(Translated by https://www.hiragana.jp/)
税と家族

税ぜいと家族かぞく

last update：20100514

■→記事きじ　■→文献ぶんけん

■ 記事きじ ■

◆2010/04/18「低てい所得しょとく世帯せたい　再さい配分はいぶん機能きのうが弱よわいゆえに」
◆2009/10/20「扶養ふよう・配偶はいぐう者しゃ控除こうじょ廃止はいし　どう動うごく」

■扶養ふよう・配偶はいぐう者しゃ控除こうじょ廃止はいし　どう動うごく
　（2009年ねん10月がつ20日はつか『読売新聞よみうりしんぶん』朝刊ちょうかん）
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20091020-OYT8T00352.htm
「◇Ｑ　家計かけいへの影響えいきょうは。見直みなおし論議ろんぎはなぜ方向ほうこう転換てんかんしたのか。
　Ａ　子こどもの年齢ねんれい次第しだいで収入しゅうにゅう減げんの家庭かていも。財源ざいげん確保かくほのための見直みなおしに慎重しんちょう論ろんも。
　民主党みんしゅとうが政権せいけん公約こうやくに掲かかげた所得しょとく税ぜいの控除こうじょ見直みなおしのうち、扶養ふよう控除こうじょは先行せんこうして廃止はいしし、配偶はいぐう者しゃ控除こうじょの廃止はいしは先送さきおくりされる見通みとおしとなった。見直みなおし論議ろんぎは今後こんご、どう進すすむのか。
◇批判ひはん恐おそれ　方針ほうしん再さい検討けんとう
　Ｑ　二ふたつの控除こうじょを巡めぐる方針ほうしんが変かわったのはなぜか？
　Ａ　政府せいふ税制ぜいせい調査ちょうさ会かいがこのほど方針ほうしんの検討けんとうに入はいった。両りょう控除こうじょの廃止はいしによる税収ぜいしゅう増加ぞうかは約やく１兆ちょう４０００億おく円えんで、当初とうしょは「子こども手当てあて」の財源ざいげんに充あてるため、２０１１年度ねんど以降いこうに廃止はいしする方針ほうしんだった。
　だが財源ざいげん確保かくほが難航なんこうし、扶養ふよう控除こうじょのみ、１１年ねん１月がつにも廃止はいしする可能かのう性せいが出でてきた。適用てきよう者しゃは約やく１８００万まん人にんだが、子こども手当てあての支給しきゅうにより理解りかいを得えられると判断はんだんした。一方いっぽう、配偶はいぐう者しゃ控除こうじょの適用てきよう者しゃ約やく１４００万まん人にんの中なかには控除こうじょ廃止はいしで収入しゅうにゅう減げんとなる世帯せたいもあるため、反発はんぱつや批判ひはんを恐おそれた。
　Ｑ　控除こうじょ廃止はいしと子こども手当てあてが家計かけいに与あたえる影響えいきょうは？
　Ａ　大和総研だいわそうけんの試算しさんでは、子こども手当てあてが実施じっしされれば、両りょう控除こうじょを廃止はいししても収入しゅうにゅうが増ふえる家庭かていが多おおい。一方いっぽうで、専業せんぎょう主婦しゅふ世帯せたいで子こどもがいない場合ばあいや、いても高校生こうこうせい以上いじょうなら減収げんしゅうの場合ばあいもある＝表ひょう＝。
　民主党みんしゅとうは「次代じだいを担になう子こどものために理解りかいを得えられるはず」としていたが、「配偶はいぐう者しゃ控除こうじょと扶養ふよう控除こうじょとは分わけて議論ぎろんする必要ひつようがある」との慎重しんちょう論ろんが強つよまった。
　Ｑ　慎重しんちょう論ろんとは？
　Ａ　配偶はいぐう者しゃ控除こうじょは家事かじや育児いくじをする妻つまの「内助ないじょの功こう」を評価ひょうかし、給与きゅうよ所得しょとくで年とし１０３万まん円えん以下いかの配偶はいぐう者しゃがいる納税のうぜい者しゃに所得しょとく控除こうじょ（３８万まん円えん）を与あたえ、税ぜい負担ふたんを軽減けいげんする制度せいど。１９６１年ねんにできたこの制度せいどが、「夫おっとは外そとで働はたらき妻つまは家いえを守まもる」という家族かぞく観かんを醸成じょうせいし、高度こうど経済けいざい成長せいちょうを支ささえた。このため配偶はいぐう者しゃ控除こうじょ廃止はいしを「専業せんぎょう主婦しゅふの否定ひてい」「家族かぞくの否定ひてい」と受うけとめる人ひともいる。
　Ｑ　廃止はいしによってどんな変化へんかが考かんがえられるか？
　Ａ　夫おっとが配偶はいぐう者しゃ控除こうじょの適用てきようを受うければ家計かけい全体ぜんたいの税ぜい負担ふたんが軽かるくなるため、パートなどで働はたらく妻つまは、年収ねんしゅうを１０３万まん円えん以下いかに抑おさえる就労しゅうろう調整ちょうせいをしてきた。いわゆる「１０３万まん円えんの壁かべ」だ。その後ご小刻こきざみに制度せいど改正かいせいされたが、税制ぜいせいが女性じょせいのライフスタイルを左右さゆうしてきた状況じょうきょうは変かわらない。廃止はいしされれば女性じょせいの就労しゅうろうを広ひろげるきっかけになるだろう。
　ただ民主党みんしゅとうは、地方ちほう税ぜいの住民じゅうみん税ぜいでは両りょう控除こうじょを廃止はいししないとしている。中央ちゅうおう大だい法科ほうか大学院だいがくいんの森もり信しん茂樹しげき教授きょうじゅ（租税そぜい法ほう）は「住民じゅうみん税ぜいだけ控除こうじょを残のこすと、広ひろく薄うすく課税かぜいするという地方ちほう税ぜいのあり方かたと矛盾むじゅんする。子こども手当てあての財源ざいげん論ろんありきで整合せいごう性せいがない」と指摘してきする。
　Ｑ　今後こんごはどう進すすむ？
　Ａ　配偶はいぐう者しゃ控除こうじょの議論ぎろんは来年らいねん夏なつの参院さんいん選せん以降いこうまで先送さきおくりされる見通みとおしだ。ただ専業せんぎょう主婦しゅふ世帯せたいは年々ねんねん減へり続つづけ、９７年ねん以降いこうは共働ともばたらき世帯せたいの方ほうが多おおい＝グラフ＝。東大とうだいの大沢おおさわ真理まり教授きょうじゅ（社会しゃかい政策せいさく）は「人口じんこう減少げんしょう時代じだいになり、女性じょせいの就労しゅうろうを抑制よくせいする制度せいどは役割やくわりを終おえた」と指摘してき。今後こんごは税制ぜいせいとともに、年金ねんきんなど社会しゃかい保障ほしょうや健康けんこう保険ほけん制度せいどを含ふくめ、個人こじんの生いき方かたとかかわる制度せいどの改革かいかくは避さけて通とおれないだろう。（生活せいかつ情報じょうほう部ぶ　月野つきの美帆子みほこ）」

■低てい所得しょとく世帯せたい　再さい配分はいぶん機能きのうが弱よわいゆえに
　（2010/04/18付づけ『西日本にしにほん新聞しんぶん』朝刊ちょうかん社説しゃせつ）
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/166148
「　貧困ひんこん問題もんだいが深刻しんこくさを増ましているという。背景はいけいには日本にっぽん経済けいざいの長ながい停滞ていたいと過去かこに例れいのない急速きゅうそくな高齢こうれい化かの進行しんこうがある。
　そして、社会しゃかい構造こうぞうの変化へんかに追おいつけない既存きそんの制度せいどがある。変かえる努力どりょくがなされてはいるが一筋縄ひとすじなわではいかない。
　生活せいかつ保護ほご基準きじゅんを下回したまわる低てい所得しょとく世帯せたい数すうが全国ぜんこくで２２９万まん世帯せたいに上のぼり、全ぜん世帯せたいの４・８％を占しめた。その数かずに少すこし驚おどろいた。
　厚生こうせい労働省ろうどうしょうが初はじめて推計すいけいした。２００７年ねん国民こくみん生活せいかつ基礎きそ調査ちょうさを基もとに（１）月額げつがくの所得しょとくが生活せいかつ保護ほごの最低さいてい生活せいかつ費ひを下回したまわる（２）現在げんざい貯蓄ちょちく高だかが最低さいてい生活せいかつ費ひの１カ月かげつ未満みまん－の条件じょうけんに当あてはまる世帯せたい数すうを算出さんしゅつした。
　全国ぜんこく消費しょうひ実態じったい調査ちょうさを基もとにした推計すいけいも行おこない、こちらは４５万まん世帯せたいとなった。これは少すくなすぎるというのが実感じっかんだ。
　ただ、数かずだけが問題もんだいなのではない。親おやから子こどもへと引ひき継つがれ、容易よういに抜ぬけ出だせない貧困ひんこんの連鎖れんさが起おきているのではないか、との声こえが強つよまっているのだ。
　日本にっぽんにもかつて高度こうど経済けいざい成長せいちょう期きがあった。若わかい世代せだいは信しんじ難がたいかもしれない。国民こくみんすべてが同おなじではなかったが、誰だれもが、それなりに暮くらしは便利べんりに豊ゆたかになって「一いち億おく総そう中流ちゅうりゅう」意識いしきが生うまれた。
　それが、１９９０年代ねんだいから経済けいざいの停滞ていたいによって崩くずれた。格差かくさが強つよく意識いしきされ「勝かち組ぐみ」「負まけ組ぐみ」の言葉ことばを生うんだ。
　高齢こうれい社会しゃかいの到来とうらいも大おおきい。公的こうてき年金ねんきんの受給じゅきゅう額がく、不動産ふどうさんなど資産しさんの有無うむ、貯蓄ちょちくの多寡たかなど高齢こうれい者しゃほど個人こじん差さが大おおきい。
　男女だんじょの賃金ちんぎん格差かくさもなかなか縮ちぢまらず、多おおくの母子ぼし家庭かていは低てい収入しゅうにゅうに苦くるしむ。
　いったん困難こんなんな状況じょうきょうに陥おちいると、個人こじんの努力どりょくだけではいかんとも解決かいけつし難がたい。
　そのとき、経済けいざい格差かくさを緩和かんわする役割やくわりを果はたすのが、国くにの政策せいさく、制度せいどである。
　一ひとつは税金ぜいきんだ。高こう所得しょとく者しゃからは税金ぜいきんを多おおく、少すくない人ひとは少額しょうがくを納おさめてもらう。格差かくさを緩和かんわする税ぜいの所得しょとく再さい配分はいぶん機能きのうといわれる。欧米おうべいでは、低てい所得しょとく者しゃ向むけに減税げんぜいと給付きゅうふ金きん支給しきゅうを合あわせた制度せいどもある。
　しかし、昨夏さくなつ発表はっぴょうされた内閣ないかく府ふの経済けいざい財政ざいせい白書はくしょも指摘してきしたように、日本にっぽんの税制ぜいせいは再さい配分はいぶん機能きのうが極きわめて弱よわい。低てい所得しょとく者しゃ層そうでは欧米おうべい諸国しょこくに比くらべて公的こうてき負担ふたんは重おもく、公的こうてき給付きゅうふは少すくない状態じょうたいに置おかれている。
　所得しょとくが低ひくい割わりには税金ぜいきんや社会しゃかい保険ほけん料りょうの負担ふたんが重おもい。これは若わかい世代せだいが中心ちゅうしんだ。だから、子こども手当てあてという手厚てあつい給付きゅうふ金きんで直接ちょくせつ支援しえんするとの考かんがえ方かたもとれる。
　ただ、私わたしたちは昨年さくねん末まつ、財源ざいげんを考かんがえて制度せいど設計せっけいの見直みなおしを求もとめた。いま、導入どうにゅうを急いそぎすぎたとの批判ひはんも出でている。
　最低さいてい賃金ちんぎんの引ひき上あげ、正規まさき・非ひ正規せいき労働ろうどうや男女だんじょにかかわらず「同どう一いち労働ろうどう同どう一いち賃金ちんぎん」の徹底てっていなども底上そこあげには有効ゆうこうだ。
　これらの課題かだいは以前いぜんから指摘してきされてきたことだ。しかし、なかなか進すすまない。旧来きゅうらいの制度せいどをすべて壊こわし、一いちから積つみ直なおすぐらいのパワーが必要ひつようだと思おもうが、いまの政治せいじにはその力ちからが感かんじられない。
　個人こじんでは破やぶれない社会しゃかいの壁かべを一刻いっこくも早はやく取とり去さり、新あたらしい風かぜを入いれないと、日本にっぽん社会しゃかいの活力かつりょくは低下ていかするばかりだ。」

■ 文献ぶんけん ■

◆立岩たていわ真しん也・村上むらかみ慎まき司つかさ・橋口はしぐち昌治しょうじ　20090910　『税ぜいを直なおす』，青土おうづち社しゃ，350p.　ISBN-10: 4791764935　ISBN-13: 978-4791764938　2310　［amazon］／［kinokuniya］　※　t07.

◆Scott, Claudia ed.　1993　Women and Taxation, Institute of Policy Studies, Victoria University of Wellington＝19991014　古郡ふるこおり鞆子編へん訳やく，『女性じょせいと税制ぜいせい――ジェンダーにみる福祉ふくし国家こっかの再さい構築こうちく』，東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ，216p.

◆八田はった達夫たつお・八代やしろ尚宏なおひろ編へん　19951025　『「弱者じゃくしゃ」保護ほご政策せいさくの経済けいざい分析ぶんせき』，日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ，シリーズ現代げんだい経済けいざい研究けんきゅう10，252p.　ISBN-10: 4532131030　ISBN-13: 978-4532131036　［amazon］／［kinokuniya］　※ e05. t07.

◆八田はった達夫たつお・八代やしろ尚宏なおひろ　19951025　「「弱者じゃくしゃ」保護ほご政策せいさくはこれでよいのか」，八田はった・八代やしろ編へん［1995:1-10］

　「規制きせい緩和かんわを中心ちゅうしんとした構造こうぞう改革かいかくは、消費しょうひ者しゃ一般いっぱんや新あたらしい技術ぎじゅつを企業きぎょうに利益りえきをもたらすが、同時どうじに敗者はいしゃをも作つくり出だす。敗者はいしゃの中なかには、真しんの低てい所得しょとく者しゃや転職てんしょくのために手助てだすけを必要ひつようとする人ひとも含ふくまれる。構造こうぞう改革かいかくを積極せっきょく的てきに遂行すいこうするためには、その一方いっぽうで彼かれらを救済きゅうさいする措置そちをとらなければならない。すなわち、構造こうぞう改革かいかくによって特定とくてい弱じゃく保護ほご政策せいさくは廃止はいしにすべきだが、それは普遍ふへん的てき再さい分配ぶんぱい策さくの充実じゅうじつによって裏打うらうちされなければならない。そうすることによってこそ、「弱者じゃくしゃ」保護ほごを口実こうじつにした構造こうぞう改革かいかくへの抵抗ていこう根拠こんきょを失うしなわせるであろう。」（強調きょうちょう（ゴシック）は原文げんぶん）

◆樋口ひぐち美雄よしお　19951025　「「専業せんぎょう主婦しゅふ」保護ほご政策せいさくの経済けいざい的てき帰結きけつ」，八田はった・八代やしろ編へん［1995:185-219］

◆村上むらかみ潔きよし　200903　「戦後せんご日本にっぽんにおける「主婦しゅふ」の「労働ろうどう」をめぐる思想しそうと運動うんどうの同どう時代じだい史し」，立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう科か2008年度ねんど博士はかせ論文ろんぶん

◆立岩たていわ真しん也・村上むらかみ慎まき司つかさ・橋口はしぐち昌治しょうじ　2009　『税ぜいを直なおす』，青土おうづち社しゃ

　「◇04　ある属性ぞくせいの人ひとたち、収入しゅうにゅう等とうに関係かんけいがあるけれども、直接ちょくせつに対応たいおうしない人ひとたちの「優遇ゆうぐう」をどうするかという問題もんだいがある。例たとえば高齢こうれい者しゃに収入しゅうにゅうが少すくない人ひとが多おおいとして、しかし少すくない人ひともいるといった場合ばあいの税制ぜいせい他たをどうするかといった問題もんだいである。
　「構造こうぞう改革かいかくによって特定とくてい弱じゃく保護ほご政策せいさくは廃止はいしにすべきだが、それは普遍ふへん的てき再さい分配ぶんぱい策さくの充実じゅうじつによって裏打うらうちされなければならない。そうすることによってこそ、「弱者じゃくしゃ」保護ほごを口実こうじつにした構造こうぞう改革かいかくへの抵抗ていこう根拠こんきょを失うしなわせるであろう。」（八田はった・八代やしろ［1995:3］）
　構造こうぞう改革かいかく云々うんぬんは別べつとして、言いわれていることは基本きほん的てきに受うけ入いれる。ただまず、実際じっさいの「普遍ふへん的てき再さい分配ぶんぱい策さく」がどうかである。そしてとくに家族かぞくや家事かじ労働ろうどうが関係かんけいしてくると話はなしはいくらかは複雑ふくざつになる。主婦しゅふもいろいろだから、一律いちりつに「保護ほご」するのはおかしなことだと、その「特権とっけん」の保護ほごを求もとめる側がわの主張しゅちょうは間違まちがっていると思おもわれるのだが、はたしてそう単純たんじゅんなのかである。右みぎの文章ぶんしょうが収録しゅうろくされている本ほんでは「専業せんぎょう主婦しゅふ」保護ほご政策せいさくについて樋口ひぐち［1995］。ニュージーランドの税制ぜいせい改革かいかくが女性じょせい、家族かぞくに与あたえた影響えいきょうについてScott ed.［1993＝1999］。「均等きんとう」の流ながれに抗こうした女性じょせい・「主婦しゅふ」の運動うんどうに関かんする論文ろんぶんに村上むらかみ［2009］。」（立岩たていわ［2009:57］、第だい１章しょう注ちゅう４）

UP:20090722　REV:1020, 20100514

◇税ぜい　 ◇身体しんたい×世界せかい：関連かんれん書籍しょせき　 ◇BOOK

TOP　HOME(http://www.arsvi.com)◇