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中村 正『ドメスティック・バイオレンスと家族の病理』
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『ドメスティック・バイオレンスと家族かぞく病理びょうり

中村なかむら ただし 20010525 作品社さくひんしゃ

last update:20101215

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中村なかむら ただし 20010525 『ドメスティック・バイオレンスと家族かぞく病理びょうり』,作品社さくひんしゃ,258p. ISBN-10: 4878933828 2310 [amazon][kinokuniya] b

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中村なかむら ただし http://www.jca.apc.org/~tadashi/main.htm

目次もくじ

だいT 家庭かていない暴力ぼうりょくとは、どんな問題もんだいなのか?−親密しんみつさのなか病理びょうり
 だいしょう <家庭かていない暴力ぼうりょく>とは、どんな暴力ぼうりょくか?
 だいしょう 家庭かていない暴力ぼうりょくは、なぜきるのか?
だいU 家庭かていない暴力ぼうりょくにおける“被害ひがいしゃ”とはだれか?
 だいしょう 被害ひがいしゃは、なぜげないのか?
 だいしょう 「バタード・ウーマン」からの脱出だっしゅつ援助えんじょさく
だいV 家庭かていない暴力ぼうりょくの“加害かがいしゃ”とはだれか?−加害かがいしゃ研究けんきゅう対策たいさく
 だいしょう 加害かがいしゃ研究けんきゅう−「バタラー」とは、どんなおとこなのか?
 だいしょう 加害かがいしゃ対策たいさく米国べいこくでの実践じっせん
 だいしょう 日本にっぽんでの加害かがいしゃ対策たいさく実践じっせん
 だいしょう 男性だんせい研究けんきゅうからの家庭かていない暴力ぼうりょくへのアプローチ 
 だいしょう メンズサポート活動かつどうについて
だいW 家族かぞくという関係かんけいせいあい暴力ぼうりょく
 だいしょう 私的してき領域りょういきとしての家族かぞく
 だいしょう 家族かぞく政策せいさく男性だんせい父親ちちおや問題もんだい

引用いんよう

だいT 家庭かていない暴力ぼうりょくとは、どんな問題もんだいなのか?−親密しんみつさのなか病理びょうり

 だいしょう <家庭かていない暴力ぼうりょく>とは、どんな暴力ぼうりょくか?

★<家庭かていない暴力ぼうりょく>とは、どんな暴力ぼうりょくか?
 家庭かていない暴力ぼうりょくにはいろいろな種類しゅるいがある。(p14〜16)
 ・子供こどもたいする暴力ぼうりょく−チャイルド・アビューズ(ども虐待ぎゃくたい
 ・老人ろうじんたいする暴力ぼうりょく−エルダーズ・アビューズ(老人ろうじん虐待ぎゃくたい
 ・女性じょせいたいしての夫婦ふうふあいだ暴力ぼうりょく
 ・子供こどもからおやへの暴力ぼうりょく思春期ししゅんき青春せいしゅん暴力ぼうりょく
 そのほか、兄弟きょうだい姉妹しまいあいだでの暴力ぼうりょく虐待ぎゃくたいふくめると、家庭かていないのあらゆる関係かんけいせいなかで、家庭かていない暴力ぼうりょく発生はっせいしている。
 これらに共通きょうつうする特性とくせい(p16)
 ・家庭かていない暴力ぼうりょくは、「ストリート・バイオレンス」(路上ろじょうでの暴力ぼうりょくのこと)とは、その特性とくせいことなる。
 ・家庭かていないの“弱者じゃくしゃ”にかっている。
 ・家庭かていない暴力ぼうりょく発生はっせいするのは「親密しんみつ関係かんけい」のなかからである。
 まとめると、家庭かていない暴力ぼうりょくとは「親密しんみつ間柄あいだがらにおける虐待ぎゃくたい暴力ぼうりょく」という内容ないよう言葉ことばとして現在げんざい使つかわれている。同居どうきょしている血縁けつえん関係かんけいしゃ同士どうしだけにこる問題もんだいではなく、恋人こいびと同士どうし離婚りこんしたもと夫婦ふうふなどその対象たいしょうひろい。

日本にっぽんの<家庭かていない暴力ぼうりょく>の実態じったい
 家庭かていない暴力ぼうりょくは、突然とつぜんえたわけではない。最近さいきんまで、夫婦ふうふあいだ暴力ぼうりょくは、たんなる“夫婦ふうふゲンカ”として、子供こども虐待ぎゃくたいは“しつけ”や“体罰たいばつ”として放置ほうちされてきただけである。ここすうねんあいだ関心かんしんがもたれるようになり、各種かくしゅ実態じったい調査ちょうさおこなわれはじめた結果けっか家庭かていない暴力ぼうりょく発見はっけんされた。この背景はいけいには、国際こくさい社会しゃかいでの人権じんけん意識いしきたかまりがある。(p20) 
 自治体じちたいでは、女性じょせいたいする暴力ぼうりょくかんする調査ちょうさなど実態じったい調査ちょうさおこなわれている。名古屋なごやの1999ねん調査ちょうさでは暴力ぼうりょくけた女性じょせい暴力ぼうりょくくわえた男性だんせいが、ともにやく6わりという結果けっかた。京都きょうとの2000ねん調査ちょうさでは夫婦ふうふあいだ暴力ぼうりょくけた経験けいけんのある女性じょせいは32.1%であった。この調査ちょうさでは身体しんたい暴力ぼうりょくくわえて、性的せいてき暴力ぼうりょく言葉ことば感情かんじょうによる暴力ぼうりょく経済けいざいてき暴力ぼうりょくつま外出がいしゅつさせず行動こうどう制限せいげんする社会しゃかいてき暴力ぼうりょくなどをけた経験けいけんのある女性じょせいおおいことがわかった。(p21〜24)

米国べいこくの<家庭かていない暴力ぼうりょく>の実態じったい
 米国べいこくでもすうおおくの調査ちょうさおこなわれている。数字すうじとしては、1年間ねんかんに2400まんにん以上いじょう女性じょせい家庭かていない暴力ぼうりょくにより被害ひがいけている、といった結果けっかている。さらに、家庭かていない暴力ぼうりょくによる社会しゃかいてき影響えいきょう負担ふたんがかなりのものだと指摘してきされている。たとえば、医療いりょう警察けいさつ司法しほう制度せいど矯正きょうせいシステムなどの費用ひようげている。(p26〜27)

★「男性だんせい問題もんだい」としての「加害かがいしゃ問題もんだい
 家庭かていない暴力ぼうりょく事例じれいのほとんどの加害かがいしゃ男性だんせいである。ここのケースにはそれぞれの背景はいけいがあるが、おおきな背景はいけいとして「男性だんせいせい役割やくわり」(“おとこらしさ”という意識いしき)がある。(p28)
 これまでの男性だんせい中心ちゅうしんがた社会しゃかいそのものが疲弊ひへいし、男性だんせいんでいる。社会しゃかいシステム全体ぜんたいにおける男性だんせい役割やくわり変更へんこう必要ひつようとなっている。つまり、ドメスティック・バイオレンスに象徴しょうちょうされる出来事できごとは、こうした家族かぞく外側そとがわ変化へんか関連かんれんしている。(p29)

被害ひがいしゃへの視点してん
 犯罪はんざい非行ひこう事件じけん事故じこ災害さいがいなどの被害ひがいしゃへのしんのケアと被害ひがいしゃ救済きゅうさい制度せいど必要ひつようせいから、ドメスティック・バイオレンスについては、被害ひがいしゃである女性じょせいへのききとり、体験たいけん調査ちょうさ、カウンセリングなどをとおして、そのケアのありかた加害かがいしゃ対策たいさく被害ひがいしゃ救済きゅうさいのありかたなどが研究けんきゅうされている。(p30)
 被害ひがいしゃ多数たすう子供こども女性じょせいで、彼女かのじょらは家族かぞくという関係かんけいなか監禁かんきん状態じょうたいかれている。逃走とうそうふせ障壁しょうへきえないもので、子供こどもたちの場合ばあいは1にんではきてゆけないために監禁かんきん状態じょうたいかれる。女性じょせい場合ばあいは、経済けいざいてき社会しゃかいてき法的ほうてき従属じゅうぞくによって監禁かんきん状態じょうたいかれる。(p31)


 だいしょう 家庭かていない暴力ぼうりょくは、なぜきるのか?

親密しんみつさと暴力ぼうりょく自立じりつ依存いぞん連鎖れんさ
 家族かぞくないでの人間にんげん関係かんけいは、おたがいにおぎいながら関係かんけいたもっている。ケアするものとケアされるものが相互そうご依存いぞんしあっている。おやつまおっと兄弟きょうだい姉妹しまい相互そうごには、プラスであれマイナスであれ相互そうご規定きていう「相互そうご補強ほきょう」という濃密のうみつかかわりが存在そんざいしている。家庭かていない暴力ぼうりょくは、親密しんみつさにもとづく相互そうご補強ほきょうしあう関係かんけいにおいてこるのである。愛情あいじょう保護ほご養育よういく介護かいごなどをかいした関係かんけいであることがおおいということである。(p33〜34)

★パワー(権力けんりょく)とコントロール(支配しはい)の関係かんけい
 家庭かていないでの男女だんじょあいだ暴力ぼうりょくでは、どちらもおなじように被害ひがいしゃになる可能かのうせいがある。しかし一般いっぱんてきには、体力たいりょくちがいもありダメージをけやすいのは女性じょせいである。
 家庭かていない暴力ぼうりょくは「パワー(権力けんりょく)とコントロール(支配しはい)」という作用さよう中心ちゅうしんにおいて、夫婦ふうふあいだのあらゆる相互そうごのかかわりのなか暴力ぼうりょくしのむ。なぐる・る・たたく・ものげるなどの行動こうどう背景はいけいには、パワーとコントロールの関係かんけい存在そんざいしている。(p34〜38)

★<家庭かていない暴力ぼうりょく>の多様たようせい
 家庭かていない暴力ぼうりょくというと、たいていのひとは、肉体にくたいてき暴力ぼうりょくおもかべる。それにくわえ、夫婦ふうふあいだ暴力ぼうりょくは“性的せいてき暴力ぼうりょく”という側面そくめんをもっていることも無視むしできない。(p39)
 暴力ぼうりょくにはいろいろなやりかたがあるが、その目的もくてきはすべて、他人たにんかんがえや行動こうどうあやつることにある。(p40)
 被害ひがいしゃせないということも事態じたい複雑ふくざつにしている。悲劇ひげきてきなことに、家庭かていない暴力ぼうりょく発覚はっかくするのは、被害ひがいしゃぬか、じゅうあつし状態じょうたいにいたったときおおい。軽微けいび家庭かていない暴力ぼうりょく事件じけん報道ほうどうあたいしないだろう。ここに<家庭かていない暴力ぼうりょく>のむずかしさがある。(p40〜41)

★<家庭かていない暴力ぼうりょく>がこる要因よういん暴力ぼうりょくにいたる“リスク要因よういん
 老人ろうじん虐待ぎゃくたい場合ばあい要因よういん  
 ・社会しゃかい福祉ふくし医療いりょうへの家族かぞく関心かんしん無知むちもしくは不信ふしんかん
 ・堆積たいせきした家庭かていないストレス
 ・世間体せけんていへのこだわり など
 介護かいごそれ自体じたいがリスク要因よういんとして存在そんざいしている。

 ども虐待ぎゃくたい場合ばあい
 ・虐待ぎゃくたいしゃ個人こじんてき要因よういん(ひく自尊心じそんしんいかりを統制とうせいできないなど)
 ・どもの特性とくせい(あつかいのむずかしい子供こどもなんらかの障害しょうがいなど)
 ・おやとしての特性とくせい(おやであることの自覚じかく欠如けつじょ子供こどもへの現実げんじつてき期待きたいなど)
 ・家族かぞく環境かんきょう要因よういん(慢性まんせいてき家族かぞく葛藤かっとう夫婦ふうふあいだ暴力ぼうりょく存在そんざいなど)
 ・社会しゃかいてき要因よういん(てい収入しゅうにゅう失業しつぎょう社会しゃかいてき孤立こりつなど)

 夫婦ふうふあいだ暴力ぼうりょく場合ばあい
 ・個別こべつてき要因よういん
 たとえば、そだった家族かぞくなか暴力ぼうりょくけた、両親りょうしんあいだ暴力ぼうりょくがあったことをたりし た、家族かぞくから孤立こりつした存在そんざいである、などである。
 ・社会しゃかいてき文化ぶんかてき要因よういん
 たとえば、男性だんせい家族かぞく統制とうせいするものだというかんがえがひろがっていること、貧困ひんこんじゅう刃物はものなどが簡単かんたんはいること、などである
 
 家庭かていない暴力ぼうりょくは、こうした複数ふくすうのリスク要因よういんじゅうなりを背景はいけいにしてあらわれる。(p41〜44)

愛情あいじょうとコミュニケーションのギャップ
 男女だんじょの“愛情あいじょう”と“コミュニケーション”をめぐる問題もんだいがある。どうして男性だんせいは、あいした女性じょせい暴力ぼうりょくるうのか?という問題もんだいである。ストーキングやレイプなど、ゆがめられた「恋愛れんあい感情かんじょう」の背後はいごには女性じょせい所有しょゆうしたいという願望がんぼう垣間見かいまみえる。こうしたしたしいもの同士どうしでの暴力ぼうりょく男性だんせいのセクシャリティとも関連かんれんしていて、男性だんせい女性じょせいの“感情かんじょう表現ひょうげん”や“対人たいじん関係かんけいのとりかた”についてのかんがえなければならない。言葉ことば身体しんたい動作どうさかんかたなどのコミュニケーション能力のうりょくにつける過程かていで、おとこらしさやおんならしさというジェンダーされた意識いしき態度たいど内面ないめんされる。離婚りこん家庭かていない暴力ぼうりょくをとおして、このあらわれる。男女だんじょあいだにはかなりの意識いしきがある。(p45〜46)

★ジェンダー・ギャップとコミュニケーション
 「ジェンダー」とは、おとこはかくあるべし、おんなはこうだとかんがえられている役割やくわり期待きたいやふるまいかたなど、社会しゃかいてきつくられた意識いしき制度せいどのことである。コミュニケーションの仕方しかたてはめてかんがえれば、女性じょせいらしい言葉ことば会話かいわスタイルは協調きょうちょうてき協同きょうどうてきであるのにくらべて、男性だんせいらしい言葉ことば会話かいわスタイルは競争きょうそうてきである、というものだ。(p48〜49)

★「ラブ・イズ・ブラインド」−こいあいはすべてをおおかく
 恋愛れんあい結婚けっこんきでやっている、勝手かって行動こうどうであり、すべて「自己じこ決定けってい」している自由じゆう私的してき事柄ことがらだから、結婚けっこんすると当然とうぜん責務せきむであるかのように、家事かじ育児いくじ看護かんご介護かいご仕事しごと女性じょせいに、家族かぞくやしな一家いっか責任せきにん役割やくわり男性だんせいつことになる。
 ”あい”という言葉ことばによって、本来ほんらい社会しゃかいになうべき福祉ふくしてき機能きのう女性じょせいかたにのしかかる。”あい”という言葉ことばで、暴力ぼうりょく肯定こうていされる。(p50〜51)

ざされた関係かんけいとしての家族かぞく恋人こいびと
 ドメスティック・バイオレンスや家庭かていない暴力ぼうりょくというのは、したしい間柄あいだがらこる暴力ぼうりょく意味いみする多様たよう言葉ことばづかいのひとつである。現実げんじつには、恋人こいびと関係かんけいもと夫婦ふうふ関係かんけいなどひろがりをもっている。(p53)

暴力ぼうりょく虐待ぎゃくたい類型るいけいろんえて
 家庭かていない暴力ぼうりょくかたさいに、「身体しんたいてき暴力ぼうりょく」「性的せいてき暴力ぼうりょく」「情緒じょうちょてき心理しんりてき暴力ぼうりょく」「ネグレクト(介護かいご養育よういく必要ひつようひと放置ほうちしたり、遺棄いきすること)」という4つのパターンを析出せきしゅつするという暴力ぼうりょく類型るいけいろん現在げんざい主流しゅりゅうである。このレベルで明確めいかくになりつつある事柄ことがらかんしては、法的ほうてき対応たいおう急速きゅうそく整備せいびされなければならない。それにくわえ、家族かぞく関係かんけい着目ちゃくもくすると、被害ひがいしゃのケア、福祉ふくしてき援助えんじょのありかた加害かがいしゃへの対応たいおうなど、ほう領域りょういきでの総合そうごうてき対応たいおう検討けんとうする必要ひつようがある。(p53〜54)
 加害かがいしゃは、「家族かぞく他人たにんではない」とよくう。「他人たにんではない」とおもうその時点じてんから、人権じんけんという言葉ことばとおのいていく。そこに暴力ぼうりょく虐待ぎゃくたいこるのである。(p54〜55)

家族かぞくという境界きょうかい
 家族かぞくはほかの集団しゅうだんくらべて、独特どくとく構造こうぞうてき特質とくしつゆうしている。
 ・おな家屋かおくごす時間じかんながさである。これは「時間じかん特性とくせい」である。
 ・家族かぞく緊張きんちょう葛藤かっとう感情かんじょう作用さよう密度みつどさである。これは「感情かんじょう特性とくせい」である。
 ・家族かぞく構成こうせいいんあいだにあるちから差異さいはもちろんのこと、権勢けんせいじょう差異さい無視むしできない。こ  れは「均衡きんこう特性とくせい」である。
 ・家族かぞくのプライバシーというかべ秘密ひみつができやすい。これは「私事しじ特性とくせい」である。
 ・自発じはつてき関係かんけいである。これは「関係かんけい特性とくせい」である。
 こうした構造こうぞうてき特質とくしつまえてむすばれる組織そしきたいとして家族かぞくがあり、それは外部がいぶ社会しゃかい明確めいかく境界きょうかいせんをもって存在そんざいしている。(p55)

暴力ぼうりょく手段しゅだんにする「自己じこ顕示けんじてき暴力ぼうりょく」と「道具どうぐてき暴力ぼうりょく
 家庭かていない暴力ぼうりょくにおいて「自己じこ顕示けんじてき暴力ぼうりょく」と「道具どうぐてき暴力ぼうりょく」のちがいという整理せいり有益ゆうえきである。「自己じこ顕示けんじてき暴力ぼうりょく」は、暴力ぼうりょく一種いっしゅのカタルシス(浄化じょうか)となっており、自己じこいかりをしずめるためにのみるわれることがおおい。それにたいし、「道具どうぐてき暴力ぼうりょく」とは、他人たにん攻撃こうげきくわえる行為こういふくんでいるが、相手あいて行為こうい修正しゅうせいさせようとして暴力ぼうりょく使用しようされる場合ばあいである。虐待ぎゃくたいてき行為こういはあくまで“道具どうぐ”として使つかわれている。(p58〜59)



だいU 家庭かていない暴力ぼうりょくにおける“被害ひがいしゃ”とはだれか?

 だいしょう 被害ひがいしゃは、なぜげないのか?

★「バタード・ウーマン・シンドローム」−虐待ぎゃくたいしゃ心理しんりてき特性とくせい
 被害ひがいしゃ特性とくせいとして、「バタード・ウーマン」(なぐられつづけている女性じょせい)の共通きょうつうしんてき傾向けいこう指摘してきされてきた。その代表だいひょうてきなものが、「バタード・ウーマン・シンドローム」(虐待ぎゃくたい女性じょせい症候群しょうこうぐん)というとらかたである。
 バタード・ウーマンに共通きょうつうする性格せいかく
 ・なぐられている女性じょせい自己じこ評価ひょうかひくい。
 ・伝統でんとうてき家庭かてい主義しゅぎしゃで、家族かぞくきずな重要じゅうようし、女性じょせい性的せいてき役割やくわりについて固定こてい観念かんねん っている。
 ・加害かがいしゃ行為こういについて責任せきにんをとり、自分じぶんがあるとかんがえる。
 ・罪悪ざいあくかんなやんでいるが、彼女かのじょ自身じしん恐怖きょうふいかりをかんじていることを否定ひていする。
 ・社会しゃかいたいしては受身うけみであるが、それ以上いじょう暴力ぼうりょくけたりころされたりしないようにたまき さかい操作そうさするつよさをっている。
 ・重度じゅうど精神せいしんてき重圧じゅうあつかんがあり、心理しんり生理学せいりがくてき苦情くじょううったえる。
 ・加害かがいしゃとセックスにもとづいた親密しんみつ関係かんけいをつくりあげる。
 ・自分じぶん以外いがい自分じぶん苦境くきょう解決かいけつできるものはいないとしんじている。
 彼女かのじょらは自分じぶん我慢がまんをし、家族かぞく全員ぜんいん安全あんぜんらせる環境かんきょうつくることを自分じぶん義務ぎむかんがえているが、実際じっさいには家庭かていない暴力ぼうりょく発生はっせいしている環境かんきょう自分じぶんでは変革へんかくすることができないので、「自発じはつてきコントロールの喪失そうしつ」という事態じたいこり、「学習がくしゅうせい無力むりょくかん」が彼女かのじょたちを支配しはいしてしまう。(p62〜65)

暴力ぼうりょくのサイクル
 家庭かていない暴力ぼうりょく発生はっせいしている家族かぞくであっても、えず暴力ぼうりょくるわれているのではなく、被害ひがいしゃたちは一定いっていの「虐待ぎゃくたいサイクル」を経験けいけんしているということである。(p65)
 虐待ぎゃくたいサイクルは3つのそうからなる。緊張きんちょうたかまるだい1そう(緊張きんちょう形成けいせい)、爆発ばくはつ虐待ぎゃくたいこるだい2そうおだやかな愛情あいじょうのある態度たいどになるだい3そう(開放かいほう)である。このように暴力ぼうりょく愛情あいじょう循環じゅんかんしつつ、そうした事実じじつ公表こうひょうするのは家族かぞくはじだという意識いしきまれ、問題もんだい表面ひょうめんおくれる。(p65〜67)
 
犠牲ぎせいしゃへの非難ひなん
 家庭かていない暴力ぼうりょくかんがえるときに「犠牲ぎせいしゃへの非難ひなん」の問題もんだい無視むしできない。被害ひがいしゃめることは、せいにまつわる犯罪はんざい被害ひがいにはよくみられる傾向けいこうである。とくに、米国べいこくのような自己じこ責任せきにん個人こじん主義しゅぎ強調きょうちょうされる社会しゃかいにおいてよく見受みうけられる傾向けいこうである。被害ひがいは、みずからがまねせたものなので本人ほんにん責任せきにんなにとかすべきだ、という社会しゃかい意識いしきをさしている。(p66〜68)

被害ひがいしゃへの責任せきにん分散ぶんさんー「きょう依存いぞん」「アディクション」
 「きょう依存いぞん」とは”必要ひつようとされることを必要ひつようとする”というんだ関係かんけいせいのことを意味いみする。家庭かていない暴力ぼうりょくという現象げんしょうとらえるために「きょう依存いぞん」という言葉ことば使つかわれると、双方そうほう暴力ぼうりょく原因げんいんがあるということになりかねない。しゃ関係かんけいにある暴力ぼうりょくを「きょう依存いぞん」としてとらえるのは「責任せきにん分散ぶんさん」というかんがかたになってしまう。
 「きょう依存いぞん」の背景はいけいには、やはり人間にんげん関係かんけい行動こうどう病理びょうりとしての「アディクション」がある。これはやめることが困難こんなん悪循環あくじゅんかんこす習慣しゅうかんてき行動こうどうのことである。人間にんげん自己じこ実現じつげんできるなにかを見出みいだし、そこに没入ぼつにゅうし、きることの充実じゅうじつかんる。それが病理びょうり現象げんしょうとなるまで極端きょくたんしてしまったのが「アディクション」である。
 しかし、家庭かていない暴力ぼうりょくを「きょう依存いぞん」、「アディクション」としてとらえていくのことは、暴力ぼうりょく責任せきにん分散ぶんさんしたり曖昧あいまいにすることにつながりかねない。(p69〜71)

★「ストックホルム・シンドローム」
 ある特殊とくしゅ条件じょうけんのもとで成立せいりつする、ゆがみをともなった親密しんみつ関係かんけいとらえるのに、「ストックホルム・シンドローム」というかんがかたがある。1973ねんにストックホルムにある銀行ぎんこうてこもり事件じけん発生はっせいした。この事件じけんでは、人質ひとじち犯人はんにんとある特殊とくしゅ条件じょうけんのもとで生成せいせいする関係かんけいのなかで、精神せいしんてききずなをつくってしまったのである。この逆説ぎゃくせつてき関係かんけいせいは、家族かぞくふくめて社会しゃかい生活せいかつ場面ばめん適用てきよう可能かのうである。たとえば、ども虐待ぎゃくたい家族かぞくのなかで殴打おうだされるつまなどである。(p72〜74)

★どんな関係かんけいが「ストックホルム・シンドローム」となるか?
 「ストックホルム・シンドローム」が成立せいりつするさいの4つの条件じょうけん
 ・犠牲ぎせいしゃ生存せいぞんおびやかすことを意図いとして関係かんけい構築こうちくされているてん
 ・恐怖きょうふ支配しはいするなかで、加害かがいしゃちいさな親切しんせつえるかたちしめされるてん
 ・加害かがいしゃ以外いがい眼差まなざしから、犠牲ぎせいしゃ孤立こりつしているてん
 ・げることが不可能ふかのうてん
 「ストックホルム・シンドローム」におちいった被害ひがいしゃは、自分じぶん愛情あいじょうをもっと加害かがいしゃむことが暴力ぼうりょく解決かいけつさくだとおもってしまう。虐待ぎゃくたいしゃへのあい世話せわをすることが自分じぶんかすみちだとおもみ、虐待ぎゃくたいしゃ自分じぶんころさずにいることに感謝かんしゃするのである。(p75〜78)

★「ストックホルム・シンドローム」であるかどうかの指標しひょう
 その関係かんけいが「ストックホルム・シンドローム」であるかどうかの潜在せんざいてき可能かのうせいをみるための指標しひょう一部いちぶをここにしめす。
 ・虐待ぎゃくたいしゃは、加害かがいしゃによる苦痛くつうかんじないようにしようとして、身体しんたいから自己じこ解離かいり させる。
 ・虐待ぎゃくたいしゃは、加害かがいしゃちいさな親切しんせつつよ感謝かんしゃするようになる。
 ・虐待ぎゃくたいしゃは、加害かがいしゃ肯定こうていてき側面そくめんきずなかんじる。 
 このほかにも指標しひょう多々たたある。
 家族かぞくをめぐる社会しゃかい制度せいどおおきな変化へんかげないとすると、家庭かていない暴力ぼうりょく被害ひがいしゃは、家庭かていない暴力ぼうりょく発生はっせいする日常にちじょう環境かんきょうびるために、みずからがかれた虐待ぎゃくたいてき環境かんきょう適応てきおうする戦略せんりゃくをとる。(p78〜80)

虐待ぎゃくたいてき環境かんきょうへの反応はんのう
 「ストックホルム・シンドローム」のような関係かんけい要素ようそを、家庭かていない暴力ぼうりょくのある環境かんきょうはもっている。(p80)


 だいしょう 「バタード・ウーマン」からの脱出だっしゅつ援助えんじょさく

★「犠牲ぎせいしゃ」から「もの」への過程かてい支援しえんする
 周囲しゅういからの援助えんじょがあれば、もちろん「暴力ぼうりょくのサイクル」から脱出だっしゅつできる。被害ひがいしゃへの救助きゅうじょさくにも、発展はってん過程かていがある。(p82)
 だい段階だんかい 家庭かていない暴力ぼうりょくへの関心かんしん啓発けいはつなによりも実態じったい調査ちょうさ大事だいじである。
 だい段階だんかい 家庭かていない暴力ぼうりょく被害ひがいけている事態じたいへの、既存きそん制度せいど活用かつようした対策たいさく
 だい段階だんかい 独特どくとくしんてき特性とくせい形成けいせいする被害ひがいしゃへのケアをふくめた、なお支援しえんである。
 だい段階だんかい 加害かがいしゃ対策たいさくふくめた総合そうごうてき家庭かていない暴力ぼうりょく対策たいさくほう制度せいど確立かくりつである。

★「シェルター」の機能きのう
 「シェルター」とは”避難ひなんしょ””てら”という意味いみである。直面ちょくめんする危機ききからのがれるために必要ひつよう施設しせつで、「犠牲ぎせいしゃ(ビクティム)」から「くもの(サバイバー)」への地位ちい変容へんよう支援しえんする役割やくわりになう。(p83)

★「バタード・ウーマン」という把握はあくのもつ意義いぎ限界げんかい
 バタード・ウーマンというとらかたは、虐待ぎゃくたいのある環境かんきょうたいして適応てきおうしていく側面そくめんとらえたものなので、ここから側面そくめんあらわ言葉ことば同時どうじ必要ひつようだとかんがえる。必要ひつよう社会しゃかい資源しげん効果こうかてき支援しえん機会きかいがあれば、虐待ぎゃくたいてき環境かんきょうからのがれられるという視点してんつべきだろう。(p85)

★「サバイバー」という見方みかた必要ひつようせい
 「サバイバー」の理論りろん仮説かせつによる特徴とくちょうづけ
 ・はげしい暴力ぼうりょくは、バタード・ウーマンが事態じたい対処たいしょしようとする戦略せんりゃくてることを促 す。
 ・サバイバーは、虐待ぎゃくたいしゃのもとをはなれるさいに、不安ふあん経験けいけんする。選択肢せんたくし欠如けつじょ、ノウハ ウ・おかね欠如けつじょなどが、虐待ぎゃくたいしゃからのがれようとすることについての恐怖きょうふをもたらす。
 ・サバイバーは、積極せっきょくてき支援しえんもとめている存在そんざいである。公式こうしき非公式ひこうしき支援しえんもとめて いる。不適切ふてきせつ断片だんぺんてき支援しえんのサービスは、犠牲ぎせいしゃ虐待ぎゃくたいしゃのもとへもどしてしまうこと になってしまう。
 ・サバイバーへ、包括ほうかつてきでより規定きていてき支援しえんへのアクセスがうまくいっていないと、しいたげ まちつづき、エスカレートする。不適切ふてきせつ支援しえんは「学習がくしゅうせい無力むりょくかん」をたかめることになってし まう。
 ・バタード・ウーマンはサバイバーとして存在そんざいすべきだ。地域ちいきでのサービスがあれば、 虐待ぎゃくたいからのがれることを支援しえんできるのである。(p86〜87)
 
★ある「バタード・ウーマン」からの手紙てがみ
 「犠牲ぎせいしゃ」から「サバイバー」へと地位ちい変容へんようげた女性じょせいいた手紙てがみである。この女性じょせい家庭かていない暴力ぼうりょくけ、恐怖きょうふ不安ふあんかんじながらも、自分じぶんのために、どものために、そしておっとのためにも、離婚りこん決意けついした。

被害ひがいしゃサポート政策せいさくとして
 「DVに反対はんたいする全米ぜんべい連合れんごう」は、被害ひがいしゃ虐待ぎゃくたいてき環境かんきょうから脱出だっしゅつするさいに、つぎのような具体ぐたいてき提案ていあんをしている。
 ・情報じょうほう入手にゅうしゅすること。みずからの状況じょうきょうりよくるためにあらゆる情報じょうほうること。
 ・法律ほうりつ相談そうだんはなすこと。
 ・理解りかいできる年齢ねんれいどもに、よくはなしをすること。  など
 くためには、被害ひがいしゃ自身じしん意識いしき変革へんかく必要ひつようである。
 ・あなたは、敬意けいいある人間にんげん関係かんけいをつくる権利けんりがあります。
 ・したしいひと問題もんだいある行動こうどうについて、あなたに責任せきにんはありません。
 ・あなたは「おこ権利けんり」をもっています。
 ・あなたは交渉こうしょうする権利けんりがあります。   など(p90〜93)



だいV 家庭かていない暴力ぼうりょくの“加害かがいしゃ”とはだれか?−加害かがいしゃ研究けんきゅう対策たいさく

 だいしょう 加害かがいしゃ研究けんきゅう−「バタラー」とは、どんなおとこなのか?

加害かがいしゃ研究けんきゅうとは?
 米国べいこくでは「ドメスティック・バイオレンス」対策たいさくがある程度ていどすすんでいるため、加害かがいしゃ研究けんきゅうもかなりおこなわれている。(p96)
 ダットンの<家庭かていない暴力ぼうりょく>の加害かがいについての3つの説明せつめい(p96〜100)
 ・医学いがくてき説明せつめい 
 「のうがダメージをけている」というかんがかたである。しかし、きずついた神経しんけい組織そしきつ ひとが、なぜつまだけを、しかもプライベートな場所ばしょのみで攻撃こうげきするのかはうまく説明せつめいでき ない。
 ・フェミニストてき説明せつめい 
 男性だんせい一般いっぱんてき横暴おうぼうさを強調きょうちょうする見方みかたである。暴力ぼうりょくは、ちからのヒエラルキーのなかで、男性だんせい がその頂点ちょうてんにいるという状態じょうたい維持いじさせる。男性だんせいつま虐待ぎゃくたいする理由りゆうは、個人こじんにではな く社会しゃかいにあるという見方みかたである。これにたいし、ダットンは、フェミニストてき説明せつめい家庭かてい うち暴力ぼうりょく社会しゃかいてき背景はいけいたいする指摘してきとしてはきわめて重要じゅうようであるが、なぐ男性だんせいなぐらない 男性だんせいがいることを説明せつめいできないとっている。
 ・社会しゃかいてき学習がくしゅう 
 社会しゃかいてき学習がくしゅうろんもとでは、男性だんせい自分じぶん得意とくい暴力ぼうりょくとおして女性じょせいつ。男性だんせいたちひとつの 優位ゆういせい、すなわち肉体にくたいてき優位ゆういせいたよる。社会しゃかいてき学習がくしゅうろんは、つま虐待ぎゃくたいかんするほかの解釈かいしゃく よりもかりやすい。行動こうどうにおけるそれぞれの多様たようせい説明せつめいしているからである。

★「バタラー」の共通きょうつう特性とくせい
 「バタラー」とはなぐおとこことである。その特性とくせいつぎとおりである。(p100〜101)
 ・バタラーは家庭かていのトラブルの責任せきにんを、なぐ対象たいしょうとなる相手あいてかって転嫁てんかする。
 ・バタラーは、相手あいて自律じりつせい否定ひていする傾向けいこうがある。
 ・バタラーはつま1人ひとり人間にんげんとしてみるのではなく、シンボルとして傾向けいこうがある。
 ・バタラーは、結婚けっこんして生活せいかつし、夫婦ふうふでいることへの期待きたい固執こしつしている。
 ・バタラーはつま自分じぶんたいして魅力みりょくかんじ、必要ひつようとしているとしんじている。
 ・バタラーは夫婦ふうふ関係かんけいにおいて、親密しんみつ関係かんけいきずけないか、またはいがんだ親密しんみつせいしかきずけ けない。

★「虐待ぎゃくたいしゃシンドローム」
 バタラーは、虐待ぎゃくたい暴力ぼうりょくによって、なんらかの感情かんじょうてき感覚かんかくてき自己じこ統一とういつせいたしているとする「虐待ぎゃくたいしゃシンドローム」がある。(p102)
 ・暴力ぼうりょく虐待ぎゃくたいとおして、自律じりつせい感情かんじょうたしている。
 ・防衛ぼうえいするという感覚かんかくたしている。
 ・確認かくにん賞賛しょうさんという感情かんじょうたしている。
 ・他社たしゃ自己じこ内部ないぶんでしまう勝手かって感覚かんかくをもっている。

★「中和ちゅうわ」の技術ぎじゅつ
 バタラーは、<家庭かていない暴力ぼうりょく>を正当せいとうする社会しゃかい意識いしきによりかかって、暴力ぼうりょく責任せきにん無視むしする。これを「中和ちゅうわ技術ぎじゅつ」とんでいる。これをもちいるさいおとこらしさイメージが活用かつようされ、男性だんせいせい役割やくわり家庭かていない暴力ぼうりょく肯定こうていする関係かんけいが、いわけをるとかる。(p103〜104)

日本にっぽん離婚りこん裁判さいばんにおける「バタラー」のタイプ
 日本にっぽんのドメスティック・バイオレンス加害かがいしゃ特性とくせい(p104〜105)
 ・つまへの依存いぞん欲求よっきゅう非常ひじょうつよいタイプ。
 ・家族かぞく以外いがい対人たいじん関係かんけい苦手にがてで、言葉ことばによるコミュニケーションが下手へたなために暴力ぼうりょくを るうタイプ。
 ・そだった環境かんきょうにおいて暴力ぼうりょく身近みぢか経験けいけんしてきたために、暴力ぼうりょくるうことへの抵抗ていこうかん がもともととぼしいタイプ
 ・アルコールや薬物やくぶつへの依存いぞんともかかわって、病的びょうてき人格じんかくあらわれとして暴力ぼうりょくるうタ イプ

★ジキルとハイドてきめんせい
 カリフォルニアしゅうにある、おもにバタード・ウーマンを支援しえんする市民しみん団体だんたい調査ちょうさした加害かがいしゃ実態じったい以下いかのようなものである。(p105)
 ・自己じこ評価ひょうかひく
 ・病的びょうてき嫉妬しっとしんつよい。
 ・自分じぶん行動こうどう他人たにんのせいにする。
 ・ジキル博士はかせとハイドてき人格じんかく      など
 また、暴力ぼうりょくんだ個人こじん問題もんだいであり、精神せいしん異常いじょうのある男性だんせい問題もんだいだという認識にんしき強調きょうちょうする立場たちばと、暴力ぼうりょく背景はいけいにある男女だんじょ関係かんけい上下じょうげ関係かんけい考慮こうりょれるべきだという認識にんしきふたつがある。(p106)

★「世代せだいあいだ連鎖れんさ
 バタラーの特性とくせいかんして、暴力ぼうりょくの「世代せだいあいだ連鎖れんさ」があるとわれている。バタラーのおおくは、そだった家族かぞく暴力ぼうりょく虐待ぎゃくたいけたことのあるひとである。しかし、なぐられた子供こどもかならなぐ大人おとなになるわけではなく、男女だんじょあいだ夫婦ふうふあいだで、暴力ぼうりょく虐待ぎゃくたい成立せいりつし、許容きょようされていく過程かていで、その意味いみづけがどもに内面ないめんされていく。(p107〜109)

加害かがいしゃのタイプ
 ホルッワース=ムンローとスチュアートは加害かがいしゃを3つのタイプにけている。(p109〜111)
 ・家族かぞくなかでだけ暴力ぼうりょくるう男性だんせい  つまとのコミュニケーション・スキルのまずしさ、つまへの依存いぞんたかさやつま占有せんゆうしていたいという感情かんじょう衝動しょうどうさえること困難こんなん、さらには、拒否きょひされたり、見捨みすてられることおそれる感情かんじょうなどをっている。
 ・家族かぞくそとでも、つまり一般いっぱんてき暴力ぼうりょくるう男性だんせい  つね攻撃こうげきてきで、衝動しょうどうてきで、はん社会しゃかいてき行動こうどうをともない、そだった家庭かていにおいて暴力ぼうりょく体験たいけんしている。また性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょう意識いしきつよ保守ほしゅてきなタイプである。
 ・人格じんかく障害しょうがいてきであり、精神せいしん病理びょうりてき背景はいけいがあり暴力ぼうりょくるう男性だんせい  両親りょうしんからのネグレクトや暴力ぼうりょくてき虐待ぎゃくたい経験けいけんしている。また、適切てきせつ愛着あいちゃくおやとのあいだ形成けいせいしておらず、女性じょせいたいしても敵対てきたいてき意識いしき態度たいどしめす。


 だいしょう 加害かがいしゃ対策たいさく米国べいこくでの実践じっせん

米国べいこくでの心理しんり教育きょういくプログラムの研究けんきゅう
米国べいこくでは、家庭かていない暴力ぼうりょく加害かがいしゃ対策たいさくつくられており、家庭かていない暴力ぼうりょく犯罪はんざいとしてとらえる体制たいせいがあるので、その結果けっか、バタラーが加害かがいしゃされる。その制度せいどのひとつが、加害かがいしゃけの「心理しんり教育きょういくプログラム」である。(p116〜117)

★「ダイヴァージョン・プログラム」(刑罰けいばつ代替だいたいさく)としての加害かがいしゃ心理しんり教育きょういくプログラム
 ダイヴァージョン・プログラムは、一定いってい条件じょうけんつきで、「保護ほご観察かんさつ処分しょぶん」となった加害かがいしゃ暴力ぼうりょく克服こくふくするためにうける教育きょういくプログラムである。ダイヴァージョン・プログラムは加害かがいしゃ社会しゃかいへのさい統合とうごう目的もくてきとしている。うまく機能きのうするためには、社会しゃかいない処遇しょぐう(コミュニティ・トリートメント)の条件じょうけん整備せいびされなければならない。もし、社会しゃかいてき処遇しょぐうがなければ、統制とうせい対象たいしょうとなっていなかった領域りょういきまでをも社会しゃかい統制とうせいのネットワークに機能きのうたしてしまう。国家こっかをとおして家族かぞくへの介入かいにゅうおこなわれることになる。だから明確めいかくなルール大切たいせつである。(p118〜120)

★DV加害かがいしゃプログラムの基準きじゅん
 <ドメスティック・バイオレンス>にかんして、「カリフォルニアしゅう刑法けいほう」はDV加害かがいしゃプログラムをさだめている。法律ほうりつもとづき、判決はんけつくだされ、最終さいしゅうてきには、罰金ばっきん懲役ちょうえき、DV加害かがいしゃプログラムでのカウンセリング参加さんか地域ちいき奉仕ほうし活動かつどうなどの判決はんけつがいいわたされる。プログラム期間きかんちゅう加害かがいしゃは、いじめ・いやがらせをする、攻撃こうげきする、なぐる、ののしる、きまとう、性的せいてき暴力ぼうりょくるうなど、被害ひがいしゃ平穏へいおんさまたげるいっさいの行動こうどうきんじられる。期間きかんちゅうに、こうしたなんらかの行為こういがあれば裁判さいばんのシステムへともどされることになる。(p120〜121)

★カリフォルニアしゅう刑法けいほうにおける「ダイヴァージョン・プログラム」の規定きてい
 カリフォルニアしゅう刑法けいほうだい1203・097じょうでは、こうしたドメスティック・バイオレンスの加害かがいしゃへの保護ほご観察かんさつ処分しょぶんとしての「ダイヴァージョン・プログラム」の内容ないよう詳細しょうさいさだめている。
 ・最低さいてい36ヶ月かげつ保護ほご観察かんさつ
 ・さらなる暴力ぼうりょく脅迫きょうはく、ストーキング、性的せいてき暴力ぼうりょく、ハラスメント、排除はいじょをしないという条件じょうけんで、一定いってい要件ようけんたす場合ばあいに、ダイヴァージョンとする。
 「ダイヴァージョン・プログラム」は、講義こうぎ、グループ討論とうろん、カウンセリングなどをふくめたDV加害かがいしゃプログラムとすることとされている。プログラムの目標もくひょうは、家庭かていない暴力ぼうりょくめることである。(p122〜123)

★DV加害かがいしゃプログラムの具体ぐたいれい
 カウンセラーのダニエル・ソンキンはプログラムには「いかりのマネジメントやコミュニケーション・スキルの獲得かくとく」が必要ひつようだという。そして、たんおとこらしさ役割やくわり直結ちょっけつさせて男性だんせい暴力ぼうりょくとらえることは短絡たんらくてきだという。ひろ男性だんせいをして暴力ぼうりょくという行動こうどうをとらせしめる「家族かぞくという関係かんけい」の心理しんりがくてき把握はあくもとづくプログラムの構築こうちく必要ひつようせいかれ主張しゅちょうしている。
 男性だんせいせい家族かぞく役割やくわりいかりマネジメントという3つの、それぞれについての変容へんよううながすために効果こうかてきなカウンセリングの手法しゅほうとグループワークをわせてプログラムが開発かいはつされていく。具体ぐたいてきには、交流こうりゅう分析ぶんせきによるコミュニケーション・パターンのゆがみや特性とくせい理解りかい、エゴグラム(自己じこ性格せいかく特性とくせい把握はあくするための心理しんりテスト)による自己じこ洞察どうさつ、ロールプレイング(役割やくわり演技えんぎして多用たよう表現ひょうげん手段しゅだんける体験たいけん学習がくしゅう手法しゅほう)によるコミュニケーション・スキルの学習がくしゅうをとおした行動こうどう変容へんようなどである。(p125〜126)

★「マンアライブ」(カリフォルニアしゅう)のプログラム
 「マンアライブ」はサンフランシスコ周辺しゅうへん活動かつどうする営利えいり団体だんたいである。「ドメスティック・バイオレンス・ダイヴァージョン・プログラム」を提供ていきょうしている。(p127)
 マンアライブがDV加害かがいしゃプログラムに必要ひつようだとかんがえることは、だい1におとこらしさの問題もんだい行動こうどうというただしいメッセージを加害かがいしゃおくること、だい2に本当ほんとうのリハビリテーションの機会きかいあたえることである。(p129)
 プログラムの具体ぐたいてき内容ないよう(p130)
 ・パート1 「一人ひとりひとりの暴力ぼうりょく克服こくふく
   だい1段階だんかい 「わたし暴力ぼうりょくめる」
   だい2段階だんかい 「アサーション・トレーニング」(相手あいて批判ひはんしたり自分じぶんいつわったりしないコミュニケーションの仕方しかたまなぶトレーニング)
   だい3段階だんかい 「責任せきにんある親密しんみつさの回復かいふく
 ・パート2 「コミュニティへのはたらきかけ」
   だい4段階だんかい 「ホットライン。トレーニング」(電話でんわ相談そうだんとして活動かつどうする)
   だい5段階だんかい 「DV加害かがいしゃ教室きょうしつでの活動かつどう」(教室きょうしつのプログラム進行しんこうをサポートする活動かつどう)
   だい6段階だんかい 「コミュニティへのはたらきかけとコミュニティでの教育きょういく活動かつどう」(高校こうこう刑務所けいむしょかけて体験たいけんかたることや、ドメスティック・バイオレンス関連かんれんあつまりではな活動かつどう)
 パート1は義務ぎむであり、パート2は任意にんい参加さんかである。(p131)
 マンアライブのみは、年々ねんねん教室きょうしつすうえ、刑務所けいむしょ少年院しょうねんいんでの常習じょうしゅうしゃけプログラムや青少年せいしょうねん予防よぼうプログラムとして拡大かくだいされている。(p132)

★「メンズリソース・センター」(マサチュセッツしゅう)のプログラム
 「メンズリソース・センター」は「MOVEプログラム(暴力ぼうりょく克服こくふくする男性だんせいのためのプログラム)」を実施じっししている。
 プログラム参加さんかしゃは、毎日まいにちいか日誌にっし」と「1週間しゅうかん感情かんじょうコントロール記録きろく」をしるすことが義務ぎむである。メンズ・リソースセンターは「チェックリストをとおしてかんがえるみずからの行動こうどう」を重視じゅうしする。(p133〜134)
 「MOVEプログラム」参加さんかしゃは2種類しゅるいいる。(p135)
 ・自発じはつてき参加さんかしゃ(自分じぶん暴力ぼうりょくなや男性だんせいは、家族かぞくすすめや自発じはつてき意志いしにより任意にんい参加さんかできる) 20週間しゅうかんのプログラム
 ・裁判所さいばんしょ命令めいれいによる参加さんかしゃ 40週間しゅうかんのプログラム
 最終さいしゅうてき目標もくひょう(p136)
 ・ドメスティック・バイオレンスとはなにか? についての基本きほんてき教育きょういくおこなうこと
 ・暴力ぼうりょくてき行動こうどうめるための戦略せんりゃく提供ていきょうすること
 ・おとこらしさの態度たいどおもみを変化へんかさせること
 ・親密しんみつ関係かんけいなかでの平等びょうどうとはなにか? についてかんがえさせること

★「エマージュ」(マサチュセッツしゅう)のプログラム
 「初心者しょしんしゃクラス」は2あいだで、「セカンドステージ」は11かげつから24かげつあいだにわたる。
 プログラムは、男性だんせい特有とくゆう暴力ぼうりょく態度たいど意識いしき克服こくふくすることを目的もくてきにしている。その態度たいど意識いしきとは、だい1に否認ひにんだい2に過小かしょう評価ひょうかだい3にはぐらかしである。(p136〜137)
 プログラムは、パートナーへの暴力ぼうりょく影響えいきょう短期たんき長期ちょうきなかなにをすればいいのかをかんがえることや、コミュニケーションの仕方しかたまなぶ。(p138〜139)

★DV加害かがいしゃプログラムの特徴とくちょう
 うえの3つのプログラムに共通きょうつうする特徴とくちょう(p140〜141)
 ・プログラムがマンツーマンの一般いっぱんてきなカウンセリングではないこと。明確めいかくに「おとこらしさと暴力ぼうりょく」に焦点しょうてんわせている。
 ・DV加害かがいしゃプログラムの定義ていぎひろいこと。物理ぶつりてき暴力ぼうりょく言葉ことばによる暴力ぼうりょく感情かんじょうめんでの暴力ぼうりょく性的せいてき暴力ぼうりょく、ネグレクト行為こういなどがある。
 ・教育きょういくプログラムとしててられているということ。
 ・たん家族かぞく関係かんけい調整ちょうせいでもなく、当該とうがい男性だんせい個人こじん精神せいしん保健ほけんじょう問題もんだいでもないという性格せいかくけを正確せいかくにしていること。

おとこらしさのハビットの変革へんかくー4つのポイント
 DV加害かがいしゃプログラムは、おとこらしさのハビットのくみえを目標もくひょうとしている。おとこらしさの行動こうどう様式ようしきえられる、後天的こうてんてき獲得かくとくしたものだというかんがかた前提ぜんていにしている。(p144)
 暴力ぼうりょくてき行動こうどうえるさいの4つのポイント(p145)
 ・なに暴力ぼうりょくなのか、被害ひがいしゃ暴力ぼうりょく誘発ゆうはつしたのではないというてんでの「認知にんちゆがみを克服こくふくすること」
 ・いかりの感情かんじょうだけが肥大ひだいしていることを自覚じかくし、感情かんじょうめんでのバランスの回復かいふく目指めざした「感情かんじょうゆたかさをもどすこと」
 ・それを表現ひょうげんすることの大切たいせつ
 ・いかりの感情かんじょうを”なぐる”という行動こうどうむすびつけないことの学習がくしゅうというてんでの「行動こうどう変容へんよううながすこと」
 効果こうかてきなDV加害かがいしゃプログラムには、この4つのポイントが不可欠ふかけつである。


 だいしょう 日本にっぽんでの加害かがいしゃ対策たいさく実践じっせん

日本にっぽん社会しゃかい問題もんだいへ−加害かがいしゃけのみへ
米国べいこくでのみとその効果こうかまえ、日本にっぽん社会しゃかいにおいて加害かがいしゃ対策たいさくかんがえるうえ重要じゅうようなことは、ドメスティック・バイオレンス加害かがいしゃのためのほう制度せいど整備せいび現行げんこうほう制度せいど活用かつようした対策たいさく、ダイヴァージョンてきなプログラムの実施じっしなどの側面そくめんとあわせて、事後じごてき措置そちだけではなく、予防よぼうてきなプログラムの実施じっしである。当面とうめんは、「家庭かていない暴力ぼうりょく犯罪はんざい」という視点してんでのみが必要ひつようである。さらにそのうえで、「家庭かていない暴力ぼうりょく予防よぼう防止ぼうし」、そして「家庭かていない暴力ぼうりょく克服こくふくするための教育きょういくプログラムの参加さんか」ということをまとめた総合そうごうてき加害かがいしゃ対策たいさくてられるべきである。(p147〜148)

おとこのための暴力ぼうりょくグループワーク
 1999ねん5がつから6がつにかけて「おとこ暴力ぼうりょくグループワーク」としょうして、米国べいこくのDV加害かがいしゃプログラムをもとにしたプログラムで、グループワークをおこなった。このグループワークでは、男性だんせいのコミュニケーションの仕方しかた改善かいぜんする効果こうか期待きたいしている。(p148〜149)
 これは、ドメスティック・バイオレンスの加害かがいしゃ特性とくせい依拠いきょしたグループワークである。自発じはつてき暴力ぼうりょくづいてあつまる男性だんせいたちが、すくなからず存在そんざいしている。もちろん、深刻しんこく暴力ぼうりょくについては刑罰けいばつ対応たいおうすべきだろう。しかし、刑罰けいばつ論理ろんりよりも教育きょういく論理ろんり有効ゆうこうそうもある。このみは、こうしたそう対象たいしょうとしている。(p152)

暴力ぼうりょくグループワークの内容ないよう
 おとこのための暴力ぼうりょくグループワークは、しゅうに1かい、6週間しゅうかんのプログラムである。
 各回かくかいのテーマ(p152)
 だい1かい 出会であいのグループワーク−おたがいをる、自分じぶん
 だい2かい 感情かんじょうつたえる(その1)−自分じぶん感情かんじょう
 だい3かい 感情かんじょうつたえる(その2)−感情かんじょう言葉ことばあらわ
 だい4かい 感情かんじょうつたえる(その3)−見方みかたえる
 だい5かい 行動こうどうえる−暴力ぼうりょくるわずにらす
 だい6かい あたらしい自分じぶんへーゆたかなコミュニケーション能力のうりょくやしな
 まず、はじめての男性だんせい同士どうしが、はないながらグループを形成けいせいしていく。毎回まいかいおなじように感情かんじょうあらわ言葉ことばい、1週間しゅうかん暴力ぼうりょくがあったのかどうかの反省はんせいおこない、いかりの感情かんじょう焦点しょうてんをあわせて自己じこかたる。そのきっかけとなる多様たようなワークをれながら進行しんこうする。(p153〜156)
 そして、「エゴグラム」(自分じぶん性格せいかく特性とくせいるための質問しつもんこたえていく検査けんさ道具どうぐ)を使つかい、自己じこ分析ぶんせきおこなう。また、夫婦ふうふ会話かいわ想定そうていして、暴力ぼうりょくにいたるようなコミュニケーションとそれを回避かいひするような練習れんしゅうおこなう。「アサーション・トレーニング」である。とにかく気持きもちをかたう「やりとり」のコミュニケーションを取得しゅとくしてもらう。(p160)
 それぞれのワークは単純たんじゅん行動こうどうであるが、おとこ暴力ぼうりょくということに焦点しょうてんわせて相互そうご関連かんれんがつけられているので、参加さんかしゃ日常にちじょう生活せいかつなか自己じこ見出みいだし、暴力ぼうりょく体験たいけん客観きゃっかんてきつめなおす。(p160〜161)

暴力ぼうりょくグループワーク参加さんかしゃ感想かんそう
 このグループワークにあつまったひと共通きょうつうしているのは、男性だんせいであり、暴力ぼうりょくなやみをかかえているということだけである。
 感想かんそういちれい(p161〜164)
 ・安定あんていられたようながする。
 ・言葉ことば表現ひょうげんして、暴力ぼうりょくなしでケンカができるように、ちょっとづつわってきた。参加さんかしてよかった。
 ・自分じぶんなかにあるものが原因げんいんづいた。した自分じぶんもどりたい。

暴力ぼうりょくグループワークの仮説かせつ
 おとこのための暴力ぼうりょくグループワークで導入どうにゅうされている仮説かせつは4つある。(p164〜165)
 @認知にんちかんして。ドメスティック・バイオレンスについて、夫婦ふうふゲンカではなくて<家庭かていない暴力ぼうりょく>であるという認識にんしき獲得かくとくする。
 A感情かんじょうかんして。喜怒哀楽きどあいらくなどの自分じぶん感情かんじょうる。とくいかりの感情かんじょうのパターン。
 B表現ひょうげんかんして。それを、言葉ことば文字もじなど、なにかで表現ひょうげんしてみる。
 C行動こうどうかんして。具体ぐたいてき行動こうどう変化へんかむすびつける。タイムアウトほう電話でんわ外出がいしゅつはないなどのだつ暴力ぼうりょくのスキルと思想しそう行動こうどうにつける。
 この4つの課題かだいそくして、男性だんせいたちの暴力ぼうりょくにいたるコミュニケーションの仕方しかたづき、変容へんよううながし、相互そうごかたい、自分じぶん暴力ぼうりょく時間じかん空間くうかん共有きょうゆうする。
 
加害かがい
 グループワークにはつねかたいがある。おそらくは、他人たにんまえではじめてかた暴力ぼうりょく現実げんじつである。それぞれのかたりの背景はいけいにある夫婦ふうふあいだ家族かぞくあいだ葛藤かっとう暴力ぼうりょく現実げんじつ圧倒あっとうされながらも、参加さんかしゃたちは自分じぶん姿すがたかさねながら2暴力ぼうりょくをふるわないことをちかう。いままでとはことなる時間じかんながれ、暴力ぼうりょくめることができたという男性だんせいがほとんどであった。(p167)

男性だんせいせい役割やくわり変化へんか
 おとこのための暴力ぼうりょくグループワークで、男性だんせい感情かんじょう吐露とろし、事実じじつ正確せいかく見極みきわめ、他人たにんかたい、傾聴けいちょうしあい、暴力ぼうりょく原因げんいん他人たにん転嫁てんかしないというコミュニケーション環境かんきょうをおくことにより、参加さんかしゃたちの男性だんせいせい役割やくわり変化へんかする。(p168) 
 男性だんせいも、社会しゃかいてき構築こうちくされた男性だんせい役割やくわりでがんじがらめにされている。人生じんせいのぼ調子ちょうしのときは、男性だんせい役割やくわり上昇じょうしょう志向しこう相乗そうじょう効果こうか発揮はっきするが、挫折ざせつ体験たいけんさいに、男性だんせい役割やくわりはマイナス効果こうかとなる。きずついたおとこらしさをクールダウンさせる方法ほうほうがなかった。そして、暴力ぼうりょく虐待ぎゃくたいなどにはしっていた。もちろん、きちんと挫折ざせつい、なにとか自分じぶんいをつけながら、自分じぶんらしくきていく男性だんせいおおい。そんなおとこたちを支援しえんするみが暴力ぼうりょくグループワークである。(p173〜174)


 だいしょう 男性だんせい研究けんきゅうからの家庭かていない暴力ぼうりょくへのアプローチ 

★ジェンダーと言葉ことば
 男性だんせいたちは暴力ぼうりょくてき行動こうどうを、より平和へいわてきへと変容へんようさせることをもとめられる。グループワークでは、あたらしい言葉ことば感情かんじょう表現ひょうげん仕方しかたにつけることが目標もくひょうとして設定せっていされている。そうした自発じはつてき意識いしき変容へんようかくにあるのは、“ジェンダー”意識いしきそのものである。男性だんせいたちは性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょうそくした意識いしき家族かぞくかん男女だんじょかん変容へんようせまられる。(p175)

おとこたちのコミュニケーション問題もんだい
 男性だんせいは、性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょう意識いしきをもち、大黒柱だいこくばしらてき役割やくわりにない、密室みっしつした家庭かていないでの関係かんけいじており、おとこらしさの自尊心じそんしんとりでとして家庭かていがある。なやみをせたり、人前ひとまえいたりして、自分じぶん感情かんじょうをきちんと表現ひょうげんすることができない。わか男性だんせいたちの「むかつく、いらいらする」などの感情かんじょうのありかた危険きけん行動こうどうむすびつきやすい。男性だんせいたちは、あたりまえのようにおとこらしさのアイテムが提供ていきょうすると規制きせいそくしてい、はなし、かんじる。その背景はいけいには生物せいぶつがくてきな“オス”を“男性だんせい”に仕立したてていく社会しゃかい制度せいどがあるし、それがもとめる行動こうどう様式ようしきやパターンがあり、なかには暴力ぼうりょく親和しんわてき場合ばあいもある。(p178)

おとこらしさと男性だんせい役割やくわり研究けんきゅう必要ひつようせい
 男性だんせいせいにかかわる社会しゃかい病理びょうりという視点してんもジェンダー研究けんきゅうさいには必要ひつようである。支配しはいするせいである矛盾むじゅん困難こんなん病理びょうり責任せきにんかたることをとおして、肯定こうていてき男性だんせいせいのありかたしめさなければならない。(p179)
 DV加害かがいしゃプログラムのおおくは、ジェンダー構造こうぞう内面ないめんした男性だんせいせい役割やくわり暴力ぼうりょくてき行動こうどうとの親和しんわせいいなおすことに力点りきてんいている。

★「“おとこらしさ”をにくんで“おとこ”をにくまず」
 生物せいぶつがくてき男性だんせいと、ジェンダーてき男性だんせいせいもしくは男性だんせい役割やくわりとは区別くべつして把握はあくしておくことが必要ひつようである。(p180)
 男性だんせいおとこらしさが問題もんだいになる背景はいけいは2つある。(p180)
 ・女性じょせいがくのインパクト 女性じょせいという差別さべつされたせいからの告発こくはつけ、男性だんせいという差別さべつするせい反省はんせいせまられる。「加害かがいしゃとしての男性だんせい」という発想はっそうである。
 ・おとこらしさそれ自身じしんをあつかい、せいとしては、男性だんせい抑圧よくあつされたせいであるというてん強調きょうちょうするかんがかたである。「被害ひがいしゃとしての男性だんせい」という発想はっそうである。

★メンツとは?
 おとこらしさ意識いしきわれるじょうとして、家族かぞくがある。男性だんせい育児いくじ家事かじという他人たにんをケアする行動こうどうとおして、自分じぶんなか女性じょせいてき役割やくわりとされる側面そくめん意識いしきする。子供こども中心ちゅうしん生活せいかつ対応たいおう仕方しかた、つまり立場たちばとなる。かつて自分じぶん母親ははおや自分じぶんたいしてしていたのとおなじような行動こうどうをすることに、男性だんせい育児いくじ家事かじをすることをいやがる根本こんぽんがある。おんならしくないことがおとこらしさだとすれば、それにさからわなければならない。これが“メンツ”の問題もんだいである。(p184)


 だいしょう メンズサポート活動かつどうについて

★「メンズサポートルーム」へ
 暴力ぼうりょくグループワークをとおして、サポートすることは「加害かがいしゃ」(DVの加害かがいしゃであることを自覚じかくすること)を支援しえんすることがもっとも大事だいじなことだとかんがえている。いかりをしずめ、暴力ぼうりょくめさせ、必要ひつよう責任せきにんけ、離婚りこん養育よういくりょう慰謝いしゃりょう請求せいきゅうおうじ、失業しつぎょうおそれと長時間ちょうじかん労働ろうどうによる疲労ひろうにも目配めくばりしながら、男性だんせい役割やくわり暴力ぼうりょく攻撃こうげきせい連鎖れんさるという、やっかいなサポートである。(p186)
 もうすこひろ男性だんせい役割やくわりかんがえていくと、なにをサポートすればいいのかがえてくる。(p187)
 ・男性だんせい役割やくわりのストレス。とく仕事しごとめんでのストレスがおおきい。
 ・変化へんかする家族かぞく生活せいかつ親密しんみつ関係かんけいにおける問題もんだい離婚りこん直面ちょくめんする感情かんじょうてき問題もんだい父親ちちおや役割やくわりのありかたなどである。
 ・男性だんせい問題もんだいという意味いみづけ。とくに、思春期ししゅんきから老年ろうねんのライフサイクルに対応たいおうした男性だんせい問題もんだいへの支援しえん体制たいせいつくること。
 ・具体ぐたいてき対人たいじん関係かんけいスキルやコミュニケーション能力のうりょく形成けいせいかんする必要ひつようだということ。

★「臨床りんしょう社会しゃかいがく」という見方みかた
 <ドメスティック・バイオレンス>や<ども虐待ぎゃくたい>は、社会しゃかいてき側面そくめん前面ぜんめんてきて、個人こじんたい個人こじんのカウンセリングや臨床りんしょう心理しんり実践じっせんではフォローできないものがたくさんある。(p188)
 自分じぶん学習がくしゅうしてきた暴力ぼうりょくかえすことなく、暴力ぼうりょく克服こくふくするためのさい学習がくしゅう提供ていきょうする。社会しゃかい全体ぜんたいには男性だんせい問題もんだい主張しゅちょうする。そして、個別こべつのグループワークや相談そうだんとおして、一人ひとりひとりの内側うちがわにも自己じこつめる物語ものがたりつくす。こうしておとこらしさからの自由じゆうという洞察どうさつ可能かのうになる援助えんじょモデルを規程きていしてみをすすめている。(p190)

おとこのための対人たいじん援助えんじょ講座こうざ
2000ねん3がつ対人たいじん関係かんけいなやおとこたちに「おとこのための対人たいじん援助えんじょ講座こうざ」という6週間しゅうかんのプログラムを実施じっしした(暴力ぼうりょく焦点しょうてんにしたものではない)。自分じぶんの“ライフイベント(挫折ざせつ体験たいけん)”をかえりながら、自分じぶん感情かんじょうづいていくワークを実施じっしした。対人たいじん関係かんけいなやむというのは自分じぶんのことでなやんでいるわけである。ひととの関係かんけいがうまくいかないのは、自分じぶんなかいをつけていないものがたくさんあることだと理解りかいがすすむ。(p191)
 おとこたちが“おとこらしさ”という意識いしき呪縛じゅばくされることなく、そしてなによりも暴力ぼうりょくなしでらす方法ほうほうけるためのサポートが、メンズサポートの内容ないようだとかんがえている。(p192)
資料しりょう「DV防止ぼうしへのほう政策せいさく提言ていげん
 神戸こうべ長谷川はせがわ京子きょうこ弁護士べんごし中心ちゅうしんになって活動かつどうしている「DV防止ぼうしほう研究けんきゅうかい」が体系たいけいてき政策せいさく提言ていげんおこなっている。提言ていげん全体ぜんたい構想こうそうは、以下いかのとおりである。(p193〜199)
 はじめに
 だい1しょう DVの構造こうぞう対応たいおう基本きほん方針ほうしん
 だい2しょう DV犯罪はんざいについての処罰しょばつ規定きてい
 だい3しょう 保護ほご命令めいれい手続てつづき
 だい4しょう 警察けいさつ役割やくわり刑事けいじ司法しほう
 だい5しょう 婚姻こんいん離婚りこんほう改正かいせい
 だい6しょう 被害ひがいしゃ子供こども避難ひなん援助えんじょ
 だい7しょう 被害ひがいしゃ子供こども健康けんこう回復かいふく生活せいかつ再建さいけんへの援助えんじょ
 だい8しょう 加害かがいしゃさい教育きょういくプログラムについて
 だい9しょう DV防止ぼうし推進すいしんのための体制たいせい



だいW 家族かぞくという関係かんけいせいあい暴力ぼうりょく
 だいしょう 私的してき領域りょういきとしての家族かぞく

家族かぞくをめぐる緊迫きんぱくしたドラマ
 「家族かぞくあぶない」という安易あんい一般いっぱんは、いたずらに不安ふあん増幅ぞうふくさせるだけである。しかし、家族かぞく関係かんけい変化へんか時期じきにあるということ、あるいは、家族かぞくをめぐる社会しゃかい制度せいど意識いしき変化へんかをしているという実感じっかんいなめない。げんに、個々ここ問題もんだい対応たいおうして、社会しゃかい制度せいど改変かいへんされている。「成年せいねん後見こうけんほう」「児童じどう虐待ぎゃくたい防止ぼうしほう」「ストーカー規制きせいほう」が施行しこうされ、DVについては「配偶はいぐうしゃからの暴力ぼうりょく防止ぼうしおよび被害ひがいしゃ保護ほごかんする法律ほうりつ」が2001ねん4がつ国会こっかい可決かけつされた。これらはライフスタイルの変化へんか対応たいおうした社会しゃかい制度せいどのデザインのつかまつなおしであり、ここにはあきらかに家族かぞく親密しんみつ私的してき関係かんけいをめぐる位相いそう転換てんかんられる。(p203)
 家族かぞくという私的してき領域りょういきは、現在げんざい現代げんだい社会しゃかい病理びょうり現象げんしょう争点そうてん”として注目ちゅうもくされているとえる。こうした問題もんだい構造こうぞうをもつ主題しゅだいは、さらに拡大かくだいしつづけるだろう。筆者ひっしゃはこれを、「家族かぞくをめぐる緊迫きんぱくのドラマ」とんでいる。(p204)

家族かぞくという関係かんけいせい特徴とくちょう−「感情かんじょう共同きょうどうたい」としての近代きんだい家族かぞく
 近代きんだい家族かぞくは、家族かぞく機能きのう類型るいけいから説明せつめいするべきではなく、情緒じょうちょてき結合けつごう親密しんみつさ・プライバシーなどをもとにした特殊とくしゅな「感情かんじょう共同きょうどうたい」としてとらえるべきである。(p207)
 家族かぞく感情かんじょうは3つの側面そくめんからつ。男女だんじょ関係かんけい母子ぼし関係かんけい家族かぞくあい創造そうぞうである。しかし、この家族かぞく内側うちがわには、感情かんじょうだけできずなむすばなければならないという不安定ふあんていさがある。この不安定ふあんていさがらぐと、個別こべつ出来事できごとがストレスげんになり、家族かぞく危機ききへといたる契機けいきになりやすい。(p208〜210)

舞台裏ぶたいうらとしての家族かぞく感情かんじょう解放かいほう
 社会しゃかい生活せいかついとなむために必要ひつよう能力のうりょくひとつは、おおやけみずからの感情かんじょうをコントロールできることである。感情かんじょうをコントロールするということは、感情かんじょう抑制よくせいすることを基本きほんとしている。しかし、感情かんじょう抑制よくせいされるだけではストレスとしてまっていくばかりである。感情かんじょうをうまく処理しょりする仕組しくみが必要ひつようとなる。そのためのとして家族かぞくがある。私的してき空間くうかんとしての家族かぞくは、感情かんじょう直接ちょくせつすことのできる「感情かんじょう解放かいほう」である。(p210〜211)

家族かぞく空間くうかん情動じょうどうてき強度きょうど親密しんみつ
 フランスの思想家しそうか、ミシェル・フーコーは、「社会しゃかいなか私的してき領域りょういきとしての家族かぞく形成けいせいされ、その家族かぞくは、せい欲望よくぼう対象たいしょう特定とくていする制度せいどとしてある。家族かぞく情動じょうどう感情かんじょう愛情あいじょう唯一ゆいいつ可能かのうになった」、「家族かぞく空間くうかん情動じょうどうてき強度きょうど親密しんみつ」とかんがえている。つまり、フーコーのいう家族かぞく性的せいてき関係かんけい起点きてんとして、愛情あいじょう情動じょうどう感情かんじょうというものを同心円どうしんえんじょう配置はいちした私的してき空間くうかんという意味いみである。(p212〜213)

★「家族かぞく自然しぜんさ」の崩壊ほうかい
 現代げんだいにおいては、家族かぞくであることのむすびつきは情緒じょうちょてき感情かんじょうてききずななか実感じっかんされている。いきのつまるほど密着みっちゃくする。家族かぞくだからといって許容きょようされてきた、ウェットで、距離きょりかんのない、「自然しぜん共同きょうどうたい」という家族かぞくぞうではうまくいかなくなってきた。それぞれのきがいの追求ついきゅうが、「家族かぞく自然しぜんさ」の限界げんかいあるいは臨界りんかい見出みいだしたともえる。(p213〜214)

★「家族かぞく関係かんけい危機きき」という関心かんしん
 現在げんざいほど、家族かぞく関心かんしんあつまる時代じだいはない。家族かぞくという私的してき領域りょういき独自どくじなものとして存在そんざいし、他者たしゃせつけないほどである時代じだいだからこそ、家族かぞくにまつわる病理びょうりえてくる。家族かぞく関心かんしんあつまっている現在げんざいという時代じだいは、家族かぞく関係かんけい希薄きはくになりつつある、というよりもむしろ、密接みっせつになりすぎて適度てきど距離きょりかんたもてずにいる、とたほうがいいだろうとおもわれる。(p214〜215)

物語ものがたり家族かぞくしんきず
 現代げんだい物語ものがたりは、内面ないめんかっていて、人々ひとびといやしをもとめる。家族かぞくおなじような空間くうかんとして存在そんざいしている。(p216)

家族かぞくのなかの役割やくわり
 社会しゃかいなかにも家族かぞくなかにも性別せいべつ役割やくわり分担ぶんたんがある。男性だんせい家族かぞくなかで、女性じょせい人間にんげん関係かんけい調整ちょうせい役割やくわり期待きたいする。(p217)
 家庭かていない暴力ぼうりょく加害かがいしゃ被害ひがいしゃでは、あまりにもことなる世界せかいができあがっている。加害かがいしゃ行動こうどう敏感びんかんになるおびえながらきている被害ひがいしゃ。そして、おっとつまなぐってなにわるいとみとめない加害かがいしゃ。この落差らくさ意識いしきは、性別せいべつ役割やくわり分担ぶんたんのなかにある。(p218)

男性だんせい役割やくわり問題もんだいにすることの意味いみ
 集団しゅうだんとしての男性だんせい支配しはいてき地位ちいにいるので、おとこたちがこうした制度せいど内在ないざいするおとこらしさの価値かち懐疑かいぎしはじめたとき、システムはおおきく変容へんようする可能かのうせいつ。おとこらしさをなおすことは、個人こじんてき体験たいけんのレベルにとどまらず、こうしたチャンネルをとおして社会しゃかい全体ぜんたい価値かち見直みなおしにつながる。(p220)


★“支配しはいてきおとこらしさ”をかえすことの社会しゃかいてき意味いみ
 せい差別さべつ集団しゅうだんとしての男性だんせい有利ゆうりになるように仕組しくまれている男性だんせい中心ちゅうしん社会しゃかいでのおとこらしさぞうなおしは、おとこおんなおとこおとこちから関係かんけい中心ちゅうしんへのいかけとして意味いみがある。(p220〜221)
 自分じぶんらしくきたいとねがおとこささえあいが必要ひつようになる。らぎのなかのささえあいという社会しゃかいなかおおきなテーマを、おとこ問題もんだいとおしても垣間見かいまみることができる。(p221〜222)


 だいしょう 家族かぞく政策せいさく男性だんせい父親ちちおや問題もんだい

★スウェーデンにおける男性だんせい問題もんだい対策たいさく
 スウェーデンの政府せいふ委員いいんかいは、男性だんせい問題もんだい敏感びんかん家族かぞく支援しえんやシステムの改善かいぜんんできた。委員いいんかいは「男性だんせい役割やくわり変化へんかのための行動こうどうは、経済けいざい労働ろうどう市場いちば政治せいじ家族かぞくという領域りょういきにおいてこされなければならない。男性だんせい役割やくわり変化へんか個人こじんてきなレベルをえて拡張かくちょうされる、そうをなしたものとしてある。」とっている。(p224)

日本にっぽんにおける父親ちちおや政策せいさく必要ひつようせい
 かりやすい男性だんせい役割やくわり変容へんようは、父親ちちおや政策せいさくをとおしてもたらされる。無数むすう政策せいさくかんがえられ、仕事しごと時間じかんらし、家族かぞく参加さんか時間じかんえ、自分じぶんつめることができる機会きかいとなるだろう。父親ちちおや政策せいさくにより、あたらしい父子ふし関係かんけい形成けいせいされ、このことによって情緒じょうちょてききずな形成けいせいされる。(225〜226)

★さまよう父親ちちおや−「父性ふせい喪失そうしつ」という見方みかた
 男性だんせい家族かぞくへの責任せきにんうやりかたにはいくつかのアプローチがある。離婚りこん増加ぞうか非行ひこう増加ぞうか、しつけの欠如けつじょ傍若無人ぼうじゃくぶじん若者わかものたちの現実げんじつが「父性ふせい欠落けつらく」に由来ゆらいしており、いまこそ「権威けんいある不正ふせい」の回復かいふく必要ひつようであるとう。(p226)
 

じた家族かぞくひらいた家族かぞく
 現在げんざいは、人間にんげん関係かんけい希薄きはくになり、地域ちいきのなかに家族かぞくひらかれていない。(p228)
 つま母親ははおや機能きのうてき等価とうかなありかたおっと父親ちちおやにもとメルだけの男女だんじょ共同きょうどうのありかたは、たんなる役割やくわり交代こうたいでしかない。われているのは家族かぞくのありかた、つまりひらいた家族かぞくろんか、じた家族かぞくろんうことだろう。家族かぞくのまとまりを強調きょうちょうするような、じた家族かぞくろんにつながる男性だんせい家事かじ育児いくじ分担ぶんたんろん回避かいひする必要ひつようがある。(p229)

男性だんせい役割やくわり−「道具どうぐてき役割やくわり」と「表出ひょうしゅつてき役割やくわり
 父親ちちおや役割やくわり他者たしゃ比較ひかくして、ちからと「道具どうぐせい」の両方りょうほうにおいてたかく、「表出ひょうしゅつせい」においてひくい。(p229)
 道具どうぐてき役割やくわり父親ちちおや役割やくわり変容へんようするということは、男性だんせい父親ちちおやとなることをとおして表出ひょうしゅつてき役割やくわりにつける。こうした回路かいろをとおしてシステム問題もんだいへときつく。(p230)

★「おとこせい」−制度せいどつく男性だんせいせい
 日本にっぽん企業きぎょう学校がっこうのように制度せいどされた組織そしきは、おとこのライフスタイルに、競争きょうそう所有しょゆう闘争とうそうという意味いみあたえる。
 一人ひとりひとりの意識いしきえた制度せいどをとおして、オスは「おとこ」になっていく。こうした家庭かていを、制度せいどつくおとこらしさ、つまり男性だんせいは「おとこせい」であると筆者ひっしゃ造語ぞうごした。(p231)

家族かぞく政策せいさくのありかたとかかわって
 家族かぞくという意識いしき観念かんねんは、わたしたちのライフデザインをかたちづくる社会しゃかい制度せいどによって形成けいせいされている。(p232)

★「パターナリズム」の克服こくふく
 これまでの家族かぞく病理びょうり介入かいにゅうする政策せいさくてき前提ぜんていは「バターナリズム(画一かくいつ主義しゅぎ)」と特徴とくちょうづけられる。しかし、すで家族かぞく病理びょうり現実げんじつは、バターナリズムでは解決かいけつできなくなっていた。
 あたらしい家族かぞく政策せいさくは、だい1に、性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょう可能かのうかぎ縮減しゅくげんさせるとうことに力点りきてんいたものでなければならないてんだい2に、多様たよう家族かぞく病理びょうり解決かいけつできる危機きき管理かんりがた合意ごうい形成けいせいてき政策せいさくでなければならないてん、がかくとなる。(p236)

書評しょひょう紹介しょうかい

言及げんきゅう



作成さくせい鎌田かまた 弘子ひろこ
UP:20020731 REV: 20101215(青木あおき 千帆ちほ)
中村なかむら ただし  ◇暴力ぼうりょく/DV(domestic violence)  ◇フェミニズム  ◇身体しんたい×世界せかい関連かんれん書籍しょせき  ◇BOOK  ◇2002年度ねんど講義こうぎ関連かんれん 
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