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村上慎司「生存と協働を支える所得保障試論」
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生存せいぞんきょうはたらけささえる所得しょとく保障ほしょう試論しろん

村上むらかみ まきつかさ 20140331 大谷おおや とおるだか村上むらかみ まきつかさ へん 生存せいぞんをめぐる規範きはん――オルタナティブな秩序ちつじょ関係かんけいせい生成せいせいけて』生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター報告ほうこく21,pp.216-238.

last update: 20140713


だいさん きょうはたらけ経済けいざい


生存せいぞんきょうはたらけささえる所得しょとく保障ほしょう試論しろん


村上むらかみまきつかさ

1 はじめに

 人々ひとびと生存せいぞんと「きょうはたらけ(cooperation)」を実現じつげんするためには,おおくの複雑ふくざつ要因よういんとその連関れんかん分析ぶんせきすることが不可欠ふかけつである.かかる作業さぎょう土台どだいとして,本稿ほんこう所得しょとく保障ほしょう専念せんねんした検討けんとうおこなう.現在げんざい日本にっぽん社会しゃかいはこれまでに想定そうていされていた雇用こよう社会しゃかい保障ほしょうからなる生活せいかつ保障ほしょう制度せいど機能きのう不全ふぜんおちいっている.そんななかで,雇用こようつうじて稼得される所得しょとく社会しゃかい保障ほしょうによる所得しょとく保障ほしょうとの関連かんれんせいが,重要じゅうよう論点ろんてんとしてわれている(宮本みやもと 2009 とう).また,社会しゃかい疫学えきがく分野ぶんやでは,所得しょとく格差かくさ拡大かくだいすると不健康ふけんこうえるという相対そうたいてき所得しょとく仮説かせつについての実証じっしょう研究けんきゅう蓄積ちくせきされ(Kawachi and Kennedy and Wilkinson eds 1999 とう),所得しょとく保障ほしょう健康けんこう社会しゃかいてき決定けってい要因よういんとして注目ちゅうもくあつめている.生存せいぞんきょうはたらけささえる所得しょとく保障ほしょう可能かのうせい限界げんかい論考ろんこうすることは,日本にっぽん直面ちょくめんする生活せいかつ保障ほしょう機能きのう不全ふぜんへの解決かいけつけた貢献こうけんをなしうるものであり,社会しゃかいてき意義いぎがあるとかんがえられる.
 おおくの所得しょとく保障ほしょうなかでも,本稿ほんこうベーシック・インカム(Basic Income,以下いかBI)とその変種へんしゅとしてみなすことができる給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ注目ちゅうもくする.BI世界せかいネットワーク(Basic Income Earth Network)によるBIの定義ていぎとは,すべてのひとたいして個人こじん単位たんいもとづき資力しりょく調査ちょうさ就労しゅうろう要件ようけんなしに無条件むじょうけん給付きゅうふされる所得しょとくである1).この定義ていぎでは,BIは無条件むじょうけんうたっているが、シティズンシップや社会しゃかい成員せいいんなどの条件じょうけんすこともありうる(Van Parijs 1995=2009)。
 BIは様々さまざま意図いとからろんじられている.たとえば,市場いちば重視じゅうしする論者ろんしゃは,市場いちば活性かっせい社会しゃかい保障ほしょう制度せいど効率こうりつてき運用うんよう目指めざすためにBIを主張しゅちょうする.反対はんたいに,分厚ぶあつさい分配ぶんぱい要求ようきゅうする論者ろんしゃは,BIの導入どうにゅうによって,既存きそん社会しゃかい保障ほしょう制度せいど機能きのう不全ふぜん解決かいけつし,生存せいぞんけん保障ほしょうされると主張しゅちょうする.
 本稿ほんこうはBIの特徴とくちょうとして,無条件むじょうけんせいではなく,より普遍ふへん主義しゅぎてき志向しこうせいゆうするてん簡潔かんけつ所得しょとく保障ほしょうというてん着目ちゃくもくし,市場いちばで稼得した所得しょとく生活せいかつ保護ほごといった選別せんべつ主義しゅぎてき社会しゃかい保障ほしょうとはことなるオルタナティブな所得しょとく保障ほしょう可能かのうせい探究たんきゅうする.具体ぐたいてき本稿ほんこう想定そうていするBIのかんがかたとは,国籍こくせきとうのシティズンシップを条件じょうけんとして,徴税ちょうぜい機構きこうそなえた政府せいふによる,当該とうがい社会しゃかいかく個人こじんへの一律いちりつのBIならびにニーズによって調整ちょうせいされた所得しょとく保障ほしょう現物げんぶつ給付きゅうふからなる分配ぶんぱいつうじて,人々ひとびと金額きんがくとうによって測定そくていされるあるしゅのベースライン(ディーセントな生活せいかつ水準すいじゅん)をえた水準すいじゅん実質じっしつてき自由じゆう福祉ふくし享受きょうじゅするべきである,というものである.
 こうしたBIを実現じつげんさせていくさい直面ちょくめんするおおくのハードルのなかで,財源ざいげん問題もんだいはひとさいたかいものとしてある.のちくわしくべるように本稿ほんこう給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ検討けんとうする理由りゆうひとつにはBIよりも安価あんか実現じつげんできるてんがある.このBIの財源ざいげん調達ちょうたつについては様々さまざまかんがかた存在そんざいする.たとえば,所得しょとくぜい消費しょうひぜい法人ほうじんぜい相続そうぞくぜい環境かんきょうぜい公共こうきょう通貨つうか,そして,これらの任意にんいわせなどがかんがえられる.
 BIの財源ざいげん調達ちょうたつについて,日本にっぽん学術がくじゅつ領域りょういきでは所得しょとくぜいによるBIの財源ざいげんろんおお2)以下いかでは,その嚆矢こうしである小沢おざわ(2002)のBI財源ざいげん試算しさんかんがかた確認かくにんしよう.それは,だいいちに,生活せいかつ保護ほご生活せいかつ扶助ふじょがく参考さんこうにして,支給しきゅうされる一人ひとりあたりのBIの月額げつがくを80,000えんとラフに設定せっていし,だいに,日本にっぽん国民こくみん全員ぜんいん一律いちりつ月額げつがく80,000えんのBIを支給しきゅうした場合ばあい年間ねんかんBI総額そうがく算出さんしゅつする.だいさんに,ここが小沢おざわ(2002)の特色とくしょくであるが,年間ねんかんBI総額そうがく財源ざいげんは,所得しょとく控除こうじょ廃止はいしした単一たんいつ比例ひれい所得しょとくぜいによって調達ちょうたつする.その比例ひれい税率ぜいりつは,年間ねんかんBI総額そうがく財務省ざいむしょう統計とうけい参照さんしょうした給与きゅうよ総額そうがくから計算けいさんして当時とうじ統計とうけいデータでやく50%となる.のちに,給与きゅうよ総額そうがくではなく給与きゅうよ所得しょとく総額そうがくへの課税かぜい修正しゅうせいした小沢おざわ(2008)は,一人ひとりたり月額げつがく80,000えんで45%の単一たんいつ比例ひれい所得しょとくぜいによって,財源ざいげん調達ちょうたつができる試算しさんろんじている.
 この小沢おざわ(2002)のBI財源ざいげん試算しさんかんがかたは,後続こうぞく研究けんきゅうたいしておおきな影響えいきょうあたえた.たとえば,山本やまもと(2006)は,小沢おざわ(2002)のBI財源ざいげん試算しさんのモデルにもとづき「所得しょとくさい分配ぶんぱい調査ちょうさ平成へいせい14年版ねんばん」のひょうもちいて,ジニ係数けいすう観点かんてんからBI導入どうにゅうさい分配ぶんぱい効果こうかあきらかにした.そこでは,18さい以下いかどもそう,19さい以上いじょう65さい未満みまん青年せいねん中年ちゅうねんそう,65さい以上いじょう高齢こうれいそうというみっつの年齢ねんれいグループからなる年齢ねんれいべつBI,さらに,世帯せたい単位たんいBIの可能かのうせい検討けんとうされている.
 原田はらだ(2010)は,年齢ねんれいべつBIのかんがかた採用さいようして,支給しきゅう対象たいしょうしゃを20さいから64さい日本にっぽん国民こくみん限定げんていし,支給しきゅうBI月額げつがくを7まんえん年間ねんかん総額そうがくを63ちょうえん計上けいじょうしている.その財源ざいげんは,内閣ないかく国民こくみん経済けいざい計算けいさん」の2008ねん雇用こようしゃ所得しょとく262ちょうえんへの3わり比例ひれい課税かぜいである79ちょうえんによって,調達ちょうたつする.この79ちょうえんさきほどのBI年間ねんかん総額そうがく63ちょうえん差額さがくは16ちょうえんである.このことは現行げんこう所得しょとく税収ぜいしゅうとほぼおな規模きぼ予算よさん執行しっこう可能かのうであることをしめしている.
 飯田いいだ(2011)は,単身たんしん世帯せたいでは月額げつがく80,000えんでそれ以外いがい世帯せたいでは等価とうかとなる調整ちょうせいされた金額きんがく支給しきゅうするという世帯せたい単位たんいBIを検討けんとうしている.このかんがかたは,生活せいかつ水準すいじゅん比較ひかくさいにしばしば利用りようされる等価とうか所得しょとく概念がいねん着想ちゃくそうたものである.等価とうか所得しょとくとは,世帯せたい所得しょとく世帯せたい人数にんずう平方根へいほうこんじょし,世帯せたいにおける規模きぼ利益りえき調整ちょうせいしようとするものである.たとえば,二人ふたりからなる世帯せたいでは,80,000えんに √2のげである1.5をかけた12まんえん支給しきゅう月額げつがくとなる.この世帯せたいBIにようされる日本にっぽん年間ねんかん総額そうがくは72ちょう6,652おくえんである.その財源ざいげんは,以下いかのようにかんがえる.まず,平成へいせい21年度ねんど概算がいさんで9ちょうえん基礎きそ年金ねんきん支給しきゅう国家こっか負担ふたん,2.2ちょうえんども手当てあて予算よさん生活せいかつ保護ほご一部いちぶ予算よさん2ちょうえんは,BI導入どうにゅうによって不要ふようになり,この合計ごうけいである13.2ちょうえんさきのBI総額そうがくからいたやく59ちょうえん調達ちょうたつ問題もんだいとなる.そこで,つぎに,社会しゃかい保障ほしょう目的もくてきぜいとして10%まで消費しょうひぜい増税ぞうぜいしつつ,インボイス方式ほうしき導入どうにゅうとうにより徴税ちょうぜい効率こうりつはかり,25ちょうえん確保かくほする.さらに,ねん100ちょうえんたっすると見込みこまれる相続そうぞく財産ざいさんたいして,配偶はいぐうしゃ以外いがい控除こうじょ撤廃てっぱいし,一律いちりつ20%課税かぜいすることでやく10ちょうえんることできるという.最後さいごに,のこる24ちょうえん所得しょとく控除こうじょ廃止はいしとうによる所得しょとく課税かぜい強化きょうかによって調達ちょうたつする.なお,飯田いいだ(2011)は,世帯せたい単位たんいBIだけでなく,世帯せたい単位たんいまけ所得しょとくぜい給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ可能かのうせいにも言及げんきゅうしている.
 他方たほうで,経済けいざいがくにおける最適さいてき所得しょとく課税かぜいろんのモデルに立脚りっきゃくしたBI財源ざいげんろんもある.Mirrlees(1971)のモデルを基本きほんとする最適さいてき所得しょとく課税かぜいろんとは,一定いってい税収ぜいしゅう確保かくほするという前提ぜんていのもとで,政府せいふかく個人こじん労働ろうどう能力のうりょくかんする情報じょうほうたないこと,効率こうりつせい衡平こうへいせい価値かち判断はんだんなんらかの基準きじゅんによって反映はんえいさせた社会しゃかいてき厚生こうせい関数かんすう形状けいじょう,といったいくつかの仮定かていもうけて,税率ぜいりつ補助ほじょきん決定けっていろんじる.日本にっぽん社会しゃかいてき文脈ぶんみゃくそくした研究けんきゅうとして,浦川うらかわ(2007) は,最適さいてき課税かぜい所得しょとく理論りろん援用えんようしたAtkinson(1995)のBI/定率ていりつ所得しょとくぜい理論りろんモデルをベースとして20%,30%,40%,50%の税率ぜいりつ労働ろうどう供給きょうきゅう関数かんすうのパラメータをれた精緻せいち議論ぎろん展開てんかいしている.また,なみ塩津しおづ(2011)は,いくつかの仮定かていもうけて15さいから64さい労働ろうどうりょく人口じんこうのぞ扶養ふよう人口じんこうのみに支給しきゅうされる部分ぶぶんBIをろんじている.
 このような議論ぎろん展開てんかいする研究けんきゅうしゃたちは所得しょとく控除こうじょ廃止はいしした比例ひれい所得しょとくぜいによっておも財源ざいげん調達ちょうたつをするべきと主張しゅちょうしている(小沢おざわ 2002 とう).しかしながら,所得しょとく控除こうじょ人々ひとびと世帯せたい構成こうせい障害しょうがいなどの社会しゃかいてきカテゴリーに共通きょうつうする負担ふたん不利ふりせい)を考慮こうりょしたものであり,これらを全廃ぜんぱいすることはたして許容きょようできるのかどうかがわれる.このことは,所得しょとく控除こうじょ代替だいたいとして,現在げんざい日本にっぽん廃止はいしされたども手当てあて復活ふっかつのようななんらかの手当てあての実施じっし検討けんとうすることとかかわる.
 また,ここまでの概観がいかんでわかるように管見かんけんかぎ日本にっぽん先行せんこう研究けんきゅうでは,累進るいしん所得しょとくぜいやその税率ぜいりつ強化きょうかによるBI財源ざいげんろん十分じゅうぶん検討けんとうされていない.海外かいがいでは,たとえば,Murphy and Nagel(2002=2006)は,同書どうしょ書評しょひょうである山森やまもり(2007)がBIにきつけて詳細しょうさい解説かいせつされているように,BIと累進るいしん所得しょとくぜいわせを肯定こうていてきろんじていると解釈かいしゃくすることができるだろう.また,Atkinson(1995)においても十分じゅうぶん分析ぶんせきされていないが,累進るいしん所得しょとくぜい財源ざいげんとするBI構想こうそう可能かのうせい言及げんきゅうしている.日本にっぽん政府せいふは,2015ねんから所得しょとくぜい最高さいこう税率ぜいりつを45%にげることを予定よていしている3).こうしたなかで.財源ざいげんとしての累進るいしん所得しょとくぜい検討けんとうすることは,ますます重要じゅうようになっているとかんがえられる.
 累進るいしん所得しょとくぜい担税たんぜいりょく反映はんえいする利点りてんゆうする.反対はんたいに,累進るいしん所得しょとくぜい欠点けってんとして,労働ろうどうインセンティブへの阻害そがい要因よういん税率ぜいりつ設定せってい複雑ふくざつさが指摘してきできる.本稿ほんこう主題しゅだいひとつは,こうしたBIの財源ざいげんろんについて比例ひれい所得しょとくぜいよりも累進るいしん所得しょとくぜい擁護ようごする議論ぎろん展開てんかいすることである.ここには,富裕ふゆうそう貧困ひんこんそう担税たんぜいりょくかんする本稿ほんこう問題もんだい意識いしき反映はんえいさせている.
 所得しょとくぜいくわえて,本稿ほんこう消費しょうひ増税ぞうぜいによってもBIの財源ざいげん調達ちょうたつする議論ぎろん展開てんかいする.本来ほんらいであれば法人ほうじんぜい相続そうぞくぜいなどのほか財源ざいげんふくんだ日本にっぽん税制ぜいせい全体ぜんたいかんする議論ぎろんのぞましいが,本稿ほんこうではこのような全体ぜんたいてき研究けんきゅう予備よびてき作業さぎょうとして日本にっぽん税制ぜいせいにおいて中心ちゅうしんてき役割やくわりたす所得しょとくぜい消費しょうひぜいふたつに集中しゅうちゅうする.消費しょうひぜいによるBIの財源ざいげんろんはWerner(2006)のように先行せんこう研究けんきゅうがあり,本稿ほんこうもそのような先行せんこう研究けんきゅう知見ちけん側面そくめんがある一方いっぽうで.消費しょうひぜいをBIの財源ざいげんとする本稿ほんこう独自どくじ理由りゆうもある.このことは消費しょうひぜい逆進ぎゃくしんせい緩和かんわさくをめぐる軽減けいげん税率ぜいりつ簡素かんそ給付きゅうふ措置そちという政策せいさく選択せんたくかかわるため,消費しょうひぜい財源ざいげんとする本稿ほんこう理由りゆう説明せつめいするまえ日本にっぽんにおける消費しょうひぜいめぐ動向どうこうについてごく簡単かんたん確認かくにんしよう.
 現在げんざい日本にっぽん政府せいふ消費しょうひぜい社会しゃかい保障ほしょう財源ざいげんとしておおきな期待きたいせている.消費しょうひぜい景気けいきたいして安定あんていてき収入しゅうにゅうをもたらし,かつ所得しょとくぜいとはことなり勤労きんろう世代せだい限定げんていされない幅広はばひろ世代せだいから徴収ちょうしゅうできる利点りてんがある.後者こうしゃについて,こう資産しさん保有ほゆうたか購買こうばいりょく高齢こうれいしゃたいして課税かぜいできることは世代せだいあいだ衡平こうへいせいかんがえる場合ばあい重要じゅうようてんである.しかしながら,かりこう税率ぜいりつ消費しょうひぜい導入どうにゅうされたならば,てい所得しょとくそうへのなんらかの配慮はいりょもとめられる.なぜなら,消費しょうひぜい富裕ふゆうそうよりも貧困ひんこんそうにある時点じてん相対そうたいてきによりおもぜい負担ふたん逆進ぎゃくしんてきであることが懸念けねんされるからである4)実際じっさいに,日本にっぽん政府せいふ現行げんこう税率ぜいりつ5%から2014ねん4がつからの8%への消費しょうひぜい増税ぞうぜいともなって,一時いちじてき負担ふたん緩和かんわのために,てい所得しょとくそうへ10,000えんから15,000えんを「簡素かんそ給付きゅうふ措置そち」として実施じっしすることをめた5).これは,社会しゃかい保障ほしょう安定あんてい財源ざいげん確保かくほとうはか税制ぜいせい抜本ばっぽんてき改革かいかくおこなうための消費しょうひ税法ぜいほう一部いちぶ改正かいせいするひとし法律ほうりつだい7じょうだい1ごうハの規定きていもとづくものであり,そのおも内容ないようは,つぎみっつである.@給付きゅうふ対象たいしょうしゃ市町しちょう村民そんみんぜい均等きんとうわり)が課税かぜいされていないもの(ただし,当該とうがいぜい課税かぜいされているもの扶養ふよう親族しんぞくのぞき,生活せいかつ保護ほご制度せいどない対応たいおうされる保護ほごしゃ対象たいしょうとしない)である.A給付きゅうふがく給付きゅうふ対象たいしょうしゃいちにんにつき,10,000えん(1ねん半分はんぶん6)を1かい手続てつづき支給しきゅう)である.B加算かさんとして,@の給付きゅうふ対象たいしょうしゃのうち,(a)老齢ろうれい基礎きそ年金ねんきん(65さい以上いじょう),障害しょうがい基礎きそ年金ねんきん遺族いぞく基礎きそ年金ねんきん受給じゅきゅうしゃとう,または,(b)児童じどう扶養ふよう手当てあてほうによる児童じどう扶養ふよう手当てあてがくとう改定かいてい特例とくれいかんする法律ほうりつ対象たいしょうとなる手当てあて受給じゅきゅうしゃ該当がいとうするものには,一人ひとりにつき5,000えん上乗うわのせされる.簡素かんそ給付きゅうふ措置そち総額そうがくやく3,000おくえん見込みこんでいるが,その内訳うちわけとして市町しちょう村民そんみんぜい非課税ひかぜいしゃやく2,400まんにんのなかで1,200まんにんきょう加算かさん対象たいしょうとしているという7). 
 このような消費しょうひぜい増税ぞうぜい緩和かんわさくとして,簡素かんそ給付きゅうふ措置そち以外いがいしょ外国がいこく実施じっしされている食料しょくりょうひんなどの生活せいかつ必需ひつじゅひん税率ぜいりつひくおさえる軽減けいげん税率ぜいりつという手法しゅほうもあり,日本にっぽん政府せいふ与党よとう税制ぜいせい協議きょうぎかい生活せいかつ必需ひつじゅひん税率ぜいりつひくおさえる軽減けいげん税率ぜいりつかんする調査ちょうさ委員いいんかい検討けんとうおこない,中間ちゅうかん報告ほうこく刊行かんこうした8).だが,軽減けいげん税率ぜいりつたいして,@どのような品目ひんもく軽減けいげん対象たいしょうになるかどうかをめぐっての恣意しいてき裁量さいりょう,A複数ふくすう税率ぜいりつ導入どうにゅうすることにともなってしょうじる行政ぎょうせい企業きぎょうのコスト増大ぞうだい,Bデンマークのように消費しょうひ段階だんかいてい所得しょとくそう対応たいおうするのではなく社会しゃかい保障ほしょう給付きゅうふ段階だんかい対応たいおうするほうがのぞましいこと,C絶対ぜったいがく観点かんてんからこう所得しょとくそうのほうがよりおおくの便益べんえき享受きょうじゅすること,などの観点かんてんから否定ひていてき見解けんかいもある(もりしん 2007; 八塩やしお長谷川はせがわ 2009; けんたけ 2011; 出口でぐち 2013とう).
 軽減けいげん税率ぜいりつ対比たいひされるあん簡素かんそ給付きゅうふ措置そち側面そくめんをもつ給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょばれるてい所得しょとくそうたいして税額ぜいがく控除こうじょによる減税げんぜい直接的ちょくせつてき現金げんきん給付きゅうふわせたあん積極せっきょくてき検討けんとうされている.給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょとは,ある条件じょうけんをみたしたうえで,課税かぜい最低限さいていげん以下いかてい所得しょとくしゃたいして,税額ぜいがく控除こうじょできない部分ぶぶん現金げんきん給付きゅうふものである.
 ある意味いみでは,消費しょうひぜい逆進ぎゃくしんせい対策たいさくとして簡素かんそ給付きゅうふ措置そち給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょといった個人こじん単位たんい直接的ちょくせつてき現金げんきん給付きゅうふ導入どうにゅうは、BI導入どうにゅうへの素地そじとなりうる可能かのうせいがある。この可能かのうせい追求ついきゅうするものとして、たとえば、中谷なかたに(2008)は、還付かんぷきん消費しょうひぜいによるBIを構想こうそうしている。本稿ほんこう消費しょうひぜい着目ちゃくもくする理由りゆうは,所得しょとくぜいでは徴税ちょうぜいできないたか担税たんぜいりょくのある高齢こうれいそうからの負担ふたん可能かのうになるのと同時どうじに,逆進ぎゃくしんせい対策たいさくにおいてBIやその変種へんしゅわせた議論ぎろん可能かのうとなるからである.
 給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ社会しゃかい保険ほけんりょう負担ふたん緩和かんわ児童じどう税額ぜいがく控除こうじょとういくつかの目的もくてき想定そうていして設計せっけいすることができるが,本稿ほんこうではふたつのタイプに注目ちゅうもくする.だいいちのものは前述ぜんじゅつしたように消費しょうひぜい逆進ぎゃくしんせい緩和かんわがた給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょである.だいのものは勤労きんろう税額ぜいがく控除こうじょである. 
 本稿ほんこう提唱ていしょうされる給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょをより具体ぐたいてきえば,消費しょうひ税率ぜいりつげの緩和かんわさくとして所得しょとくぜい納税のうぜいしゃ相当そうとうする勤労きんろう世代せだい限定げんていした給付きゅうふともな勤労きんろう税額ぜいがく控除こうじょである.給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ利点りてんは,給付きゅうふ対象たいしょう限定げんていすることによって,BIよりも財政ざいせいてき実行じっこう可能かのうせいたかめることができること,そして,本稿ほんこうのように勤労きんろう税額ぜいがく控除こうじょがた場合ばあい就労しゅうろうインセンティブをむことのできることにある.だが,給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょは,無条件むじょうけんかつ普遍ふへん主義しゅぎてき分配ぶんぱい志向しこうするBIの魅力みりょくそこなった部分ぶぶんBIであるという批判ひはんもありうる.
 以上いじょう背景はいけいとする本稿ほんこうだいいち目的もくてきは,BIと給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょについて,累進るいしん所得しょとくぜい消費しょうひぜい税率ぜいりつ変更へんこう反映はんえいしたおおまかな財源ざいげん試算しさんおこなうことである9).この試算しさんにおける消費しょうひ税率ぜいりつ引上ひきあげのかんがかた飯田いいだ(2011)を参考さんこうにしている.そして,本稿ほんこうだい目的もくてきは,その財源ざいげん試算しさんもちいて,累進るいしん所得しょとくぜい擁護ようごし,所得しょとく控除こうじょ廃止はいし是非ぜひ考察こうさつすることである.

2 BIと給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ財源ざいげん試算しさん

  2.1 BIの財源ざいげん試算しさん──基本きほんモデルとその結果けっか
 本稿ほんこうでは所得しょとくぜい累進るいしん強化きょうか消費しょうひ税率ぜいりつたかめて,BIと次節じせつあつか給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ財源ざいげんとする.このとき,どのように税率ぜいりつ構造こうぞうにおける所得しょとく階級かいきゅう区分くぶんし,それぞれの所得しょとく階級かいきゅうごとの累進税るいしんぜいりつたかめるのかにかんする困難こんなんいをろんじなければならない.
 このいにたいして,本稿ほんこう過去かこ日本にっぽん税制ぜいせいにおいて採用さいようされていた累進税るいしんぜいりつ構造こうぞう着目ちゃくもくする.ひょう1は,戦後せんご日本にっぽん実施じっしされたおも累進るいしん所得しょとく税率ぜいりつ変遷へんせんしめしている.
 ただし,過去かこ現在げんざいでは物価ぶっか水準すいじゅんことなるためにおな貨幣かへい尺度しゃくどでもその実質じっしつてき価値かちことなるとかんがえられる.そこで,ひょう2は,総務そうむしょう統計とうけいデータから2010ねん基準きじゅんねんとする消費しょうひしゃ物価ぶっか指数しすう(CPI)をもちいて,ひょう1適用てきようされる課税かぜい所得しょとくかくとし階級かいきゅう区分くぶん数字すうじ調整ちょうせいする数値すうち算出さんしゅつしたものである.ひょう2での調整ちょうせい算出さんしゅつは,2010ねん実質じっしつてき貨幣かへい価値かちとなるために,100でかくとしのCPIをった四捨五入ししゃごにゅうして整数せいすうとした.ひょう2調整ちょうせいもちいたひょう3は,実質じっしつてき貨幣かへい価値かち調整ちょうせいされた累進るいしん所得しょとく税率ぜいりつ変遷へんせんしめしている.
 ひょう3しめすように,1969ねんと1974ねん過去かこ日本にっぽんにおいて所得しょとくぜい累進るいしんせいつよかった時期じきである.本稿ほんこうは,これらふたつのとし累進税るいしんぜいりつ構造こうぞうもどした財源ざいげん試算しさんおこなう.
 BIの財源ざいげん試算しさん基本きほんモデルは,所得しょとく控除こうじょがない場合ばあい村上むらかみ(2009)の所得しょとくぜい試算しさんモデルの変種へんしゅであり,源泉げんせん所得しょとくぜい申告しんこく所得しょとくぜいというふたつの所得しょとくぜいのみに焦点しょうてんてる.統計とうけいデータにかんして,申告しんこく所得しょとくぜいについては国税庁こくぜいちょうの2009ねんの「申告しんこく所得しょとくぜい標本ひょうほん調査ちょうさ」,源泉げんせん所得しょとくぜいについては国税庁こくぜいちょうの2009ねんの「民間みんかん給与きゅうよ実態じったい統計とうけい調査ちょうさ」を利用りようする.本稿ほんこうは,村上むらかみ(2009)の試算しさんモデルと同様どうよう以下いかのようなしょ条件じょうけんす.
 だいいちに,源泉げんせん所得しょとくぜい税率ぜいりつ変更へんこう試算しさんでは民間みんかん給与きゅうよ実態じったい統計とうけい調査ちょうさから「給与きゅうよ」をベースに階級かいきゅう区分くぶん設定せっていしているが,申告しんこく所得しょとくぜい税率ぜいりつ変更へんこう試算しさんでは申告しんこく所得しょとくぜい標本ひょうほん調査ちょうさから「所得しょとく」をベースに階級かいきゅう区分くぶん設定せっていしている.前者ぜんしゃでは給与きゅうよ,つまり,給料きゅうりょう手当てあておよ賞与しょうよ合計ごうけいがくであり,必要ひつよう経費けいひ反映はんえいした給与きゅうよ所得しょとく控除こうじょまえの稼得金額きんがくであるのにたいして,後者こうしゃでは収入しゅうにゅうから必要ひつよう経費けいひかれた所得しょとくである.本来ほんらいであれば申告しんこく所得しょとくぜい収入しゅうにゅう統計とうけいデータを利用りようすることがのぞましいが,そのような統計とうけいデータは公開こうかいされておらず,ここでは近似きんじてき申告しんこく所得しょとくぜい税率ぜいりつ変更へんこう試算しさんでは所得しょとく採用さいようする.
 だいに,税率ぜいりつ変更へんこうによって人々ひとびと行動こうどう変化へんかしないという条件じょうけんである.本来ほんらいであれば,課税かぜいによって変化へんかする人々ひとびと就労しゅうろう行動こうどうなどをんだほうがよりのぞましいモデルを構築こうちくできるが,そのような影響えいきょう捨象しゃしょうする.
 だいさんに,所得しょとくぜいにおける納税のうぜいしゃ構成こうせいかんする前提ぜんていである.源泉げんせん所得しょとくぜいかんする試算しさんは「民間みんかん給与きゅうよ実態じったい統計とうけい調査ちょうさ」を利用りようするため,公務員こうむいん除外じょがいされる.申告しんこく所得しょとくぜい試算しさんは「申告しんこく所得しょとくぜい標本ひょうほん調査ちょうさ」をベースにするため,源泉げんせん所得しょとくぜい納税のうぜいしゃ対象たいしょうとなっている.それゆえに,源泉げんせん所得しょとくぜいじゅう計算けいさん回避かいひするため,当該とうがい納税のうぜいしゃの50%が申告しんこく納税のうぜいしゃであるという仮定かていもうける.この50%という数値すうち根拠こんきょ利用りようするとしの「申告しんこく所得しょとくぜい標本ひょうほん調査ちょうさ」における税額ぜいがく内訳うちわけから採用さいようしたきわめて作為さくいてき要請ようせいである.本稿ほんこう同様どうよう税務ぜいむ統計とうけい利用りようして所得しょとくぜいにおける租税そぜい支出ししゅつ推計すいけいおこなっている上村うえむら(2009: 195) によれば,重複じゅうふく排除はいじょすることはデータ処理しょりじょう不可能ふかのうであるという見解けんかい提示ていじしているため,本稿ほんこう仮定かてい非常ひじょう強引ごういんなものかもしれない.とはいえ,のこりの50%が源泉げんせん所得しょとくぶんであり,このがく無視むしするにはおおきいとおもわれ,本稿ほんこう強引ごういんでも分離ぶんりすることを仮定かていした.また,これらの統計とうけい利用りようすることで申告しんこく所得しょとくぜいおさめる一部いちぶ年金ねんきん世帯せたいふくむことになるがその影響えいきょう捨象しゃしょうする.
 だいよんに,利用りようする統計とうけいデータでのかく階級かいきゅう区分くぶんにまったく同質どうしつ納税のうぜいしゃだけが存在そんざいしていると仮定かていする.「民間みんかん給与きゅうよ実態じったい統計とうけい調査ちょうさ」をもちいる源泉げんせん所得しょとくぜいと「申告しんこく所得しょとくぜい標本ひょうほん調査ちょうさ」をもちいる申告しんこく所得しょとくぜいはそれぞれにことなるきざかた給与きゅうよ所得しょとく区分くぶん採用さいようしている.本稿ほんこう源泉げんせん所得しょとくぜい申告しんこく所得しょとくぜいのいずれの試算しさんにおいてもかく給与きゅうよ所得しょとく区分くぶん平均へいきん利用りようするため,このように仮定かていする.
 だいに,申告しんこく所得しょとくぜいでは事業じぎょう所得しょとく以外いがいにも配当はいとう所得しょとく利子りし所得しょとくめる割合わりあいおおきい納税のうぜいしゃもおり,それぞれにべつ課税かぜい制度せいどがあるのだが,本稿ほんこうはすべて捨象しゃしょうして課税かぜい所得しょとく一本いっぽんはかっている.
 ここで,本稿ほんこう想定そうていする年間ねんかんBI総額そうがく説明せつめいしよう.一人ひとりたり月額げつがく50,000えんから100,000えん(10,000えんきざみ)と設定せっていし,日本にっぽん人口じんこうすうを2009ねん10がつ1にち現在げんざいかく定値ていちである1おく2751まんにんとする10)通常つうじょう,これらのをかけたものが年間ねんかんBI 総額そうがくになるが,本稿ほんこうはここに独自どくじ修正しゅうせいほどこす.基本きほん路線ろせんは,BI導入どうにゅうによって不要ふようになる現金げんきん給付きゅうふ部分ぶぶん支出ししゅつされていたぶんく.これは,小沢おざわ(2002; 2008)によってヒントをた.まずひょう4の2009年度ねんど社会しゃかい保障ほしょう給付きゅうふ注目ちゅうもくしよう.このうちから,VI「家族かぞく」の現金げんきん給付きゅうふ(1ちょう8,519おくえん),VII「失業しつぎょう」の現金げんきん給付きゅうふ(2ちょう5,243おくえん),VIII「住宅じゅうたく」の現金げんきん給付きゅうふ(4,427おくえん),IX「生活せいかつ保護ほごその」の現金げんきん給付きゅうふ(1ちょう530おくえん)は,BIよって不要ふようになるとかんがえる.以上いじょうをBI総額そうがくからいてもよいと想定そうていする.そして,2009ねん公的こうてき年金ねんきん国庫こっこおおやけ経済けいざい負担ふたんがく11)である10ちょう8,293おくえんくことにする.このように合計ごうけいがくで16ちょう7,011おくえんいた修正しゅうせいされた月額げつがくべつのBI総額そうがくひょう5あたえられている.
 所得しょとくぜい財源ざいげん試算しさん結果けっかべよう.まず,ひょう6にある1969ねん所得しょとくぜい計算けいさんしきもちいて,ひょう7では1969ねん累進税るいしんぜいりつ構造こうぞうでの所得しょとく控除こうじょなし源泉げんせん所得しょとくぜい試算しさんおこない,その結果けっかは35ちょう532おくえんひょう8おなじく1969ねん当時とうじ申告しんこく所得しょとくぜい試算しさんおこない,その結果けっかは5ちょう222おくえんである.合計ごうけいすると,40ちょう754おくえんとなる.つぎに,ひょう9にある1974ねん所得しょとくぜい計算けいさんしきもちいて,ひょう10では1974ねんの1969ねん累進税るいしんぜいりつ構造こうぞうでの所得しょとく控除こうじょなし源泉げんせん所得しょとくぜい試算しさんおこない,その結果けっかは26ちょう5,572おくえんひょう11おなじく1974ねん当時とうじ申告しんこく所得しょとくぜい試算しさんおこない,その結果けっかは3ちょう8,625おくえんである.合計ごうけいすると,30ちょう4,197おくえんとなる.以下いかでは,よりおおくの金額きんがく徴税ちょうぜいできた1969ねん試算しさんだけをあつかっていく.
 消費しょうひぜいかんして,本稿ほんこう飯田いいだ(2011)を参考さんこうにして税率ぜいりつを10%にげる.先述せんじゅつしたように,インボイス方式ほうしき導入どうにゅうとうにより徴税ちょうぜい効率こうりつはかり,消費しょうひぜい10%ぶんで25ちょうえん確保かくほできると想定そうていする.所得しょとくぜい消費しょうひぜい合計ごうけいは65ちょう754おくえんとなるため,月額げつがく50,000えんのBIだけが実現じつげん可能かのうであることがしめされた.そこで,つぎに,完全かんぜんなBIではなく給付きゅうふ対象たいしょうしゃ限定げんていした部分ぶぶんBIとしての給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ試算しさんおこなう.

 2.2 給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ財源ざいげん試算しさんモデルとその結果けっか
 給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょについて財源ざいげん試算しさんでは,まず消費しょうひぜいはBIのケースと同様どうよう飯田いいだ(2011) にしたがって,消費しょうひぜい10%ぶんで25ちょうえん確保かくほする.そして,所得しょとくぜい累進税るいしんぜいりつ構造こうぞうも1969ねん当時とうじもどすが,所得しょとくぜいのなかに本稿ほんこう独自どくじ性質せいしつをもつ給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょむため財源ざいげん試算しさんさきのBIの場合ばあいことなる.
 この給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょは,消費しょうひぜい逆進ぎゃくしんせい対策たいさくわせて最低さいてい所得しょとく保障ほしょう機能きのうをもつ.ただし,ここでいう最低さいてい所得しょとく機能きのうは,シティズンシップに条件じょうけんづけられた日本にっぽん国民こくみん全員ぜんいんではなく納税のうぜいしゃだけを対象たいしょうとしている.つまり,本稿ほんこう給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょは,さきのBIとことなる既存きそん所得しょとく保障ほしょう代替だいたいするのではなく,それらの存続そんぞく前提ぜんていとしたうえで補完ほかんする役割やくわりたすものである.
 具体ぐたいてき本稿ほんこう給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ以下いかとおりである.だいいちに,それは勤労きんろう税額ぜいがく控除こうじょ側面そくめんそなえている.つまり,所得しょとく階級かいきゅう区分くぶんが300まんえんから400まんえんもっと分厚ぶあつそうたっするまでは給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ金額きんがく増加ぞうかする傾向けいこうにあり,それをえたあとは減少げんしょうしていく.このねらいは,なに時間じかんはたらくかの選択せんたくについてのインセンティブではなく,無職むしょくから就労しゅうろうくちいたるまではたらくかかの選択せんたくについてのインセンティブ促進そくしんにある.だいに,最初さいしょ所得しょとく階級かいきゅう区分くぶんである100まんえんまでの給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ金額きんがくは,100まんえん設定せっていする.この100まんえんというがくは,生活せいかつ保護ほご制度せいどにおける1きゅう─1の20〜40 さい一人ひとり世帯せたい年間ねんかん生活せいかつ扶助ふじょ基準きじゅん,すなわち,{40,270(だい1るい)+43,430(だい2るい)}×12=100,440えんから着想ちゃくそうている.
 この給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ控除こうじょできない部分ぶぶん現金げんきん給付きゅうふする.試算しさん結果けっかは,ひょう12ひょう13表現ひょうげんされている.まずひょう12では,源泉げんせん所得しょとくぜいかんする試算しさんしめしている.その結果けっか給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ実行じっこう源泉げんせん所得しょとくぜい総額そうがくは5,771おくえん給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ金額きんがくは18ちょう7,222おくえんである.
 つぎ申告しんこく所得しょとくぜいかんする試算しさんしめひょう13では,給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ実行じっこう申告しんこく所得しょとくぜい総額そうがくは2ちょう1,496おくえん給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ金額きんがくは1ちょう9,226おくえんとなる.源泉げんせん所得しょとくぜい申告しんこく所得しょとくぜい合計ごうけいがくは,2ちょう7,267おくえんとなる.

3 試算しさんについての考察こうさつ

 考察こうさつさいして,(1)BIと給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ財源ざいげんとして累進るいしん所得しょとくぜい可能かのうせい,(2)所得しょとく控除こうじょ廃止はいしすることの是非ぜひ,というふたつの論点ろんてんろんじたい.
 まず(1)についてである。本稿ほんこう試算しさん結果けっかしめすように,BIについては過去かこもっとたか累進税るいしんぜいりつ採用さいようしたとしても月額げつがく5まんえんのBI実現じつげんだけがしめされ,もっと月額げつがくげるためにはさらにたか累進税るいしんぜいりつ設定せってい必要ひつようとなりその正当せいとう課題かだいとなる.これにたいして,本稿ほんこう給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ対象たいしょうしゃ限定げんていしているものの,最低さいてい生活せいかつ保障ほしょう実現じつげんできる金額きんがく十分じゅうぶん実現じつげん可能かのうである.ここからの含意がんいは,ワーキングプアのように従来じゅうらい所得しょとく保障ほしょうではカヴァーできないターゲットにたいする本稿ほんこう給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ有効ゆうこうせいである.しかしその反面はんめんで,既存きそん生活せいかつ保護ほごのような所得しょとく保障ほしょう維持いじ前提ぜんていとしている本稿ほんこう給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょは,BIのようにこれらの機能きのう不全ふぜんたいする処方箋しょほうせんとはなりえない.この意味いみでは,本稿ほんこう給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょべつ政策せいさくパッケージとわせないかぎ日本にっぽん所得しょとく保障ほしょう全般ぜんぱん改善かいぜん寄与きよしない.
 (2)について,所得しょとく控除こうじょ廃止はいしするわりに,関連かんれん社会しゃかい保障ほしょうあらたに導入どうにゅうするというあんがある.ここではいちれいとして昨今さっこん改革かいかく消失しょうしつした所得しょとく制限せいげんのないども手当てあて復活ふっかつさせたケースをかんがえる.総務そうむしょう統計とうけいきょくによる「日本にっぽん統計とうけい」によれば2009ねんの15さい以下いかどもの人口じんこうは1,806.3 まんにんである12).このような該当がいとうしゃたいして,がつ2.6まんえん年間ねんかんで31.2まんえんども手当てあて支給しきゅうするならば5ちょう6,357おくえんとなる.本稿ほんこう試算しさんにおいて,BIのケースでは月額げつがく5まんえん場合ばあいでもBIとども手当てあて財源ざいげん所得しょとくぜい消費しょうひぜいだけで調達ちょうたつすることはできない.さらに,医療いりょう介護かいごなどのほか社会しゃかい保障ほしょう充実じゅうじつかんがえると,たして所得しょとく保障ほしょうだけに予算よさん集中しゅうちゅうさせてよいのかどうかがわれる.このてんでは,本稿ほんこう給付きゅうふぜい税額ぜいがく控除こうじょ所得しょとくぜいだけで実現じつげん可能かのうであり,増税ぞうぜいされた消費しょうひぜいがくども手当てあてくわえて,社会しゃかい保障ほしょう手厚てあつくすることも可能かのうである.

4 おわりに

 以上いじょうのようにBIと給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょはそれぞれ利点りてん欠点けってんがあるが,本稿ほんこうのように具体ぐたいてき数字すうじをもとに検討けんとうすることで争点そうてんはより明確めいかくになってくる.本稿ほんこう限界げんかいとして,制度せいど移行いこう問題もんだい想定そうていした前提ぜんてい仮定かてい条件じょうけん妥当だとうせいがある.これらを考慮こうりょしたうえでより幅広はばひろ社会しゃかい保障ほしょう政策せいさくパッケージにBIと給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ位置いちづけた考察こうさつ今後こんご課題かだいとしたい.

付記ふき本稿ほんこう日本にっぽん学術がくじゅつ振興しんこうかい科学かがく研究けんきゅう補助ほじょきん基盤きばん研究けんきゅう(B)研究けんきゅう題名だいめい「わがくににおけるベーシック・インカム政策せいさく導入どうにゅうけた総合そうごうてき検討けんとうとネットワーク形成けいせい」(代表だいひょう小沢おざわ修司しゅうじ教授きょうじゅ),規範きはん×秩序ちつじょ研究けんきゅうかいのメンバーで申請しんせいしたユニベール財団ざいだん平成へいせい25年度ねんど研究けんきゅう助成じょせいきん公益こうえき財団ざいだん法人ほうじん医療いりょう科学かがく研究所けんきゅうじょ研究けんきゅうプロジェクト「健康けんこう社会しゃかいてき決定けってい要因よういんかんする国内外こくないがい調査ちょうさ研究けんきゅう動向どうこう」による支援しえんけた研究けんきゅう成果せいかひとつである.

ちゅう
1)Basic Income Earth Network
  http://www.basicincome.org/bien/aboutbasicincome.html
2)日本にっぽんにおける大学だいがく研究けんきゅうしゃ限定げんていされない幅広はばひろ視野しやからのBI 財源ざいげんろん詳細しょうさいについては立岩たていわ齊藤さいとう(2010)を参照さんしょうせよ.
3)財務省ざいむしょう 所得しょとく税法ぜいほうとう一部いちぶ改正かいせいする法律ほうりつあん要綱ようこう(2013ねん3がつ1にち
  http://www.mof.go.jp/about_mof/bills/183diet/st250301y.htm
4)消費しょうひぜいは「ある時点じてん」で逆進ぎゃくしんてきであるが,ライフサイクル全体ぜんたいからみたれば,消費しょうひぜい生涯しょうがい所得しょとく比例ひれいしているぜいである解釈かいしゃくもありうる(大竹おおたけ小原おはら 2005; 土居どい 2010とう).だが,一時いちじてん相対そうたいてきおもぜい負担ふたん看過かんかできず,なんらかの対応たいおうもとめられるだろう.
5)内閣ないかく 消費しょうひ税率ぜいりつおよ地方ちほう消費しょうひ税率ぜいりつ引上ひきあげとそれにともな対応たいおうについて(2013ねん10がつ1にち閣議かくぎ決定けってい
  http://www5.cao.go.jp/keizai1/2013/1001syouhizei.pdf
6)2014ねん4がつの1ねんはんである2015ねん10がつには消費しょうひ税率ぜいりつを10%にげる予定よていがあるためである.
7)朝日新聞あさひしんぶん2013ねん9がつ19にち夕刊ゆうかん
8)与党よとう税制ぜいせい協議きょうぎかい軽減けいげん税率ぜいりつ制度せいど調査ちょうさ委員いいんかい 軽減けいげん税率ぜいりつについての議論ぎろんなかあいだ報告ほうこく 2013ねん11月12にち
  https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf119_1.pdf
9)この給付きゅうふ税額ぜいがく控除こうじょ試算しさんモデルは,Murakami(forthcoming) とおなじものである.
10)総務そうむしょう統計とうけいきょく だいひょう 年齢ねんれいかくとし),男女だんじょべつ人口じんこうおよ人口じんこうせい-そう人口じんこう日本人にっぽんじん人口じんこう(2009ねん10がつにち現在げんざい
  http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000007552525
11)公的こうてき年金ねんきんかく制度せいど財政ざいせい収支しゅうし状況じょうきょう(2009年度ねんど
  http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/04/pdf/h21_koutekinenkin_zaiseisyushijyokyo.pdf
12)総務そうむしょう統計とうけいきょく だいひょう 年齢ねんれいかくとし),男女だんじょべつ人口じんこうおよ人口じんこうせい-そう人口じんこう日本人にっぽんじん人口じんこう(2009ねん10がつ1にち現在げんざい
  http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000007552525


文献ぶんけん





作成さくせい小川おがわ 浩史こうじ更新こうしん村上むらかみ まきつかさ
UP: 20140515 REV: 20140517, 20140713
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