(Translated by https://www.hiragana.jp/)
松田 亮三「「生存学」創成拠点事業推進担当者より (16)」
「「生存学」創成拠点事業推進担当者より (16)」
松田 亮三 20111123 「
生存学」
創成拠点メールマガジン
第20
号.
last update:20120329
グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点では、事業推進担当者として教
員計17人が活動しています。今回は本学産業社会学部教授、松田亮三のメッ
セージを掲載します。
医療制度の比較研究をしていても、生活者として他国の医療制度と触れる機
会はあまりない。2007年から2008年にかけてのロンドン滞在では、図らずも
そういう機会に「恵まれて」しまった。
イギリスの公的医療は税金による公共サービスとして、利用時の負担は患者
に課せられない。ありがたいことに客員研究員として1年間滞在した筆者とそ
の家族にも、医療サービスを無料で利用する資格が与えられた。
無料というのは文字通り無料である。筆者が神経痛で診療所にかかった時も、
息子が骨折で病院に運び込まれた時も、まったく支払いはなかった。それどこ
ろか、病院には、少なくとも目立つところに会計などなかったのである。利用
時の患者負担がないということは、請求業務がないことでもあった。もっと
も、薬局で処方薬を受け取る時には若干の定額負担があったが、さほど高いも
のではなかった。
無料で医療を受けられるのは、もちろん結構なことであり、当時物価と為替の
両面でロンドンの生活費に悩まされていた私にすれば、費用負担を心配しない
で受診できることはありがたかった。けれども、診察後何も支払わず病院や診
療所を離れる時には、どうも落ち着かない気持ちになった。
日本では医療機関を利用したらその場でいくらかの金銭を支払わねばならず、
時にそれは外来診療といえどもかなりの金額となることがある。診察が終わっ
たら、会計に身構える、というようなところがある。それがなかった。あるべ
きものがない、という感覚があった。そうしたモヤモヤした感じが、私の中で
の日本医療の「常識」と英国医療の「常識」との体感的出会いであった。
◇松田 亮三(まつだ・りょうぞう)。
本学産業社会学部教授。専門は医療社
会学・比較医療政策。『健康と医療の公平に挑む』(編著、2009年)、『医療
制度の国際比較』(共著、2007年)、『わかりやすい医療経済学』(編著、
1997年)ほか。
◇関連リンク
・個人のページ(本拠点内)
http://www.arsvi.com/w/mr02.htm
・拠点事業推進担当者の一覧
http://www.arsvi.com/a/s.htm
*作成:小川 浩史