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立岩真也「国境の越え方――西川長夫先生に聞く」
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国境こっきょうかた

西川にしかわ長夫ながお先生せんせいく―

立岩たていわ しん也 2005/07/05
立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう・リレー講義こうぎ


 *以下いか当日とうじつ配付はいふよう資料しりょう。2005/06/03送付そうふ

 わたし仕事しごとについては著書ちょしょとホームページhttp://www.arsvi.comをごらんください。このわたし西川にしかわ先生せんせい質問しつもんしてみたいとおもっています。だい以下いかより。

西川にしかわ 長夫ながお 1992 『国境こっきょうかた――比較ひかく文化ぶんかろん序説じょせつ
 筑摩書房ちくましょぼう
西川にしかわ 長夫ながお 2001 『増補ぞうほ 国境こっきょうかた――国民こくみん国家こっかろん序説じょせつ

 平凡社へいぼんしゃライブラリー,477p. 1300

 以下いか先生せんせい文章ぶんしょうから引用いんよう

 「だいは、国民こくみん国家こっかにかわるもの、代案だいあんつまりオルタナティヴをしめさないで、国民こくみん国家こっか批判ひはんをやるのは無責任むせきにんだ、というものです。責任せきにんにおいてオルタナティヴのイデオロギーが保守ほしゅにも革新かくしんにも蔓延まんえんしているようです。だが、またしても、安易あんいなユートピアをしめせというのでしょうか。こん一般いっぱんわれているオルタナティヴは、あるおおきな枠組わくぐみのなかでの選択肢せんたくしです。だが、そのおおきな枠組わくぐ自体じたいくずれようとしている。問題もんだいとなっているのはだれにも予見よけんできない未来みらいではないでしょうか。混沌こんとんとした現実げんじつ歴史れきし進行しんこうのなかで、そのその選択せんたくおこないながら、試行錯誤しこうさくごすえに、わたしたちの視野しや徐々じょじょにひらけていく。しんのオルタナティヴは、なが考察こうさつ批判ひはんあいだに、おのずと形成けいせいされるものだとおもいます。」(西川にしかわ戦争せんそう世紀せいきえて――グローバル時代じだい国家こっか歴史れきし民衆みんしゅう』,平凡社へいぼんしゃ,2002,p.112)
 「わたしはこれまで、意図いとてき代案だいあんすことを拒否きょひしてきたのですが、それにはしゅとしてみっつの理由りゆうがあります。ひとつは、すでにべたように、代案だいあんというのはだい政党せいとうせい理想りそうとされるような代議だいぎせいの、したがって国民こくみん国家こっかわくないでの選択せんたくしめす、いわば体制たいせいないイデオロギーであるということ。だいは、歴史れきしかんがかたにかかわってきますが、歴史れきしにはつねに意外いがいせいがあって、とりわけ現在げんざいのような〇〇年来ねんらいだい転換期てんかんきにあっては、未来みらい予測よそく困難こんなんである。ウォーラーステインはそのことを、プリゴジンの理論りろんりてバイファーケーションという用語ようご説明せつめいしています。そういう時代じだいにあっては、一歩一歩いっぽいっぽ視野しやひらいて、そのごとにみちえらんですすむしかないのであって、もし一挙いっきょ代案だいあんせる(p.138)にんがいたら、多分たぶんそれはいんちきだとおもいます。だいさんは、ほぼだいおなじことですがしん代案だいあんすためには、そのひと感性かんせいにおいても思想しそうにおいても、根底こんていからわらなければならないだろう。
 代案だいあんうときに、われわれは手持てもちの材料ざいりょうかんがえてすぐ代案だいあんせるような錯覚さっかくをいだいています。しかし国民こくみん国家こっか歴史れきしのなかでは、その代案だいあんかんがえる思考しこうりょく抑圧よくあつするちからがずっとはたらいていて――それが国家こっかイデオロギーというものでしょう――、それはわれわれの感性かんせい思考しこうりょく左右さゆうしている。」(どう、pp.138-139)

 こういうのをんで、「われらは問題もんだい解決かいけつみちえらばない」とかったとかいうひとたちのことをおもひともいるかもしれない。ところでわたしは、にもかかわらず、「解決かいけつ志向しこう」でこうとおもっている。ちなみに、以下いか拙著せっちょ自由じゆう平等びょうどうだいしょうちゅう1(p.319)

 「しばらくまえ終止しゅうししてしまったかのようなしょ思想しそうについて、それらがなにだったのか、どんな論理ろんり構造こうぞうになっていたのか、なにめぐって対立たいりつしたのか、さい検討けんとうする必要ひつようがあるとおもう(序章じょしょうちゅう15)。(疎外そがいろん物象ぶっしょうろんという対立たいりつについては廣松ひろまつ[1972][1981]とう田上たうえ[2000]、。なお本節ほんぶし本書ほんしょなん箇所かしょかは[1997]をろんじた三村みつむら[2003]への応答おうとうでもある。)また、本文ほんぶんしるしたのは現実げんじつわると意識いしきわるというひとつのせんだが、むろんそれだけが想定そうていされたのではない。両者りょうしゃあいだ幾度いくどもの往復おうふくが、希望きぼうとともに、えがかれたのだった。それはたしかに空想くうそうてきだとおもえる。しかし、ひともまたわっていくはずであるとかんがえるのは、ひとはこんなものだろうというところから議論ぎろんしそこにとどまってしまうのとくらべて、すくなくとも論理ろんりてきあやまっているということはない。ひとはどのようにわっていくかわからないのだと、だから「代替だいたいあん」をしめせという脅迫きょうはくに「だれにも予見よけんできない未来みらい」(西川にしかわ[2002:112,138-139])を対置たいちすることはただしいのだし、ろん現実げんじつさきほうまですすめていこうとするちからたいしてリベラリズムが反動はんどうとして作用さようすることに苛立いらだひとがいる(Zizek[2001=2002])のも当然とうぜんなのである。」

 引用いんようしたい箇所かしょいくらもあるのだが、たとえば。(ぜん掲載けいさいのホームページ:ひと西川にしかわ長夫ながおのところにもうすこ引用いんようがあります。)

 「文化ぶんかはあいまいな概念がいねんであるから、文化ぶんか主義しゅぎとなえることは容易よういである。それはたいして我身わがみにかかってこない。だがひとたび文化ぶんか主義しゅぎ必然ひつぜんてき帰結きけつである言語げんご主義しゅぎ導入どうにゅうされれば、事態じたい急変きゅうへんする。文化ぶんか主義しゅぎけいれながら多言たげん主義しゅぎ拒否きょひする理由りゆう説明せつめいは、いままでわたしりえたかぎりでは、経済けいざいてき効率こうりつのみである。それは妥協だきょうによって成立なりた現実げんじつ政治せいじ観点かんてんからは説得せっとくてき理由りゆうである。では、文化ぶんかてき多様たようせいみとめ、それぞれの文化ぶんかてき自立じりつ共存きょうぞん積極せっきょくてきすすめようとする文化ぶんか主義しゅぎは、経済けいざいてき効率こうりつによって左右さゆうされるような性質せいしつのものであろうか。そこには論理ろんりてきあいまいさがのこされており、その理論りろんてきなあいまいさにあえてろうとしない姿勢しせいがうかがわれるのである。」(西川にしかわ文化ぶんか主義しゅぎ多言たげん主義しゅぎ現在げんざい」、1997、西川にしかわ長夫ながお渡辺わたなべこうさん・McCormack, Gavanへん文化ぶんか主義しゅぎ多言たげん主義しゅぎ現在げんざい――カナダ・オーストラリア・そして日本にっぽん』、人文書院じんぶんしょいん,p.17)

 「テイラーとハーバーマスという、世界せかいてき名声めいせいているだいいちきゅう哲学てつがくしゃたちの、文化ぶんか主義しゅぎをめぐる言説げんせつのあいだにかくれするあいまいさや矛盾むじゅんあるいはとしの部分ぶぶんのなかに、今後こんご展開てんかいふかめなければならない文化ぶんか主義しゅぎ重要じゅうよう理論りろんてき課題かだい、むしろかれせいといったものがしめされているのではないかとおもう。つぎよんてん指摘してきしておきたい。
 (1)先住民せんじゅうみん問題もんだい[…][…]
 (2)あたらしいタイプの自由じゆう主義しゅぎ提案ていあんにせよ、民主みんしゅてき立憲りっけん国家こっか成熟せいじゅくにせよ、ここでの議論ぎろん既成きせい国民こくみん国家こっか存続そんぞく前提ぜんていして、国民こくみん国家こっかわくなかで、統合とうごう形態けいたい再編さいへん、デモクラシーやシティズンシップのあらたな形態けいたいうというかたちすすめられている。[…]
 (3)[…]かれらがもちいる文明ぶんめい文化ぶんか、エスニシティ、民族みんぞく、アイデンティティ等々とうとう主要しゅよう概念がいねんが、基本きほんてきには国民こくみん国家こっか時代じだい形成けいせいされたふる概念がいねんのままであって、そうした概念がいねんたいする根本こんぽんてき懐疑かいぎ批判ひはんが、いくつかの興味深きょうみぶか提案ていあんはあるものの、いまだ十分じゅうぶんおこなわれていないところ[…]
 (4)二人ふたり哲学てつがくしゃ緻密ちみつ論理ろんりときにあいまいで欺瞞ぎまんてきおもわれるのは、エスニシティや民族みんぞく問題もんだい背後はいごにあってつねにその根本こんぽんてき原因げんいんになっている、差別さべつ(あるいは搾取さくしゅ搾取さくしゅ)のシステム、かたちえたあたらしいタイプの植民しょくみん主義しゅぎ、といったものにたいする指摘してき考察こうさつ欠如けつじょ、あるいはそうした差別さべつのシステムと文化ぶんか主義しゅぎがいかなる関係かんけいにあるかについての考察こうさつ欠如けつじょかんじられるからではないかとおもう。」(どう、pp.19-21)


UP:20050603 REV:
西川にしかわ 長夫ながお  ◇立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう  ◇立岩たていわ しん
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