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熊沢誠『リストラとワークシェアリング』
『リストラとワークシェアリング』
熊沢誠 20030418
岩波書店,213p.
本体740
円+
税
・以下紹介:立命館大学政策科学部2回生 吉本重行
第1章 労働の暗い状況のなかから
1労働をめぐる四つの現実
深刻化する失業/リストラとよばれる人減らし/執拗な長時間労働/
パートタイマーの処遇差別/もう一つの働き方への希求/本書の内容
2ワークシェアのかたち
一般的なタイプわけ/〈一律型〉と〈個人選択型〉/諸類型の評価基準
第2章 失業とリストラの今日
1失業という現実
失業の背景/失業と年齢層/新規学卒者の進路/若者の離職/中高年の失業者/
ハローワークにて/潜在失業の人々
2人減らしリストラの多様性
雇用調整の新しい段階/経営ニーズとしてのリストラ/小・零細企業での解雇/
既婚女性を退職させる圧力/非社員の「活用」/請負の新しいかたち/分社と転籍
3「希望退職」の虚実
希望退職募集のうねり/松下電器の場合/希望退職の諸条件/労働者はなぜ希望退職に応じるのか/
放逐される従業員/いじめ/孤立と孤独/人減らしリストラの影響
第3章 雇用機会をわけあう思想と営み
1欧米におけるワークシェア
イギリス機械産業の労働者たち/アメリカの自動車労働組合の場合/フランスの35時間労働法/
フォルクスワーゲンの選択/雇用形態の多様化と労働条件の規範
2日本のワークシェア
「政労使合意」2002年3月/「政労使合意」の評価/
コンチネンタル・ミクロネシアの客室常務委員たち/三洋電機の場合/ワークシェアの普及の程度
3ワークシェアは日本の職場ではなぜむつかしいのか
経営者の理論/作業管理と賃金管理の特徴/企業別組合の性格/労働者の選択
第4章 フルタイムの短縮 連帯のワークシェア
1働きすぎという現実
長時間労働の実在/サービス残業/長時間労働の階層差/長時間労働の影/
新聞報道でみる最近の過労死
2〈一律型〉ワークシェアの方途
休日数・有給休暇・出勤日数/所定外労働時間と三六協定/サービス残業の克服/
所定労働時間のささやかな短縮/労働時間・時給・年収の階層別イメージ/イメージと現実
3労働市場の新しいかたち
ワークシェアの単位をめぐって/横断的労働市場の要請/横断的労働市場の「資格」/
<一律型>ワークシェアの意義
第5章 パートタイムの均等待遇 選択のワークシェア
1〈個人選択型〉ワークシェアのニーズ
労働時間選択の時代/<個人選択型>のワークシェアの必要条件/オランダモデルの位置/
オランダモデルの光/オランダモデルの影
2現代日本のパートタイマー
非正規労働者としてのパートタイマー/転換制の現状/均等待遇の不在/
パートタイマーの鬱屈と労働組合運動
3パートタイマーの処遇改善
パートタイマー労働研究会の報告(1)/パートタイマー労働研究会の報告(2)/
女性パートタイマーの経済力/セーフティネットワーク(1)−最低賃金制/
セーフティネットワーク(2)−雇用保険
4むすびにかえて
ワークシェアの経済効果/ワークシェアの拓く新しいライフスタイル
第1章 労働の暗い状況のなかから
1.労働をめぐる四つの現実
労働には、@持続的な失業者の増加、失業率の高まり、A企業によるリストラと呼ばれる人減らしの遂行、B長時間労働者が多い、Cパートタイマー、非正社員の処遇の差別、の四つの現実がある。その四つの現実は相互関係にあり、その相互関係とは労働者たち自身による連帯的抵抗の思想と営為を弱める関係である。しかし、1999年の頃から、労働者に労働世界のもう一つのありようを探る兆しがきた。それが『ワークシェアリング』である。
2.ワークシェアリングのかたち
ワークシェアリングとは、一人当たりの労働時間を短縮して雇用機会をより多くの人の間でわかちあう営みと定義できる。ワークシェアリングをタイプわけすると、@緊急避難型−当面の緊急措置として、人員整理を回避するため一人当たりの労働時間を短縮して従業員間で仕事をわかちあう、A中高年対策型−より中・長期的に、@の措置を中高年層対象に実施する、B雇用創出型−法律または産業規模の労働協約によって労働時間を広範に一律に短縮し、失業者に新たな雇用機会を提供する、C多様就業促進型−勤務の形態を多様化することによって、女性や高齢者をはじめとするより多くの人が働きやすいようにする、となる。@とBは、全労働者または一定範囲の労働者の標準労働時間を一律に短縮して雇用の維持・拡大を図る方法である。これを一律型と呼ぶことにする。AとCは、労働者個人に短時間労働勤務の選択を用意する新しい方法である。これは、なんらかの理由でフルタイム勤務のできない人々にも雇用を継続させられ、また新しい雇用機会を提供できる。これを個人選択型と呼ぶことにする。
第2章 失業とリストラの今日
1.失業という真実
『国勢調査』によれば、1995年から2000年にかけて、就業者は116万人減少している。この背景には、現時点の日本の賃金コストの相対的な高さがある。日本で生産するより、アジアの国々で生産し日本に輸出する方が圧倒的にコストは低いのだ。2001年時点、男性60〜64歳(28万人、失業率10%)と男女20〜34歳(男性81万人、女性66万人)が特に失業者が多い。前者は、人減らしの対象になりやすく、若者より再就職しにくい。また失業の期間も長期化する。後者は、希望する職場につけなく仕方なく就職する人が多いこと、不安定な雇用形態が増えていること、企業にしがみつくのではなく能力を生かす場を積極的に望むようになったことが理由に挙げられる。
2.人減らしリストラの多様性
『朝日新聞』100社調査によると、2002年夏、「これまで人減らしに用いられた主要な方法」は「新規採用の抑制を含む自然減」59社、「退職金割増しなどを早期退職優遇制の利用」29社、「転籍」16社、「派遣社員、パート、契約社員への置き換え」14社であった。人減らしのリストラは多様化している。
3.「希望退職」の虚実
2001年の秋冬は、大企業の正社員にとって深刻なリストラ、希望退職者募集が頻繁だった。希望退職・早期退職の募集者全員に対する優遇処置としては、割増退職金が支払われる、再就職斡旋会社や会社による再就職の相談や斡旋などがある。希望退職・早期退職の社員の応募状況は、企業の目的を果たすような応募があるという。この理由は、社員の会社への不安や失望、労働強化やノルマ引き上げの合理化で現職にとどまろうとする気力の喪失などがある。しかし、リストラを拒否する社員もいる。その場合、単純労働、不便な遠隔地への配属、何も仕事を与えないなどのいじめを受け、最終的に退職してしまうケースもあるのだ。人減らしのリストラは、孤独な失業者を増やし、会社に残った者を働きすぎに追いやる。企業にとって、生産性向上のメリットはさほどなく、働く者の士気や信頼が長期的に大きく関わると思えば、経済効果は疑わしい。
第3章 雇用機会をわけあう思想と営み
1.欧米におけるワークシェア
現時点のヨーロッパで普及しつつあるワークシェアには、フルタイムの時間短縮を通じての雇用の維持・拡大がある。失業対策や、フルタイムでは働けない、働きたくない多様な人々の就労ニーズに対してのワークスタイルの模索である。しかしこの多様化に随伴しがちな雇用の質の低下を避けるためには、労働条件決定の規範性の擁護、短時間労働者への均等待遇、収入レベルでの最低保障などのセキュリティが不可欠である。
2.日本のワークシェア
目前に進行している直截な賃下げによる雇用の維持、サービス残業の横行、低賃金・不安定雇用の非正社員活用をワークシェアが克服するかという疑問視する声がある。雇用保障の正社員への限定、日常的な能力主義的選別、残業の執拗さが企業内にあり、これらの障害がワークシェアの営みに立ちはだかりる。
3.ワークシェアは日本の職場ではなぜむつかしいか
ワークシェアを企業が導入しない理由に業務分担の難しさや生産性低下の心配がある。ワークシェアは優秀な労働者の労働時間を削減し、生産性の低い労働者の雇用を確保するゆえに、長期的日本経済の競争力の低下につながるという意見もある。またワークシェアが日本で進展しない背景に企業別組合のスタンスが組合員の解雇絶対反対が重視されていたために、非組合員の非社員に対しての規制をかけなかったこと、仕事量、残業、人事異動などに厳しい規制をかけてこなかったことなどがある。
第4章 フルタイムの短縮 連帯のワークシェア
1.働きすぎという現実
サービス残業を含む日本の労働者の労働時間は年に2100〜2200時間である。この水準はヨーロッパ諸国、アメリカを超えている。25〜39歳の男性、45〜64歳の女性に、働きすぎの傾向がある。前者は、新規採用抑制により、若手要員が減少する一方、この年齢層の仕事量・ノルマが増えたからである。後者は、女性は男性より営業時間が長い業種で働く比率が相対的に高い。また30代の女性は育児負担の大きさが長時間労働を不可能にしているためこの層に働きすぎの傾向がある。長時間労働は、多くの人々の雇用機会を狭め、過労死や過労自殺の増加といった問題もあり、日本の正社員の労働時間を短縮する必要がある。
2.〈一律型〉ワークシェアの方途
労働時間を減らす方法は有給休暇の取得やサービス残業の撤廃である。現在、労働者全体では有給休暇の付与日数は18.1日だが、実際の取得日数は8.8日にすぎない。また男性正社員と女性社員と女性パートの時間当たりの賃金には大きな差がある。この差を改善し、夫が妻子を養うというジェンダーの規範に縛られた現行の賃金収入に関する保守主義からの脱却がワークシェアの一歩になる。
3.労働市場の新しいかたち
ワークシェアの単位、適用される労働者の範囲は、どこまでが労働時間を一律に短縮し雇用機会をシェアできるなかまと意識できるかによって決まる。特定企業の従業員としての一体感が希薄化する今こそ、日本の労使関係は職種グループごとに企業を横断する労働市場の意識的・制度的構築に着手すべきである。
第5章 パートタイムの均等待遇 選択のワークシェア
1.〈個人選別型〉ワークシェアのニーズ
ワークシェアの必要条件は、@パート就労に伴いがちな有期雇用の規制・限定、A労働時間の選択権とフルタイム―パートタイムの相互転換制、B均等待遇・同一労働同一時間給、C社会保険への包括、である。
2.現在日本のパートタイマー
日本には約118万人のパート等労働者がいる。正社員雇用のない若者は非正社員のパート等労働者になりつつある。一般労働者の時給は男性2029円、女性1337円であり、パートタイマーの時給は男性1029円、女性890円である。正社員とパート等労働者の賃金格差の理由は、@責任の重さの違い、A職務内容の違い、B勤務時間の自由度の違い、Cもともとその契約内容で労働者も納得していることである。その他に有給休暇、定期昇給、賞与、退職金、通勤手当が保障されていない場合が多く、雇用保険や厚生年金の社会保険が適用されないことも多い。
3.パートタイマーの処遇改善
最低賃金制の引き上げ、雇用保険の実効ある加入促進の政策、生活保護などの統一的な再構築が重要である。
4.むすびにかえて
一律型ワークシェアは、すべての正社員たちの働きすぎの緩和、中高年労働者のリストラの改善、若者に安定した就職口を用意できるなどができる。また夫婦が共に働き続けることを容易にする。個人選択型ワークシェアは、育児や介護を含む個人の事情や身体的な条件ゆえに働きたいけれども働けない人に社会参加、社会的労働ができる。この二つの形態のワークシェアはすさまじい長時間労働を代価として男性正社員が稼いできた相対的高賃金を抑制して、日本の労働の世界に、もっと雇用の安定、生活のゆとり、個人選択の自由、そして男女平等をもたらそうとする営みである。
私の感想
ワークシェアリングという言葉を聞いたことはあるが、実際の背景やどんな効果が期待できるかなどは知らなかった。現在、日本は働きすぎだとよく言われるが、その根底には続く不況や経済の空洞化問題がある。これらにより、企業は希望退職者募集や新規採用抑制などで社員を減らし、一人当たりにかかる仕事の負担を大きくしているのだ。企業が人減らしをする状況は理解できないことはないが、リストラによる社員の意欲低下や生産力の低下をこの本では論じている。リストラが決して企業にはプラスだと言えないのだ。この部分を読んだとき、爽快な気持ちになった。リストラに賛成できなかったが、経営不振や不況ということから賛成するしかなかったのだ。そして、この本はワークシェアリングをリストラの解決策として提示した。私はこの本を読む前に、ワークシェアリングは仕事をシェアすることで、雇用を守ろうとしているが、それによる賃金の低下やシェアすることで仕事の生産力の低下が起こるのではないかと考えてきた。しかし、この本を読み、考え方が変わった。夫が働き、妻と子を養うということが日本では当たり前とされてきた。高度成長により、収入も増加し続けていたから、このような考えが根付いたのだろう。だが現在は、夫と妻が共に働き、育児や家事をするというスタイルが普通になるべきだ。ワークシェアリングでは、これを可能とする。賃金の低下を夫婦が共に働くことで補い、時間的余裕を使い家事や育児を行えるという。このスタイルが実現できるためには、均等な処遇、男女や正社員と非正社員の待遇の差を改善しなくてはならない。ワークシェアリングにより雇用状況が改善し、長期労働時間の短縮、夫婦が共に家庭を支えるというライフスタイルが実現できる。日本はまだまだワークシェアリングの導入は少ない。新しい労働ということで積極的に導入していくのも面白いのではないか
以下紹介:鈴木 学(立命館大学政策科学部2回生)
―本書の構成―
第1章 労働の暗い状況のなかから
1.労働をめぐる四つの現実
深刻化する失業/リストラとよばれる人べらし/執拗な長時間労働/パートタイマーの処遇差別/もう一つの働き方への希求/本書の内容
2.ワークシェアのかたち
一般的なタイプわけ /〈一律型〉と〈個人選択型〉/諸類型の評価基準
第2章 失業とリストラの今日
1.失業という現実
失業の背景/失業と年齢階層/新規学卒者の進路/若者の離職/中高年の失業者/ハローワークにて/潜在失業の人びと
2.人べらしリストラの多様性
雇用調整の新しい段階/経営ニーズとしてのリストラ/小・零細企業での解雇/既婚女性を退職させる圧力/非正社員の「活用」/請負の新しいかたち/分社と転籍
3.「希望退職」の虚実
希望退職募集のうねり/松下電器の場合/希望退職の諸条件/労働者はなぜ希望退職に応じるのか/放逐される従業員/いじめ/孤立と孤独/人べらしリストラの影響
第3章 雇用機会をわけあう思想と営み
1.欧米におけるワークシェア
イギリス機械産業の労働者たち/アメリカの自動車労働組合の場合/フランスの35時間労働法/フォルクスワーゲンの選択/雇用形態の多様化と労働条件の規範
2.日本のワークシェア
「政労使合意」2002年3月/「政労使合意」の評価/コンチネンタル・ミクロネシアの客室乗務員たち/三洋電機の場合/ワークシェアの普及の程度
3.ワークシェアは日本の職場ではなぜむつかしいのか
経営者の論理/作業管理と賃金管理の特徴/企業別組合の性格/労働者の選択
第4章 フルタイムの短縮 連帯のワークシェア
1.働きすぎという現実
長時間労働の実在/サービス残業/長時間労働の階層差/長時間労働の影/新聞報道にみる最近の過労死
2.〈一律型〉ワークシェアの方途
休日数・有給休暇・出勤日数/所定外労働時間と三六協定/サービス残業の克服/所定労働時間のささやかな短縮/労働時間・時給・年収の階層別イメージ/イメージと現実
3.労働市場の新しいかたち
ワークシェアの単位をめぐって/横断的労働市場の要請/横断的労働市場の「資格」/〈一律型〉ワークシェアの意義
第5章 パートタイムの均等待遇 選択のワークシェア
1.〈個人選択型〉ワークシェアのニーズ
労働時間選択の時代/〈個人選択型〉ワークシェアの必要条件/オランダモデルの位置/オランダモデルの光/オランダモデルの影
2.現代日本のパートタイマー
非正規労働者としてのパートタイマー/転換制の現状/均等待遇の不在/パートタイマーの鬱屈と労働組合運動
3.パートタイマーの処遇改善
パートタイマー労働研究会の報告(1)/パートタイマー労働研究会の報告(2)/女性パートタイマーの経済力/セーフティネットワーク(1)−最低賃金制/セーフティネットワーク(2)−雇用保険
4.むすびにかえて
ワークシェアの経済効果/ワークシェアの拓く新しいライフスタイル
参考文献
あとがき
―本書の概要―
第1章 労働の暗い状況のなかから
1.労働をめぐる四つの現実
労働には、@持続的な失業者・失業率の増加A企業によるリストラの遂行B長時間に及ぶ労働C正社員とパートタイマーの処遇の差の4つの現実がある。これらの4つはお互いに関連しあっていて、労働者にとって大きな負担となっていた。しかし、1999年頃から『ワークシェアリング』という言葉が浸透し始め、労働者の負担軽減のための政策として注目されつつあった。
2.ワークシェアのかたち
ワークシェアリングとは、一人当たりの労働時間を短縮して雇用機会をより多くの人の間でわかちあう方法である。ワークシェアリングを分類わけすると、@緊急避難型−当面の緊急措置として、人員整理を回避するため一人当たりの労働時間を短縮して従業員間で仕事をわかちあう方式A中高年対策型−より中・長期的に@の措置を中高年層対象に実施する方式B雇用創出型−法律や産業規模の労働協約により労働時間を広範に一律に短縮し、失業者に新たな雇用機会を提供する方式C多様就業促進型−勤務の形態を多様化することによって、女性や高齢者をはじめとするより多くの人が働きやすいようにする方式となる。@とBは、全労働者または一定範囲の労働者の標準労働時間を一律に短縮して雇用の維持・拡大を図るため、これを一律型と呼ぶことにする。AとCは、労働者個人に短時間労働勤務の選択を用意する新しい方法であるため、これを個人選択型と呼ぶことにする。この方式なら子育てなどの事情がありフルタイムで働くことができない人も働き続けることができ、残りの時間を新たな雇用の創出に使える。
第2章 失業とリストラの今日
1.失業という現実
『国勢調査』によれば、1995年から2000年にかけて、就業者は116万人減少している。この背景には、現時点の日本の賃金コストの相対的な高さが影響している。日本で生産するより、アジアの国々で生産し日本に輸出する方が圧倒的にコストは低いのである。2001年時点、男性60〜64歳(28万人、失業率10%)と男女20〜34歳(男性81万人、女性66万人)が特に失業者が多い。前者は、リストラの対象になりやすく、再就職も難しいからである。後者は、仕方なく就職する人が多く、不安定な雇用形態が増えていることや、終身雇用の意識が薄く自らの能力を生かす場を探すようになったことが理由に挙げられる。
2.人べらしリストラの多様性
『朝日新聞』の100社調査によると、2002年夏、「これまで人員削減に用いられた主要な方法」として「新規採用の抑制を含む自然減」59社、「退職金割増しなどを早期退職優遇制の利用」29社、「転籍」16社、「派遣社員、パート、契約社員への置き換え」14社であった。人員削減のためのリストラは多岐にわたっている。
3.「希望退職」の虚実
2001年の秋から冬にかけては、大企業のリストラ・希望退職者募集が数多くあった。希望退職・早期退職の募集者全員に対する優遇処置としては、割増退職金が支払われる、再就職斡旋会社や会社による再就職の相談や斡旋などがある。希望退職・早期退職の社員の応募状況は、企業の予想以上の応募があるという。この理由は、社員に会社に対する不安や失望が広がり、社内の合理化が進み現職にとどまりづらい状況があげられる。一方リストラを拒否する社員もいるが、その結果、単純労働、不便な遠隔地への配属、何も仕事を与えないなどの陰湿ないじめを受け、退職に追い込まれてしまう。人減らしのリストラは、失業者を増やすばかりでなく、会社に残った者を働きすぎに追いやる。企業にとって、生産性向上のメリットはさほどなく、働く者の士気や信頼が長期的に大きく損なわれていくことを思えば、経済効果は疑わしい。
第3章 雇用機会をわけあう思想と営み
1.欧米におけるワークシェア
現時点のヨーロッパで普及しつつあるワークシェアには、フルタイムの時間短縮を通じての雇用の維持・拡大がある。失業対策や、フルタイムでは働けなかったり、働きたくない多様な人々の就労ニーズに対するワークスタイルの多様化である。しかしこの多様化に伴い避けられない雇用の質の低下の対策として、労働条件決定の規範性の擁護、短時間労働者への均等待遇、収入レベルでの最低保障などのセキュリティが不可欠である。
2.日本のワークシェア
賃下げによる雇用の維持、サービス残業の横行、低賃金・不安定雇用の非正社員活用をワークシェアで解消できるのか実績がなく、雇用保障の正社員への限定、日常的な能力主義的選別、残業の執拗さが企業内にあり、これらがワークシェアを実施するうえで多いな問題となっている。
3.ワークシェアは日本の職場ではなぜむつかしいのか
ワークシェアを企業が導入しない理由として業務分担の難しさや生産性低下の心配がある。ワークシェアは優秀な労働者の労働時間を削減し、生産性の低い労働者の雇用を確保するゆえに、長期的日本経済の競争力の低下につながるという意見もある。またワークシェアが日本で進展しない背景に企業別組合のスタンスが組合員の解雇絶対反対が重視されていた。そのために雇用が継続されれば、仕事量や残業、人事に対して会社側の意見を受け入れてきた現状があり、仕事量、残業、人事異動などに厳しい規制をかけてこなかったのである。
第4章 フルタイムの短縮 連帯のワークシェア
1.働きすぎという現実
サービス残業を含む日本の労働者の労働時間は年に2100〜2200時間である。この水準はヨーロッパ諸国、アメリカを大きく超えている。特に25〜39歳の男性、45〜64歳の女性に、働きすぎの傾向がある。前者は、新規採用抑制により、新入社員が減少する一方、この年齢層の仕事量・ノルマが増えたからである。後者は、女性は男性より営業時間が長い業種で働く比率が相対的に高く、また30代の女性は育児負担の大きさが長時間労働を不可能にしているため上の層に仕事がまわされている。長時間労働は、多くの人々の雇用機会を狭め、過労死や過労自殺の増加といった問題もあり、日本の正社員の労働時間を見直す必要があるだろう。
2.〈一律型〉ワークシェアの方途
労働時間を減らす方法は有給休暇の取得やサービス残業撤廃が考えられる。現在、労働者全体では有給休暇の付与日数は18.1日だが、実際の取得日数は8.8日にすぎない。また男性正社員と女性従業員との時間当たりの賃金には大きな差がある。この差を改善しないかぎり、夫が妻子を養うというジェンダーの規範に縛られワークシェアを行うのは難しい。
3.労働市場の新しいかたち
ワークシェアの単位、適用される労働者の範囲は、どこまでが労働時間を一律に短縮し雇用機会をシェアできるなかまと意識できるかによって決まってくる。特定企業の従業員としての一体感が希薄化する今こそ、日本の労使関係は職種グループごとに企業を横断する労働市場の意識的・制度的構築に着手すべきである。
第5章 パートタイムの均等待遇 選択のワークシェア
1.〈個人選択型〉ワークシェアのニーズ
ワークシェアの必要条件は、@パート就労に伴いがちな有期雇用の規制・限定A労働時間の選択権とフルタイム―パートタイムの相互転換制B均等待遇・同一労働同一時間給C社会保険への包括である。
2.現代日本のパートタイマー
日本には約118万人のパートなどの労働者がいる。正社員雇用のない若者は非正社員の労働者になりつつある。一般労働者の時給は男性2029円、女性1337円であり、パートタイマーの時給は男性1029円、女性890円である。正社員とパート等労働者の賃金格差の理由は、@責任の重さの違いA職務内容の違いB勤務時間の自由度の違いCもともとその契約内容で労働者も納得していることである。その他に有給休暇、定期昇給、賞与、退職金、通勤手当が保障されていない場合が多く、雇用保険や厚生年金の社会保険が適用されないことも多い。
3.パートタイマーの処遇改善
雇用保険の実効ある加入促進の政策、最低賃金制の引き上げ、生活保護などの統一的な再構築が求められている。
4.むすびにかえて
一律型ワークシェアは、すべての正社員たちの働きすぎの緩和、中高年労働者の雇用の継続、若者に安定した就職口を用意できるなどの効果がある。また夫婦が共に働き続けることを容易にもする。個人選択型ワークシェアは、育児や介護を含む個人の事情や身体的な条件ゆえに働きたいけれども働けない人に社会参加、社会的労働ができる。この二つの形態のワークシェアはすさまじい長時間労働を代価として男性正社員が稼いできた相対的高賃金を抑制して、日本の労働の世界に、もっと雇用の安定、生活のゆとり、個人選択の自由、そして男女平等をもたらそうとするものである。
―本書の感想―
この本を読んで感じたのは、いま雇用体系が大きな転機を迎えているということである。バブル期の頃から多くの労働問題が山積していたが、好景気のために仕事が溢れていたし、働いた分だけお金にもなった。しかし、バブルの崩壊とともに平成大不況を迎え経営再建のなか、人員整理などを実感し、多くの人が日本の雇用体系の限界を感じたのではないだろうか。そんな時代だからこそワークシェアリングが必要とされているのだろう。そして、その実現のために日本の雇用体系を見直すべきときを迎えているのである。ひとりひとりにあった働き方をできるようにし、全従業員の雇用を均等に保証しみんなで負担をわけあっていくこと、つまり会社本位ではなく社員本位の働き方が、現代の日本に求められているのではないか。
・以下紹介:川永耕平(立命館大学政策科学部5回生)
1章 労働の暗い状況の中から
1 労働をめぐる4つの現実
深刻化する失業/リストラとよばれる人べらし/執拗な長時間労働/
パートタイマーの処遇差別/もうひとつの働き方への希求/本書の内容
2 ワークシェアリングのかたち
一般的なタイプわけ/<一律型>と<個人選択型>/諸類型の評価基準
2章 失業とリストラの今日
1 失業という現実
失業の背景/失業と年齢階層/新規学卒者の進路/若者の離職/
中高年の失業者/ハローワークにて/潜在失業の人びと/
2 人べらしリストラの多様性
雇用調整の新しい段階/経営ニーズとしてのリストラ/小・零細企業での解雇/
既婚女性を解雇させる圧力/非正社員の「活用」/請負の新しいかたち/
分社と転籍/
3 「希望退職」の虚実
希望退職募集のうねり/松下電器の場合/希望退職の諸条件/
労働者はなぜ希望退職に応じるのか/放逐される従業員/孤立と孤独/
人べらしリストラの影響/
3章 雇用機会をわけあう思想と営み
1 欧米におけるワークシェア
イギリス機械産業の労働者たち/アメリカの労働組合の場合/
フランスの35時間労働法/フォルクスワーゲンの選択/
雇用形態の多様化と労働条件の規範/
2 日本のワークシェア
「政労使合意」2002年3月/「政労使合意」の評価/
コンチネンタル・ミクロネシアの客室乗務員たち/三洋電機の場合/
ワークシェアの普及の程度/
3 ワークシェアは日本の職場ではなぜ難しいのか
経営者の論理/作業管理と賃金管理の特徴/企業別組合の特徴/
労働者の選択/
4章 フルタイムの短縮 連帯のワークシェア
1 働きすぎという現実
長時間労働の実在/サービス残業/長時間労働の階層差/長時間労働の影/
新聞報道に見る最近の過労死/
2 <一律型>ワークシェアの方途
休日数・有給休暇・出勤日数/所定外労働と三六協定/サービス残業の克服/
所定労働時間のささやかな短縮/労働時間・時給・年収の階層別のイメージ/
イメージと現実/
3 労働市場の新しいかたち
ワークシェアの単位をめぐって/横断的労働市場の要請/
横断的労働市場の「資格」/<一律的>ワークシェアの意義/
5章 パートタイムの均等待遇 選択のワークシェア
1 <個人選択型>ワークシェアのニーズ/
労働時間選択の時代/<個人選択型>ワークシェアの必要条件/
オランダモデルの位置/オランダモデルの光/オランダモデルの影/
2 現代日本のパートタイマー
非正規労働者としてのパートタイマー/転換性の現状/均等待遇の不在/
パートタイマーの鬱屈と労働組合運動/
3 パートタイマーの待遇改善
パートタイム労働研究会の報告(1)/パートタイム労働研究会の報告(2)/
女性パートタイマーの経済力/セーフティーネットワーク(1)――最低賃金制/
セーフティーネットワーク(2)――雇用保険/
4 結びに変えて
ワークシェアの経済効果/ワークシェアの拓く新しいライフスタイル/
1章 労働の暗い状況の中から
1 労働をめぐる4つの現実
高度成長期から1975年に至る位までは、年平均失業率が1%台だったがそれが年を経るごとに増加し、1994年までは2%台、97年には3%台2000年には4%台、2001年には5%台になり、失業者が増大する。ホームレスの増加、リストラの横行、様々なかたちで離退職を迫る執拗ないじめにも似た手口などさまざまだ。新入社員が強いられる長時間労働などは、日本社会では今日当然のこととして受け取られており、例えば月給20万円は長時間労働の対価としては安すぎるのではないか。また、パートタイマーは日本ではフルタイマーとの待遇格差が大きく、給与の水準は益々差が広がっている。その原因は、職務が違うこと、女性差別の慣行があり、雇用形態もかなり違うためである。そうした環境でパートタイマーとして働く女性などは、鬱屈とストレスを抱えながら、実はほぼフルタイムで働く「パート」なのである。そうしたさまざまな厳しすぎる環境の中で、近年注目を集め、また、著者が紹介するのが、「ワークシェアリング」である。
2 ワークシェアリングのかたち
ワークシェアリングにはさまざまな形があり、当面の人員整理を回避し、従業員間で分かち合う「緊急避難型」、より中長期にそして特に中高年にそれを適用する「中高年対策型」、国や労働組合等が関与する社会的システムとしての「雇用創出型」、勤務形態を多様化する「多様就業促進型」などに分けられる。また労働者の労働時間を一律に短縮して雇用の維持拡大を図ろうとするのを<一律型>と呼び、労働者個人に短時間勤務の選択肢を用意し、何か理由でフルタイム就労できない人のために雇用を継続させ、新たに提供する方法を<個人選択型>と分類する。今日本は<個人選択型>に関心が行っているが、むしろ<一律型>が重視されるべきだ。日本のフルタイムは諸外国に比べ長いからで、前提として<一律型>を重視すべきだ。
2章 失業とリストラの今日
1 失業という現実
国勢調査によれば、1995年から、2000までに製造業で133万人の減少があり、サービス業は同じだけ増えたが、卸売り、小売、飲食店で30万人、第1次産業で65万人、建設業で34万人、金融保険業で22万人の離職があって差し引き116万人就業者が減少している。その原因は不況、経済的な停滞であるが、そのことは、ひいては日本と海外との経済の関係が変化していることによる。それは、アジア各国に人件費が安く、コスト削減を求めて工場等が海外移転し、経済の空洞化が起こっていることが大きな要因である。若年層においても失業率が高く、就職できないケースも多い。一方、中高年も失業率が高く、非自発的離職が多い。会社の倒産や、肩たたき退職強要などが理由の上位を占めている。再就職は難しく、失業は「アイデンティティの喪失」ととられるようになっている。また数字には表れない、潜在失業の人もおり、その中でも主婦層に注目すれば、就職を希望するが、求職活動していない主婦は149万人に上るようである。
2 人減らしリストラの多様性
これまで、日本における終身雇用制度は、成果主義一辺倒では解決できないさまざまな理由を調整すべく、そしてそれは、「労使協調の保障であり、日本的能力主義の内容というべきフレキシブルな働き方を入れる器」(熊沢1997)であった。しかし、90年代末からその終身雇用は崩れ始め、2002年の日経の調査では、20%のみが終身雇用堅持となっている。日本の企業が人員削減を余儀なくされるのは、産業界全体の経営環境の変化と、不況による消費の落ち込み、それに伴うデフレ的要素などが原因である。そんな中で中高年齢層が削減の対象にされ、若年者の新規採用が絞り込まれる。そんな解雇やリストラがいまや全国各地で行われ、さまざまな理由、因縁をつけた解雇が横行し、特に出産前後の女性は、育児休暇を取るような時に「自発的退職」を促され、それを断ると嫌がらせ的対応により、転勤させられたりする。調査によると、1997−2001年にかけての正規・非正規社員の増減は、圧倒的に非正規社員が増加し、正規社員が大きく減少している。これは日本の戦後になかった光景であり、その最大の原因は、人件費の削減であり、正規社員をやめ非正規社員に変換するだけで、45%の人件費削減になるという。そういう事実からも非正規社員の中でも、製造業などでは近年人材派遣業による業務請負が広範に利用されている。またNTT東西会社に代表される分社化、転籍も大きな人件費抑制の手段である。
3 「希望退職」の虚実
希望退職は、今日の日本の企業にとってリストラの手段の大きな柱である。例えば松下電器でも、特別ライフプラン支援金や、転職支援プログラム、キャリア開発休暇など、希望退職を勧めるさまざまな方針を採っているが、表面的には穏やかに労使協調が図られているように見えるが、実はそうではないようである。希望退職の諸条件は、年齢、勤続、役職、職種、部門、が基準となり、それらに対する優遇措置としては、割り増し退職金が支払われるのが普通である。企業側に反発をせずに従業員個々人がそれらを受け入れるのは、社会の成熟、冷静な自らの将来展望、名誉感情、気力の薄れなどの要因が挙げられる。そんな中でも勇敢にも経営側の提案を断って、会社に残ろうとする社員は、さまざまな形での「いじめ」にあうことになる。それは、小さな小部屋に入れられる「配置転換」をさせられ、仕事も与えられない。または、まったく縁もない遠隔地に転勤させられるようなことが待っている。一見、希望退職者募集という大規模な雇用削減を経営側が提案するとき、従業員側は、団結してこれに対抗しようという気風が生まれそうだが、そうはならない。それは、従業員の横のラインに能力主義的ランキングがつけられており、仲間を守ろうとする連帯の雰囲気は職場からすでに失われており、労組にもそれへの強い抵抗はない。また、退職勧奨が能力評価に基づいて行われているため、諦めざるを得ない心境にさせる効果を持つ。リストラが各企業で実施された結果、JILによる調査の企業回答によると、労働時間の増加や、従業員の志気の低下、優秀な人材の流失等よいこと尽くめという訳ではないし、リストラを免れた従業員に対する調査でも、雇用不安、仕事への意欲の欠如、仕事が苦しくなったり、時間外労働が長くなったという共通する回答である。
3章 雇用機会を分け合う思想と営み
1 欧米におけるワークシェア
ヨーロッパの労働組合に一般的な<一律型>ワークシェアは、産業別組合が全国的な労働時間短縮運動をし、残業を制限する規制や協約交渉をしていく伝統が生み出したものである。アメリカにおいても、1930年代大恐慌化の大失業時代に労働組合を雇用機会の「共産制」を担保する組織と位置づけたパールマンに代表される理論があった。現代においては、1998年、フランスで労働時間の「変形制」導入や、週35時間労働制とそれを促すための企業へのインセンティブを付け加えた、オブリ法が制定され2000年から実施されている。しかしながら小企業における不徹底や、残業時間制限への経営者の反発などもあって思うように35時間労働制が完全実施されているわけではない。また、賃金については、労使間の協約に任されたが、結果として調査では賃下げの影響を受けたのは12%の労働者にとどまり、悪影響は最小限にとどめられた。ドイツフォルクス・ワーゲンでは、28.8時間労働制の期限付き導入、若年者の職業訓練のための休業、若年者と高齢労働者の労働時間調整などを導入し、給与は10%以上削減されたが、3万人の人員整理は回避された。また、5000人の新規雇用を失業者から選抜し、産業別協約を下回らない、5000マルクの賃金を保証したVW子会社の労使交渉妥結は給与水準の産業別協約を守らせたということで著者は高く評価している。ヨーロッパで普及しているワークシェアは各個人の就労ニーズに対応するワークスタイルの多様化の模索であり、<個人選択型>のワークシェアである。これは、雇用の質の低下を招きやすいが、労働条件決定の規範性の擁護や、短時間労働者への時間比例均等待遇、収入レベルでの最低保障などを確立させる必要がある。
2 日本のワークシェア
2002年3月29日に「ワークシェアリングに関する政労使合意」が成立された。中身は、多様就業型ワークシェアリングの整備に取り組み企業は職務の明確化、時間給の考え方導入、労働時間管理の適正化、政府は、短時間労働者の公正均等処遇のあり方、厚生年金保険の適用拡大を検討し始めることを約束した。また、現在は、雇用情勢が大変厳しいため、緊急対応型ワークシェアリングに緊急に取り組むべきとし、使用者側に余剰人員が発生したときは労使合意により、労働時間短縮と、賃金費下げを行う。時間当たり賃金の引き下げは行わない。などが取り決められた。先ほどの政労使合意ができる前の段階では、連合と日経連のワークシェアリング勉強会があったが、労働側の提案した、サービス残業の克服の方途、非正社員への均等待遇への道筋、時間短縮に伴う賃金の扱いを主張したが、使用者側はそっけない返事に終始したことを思えば、政労使の合意はかなり実りあるものであった。またそうした合意に至った背景には失業率のかなりの悪化という悪化という誰にも変更できない現実が政府、使用者の目の前にあったからに違いない。コンチネンタル航空では、2001年秋、1万2千人の人員削減を発表し、子会社では日本人客室乗務員5人が解雇されたが、同僚の10人が飛行時間を半減させ、月収を半減させることに同意した上で5人の雇用は守られた。その「10人」は、3か月毎の輪番制にし、「10人」の収入減を組合で支えあった。一方、2001年末に労使合意で出された三洋電機のワークシェアリングは、<一律型>典型モデルである。このワークシェアには前提条件があり、カンパニー内の外部労働者の仕事を社員に戻すこと、当該部署の余剰人員をカンパニー内外に再配置すること、それらを実施してもなお要員数と仕事量の乖離が10%以上になること、その状態が6ヶ月以上継続すると予想されること、時間外労働が適用期間中は原則発生せず、年次有給休暇が一定以上消化可能なこと、などである。そして賃金も労働時間に比例して基本給が減額されることになった。同じように三洋電機も加盟する電機連合は一時帰休の長期化、3交代を4交代にする、所定内労働時間を減らし、それに伴って賃金も減らすなど、ワークシェア実施の要求案を固め、各企業も実施に動いている。
3 ワークシェアは日本の職場ではなぜ難しいのか
日本での<一律型>ワークシェアは、企業アンケートの結果85%が導入の予定なしと回答しており、あまり普及していない。それは、企業経営に貢献する精鋭の従業員がワークシェアにより労働意欲を失うのではないかと危惧しているからである。つまり経営者側にとって、社員の「スキル」ランキングの良くない人から順に切る人減らしを意図しているのである。またそれ以外の要因としては、日本の作業管理の特質として、フレキシブルな適応能力の程度に応じた個人別割り当てにしたがっており、個人の仕事は守備範囲が流動的であり、個人査定も人間性の実績、能力、態度、性格への評価が大きい。このため、精鋭の従業員とそれ以外というランキングが明瞭にできやすいのである。また、賃金決定には、職種群、能力グレード、年齢と金属を反映するさまざまの昇給線が設けられ、人事査定の結果その上下によって賃金が決まるため、欧米のような職種別、時間給概念は把握されにくい。つまり、日本在来の横並び集団主義としてよく言われる日本型経営は多面的な個人評価であり、在来のシステムを能力、実績評価に変えることは、<一律型>ワークシェアを導入するのに良いとは言い切れない。つまり、職種が同じなら誰でも同じように処遇する欧米のシステムは「横並び」主義とも言えるのだ。また、もう一方の当事者である労働組合側にも問題がある。労組は非組合員である非正社員の雇用調整や、特定職場の要員、仕事量、残業、人事異動についてはあまり厳しい規制をかけてこなかったと言うことである。そのため、現在では非正社員の容赦なき解雇が当たり前だし、正社員に対する希望退職勧・強要に対しても反対を形式的に唱えるのみで、積極的な対策を打ち出し、使用者と対決する雰囲気はない。そんななかで、ワークシェアは世論調査によっても国民的合意を得られつつあるように見受けられる。
4章 フルタイムの短縮 連帯のワークシェア
1 働きすぎという現実
厚労省の『毎月勤労統計要覧』によると、2000年の年間総実労働時間は、1853時間。アメリカやイギリス並みの労働時間である。しかし一方で、総務省の『労働力調査』では、2205時間であり、『賃金センサス』に於いても2160時間である。日本人は後者二つの指標があらわすとおり、サービス残業の時間を入れればたちまち多くの時間働いていることになり、いかに無賃労働が長いか、実に『毎勤』と『労調』の時間差は、388時間となり、以前と比べて大して労働時間の短縮にはなっていないということがわかる。日本では、所定外労働時間に何の制約もなく、有給休暇の返上が当然のこととなっており、許される18日の半分弱しか消化していない。そして近年では、労働時間の厳密な把握を難しくするさまざまな勤務形態、変形労働時間制、みなし労働等の裁量労働制の増加があり、労働時間の厳密な把握をよりいっそう難しくしている。つまり結果として長時間労働が増加する原因であり、それは、労働災害や過労死などにつながり、多くの人の雇用の機会を狭めたり、30台以降の女性の継続就業を困難にし、心身の疲労を助長している。
2 <一律型>ワークシェアの方途
日本において労働時間を短縮させようとするとき、大きな担い手はやはり労組だが、サービス残業の撲滅、時間外労働の削減、長期休暇制度の新設、年間休日数増加などを望んでいる。
所定労働時間もさらに短縮されるべきである。そうしていくなかで、男女の賃金格差是正、正社員、非正社員、パートの差別をなくし、仕事の量と質によって家庭での夫婦男女同権とすることで、一人一人個人の「シングル単位」での自立に結びつき、生活のゆとりと、男女共生の生活スタイル、ひいては、<一律型>ワークシェアへの歩みにつながるのである。
3 労働市場の新しいかたち
ワークシェアが行われる単位は一企業である場合もあり、産業内の全労働者でもありうる。つまり、労働時間を一律に短縮し、雇用を分かち合うことのできる仲間と意識できるかによってワークシェアできるかが決まる。しかしそれを邪魔するかのように、各企業では、希望退職やリストラが行われ、企業内に仲間意識が育つことを阻害している。そのような時代で、転職が当たり前と考えられ始めてきた社会でも、アメリカでさえそうであるように、同じ職場、なじみの職場で働きたいと従業員は願っている。そうした中で、特定企業の従業員としての意識が希薄になっている今こそ、日本の労使関係を職種グループに企業を横断する労働市場の意識的制度的構築を進めるべきである。
5章 パートタイムの均等待遇 選択のワークシェア
1 <個人選択型>ワークシェアのニーズ/
私達は、各個人個人様々な人生があり、健常者とともに障害者もいる。高齢者や病弱者もいる。そうした中で健常者以外がすべてマイノリティーだとする価値観を破り各人がそれぞれのニーズに合わせて就労や労働時間を選択できるようにするのが<個人選択型>ワークシェアである。パートタイム就労のニーズは、フルタイム就労の労働時間等就労条件の水準に
左右される。だから日本では、<一律型>ワークシェアの意義が重要だが、<個人選択型>の必要条件はパート労働に伴いがちな有期雇用の規制・限定、労働時間の選択権と、フルタイムーパートタイムの相互転換性、均等待遇・同一労働同一時間給、社会保険への包括である。雇用の非正規化が進むヨーロッパ各国では、近年前に挙げた必要条件を法制化、労働協約化が急速に進んでいる。そんな中でも、一ヶ国オランダは他の国が防衛的役割をワークシェアに求めているのに対し、パート就労を積極的に拡大していこうとし、「福祉国家の困難」の打開と、就業が福祉につながるというworkfareを広めようとしており、注目される理由になっている。それは、1982年オランダの政労使三者がワッセナー合意をを果たしたことに始まる。労組は賃金抑制に協力し、企業は雇用維持と、労働時間短縮に努め、政府は、財政支出の抑制を図るそれによって国際競争力を高め、企業投資を活発にし雇用増加を図るとするものである。その中身は、労働時間を各人がフルタイムと3種のパートタイムの中から選び、同じ労働に対する時間給は同じ、使用者は労働者の労働時間の選択に理由なしに口出ししない、労働時間に応じた社会保険等福祉への負担と給付がある。しかし、オランダでは、フルタイムの女性が少なく、パートタイムの女性が全女性労働者の68%であり、男性の17%と比較して、男はフルタイム、女はパートタイムという形に近いのである。この結果から、フルタイムで働く女性が多いスウェーデン型と、家庭生活を楽しむとする、オランダ型の間で論争がある。
2 現代日本のパートタイマー
現在に日本では、やはり正社員雇用と非正社員雇用の格差が著しい。それは地位や保障の不安定さが全てであり、雇用形態が「非正社員」という身分に固定されるためである。またその中の大きな要素は雇用契約期間であり、正規社員は無期であり、企業の53%が「パート」の、72%が非正規社員を有期としている。非正社員が正社員への登用が可能なのは、パートからが46%の企業、41%がその他から正社員になれる制度があるとしている。しかし、あくまでこれは可能性である。そんななかでも、正社員とパートの区別をなくしたダイエーや、育児介護支援制度により、正社員の身分そのままに、休業や、在宅勤務、短時間労働を認める企業が現れている。しかしながら、均等待遇の実現には遠く、一般労働者の自給では男女格差があり、一般労働者と、パートタイマーでは、男性で50%台、女性で、60%台となっている。この格差の要因を使用者側が答えており、責任の重さの違い、職務内容の違い、勤務時間の自由度の違い、労働者が契約に納得していること、である。パートや非正規社員の福祉や社会保障が不安定であることはいうまでもない。故にパートタイマーの不安は強く、低賃金、雇用不安定、正社員になれないこと、などが主な原因であり、連合は2001年ようやくパートタイマーの賃金上げを運動し始めた。結果各社で時給数円数十円単位だが引き上げを勝ち取っている。労組もここで今まで扱ってこなかった非正社員の労働条件改善を運動すべきで、それが労組の将来につながる。
3 パートタイマーの待遇改善
パート就業が<個人選択型>ワークシェアとなり得る必要条件の整備は労使間の問題であるが、政府にも責任がある。厚労省のパートタイム労働研究会最終報告では、有期雇用に関してほとんど述べていなかったり、フルタイムとパートの関係について、@まず正社員が育児や介護の時にフルとパートの行き来を活発化させる、短時間性社員を設ける。A補助的パートも短時間正社員になれる仕組みを作る。Bパート社員の意欲能力適性に応じて常用フルタイム社員になれる道を開く。とあるが、正社員、非正社員の区別が依然残っており、その問題を先送りしては曖昧なままである。また、均等待遇は「日本型均等待遇」として提案されているが、実態は均等待遇には不完全である。現状ではパートタイマーは、自給が低くそれをする女性にとって自立への大きな妨げとなっている。畢竟パートタイムの女性にとって、男への依存か、親にパラサイトするのが良いと考えがちになる。オランダの例に習って女性パートは正規社員の80%の自給を得られるようにすべきである。また最低賃金も低すぎ、1000円以上とすべきで、その根拠は生活保護に頼ったほうがよいなどのモラルハザードを防止すべきであるからだ。アメリカなどではかなり労働運動としても潮流がある。雇用保険については、非正社員は入っていないケースが多い。しかしそんな人に限って特に雇用不安が大きくもっとも必要としている人たちである。実効ある加入促進をしていかねばならない。
4 結びに変えて
ワークシェアの対極にある人減らしリストラは、行った企業の5分の1でしか生産性向上を見ていないという。また、希望退職は、企業にとって有望な社員を流出させる危険が大いにある。失業者の減少は消費を増加させ、経済効果を生み、<個人選択型>ワークシェアは今まで正規社員で働けなかった人達を社会参加させるチャンスとなり、今後予想される人口減少に伴う労働力不足を解消するものとして期待される。<一律型>ワークシェアは、男女ともに同条件で労働することで男女共同参画社会に近づける方法である。また<個人選択型>は育児や介護でフルタイム働けない人への新たなパートタイムの選択肢の提供ができる。両形態のワークシェアは、日本の労働の状況を変え、ゆとりと安定をもたらすものであり、今後の将来を展望するとき必要な手段であろう。
本を読んでの感想
日本が直面している問題はいろいろあるが、正直言って労働の問題はあまり関心がなかったが、いかに大変な問題かよく理解できた。日本が今直面している大きな問題はいうまでもなく経済の低迷であり、日本国民が総じて問題の解決の処方箋が理解されていなかったのがこの「失われた10年」というバブル崩壊後の時代だったと思う。ワークシェアリングというと自分では正直言って何か理想主義に由来するものではないかとか、肯定的なイメージを持っていなかった。この本を読みそうした経済低迷時代の労働分野における解決法の大きな手段なのだということがわかった。先生がおっしゃられているように、たくさん金を稼ぎたい人もいれば、ある程度のお金稼ぎで満足する人もいて、さまざまな人がいることを踏まえると、それぞれの力が最大限発揮できるようにさまざまな雇用システムがあってよいと思うようになった。そしてそれら多様なシステムが、多くの人々を満足させられるものだと考えるようになった。そこから、日本の低迷からの脱出が一歩進むのかもしれないとも思う。