうしつ受講じゅこうせいとともに授業じゅぎょうけているような臨場りんじょうかんのある中継ちゅうけいおこなうことの重要じゅうようせい認識にんしきし、教員きょういん講和こうわ合間あいま適宜てきぎ発言はつげん意思いし確認かくにんしたり、教室きょうしつのなかの雰囲気ふんいきつたえたりするようになった。
 教室きょうしつ雰囲気ふんいき把握はあく困難こんなんといった遠隔えんかく受講じゅこうじょう課題かだいについて、ほんみではアシスタントが積極せっきょくてき介入かいにゅうすることでそれらの解決かいけつはかった。他方たほう遠隔えんかく受講じゅこうしゃ参加さんか念頭ねんとういた授業じゅぎょうすすかた教員きょういんとアシスタントの関係かんけいせい役割やくわり分担ぶんたんとうについては、十分じゅうぶん検討けんとうすることができなかった。

4.考察こうさつ

 遠隔えんかく受講じゅこうしゃ授業じゅぎょう参加さんか確立かくりつするには、教室きょうしつから一方いっぽうてき授業じゅぎょう様子ようす配信はいしんするのではなく、個々ここ遠隔えんかく受講じゅこうしゃ状況じょうきょうおうじて、また場面ばめんおうじて教室きょうしつとのあいだ相互そうごのやりりをおこなうことがきわめて重要じゅうようであることが、ほんみの実施じっしとおしてあきらかになった。とりわけ障害しょうがい学生がくせい支援しえんとしての遠隔えんかく受講じゅこう支援しえんにおいては、遠隔えんかく受講じゅこうしゃ個々ここ状況じょうきょうおうじた支援しえん方法ほうほう検討けんとうすることが不可欠ふかけつである。その根拠こんきょとして、以下いかの2てんげることができる。
 だいいちに、遠隔えんかく受講じゅこうしゃ使つかうことのできる、あるいは使つかれているソフトウェアやサービスは個々ここによってことなる。今回こんかいみではスカイプをもちいたが、とりわけ障害しょうがいのある遠隔えんかく受講じゅこうしゃは、ソフトウェアのアクセシビリティとうによって利用りようできるソフトウェアが様々さまざまことなる。したがって、大学だいがくがわ特定とくていのソフトウェアやサービスを指定していし、遠隔えんかく受講じゅこう支援しえんえに遠隔えんかく受講じゅこうしゃにそれへの対応たいおうもとめることは合理ごうりてきではないし、遠隔えんかく授業じゅぎょうでのまなびを阻害そがいすることにもつながりかねない。
 だいに、遠隔えんかく受講じゅこうしゃ受講じゅこうじょう必要ひつようとする支援しえん内容ないよう個々ここによってことなる。たとえば視覚しかく障害しょうがいのある遠隔えんかく受講じゅこうしゃ場合ばあいは、映像えいぞう依存いぞんせず、音声おんせい文字もじ中心ちゅうしんにしたやりりをおこなとう対応たいおうかんがえられるし、聴覚ちょうかく障害しょうがいのある遠隔えんかく受講じゅこうしゃ場合ばあいは、音声おんせい依存いぞんせず、手話しゅわ文字もじもちいてやりりするひとし対応たいおうかんがえられる。よって、利用りようするソフトウェアやサービスにかかわらず、遠隔えんかく受講じゅこう支援しえんにおいては遠隔えんかく受講じゅこうしゃ支援しえんニーズにおうじた個別こべつ対応たいおうもとめられる。

5.今後こんごけて

 ほんみは、長距離ちょうきょり通学つうがくおこなうことが困難こんなん障害しょうがいのある院生いんせい入学にゅうがくしたことを試行しこうてき実施じっししたものである。今後こんご遠隔えんかく受講じゅこう支援しえん必要ひつようとする院生いんせい継続けいぞくてき入学にゅうがくしてくるとはかぎらない。しかし、大学だいがくにおいてこういったみをいつでも実施じっしすることのできる体制たいせい整備せいびすることは必要ひつようであろう。そうでなければ、「授業じゅぎょう時間じかん」にわせて「大学だいがく教室きょうしつ」にかよってまなぶということに困難こんなんのあるおおくの障害しょうがいしゃは、就学しゅうがくの「」と「ところ」を制約せいやくする規範きはんによって高等こうとう教育きょういくから排除はいじょされつづけることとなるであろう。遠隔えんかく受講じゅこう支援しえんは、そういったおおくの障害しょうがいしゃ授業じゅぎょう研究けんきゅう活動かつどう参加さんかあらたなスタイルを創出そうしゅつしうるものである。これらを、ほんみの成果せいかとして、課題かだいとして提示ていじしたい。

参考さんこう文献ぶんけん

かんほしみんてんはたけ大輔だいすけ川口かわぐち有美子ゆみこ, 2009, 「情報じょうほうコミュニケーションと障害しょうがい分類ぶんるい障害しょうがい学会がっかいだい6かい大会たいかい報告ほうこく原稿げんこう. (http://www.arsvi.com/2000/0909hs2.htm)


作成さくせい安田やすだ 真之まさゆき
UP: 20100920 REV:
全文ぜんぶん掲載けいさい  ◇障害しょうがい学生がくせい支援しえん障害しょうがいしゃ高等こうとう教育きょういく大学だいがく  ◇ことなる身体しんたいのもとでの交信こうしん――情報じょうほう・コミュニケーションと障害しょうがいしゃ  ◇オンライン交信こうしんじゅつ  ◇障害しょうがいがく(Disability Studies) 
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