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朝日新聞デジタル:【放送】福島第一原発の爆発映像 “公共財”として社会で共有を - メディアリポート - デジタル
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2012ねん7がつ10日とおか
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メディアリポート

放送ほうそう福島ふくしまだいいち原発げんぱつ爆発ばくはつ映像えいぞう “公共こうきょうざい”として社会しゃかい共有きょうゆう

筆者ひっしゃ 水島みずしま宏明ひろあき

 昨年さくねん日本にっぽんはじめて原子力げんしりょく発電はつでんしょ爆発ばくはつした。3月さんがつ12にち午後ごご36ふん福島ふくしまだいいち原発げんぱつの1号機ごうききた水素すいそ爆発ばくはつだ。その瞬間しゅんかん日本にほんテレビ系列けいれつ福島中央ふくしまちゅうおうテレビ(FCT)の無人むじんカメラが撮影さつえいしていた。一瞬いっしゅんにしてしろけむり四方しほうし、建物たてものる。人類じんるい歴史れきしじょうはじめて「原発げんぱつ爆発ばくはつする瞬間しゅんかん」をとらえた映像えいぞうだった。

 福島ふくしまのテレビ各社かくしゃ原発げんぱつを24あいだ監視かんしするハイビジョン仕様しようのカメラを原発げんぱつちかくに設置せっちしていたが、いずれもだい地震じしんれで使用しようできなくなった。福島中央ふくしまちゅうおうテレビが原発げんぱつから17キロ地点ちてん予備よびのこしていた旧式きゅうしきのカメラだけが機能きのうした。

 この映像えいぞう福島中央ふくしまちゅうおうテレビ報道ほうどう幹部かんぶやスタッフは、ただならぬことがきたと判断はんだん。4ふんにローカル放送ほうそう映像えいぞうながして「福島ふくしまだいいち原発げんぱつの1号機ごうきからおおきなけむりがった。そのけむりきたかってながれている」とつたえた。テレビで映像えいぞう行政ぎょうせい関係かんけいしゃ住民じゅうみん衝撃しょうげきけ、避難ひなん判断はんだんにも影響えいきょうあたえた。

 映像えいぞうは、東京とうきょうキーきょく日本にほんテレビへもスルーで配信はいしんされていた。福島中央ふくしまちゅうおうテレビのデスクは日本にほんテレビがわ電話でんわして、「大変たいへんなことがきた。すぐに全国ぜんこく放送ほうそうしてほしい」と要請ようせいした。

 しかし、日本にほんテレビがこの映像えいぞう全国ぜんこく放送ほうそうしたのは、発生はっせいから1あいだ14ふん経過けいかした午後ごご50ふんだった。

 緊急きんきゅう住民じゅうみんいのち直結ちょっけつする貴重きちょう映像えいぞう放映ほうえいが、これほどおくれた事実じじつ。テレビ業界ぎょうかいでもあまりられず、議論ぎろん対象たいしょうにもなっていない。とうテレビ局てれびきょく系列けいれつないでもおな状態じょうたいだ。

 原発げんぱつ事故じこのち自分じぶんたちの初期しょき報道ほうどう適切てきせつだったのかどうか。検証けんしょうおこなうテレビ報道ほうどうがほとんどないなか、それを自問じもん検証けんしょうした数少かずすくない番組ばんぐみがある。福島中央ふくしまちゅうおうテレビが制作せいさくした「原発げんぱつ水素すいそ爆発ばくはつ、わたしたちはどうつたえたか」(昨年さくねんがつと12月にシリーズで2かい放送ほうそう)だ。

 それによると、福島中央ふくしまちゅうおうテレビがキーきょく日本にほんテレビに爆発ばくはつ映像えいぞう全国ぜんこく放送ほうそう要請ようせいしたのち日本にほんテレビでは、報道局ほうどうきょく幹部かんぶが「なにきたかまず分析ぶんせきしろ。はっきりするまで放送ほうそうつ」という指示しじをしていたという。「分析ぶんせきしたうえでないと放送ほうそうする意味いみがない」と日本にほんテレビ・ニュース編集へんしゅう部長ぶちょうどう番組ばんぐみないかたる。

 一方いっぽうで、福島中央ふくしまちゅうおうテレビの報道ほうどう部長ぶちょうは「原子力げんしりょく緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげんされているなかで、地元じもとテレビ局てれびきょくとしてはあの原発げんぱつ構内こうないこったことは、些細ささい出来事できごとでも異常いじょうがあればすぐさまほうじるべき」と、ローカルでの放映ほうえいつづけていた。

 福島中央ふくしまちゅうおうテレビにおくれること1あいだ10ふんはじめて東京とうきょうのスタジオから爆発ばくはつ映像えいぞう全国ぜんこく放送ほうそうされたさい解説かいせつした東京工業大学とうきょうこうぎょうだいがく教授きょうじゅは「爆発ばくはつではなく、意図いとてき爆破ばくはべん使用しよう」という「分析ぶんせき」をしてみせた。アナウンサーがその情報じょうほうかえしたが、いま時点じてん判定はんていすれば、1時間じかん以上いじょう分析ぶんせきしたすえ解説かいせつはお粗末そまつなものでしかなかった。

 爆発ばくはつ映像えいぞう放映ほうえいが1時間じかん以上いじょうおくれた理由りゆうは、一般いっぱん聴者ちょうしゃには説明せつめいされていない。朝日新聞あさひしんぶん連載れんさい「プロメテウスのわな」でいたのが全国ぜんこくメディアでほうじられた唯一ゆいいつ事例じれいだろう。記事きじなか日本にほんテレビ広報こうほう担当たんとうふく部長ぶちょうは「なにこっているのか、その分析ぶんせきがないなか映像えいぞうながすと、パニックがこるのではないかと危惧きぐした。映像えいぞう専門せんもんてもらい、解説かいせつけて放送ほうそうした」と説明せつめいしている。これにたいし、早稲田大学わせだだいがく大学院だいがくいん伊藤いとうまもる教授きょうじゅ著書ちょしょで「放射ほうしゃせい物質ぶっしつ飛散ひさんによる住民じゅうみん影響えいきょう考慮こうりょするなら、一刻いっこくはや報道ほうどうもとめられていたはずである」と疑問ぎもんげかけている(平凡社へいぼんしゃ新書しんしょ『ドキュメント テレビは原発げんぱつ事故じこをどうつたえたのか』)。

全国ぜんこく放送ほうそうを1時間じかん以上いじょうおくらせた判断はんだんただしかったのか

 筆者ひっしゃ伊藤いとう教授きょうじゅおな意見いけんだ。

福島ふくしまだいいち原発げんぱつをとらえるカメラが、爆発ばくはつのようにえる異常いじょう状況じょうきょう撮影さつえいしました。なにきたのか、現在げんざい分析ぶんせきしています」と、確認かくにんちゅうであることをって放送ほうそうすべき事案じあんであった。結果けっかろんだが、映像えいぞうをいちはや放送ほうそうすることで、専門せんもんてき知識ちしきひと政府せいふ関係かんけいしゃ、あるいは住民じゅうみんにも事態じたいひろく「共有きょうゆう」され、状況じょうきょう把握はあく避難ひなんかんする判断はんだんがもっとはやくできた可能かのうせいがある。日本にっぽんのメディアは全般ぜんぱんてきに「共有きょうゆう」の発想はっそうとぼしい。

 なぜ放送ほうそうおくれたのか。その判断はんだん結果けっかてきただしかったのか。間違まちがっていたなら今後こんごはどのような判断はんだん基準きじゅんつのか。それはきちんと検証けんしょうすべきだ。おなじような事態じたいきたら、とかんがえるともはやいち企業きぎょう問題もんだいではない。住民じゅうみんいのち健康けんこうまもるための報道ほうどうについて、テレビが対応たいおうできているのかという公共こうきょうせいたか事柄ことがらだ。日本にほんテレビは公共こうきょうてき報道ほうどうになものとして説明せつめい責任せきにんたすべきだ。

 1号機ごうきつづいて3がつ14にちには3号機ごうき水素すいそ爆発ばくはつ。15にちには4号機ごうき水素すいそ爆発ばくはつき、2号機ごうきからも衝撃しょうげきおん発生はっせいしたという情報じょうほうめぐった。15にちきり発生はっせいしていたため、福島中央ふくしまちゅうおうテレビのカメラにはなにうつっていない。一方いっぽう、14にちの3号機ごうき水素すいそ爆発ばくはつでは、様子ようすや、くろけむりがかなり上空じょうくうまでがっていく様子ようす記録きろくされている。つまり史上しじょうはつ原発げんぱつ爆発ばくはつ映像えいぞうは1号機ごうきと3号機ごうきかんして存在そんざいする。映像えいぞう著作ちょさくけんしゃ福島中央ふくしまちゅうおうテレビだ。

 このため現在げんざいまで、爆発ばくはつ映像えいぞう使用しよう日本にほんテレビ系列けいれつだけに限定げんていされている。原発げんぱつ爆発ばくはつ直後ちょくごには、海外かいがい放送ほうそうきょくから映像えいぞう購入こうにゅう依頼いらい殺到さっとうした。結果けっかとして海外かいがいのニュースでは爆発ばくはつ映像えいぞうあふれ、それがネットにもアップされた。ぎゃく国内こくないではにっテレけいでしかながれなかったため、ネットじょう一時いちじ、「日本にっぽんのテレビは意図いとてき爆発ばくはつ映像えいぞうかくしている」とのデマがながれた。

 例外れいがいとしてにっテレ系列けいれつ以外いがい爆発ばくはつ映像えいぞう放映ほうえいされたのが、昨年さくねんがつのNHKスペシャルだ。このとき、NHKは映像えいぞう使用しようりょうはらったうえで、画面がめん福島中央ふくしまちゅうおうテレビ撮影さつえいのクレジットをれて使用しようしている。このようにのメディアは購入こうにゅうするというかたち映像えいぞう使用しようできる可能かのうせいはあるが、値段ねだんるかどうかの判断はんだん福島中央ふくしまちゅうおうテレビ−日本にほんテレビがわにぎっている。

 原発げんぱつ事故じこからすでに1ねん以上いじょう経過けいかしている。そろそろ爆発ばくはつ映像えいぞう公共こうきょうせい真剣しんけんかんがえてもいのではないか。具体ぐたいてきにいうと、「爆発ばくはつ映像えいぞう」をひとつの系列けいれつ利用りよう所有しょゆうにとどめずに、のメディアにも開放かいほうするべきだ。とく福島ふくしまローカルでは、各局かくきょく原発げんぱつ事故じこ関連かんれんするニュースを連日れんじつ放送ほうそうしている。もし福島中央ふくしまちゅうおうテレビと日本にほんテレビが爆発ばくはつ映像えいぞう著作ちょさくけん独占どくせん使用しようけん放棄ほうきし、系列けいれつ無償むしょう提供ていきょうする先例せんれいつくれば、この映像えいぞう利用りようはもっとひろがるはずだ。

 秋田あきた県立けんりつ大学だいがく鶴田つるたしゅん教授きょうじゅは、様々さまざま爆発ばくはつのメカニズムを検証けんしょうする研究けんきゅうしゃ一人ひとりだ。爆発ばくはつ映像えいぞう解析かいせき研究けんきゅう対象たいしょうとするかれは「こういう貴重きちょう映像えいぞう専門せんもん自由じゆう使つかえるようにすべき」とかたる。爆発ばくはつ映像えいぞう解析かいせきすれば、わかってくることはおおいという。たとえば原発げんぱつ建物たてものがどのように破壊はかいされたのかをこまかくていけば、原発げんぱつないのどこから、どんなちからはたらいたのかが推測すいそくできる。現在げんざい人間にんげんでは確認かくにんできない場所ばしょおお原発げんぱつ内部ないぶ把握はあくするがかりになりうるというのだ。様々さまざまなレベルの事故じこ調査ちょうさ委員いいんかいへの提供ていきょうという選択肢せんたくしもあるだろう。

社会しゃかい全体ぜんたいのメリットを無視むしし「公共こうきょう」をはばむものはなに

 人類じんるい歴史れきしじょう唯一ゆいいつ爆発ばくはつ映像えいぞうは、特定とくてい会社かいしゃ系列けいれつだけの「所有しょゆうぶつ」でなく「公共こうきょうざい」だといえる。公共こうきょう著作ちょさくけん放棄ほうきすれば、国内こくないだけでなく海外かいがいふくめたおおくの専門せんもんによる映像えいぞう解析かいせき可能かのうになる。また、原発げんぱつ爆発ばくはつという事態じたい生々なまなましさをつたえられる映像えいぞう使つかうことで、国内外こくないがいテレビ局てれびきょくなどの報道ほうどうはばひろがっていく。映像えいぞう開放かいほうによって社会しゃかい全体ぜんたいられるメリットはきわめておおきい。前出ぜんしゅつ伊藤いとう教授きょうじゅも「その映像えいぞうは、日本にほんテレビが独占どくせんすべきものだったのだろうか。むしろ、だれでもがることができる公共こうきょうざいではなかったか」と指摘してきする。

 福島中央ふくしまちゅうおうテレビは先日せんじつ報道ほうどう制作せいさくきょくがこの映像えいぞう撮影さつえい功績こうせきみとめられて日本にっぽん記者きしゃクラブ特別とくべつしょう受賞じゅしょうするなど社会しゃかいてき評価ひょうかをすでにている。となれば映像えいぞう開放かいほうらない理由りゆう見当みあたらない。福島中央ふくしまちゅうおうテレビの関係かんけいしゃから、映像えいぞう社会しゃかい全体ぜんたい活用かつようしてもらいたいという意向いこういたことがあるが、キーきょくとのあいだ調整ちょうせいがつかないのだろうか。いったい、公共こうきょうはばむものはなになのか。

 映像えいぞう公共こうきょうてき利用りようはば最大さいだい要因よういんを、筆者ひっしゃテレビ局てれびきょくにおける「公共こうきょうせい意識いしき欠如けつじょだとかんがえる。テレビ局てれびきょくにとって、独自どくじ映像えいぞう商品しょうひんでもある。手放てばなすことへの抵抗ていこうかんがあるのは想像そうぞうかたくない。損得そんとく勘定かんじょう他社たしゃへの競争きょうそう意識いしき、「他社たしゃへの提供ていきょう実例じつれいつくると歯止はどめがかなくなる」おそれや保身ほしん意識いしきなどがあるのかもしれない。

 ジャーナリズムの重要じゅうよう一翼いちよくになっているのに、テレビ局てれびきょくでは「公共こうきょうせい」にかんする議論ぎろん職場しょくばわすことが滅多めったにない、というのが筆者ひっしゃとぼしい経験けいけんからくる実感じっかんだ。業務ぎょうむ細分さいぶんされ、「他社たしゃけない」という競争きょうそう意識いしきつよくても、全体ぜんたい見渡みわたして「公共こうきょうのために」「系列けいれつえて共同きょうどうで」などという発想はっそうにはとぼしい。「会社かいしゃ」や「しゃえき」が強調きょうちょうされる場面ばめんおおく、その意識いしきは「うちき」だ。

 筆者ひっしゃがこのはるテレビ局てれびきょく退職たいしょくするにいたったのも、そういううちきの理屈りくつ優先ゆうせんされ、ジャーナリズムの公益こうえきせい議論ぎろんりになっている現状げんじょうに、限界げんかいかんじたことがおおきい。

 原発げんぱつ事故じこ筆者ひっしゃ担当たんとうすることになった事故じこ検証けんしょうのドキュメンタリーの企画きかく会議かいぎで、番組ばんぐみ最高さいこう責任せきにんしゃはこう発言はつげんした。

制作せいさくにあたっておなじグループである系列けいれつ新聞しんぶんしゃの『しゃろん』を逸脱いつだつしないよう……」

 人事じんじけん上司じょうしから反論はんろんゆるさぬはげしい口調くちょうわれ、業務ぎょうむ命令めいれいとしてった。30ねんにおよぶ民放みんぽうテレビの報道ほうどう記者きしゃ・ドキュメンタリー制作せいさくしゃとしての人生じんせいで、本格ほんかくてき取材しゅざいはいまえ段階だんかいで「結論けつろん」や「方向ほうこう」をあらかじめ指示しじされたのははじめての経験けいけんだった。

 一般いっぱんてきには、資本しほんてきおなじグループであっても、新聞しんぶんとテレビは別個べっこ企業きぎょうだ。テレビが新聞しんぶんしゃろん歩調ほちょうおなじにする、という経験けいけん筆者ひっしゃ経験けいけんしたことがない。もし同一どういつにするなら、テレビの編集へんしゅう独立どくりつせいという観点かんてんから放送ほうそうほうじょう問題もんだいだ。新聞しんぶん社説しゃせつにあたるものがないテレビで、しゃろんのような統一とういつ見解けんかい問題もんだいになることもおよそない。むしろ多様たよう意見いけんしめすのが原則げんそくだ。公共こうきょうせい非常ひじょうたか原発げんぱつ事故じこ検証けんしょうドキュメンタリーをつく段階だんかいでの「しゃろん」の指示しじ一般いっぱん視聴しちょうしゃつたえるというよりも、社内しゃない(あるいはグループない)の視聴しちょうしゃ意識いしきする、うち姿勢しせい目立めだった。

●「爆発ばくはつ映像えいぞう」の共有きょうゆう公共こうきょうせい重視じゅうしのテレビ報道ほうどう

 原子力げんしりょくは、報道ほうどうドキュメンタリーにとってむかしからデリケートなジャンルだ。せっかく公共こうきょうせいたか番組ばんぐみ制作せいさくしても、うちきの理屈りくつながれをってしまう歴史れきしかえされてきた。とく地方ちほうきょくではその傾向けいこうつよい。

 過去かこには、広島ひろしまテレビ制作せいさくの「プルトニウム元年がんねん」シリーズ(1992〜93ねん放送ほうそう)が世間せけんたか評価ひょうかけながらも、電力でんりょく会社かいしゃからの圧力あつりょくうちきの理屈りくつで、制作せいさくしゃたちが次々つぎつぎ異動いどうさせられる結末けつまつまねいた。もっとまえには青森放送あおもりほうそうの「かくまいね」シリーズがおなじように終了しゅうりょうした。ドキュメンタリーで原子力げんしりょくあつかった結果けっか電力でんりょく会社かいしゃやその意向いこう神経質しんけいしつ営業えいぎょう部門ぶもんなどと緊張きんちょう関係かんけいしょうじ、その問題もんだいそのものに批判ひはんてきれるのがむずかしくなった事例じれい実際じっさいにある。

 地方ちほう民放みんぽうきょくにとって電力でんりょく会社かいしゃ電事連でんじれん最大さいだいきゅうのスポンサーだ。ローカルでレギュラー番組ばんぐみ提供ていきょうし、すうせんまんえん予算よさん特番とくばん提供ていきょうするなど、大事だいじきゃくだ。番組ばんぐみを「りる」とわれるのは死活しかつ問題もんだいおおくのきょく番組ばんぐみ審議しんぎかい電力でんりょく会社かいしゃ役員やくいんはいっていることでも、その顔色かおいろをいかににしているかわかる。「しゃえき」をかんがえ、電力でんりょく会社かいしゃ意向いこう先取さきどりして「うちきの理屈りくつ」で報道ほうどう加減かげんしてしまう幹部かんぶてくる。

 しかし、福島ふくしまだいいち原発げんぱつ事故じこではっきりしたことは、テレビ報道ほうどう作為さくい責任せきにんもまたおもいという事実じじつだ。電源でんげん喪失そうしつかんする指針ししんあまさやシビアアクシデント対策たいさくのいい加減かげんさなど、警鐘けいしょうらすべきポイントはいくつもあったのに報道ほうどうしてこなかった。怠慢たいまんのそしりをまぬかれないが、テレビ報道ほうどう現場げんばにおける公共こうきょうてき役割やくわり意識いしき使命しめいかん欠如けつじょがもたらしたものだとかんじている。だから二度にど間違まちがえないように、うちきの理屈りくつではなく視聴しちょうしゃがわいて、公共こうきょうせい重視じゅうしして報道ほうどうしていく覚悟かくご必要ひつようだ。

 その意味いみでは、原発げんぱつ爆発ばくはつ映像えいぞう著作ちょさくけん放棄ほうきして、のメディアや研究けんきゅうしゃらが映像えいぞう自由じゆう使用しようできるようにする、つまり映像えいぞう公共こうきょう共有きょうゆうをはかる、というみちは、放送ほうそうきょくしゃえきからはなれて、公共こうきょう目的もくてきのために役割やくわりたすという先例せんれいつくる。それはテレビにかかわるひとたちやそとひとにも映像えいぞう公共こうきょうせい意識いしきさせる絶好ぜっこう機会きかいになるはずだ。

 内輪うちわかかむのではなく、社会しゃかい全体ぜんたいのためにひらいて、いろいろな知恵ちえ役立やくだてていくテレビ報道ほうどう地味じみかもしれないが、そうしたかさねが、いま閉塞へいそくし、信頼しんらいうしなっているテレビ報道ほうどうえていく。

 福島中央ふくしまちゅうおうテレビと日本にほんテレビには、ぜひ公共こうきょうせいかんがえた英断えいだんのぞみたい。(「ジャーナリズム」12ねんがつごう掲載けいさい

   ◇

水島みずしま宏明ひろあき(みずしま・ひろあき)

ジャーナリスト・法政大学ほうせいだいがく社会学部しゃかいがくぶ教授きょうじゅ。1957ねんまれ。民放みんぽう地方ちほうきょく民放みんぽうキーきょくでテレビ報道ほうどうたずさわり、海外かいがい特派とくはいん、ドキュメンタリー制作せいさく解説かいせつキャスターなどを歴任れきにん3月さんがつテレビ局てれびきょく退職たいしょくして4がつから現職げんしょくおも番組ばんぐみに「原発げんぱつ爆発ばくはつ」「くも地獄じごくもどるも地獄じごく」など。おも著書ちょしょに『ネットカフェ難民なんみん貧困ひんこんニッポン』など。

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