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 特別天然記念物 魚津埋没林博物館~埋没林と蜃気楼の博物館 |蜃気楼

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蜃気楼しんきろうとは

蜃気楼しんきろうは、空気くうきちゅうひかり屈折くっせつするために5~20kmはなれた景色けしき実際じっさいとはちがかたちえる現象げんしょうで、上位じょうい蜃気楼しんきろう(=はる蜃気楼しんきろう)と下位かい蜃気楼しんきろう(=ふゆ蜃気楼しんきろう)の2種類しゅるいがあります。

はる蜃気楼しんきろう(4がつから5がつおおい)は、実際じっさい風景ふうけい上側うわがわに、びたり反転はんてんした虚像きょぞう出現しゅつげんします。富山湾とやまわん海面かいめんじょうつめたい空気くうきそうをつくり、そのうえあたたかい空気くうきとのあいだできゅう密度みつどわるときに出現しゅつげんします。以前いぜんは、立山たてやま連峰れんぽうから富山湾とやまわんながんだはるゆきどけすい空気くうきやすとかんがえられていましたが、近年きんねんは、ゆきどけすいはほとんど関与かんよせず、気温きおんふううごきがもっと密接みっせつ関与かんよしているとかんがえられています。

ふゆ蜃気楼しんきろう(11月から3がつおおい)ははるとはぎゃくに、実際じっさい風景ふうけいしたがわ反転はんてんした虚像きょぞうえます。これは、ふゆつめたい空気くうきあたたかい海水かいすいせっするところであたためられ、はるとはぎゃく温度おんど勾配こうばいになり、ひかり屈折くっせつ仕方しかたぎゃくになるのが原因げんいんです。

はる蜃気楼しんきろうは、平年へいねんで4~5がつに10~15かい程度ていどしか出現しゅつげんしません。また、毎年まいとしほぼ確実かくじつ出現しゅつげんする場所ばしょも、魚津うおづのほか滋賀しがけん大津おおつなどかぎられています。

ふゆ蜃気楼しんきろうは、ふゆあいだ視界しかいさえよければ毎日まいにちのように出現しゅつげんし、富山とやまわんかぎらず全国ぜんこく各地かくち海岸かいがんることができます。

蜃気楼写真1
バーコードじょうがった蜃気楼しんきろう(1999ねん5がつ22にち

蜃気楼写真2
反転はんてんびが混在こんざいした蜃気楼しんきろう(2001ねん5がつ13にち

蜃気楼写真3
実景じっけい富山とやま岩瀬いわせ方面ほうめん

蜃気楼しんきろう定義ていぎ種類しゅるい

蜃気楼しんきろうは、大気たいきちゅう温度おんど(=密度みつど)によってひかり屈折くっせつこし、遠方えんぽう風景ふうけいなどがびたり反転はんてんした虚像きょぞうあらわれる現象げんしょうです。よく、「どこの風景ふうけいうつるの?」という質問しつもんけますが、実際じっさいにそこにえている風景ふうけい上下じょうげ変形へんけいするだけで、ある風景ふうけいがまったくべつ方向ほうこう投影とうえいされるわけではありません。

蜃気楼しんきろうには大別たいべつして上位じょうい蜃気楼しんきろう下位かい蜃気楼しんきろうとがあります。上位じょうい蜃気楼しんきろうは、実際じっさい風景ふうけい上側うわがわびや反転はんてんした虚像きょぞうえるものをいいます。下位かい蜃気楼しんきろうぎゃくに、実際じっさい風景ふうけいしたがわ虚像きょぞうえます。

魚津うおづ普通ふつう蜃気楼しんきろう」といえば、上位じょうい蜃気楼しんきろうをさします。下位かい蜃気楼しんきろう区別くべつするため「はるの(はるがたの)蜃気楼しんきろう」とぶこともあります。魚津うおづでは下位かい蜃気楼しんきろうを「ふゆの(冬型ふゆがたの)蜃気楼しんきろう」とんでいます。ふゆ蜃気楼しんきろうは、一般いっぱんてきには浮島うきしま現象げんしょう、浮景現象げんしょうなどとばれ、原理げんりてきにはアスファルト道路どうろ砂漠さばくなどにられる「みず」と同種どうしゅ現象げんしょうです。

このほか、大気たいき密度みつど垂直すいちょく方向ほうこうでなく水平すいへい方向ほうこう形成けいせいされる場合ばあい想定そうていされ、その場合ばあいぞう変化へんかよこ方向ほうこうになるとかんがえられます。水平すいへい方向ほうこう虚像きょぞうあらわれるタイプの蜃気楼しんきろう観測かんそくれいはほとんどありませんが、九州きゅうしゅう八代海やつしろかい不知火しらぬいかい)の“不知火しらぬひ(しらぬい)”がそれに相当そうとうするとかんがえられています。

蜃気楼しんきろうのしくみ(ひかり屈折くっせつ仕方しかたかた

上位じょうい蜃気楼しんきろう下位かい蜃気楼しんきろうも、大気たいきちゅうひかり屈折くっせつして発生はっせいします。物体ぶったいはあらゆる方向ほうこうひかり反射はんしゃしていますが、そのうちわたしたちのえるのは一部いちぶだけです。大気たいきちゅう温度おんどがないときひかり直進ちょくしんするので、物体ぶったい直線ちょくせんむす方向ほうこうひかりだけがえます。

ところが、つめたい空気くうきあたたかい空気くうきかさなりい、その境界きょうかいせま範囲はんい空気くうき温度おんど連続れんぞくてき変化へんかするような場合ばあい、そこでひかり屈折くっせつきます。このようなそうなかでは、ひかり温度おんどひくい(=密度みつどたかい)かた屈折くっせつしカーブをえがきます。そのため、うえあたたかくしたつめたい空気くうきそうでは、うえかう光線こうせん一部いちぶ屈折くっせつしてしたもどり、観察かんさつしゃとどきます(とつがたにカーブした光線こうせん下図したずじょうのa-b-gやa-d-f)。

ぎゃくに、したあたたかくうえつめたい空気くうきそうでは、したかった光線こうせん一部いちぶ屈折くっせつによってうえもどってきます(凹形にカーブした光線こうせん下図したずのa-b-gやa-d-f)。

蜃気楼写真4

ひとは、途中とちゅうでどんなにひかりがっていても、はいってくる直前ちょくぜんひかり方向ほうこう物体ぶったいがあるようにしかえません(うえのa-b-cやa-d-e)。したがって、とつがたのカーブでとどいたひかりでは実際じっさい風景ふうけい上側うわがわ虚像きょぞうえ、凹形のカーブでとどいたひかりではしたがわ虚像きょぞうえることになります。どちらの場合ばあいも、つめたい空気くうき部分ぶぶん直線ちょくせんてきとどひかりうえのa-fやa-g)によって実景じっけいそのものもえます。

つまり、したつめたくうえあたたかい空気くうきそうによってとつがたカーブの屈折くっせつきたときが上位じょうい蜃気楼しんきろうしたあたたかくうえつめたい空気くうきそうによって凹形カーブの屈折くっせつきたときが下位かい蜃気楼しんきろうになります。

蜃気楼しんきろうこす空気くうきそうのできかた

上位じょうい蜃気楼しんきろうは、したつめたくうえあたたかい空気くうきそうによってこされます。通常つうじょう地表ちひょうから高度こうどがるにつれて気温きおんがりますが、上位じょうい蜃気楼しんきろうきる空気くうきそうではこの関係かんけい逆転ぎゃくてんしています。高度こうど気温きおん関係かんけい逆転ぎゃくてんするので、このような空気くうきそう逆転ぎゃくてんそうといいます。実際じっさい観測かんそくなどから、魚津うおづ上位じょうい蜃気楼しんきろうられるときの逆転ぎゃくてんそうたかさはおおむね10m以下いか上下じょうげ温度おんどは1~5℃程度ていどかんがえられます。

では、富山とやまわんにどのようにして逆転ぎゃくてんそうができるのでしょうか。これについてはいろいろなせつがありますが、つぎふたつが代表だいひょうてきなものです。

富山とやまわんつめたい雪解ゆきどすいながみ、それによって大気たいき下部かぶやされる
海上かいじょうにある低温ていおん空気くうきうえに、にちちゅう陸地りくちあたためられた空気くうきなが

現在げんざいは、後者こうしゃせつ有力ゆうりょくかんがえられています。今後こんご研究けんきゅうによって解明かいめいすすめられれば、またあらたなせつまれる可能かのうせいもあります。いずれにしてもその機構きこう複雑ふくざつでいろいろなパターンがあるとおもわれるので、ひとつのせつ蜃気楼しんきろうのすべてを説明せつめいすることはできないかもしれません。「なぞのこされているほうがロマンがある」という意見いけんもあります。

つぎ下位かい蜃気楼しんきろう場合ばあいかんがえてみましょう。下位かい蜃気楼しんきろうでは、したあたたかくうえつめたい空気くうきそうによってひかり屈折くっせつします。通常つうじょうあたたかい空気くうきつめたい空気くうきよりかるく、上昇じょうしょう拡散かくさんしてしまうので上部じょうぶより下部かぶほうあたたかい状態じょうたいでは安定あんていしたそうはできません。それをかぎは、ふゆ大気たいき海水かいすい温度おんど関係かんけいにあります。

ふゆ気温きおんがりますが、えにくいみず性質せいしつのため海水温かいすいおんきゅうにはがりません。そのため、ふゆには気温きおんより海水温かいすいおんほうたか状態じょうたいになります。これによって、海面かいめんれる大気たいき下部かぶつねあたためられることになります。あたためられた空気くうき上昇じょうしょう拡散かくさんしますが、海面かいめん付近ふきんではつねあたたかい空気くうきつくられるので外見がいけんじょうしたあたたかくうえつめたい空気くうきそうかたちになっているのです。このあたたかい空気くうきそうは、目線めせんよりした海面かいめんからたかさ1m以内いないかんがえられます。

この下位かい蜃気楼しんきろう原理げんりは、太陽たいようねっせられた地面じめんうえにもあてはまり、それが道路どうろみず砂漠さばくまぼろしみずうみつくします。

蜃気楼しんきろうやすい条件じょうけん

富山湾とやまわん上位じょうい蜃気楼しんきろうやすい条件じょうけんには、つぎのようにある程度ていど目安めやすがあります。

?時期じき:(3がつ下旬げじゅん~)4がつ~5がつ(~6がつ上旬じょうじゅん)
時間じかん午前ごぜん11ごろ~午後ごご4ごろ(それ以前いぜん、それ以後いご例外れいがいもある)
気温きおん:18以上いじょう場合ばあいおおい(あさみがあってにちちゅう気温きおんがるのがよい)
ふう :魚津うおづ海岸かいがんきた北東ほくとう微風びふう(おおむね風速ふうそく3m以下いか)
天候てんこう移動いどうせい高気圧こうきあつ中心ちゅうしん本州ほんしゅうひがし海上かいじょうけて当日とうじつれ、翌日よくじつごろから天候てんこうくずれそうな等圧線とうあつせん間隔かんかくひらき、つよふうかない状態じょうたい

もちろんこれらにてはまらない例外れいがいもありますが、この条件じょうけんがそろえば可能かのうせいたかいとかんがえてよいでしょう。

富山とやまわんでは、上位じょうい蜃気楼しんきろうは、例年れいねんならば上記じょうき時期じきあいだに10~15かい程度ていど発生はっせいします。ただし、そのなかには双眼鏡そうがんきょうでようやく識別しきべつできる程度ていどのものもおおく、実際じっさい肉眼にくがんでも蜃気楼しんきろうたのしめるのは5かいもあるかないかです。

上位じょうい蜃気楼しんきろう回数かいすうはそのとしによってかなり変動へんどうがあります。微妙びみょうなものをふくめトータルで5かいぐらいしか発生はっせいしないとしもあれば、20かい以上いじょう発生はっせいしたとしもあります。(過去かこ記録きろくはこちら)

また、持続じぞく時間じかんもその条件じょうけんによりまちまちです。かずぶんわってしまうこともおお一方いっぽうたりえたりしながら半日はんにち以上いじょうつづくこともまれにあります。

下位かい蜃気楼しんきろう場合ばあいは、11月~3がつごろさむ時期じき視界しかいがよければ毎日まいにちのようにることができます。それ以外いがい時期じきにもしばしばられ、ときには真夏まなつでも条件じょうけんによってはられることもありますが、確実かくじつるならふゆです。ふゆには、視界しかいさえよければ気温きおんふう状態じょうたいにはあまり関係かんけいないようです。

上位じょうい蜃気楼しんきろうかたち

上位じょうい蜃気楼しんきろうは、したつめたくうえあたたかい空気くうきそうひかり屈折くっせつするという基本きほん原理げんりわりはありません。しかし「おながたのものは2あらわれない」とわれるほどそのかたち変化へんかおおく、ひと魅了みりょうします。そのかたちには、つぎのようないくつかのパターンがあります。

反転はんてん

蜃気楼写真5
建物たてものぐんうえ反転はんてんぞうあらわれ、背中合せなかあわせになっている上位じょうい蜃気楼しんきろう。1994ねん4がつ6にち魚津うおづ埋没まいぼつりん博物館はくぶつかんから黒部くろべ生地きじ(いくじ)方向ほうこう

蜃気楼写真6
実景じっけい

実景じっけい実際じっさいよりたかうえびてえます。全体ぜんたい一様いちようたかびていたへいじょうえる場合ばあいや、所々ところどころけてバーコードじょうえる場合ばあいとうさまざまな変化へんかがあります。望遠鏡ぼうえんきょうなどで拡大かくだいしてみると、風景ふうけいがただびてえる場合ばあいもありますが、倒立とうりつぞう実景じっけいとつながってびたようにえるものもおおいようです。微妙びみょう普段ふだんとは建物たてものたかさがちがうなど、肉眼にくがんではわからないような場合ばあいもあります。

蜃気楼写真7
バーコードじょうがった上位じょうい蜃気楼しんきろう。1999ねん5がつ22にち魚津うおづ埋没まいぼつりん博物館はくぶつかんから富山とやま方向ほうこう

蜃気楼写真8
実景じっけい

ちぢ

上位じょうい蜃気楼しんきろう反転はんてんびのぞう変化へんかられる前後ぜんこうなどに、風景ふうけいふねひらたくちぢんでえることもあります。このとき望遠鏡ぼうえんきょうなどで注意ちゅういして観察かんさつすると、直下ちょっか海面かいめん蜃気楼しんきろうになってうえび、そのぶん風景ふうけいふねちぢんでいる場合ばあいおおいようです。

以上いじょう上位じょうい蜃気楼しんきろう基本きほんてきなパターンですが、逆転ぎゃくてんそう状態じょうたい時間じかん方向ほうこうによってことなり、それによって蜃気楼しんきろうもいろいろと変化へんかします。対象たいしょうぶつ距離きょりによっても蜃気楼しんきろうかたちわります。蜃気楼しんきろう観察かんさつは、あらゆる方向ほうこうつね注意ちゅういして見逃みのがさないことが肝心かんじんです。

蜃気楼写真9
上位じょうい蜃気楼しんきろうがった大型おおがたせん反転はんてんした背景はいけい遠近えんきんによってびと反転はんてんちがいがしょうじている。2001ねん5がつ13にち魚津うおづ埋没まいぼつりん博物館はくぶつかんから射水いみず方向ほうこう

蜃気楼写真10
沿岸えんがん建物たてものぐん太陽光たいようこう反射はんしゃし、上位じょうい蜃気楼しんきろうによってがっている。2001ねん5がつ13にち魚津うおづ埋没まいぼつりん博物館はくぶつかんから射水いみず(富山とやま新港しんこう)方向ほうこう

下位かい蜃気楼しんきろうかたち

下位かい蜃気楼しんきろうは、上位じょうい蜃気楼しんきろう比較ひかくするとかたち変化へんかとぼしいといえます。「び」と「しま」に区別くべつできますが、いずれも基本きほんてきには下方かほう反転はんてんした虚像きょぞうによるものです。実景じっけい下方かほう反転はんてんぞうとがつながってびたようにえ、実景じっけいひく場合ばあいはそのうわそら背景はいけいしたうつむので空中くうちゅういたしまえます。しま変形へんけいとして、水平すいへいせん付近ふきん海面かいめんがうねりやなみ加減かげんでちぎれて空中くうちゅうくようにえることもあります。

蜃気楼写真13
下位かい蜃気楼しんきろうしまじょうになった富山とやま岩瀬いわせ方面ほうめん

蜃気楼写真14
下位かい蜃気楼しんきろうしまじょうになった氷見ひみ方面ほうめん丘陵きゅうりょう

蜃気楼写真15
下位かい蜃気楼しんきろうちゅういてえるふね。よくるとした反転はんてんぞうがくっついている。

蜃気楼しんきろうえる方角ほうがく

魚津うおづ海岸かいがんからは、きた北東ほくとう黒部くろべ生地きじきたから西にしにかけて能登のと半島はんとう氷見ひみ西にしから南西なんせいかって高岡たかおか射水いみず富山とやま岩瀬いわせ水橋みずはし滑川なめかわまでを見渡みわたすことができます。

蜃気楼しんきろうは、対岸たいがん風景ふうけいおき船舶せんぱくなどが変形へんけいする現象げんしょうですが、すべての方向ほうこうのものが同時どうじ変形へんけいすることはほとんどありません。そのときの条件じょうけんによって、黒部くろべ生地きじだけであったり、富山とやま付近ふきんだけであったり、あるいは時間じかんとともに黒部くろべ方向ほうこうあらわれたのち富山とやま方向ほうこう蜃気楼しんきろうになったりします。

蜃気楼しんきろう観察かんさつに、あると便利べんり道具どうぐ知識ちしき

蜃気楼しんきろうひかり屈折くっせつしてカーブをえがくためにきますが、実際じっさい屈折くっせつ角度かくど非常ひじょうちいさいので、えるほどのぞう変化へんかこすには、普通ふつうは5㎞以上いじょう距離きょり必要ひつようです。魚津うおづからよく蜃気楼しんきろうになってえる場所ばしょれいでは、黒部くろべ生地きじまでがやく8.5㎞、富山とやま岩瀬いわせ付近ふきんまでは15~20㎞にもなります。そのぶん風景ふうけいちいさくえます。

また、蜃気楼しんきろうは、よこ方向ほうこうひろがりにたいしてたてたかさ)は非常ひじょうちいさな現象げんしょうです。蜃気楼しんきろうかけのたかさを角度かくど表現ひょうげんすればおよそ0.1~0.2°程度ていど人間にんげん視野しやはほぼ180°)しかありません。表現ひょうげんえれば、1mさきいた5えんだまあな直径ちょっけいよりもちいさいので、これでは肉眼にくがん十分じゅうぶん観察かんさつするのは困難こんなんです。さらに蜃気楼しんきろうには程度ていどがあって、肉眼にくがんでも変形へんけいがわかるものもあれば、こう倍率ばいりつ望遠鏡ぼうえんきょうなどでやっと判別はんべつできるくらいの微妙びみょうなものもあります。

そこで活躍かつやくするのが双眼鏡そうがんきょうです。10ばい程度ていどの、かるくてあかるい双眼鏡そうがんきょうがあればうことなしですが、7ばいくらいでも観察かんさつ使つかえます。しかし2~3ばいのオペラグラスなどではほとんどやくちません。ぎゃくに12ばい以上いじょう大型おおがた双眼鏡そうがんきょうは、三脚さんきゃくなどに固定こていする場合ばあい防止ぼうし機構きこうのついた高級こうきゅうべつとして、手持てもちでの観察かんさつには不向ふむきです。

双眼鏡そうがんきょうのほかに蜃気楼しんきろうるのにあればよいものとして、メモちょう帽子ぼうし日傘ひがさ日焼ひやめ、りたたみ椅子いす飲料いんりょうすいなどがげられます。メモちょうには蜃気楼しんきろう日時にちじ蜃気楼しんきろう様子ようす蜃気楼しんきろうについていたはなしなどなにでもんでおけば、あとやくちます。新聞しんぶん天気てんきなどをっておいてもよいでしょう。

またはる蜃気楼しんきろうはいつるかからないので、長時間ちょうじかん海岸かいがん日差ひざしのしたつことになります。そんなときに帽子ぼうし日傘ひがさ日焼ひやめ、りたたみ椅子いすなどがやくちます(ただし日傘ひがさまわりのひと視界しかいさまたげないように注意ちゅういしましょう)。ひまつぶしのほんやラジオもあればなおよいでしょう。日射病にっしゃびょう予防よぼうのため水分すいぶん補給ほきゅうにもけましょう。

そのほか、昼食ちゅうしょくにかかることがあらかじめわかっていれば、弁当べんとうがあったほうがよいです。どこかへべにったりいにったりしているあいだ蜃気楼しんきろうたら、やむことになります。あつには、弁当べんとういたまないようにクーラーバッグにれるなど注意ちゅういしましょう。

もうひと大事だいじ予備よび知識ちしきとして、「蜃気楼しんきろうるなら海岸かいがんで」ということがげられます。蜃気楼しんきろうひかり微妙びみょう屈折くっせつによる現象げんしょうで、それを観察かんさつできるたかさの範囲はんいせまいのが通例つうれいです。

また、蜃気楼しんきろう原因げんいんとなる逆転ぎゃくてんそうたかさもおおむね10m以下いかかんがえられるので、それよりうえとなる位置いちからは蜃気楼しんきろうえなくなります。したがって、うみがよく見渡みわたせるからといってたか展望てんぼうだいなどにのぼってものぞみはかなわない場合ばあいおおいでしょう。ただし、対象たいしょうぶつまでの距離きょり十分じゅうぶんとお場合ばあいは、多少たしょうたか位置いちからでも観察かんさつできることがあります。

また、蜃気楼しんきろうれないとそれが蜃気楼しんきろうなのか実景じっけいなのか、からない場合ばあいがあります。このページやその解説かいせつしょなどを活用かつようして、蜃気楼しんきろうがどのようにえるものなのかを予習よしゅうしておくことをおすすめします。

蜃気楼しんきろう撮影さつえいするには

すばらしい蜃気楼しんきろうたら、それを画像がぞう映像えいぞうとしてのこしたいとおもうのが人情にんじょうです。静止せいしでも動画どうがでも、蜃気楼しんきろう撮影さつえいにはそれなりの機材きざいとテクニックが必要ひつようになります。

カメラにはおおまかに、レンズいち体型たいけいのコンパクトタイプと、一眼いちがんレフやミラーレスなどのレンズ交換こうかん可能かのうなタイプがあり、現在げんざいはスマートフォンなどでも画質がしつ画像がぞうることができます。また動画どうがも、いまやビデオ専用せんようのカメラは少数しょうすうで、普通ふつうのデジタルカメラやモバイル機器きき撮影さつえいできるようになり、機器きき境界きょうかいがあいまいになってきました

そんななかで、蜃気楼しんきろう撮影さつえいにはどのようなカメラをえらべばよいのでしょうか。

蜃気楼しんきろう撮影さつえいにはたか倍率ばいりつ必要ひつようなので、交換こうかんレンズの種類しゅるい豊富ほうふちょう望遠ぼうえんレンズがけられる一眼いちがんレフなどのカメラが一般いっぱんてきしているとえます。レンズ交換こうかん可能かのうなカメラは高価こうか機種きしゅおおく、カメラやレンズをあらたに購入こうにゅうされる場合ばあいは、予算よさん画質がしつなどへの自分じぶんのこだわりもふくめての選択せんたくになるとおもいます。

現在げんざいは、カメラ本体ほんたい性能せいのう一定いっていレベルにはたっしているとおもわれるので、大事だいじなのはレンズの選択せんたくです。蜃気楼しんきろう撮影さつえいには、おおくの場合ばあい焦点しょうてん距離きょり400~500mm相当そうとう(35mmばん換算かんさん以上いじょうちょう望遠ぼうえんレンズが必要ひつようです。500mmは望遠鏡ぼうえんきょうえば10ばい相当そうとうします。それ以上いじょうの600mmや800mmならなおいでしょう。(デジカメの場合ばあいは、おなじレンズでもイメージセンサーのサイズによって倍率ばいりつことなるので注意ちゅうい必要ひつようです。カタログなどに35mmばん換算かんさんなにmmなどの数値すうちがあればそれで換算かんさんできます。)

ちょう望遠ぼうえんレンズは、ブレに注意ちゅうい必要ひつようです。近年きんねん補正ほせい機構きこうそなえた機種きしゅ普及ふきゅうしていますが、ちょう望遠ぼうえんでの撮影さつえいには三脚さんきゃくとリモコンシャッターを使つかほう無難ぶなんです。

なお、一眼いちがんレフカメラがなくても、画質がしつ度外視どがいしすれば、コンパクトカメラのズームでかなりの望遠ぼうえんになる機種きしゅもあります。あるいは、双眼鏡そうがんきょう接眼せつがんレンズにスマートフォンのカメラレンズをけて撮影さつえいするなどの方法ほうほう(難易なんいたかい)もあります。色々いろいろ工夫くふうしてチャレンジしてみるのもよいでしょう。

写真しゃしん瞬間しゅんかんりますが、それでは表現ひょうげんしきれない蜃気楼しんきろうもあります。刻々こくこく連続れんぞくてき変化へんかする蜃気楼しんきろう姿すがた記録きろくするのに、動画どうがでも撮影さつえいしたいところです。

動画どうがでは、現場げんばでの撮影さつえいはもちろんですが、その編集へんしゅう作業さぎょう大切たいせつ意味いみちます。撮影さつえいしたもと映像えいぞうそのものはマスターとして保存ほぞんすべきですが、観賞かんしょうあるいは公開こうかいするためには、べつにコピー・編集へんしゅうするのが普通ふつうです。とく蜃気楼しんきろう変化へんかがゆっくりしている場合ばあいおおく、うごきにとぼしいので、効率こうりつよくられるように編集へんしゅうしたほうがよいとおもいます。

蜃気楼しんきろう歴史れきし

人類じんるい蜃気楼しんきろう認識にんしきした歴史れきしふるく、紀元前きげんぜん中国ちゅうごくにまでさかのぼります。中国ちゅうごくでは、司馬しば遷がまとめ紀元前きげんぜん91ねんごろに成立せいりつした『史記しき』のうち、天文てんもん気象きしょう現象げんしょうなどを記述きじゅつした『てんかんしょ』に、蜃気楼しんきろう語源ごげんとなる「うみつくり気象きしょう楼台ろうだい」という一節いっせつがあります。その意味いみは、「うみつくりうみのそば)の“蜃”の楼台ろうだい(=たか建物たてもの)をぞう(かたど)る」となります。“蜃”という生物せいぶつは、16世紀せいきまつちんがまとめた「本草ほんぞう綱目こうもく」などには、大型おおがたのハマグリの仲間なかまと、りゅうるいみずち(みずち)の仲間なかまの2種類しゅるい収録しゅうろくされ、蜃気楼しんきろうつくすという意味いみ説明せつめいがどちらにもあります。ハマグリの蜃とりゅうるいの蜃とは同名どうめい異物いぶつで、もとはどちらか一方いっぽうだけが蜃気楼しんきろうの“蜃”だったのが、おな名前なまえのためにいつのころからか混同こんどうされ、そのはどちらも蜃気楼しんきろうつく生物せいぶつとしてつたえられるようになったとかんがえられます。現在げんざいではだいハマグリとするのが一般いっぱんてきですが、本草ほんぞう綱目こうもくなどの記述きじゅつからかんがえると、もとりゅうるいほうが蜃の正体しょうたいだったと推定すいていされます。

インドでは、2~3世紀せいきごろに成立せいりつしたとかんがえられる『大智たいちろん』という書物しょもつまきだい6に、にはえても実体じったいがない存在そんざいのたとえのひとつとして蜃気楼しんきろう意味いみするいぬい闥婆じょう(けんだつばじょう)がげられています。

日本にっぽんでは、元禄げんろく11ねん(1698ねん)に駒谷こまたに散人さんじんあらわした『北越ほくえつ軍談ぐんだんちゅうに、えいろく7ねん(1564ねん)に上杉うえすぎ輝虎てるとら謙信けんしん)が魚津うおづ蜃気楼しんきろうたという記述きじゅつがあります。もしこの記述きじゅつ真実しんじつならば、国内こくない蜃気楼しんきろう記録きろくとしてはもっとふるいものになり、16世紀せいきちゅうごろまでにはすで魚津うおづ蜃気楼しんきろう認知にんちされていたことになります。しかし「北越ほくえつ軍談ぐんだん」は上杉うえすぎ謙信けんしん死後しご100ねん以上いじょうてから刊行かんこうされたものであるため、真偽しんぎ不明ふめいです。

現在げんざい判明はんめいしている確実かくじつなもっともふる国内こくない蜃気楼しんきろうかんする文献ぶんけん記録きろくは、『北越ほくえつ軍談ぐんだん』の刊行かんこうより以前いぜん寛文ひろふみ9ねん(1669ねん)に加賀かがはんつかえていた儒学じゅがくしゃ沢田さわだはじめけん(さわだそうけん)が魚津うおづ蜃気楼しんきろう記述きじゅつした『寛文ひろふみひがしぎょう』です。

沢田さわだはじめけんよりもすこ、やはり加賀かがはんつかえた儒学じゅがくしゃ室鳩巣むろきゅうそう(むろきゅうそう)も魚津うおづ蜃気楼しんきろうんだ漢詩かんしのこしています。『はやはつ魚津うおづ』とだいされたこの漢詩かんし地元じもとしたしまれ、大正たいしょう昭和しょうわ初期しょき魚津うおづ発行はっこうされた蜃気楼しんきろうはがきにもよくまれていました。

また、1700年代ねんだいはいってしるされた『魚津うおづ古今ここん』では、加賀かが前田まえだだい(利家としいえ初代しょだいとした場合ばあい以下いかおなじ)・前田まえだ綱紀つなのり(1643-1724)が魚津うおづ蜃気楼しんきろう実見じっけんし、以後いご蜃気楼しんきろうを「見城けんじょう(きけんじょう)」とぶようにめいじたとつたえられています。

おな加賀かが前田まえだじゅういちだい前田まえだおさむおさむ(はるなが)は、寛政かんせい9ねん4がつ(現在げんざいこよみ換算かんさんで1797ねん5がつ)に江戸えどから金沢かなざわへの道中どうちゅう魚津うおづ御旅屋おたや(おたや:加賀かが藩主はんしゅ宿泊しゅくはくしょ)で蜃気楼しんきろう出会であい、家来けらい蜃気楼しんきろうえがかせました。この絵図えずは、時間じかんとともに変化へんかする蜃気楼しんきろうを6まいはばえがき、実景じっけいうえ順次じゅんじかさねてるように工夫くふうされており、現在げんざいのパラパラ漫画まんがにもつうじるユニークなものです。またちゅうには、日時にちじ蜃気楼しんきろう変化へんかする様子ようすなどをしるした文章ぶんしょうえられ、江戸えど時代じだい蜃気楼しんきろう観測かんそく記録きろくとしていちきゅうのものといえます。この絵図えず見城けんじょうこれ』は、金沢かなざわ玉川たまがわ図書館としょかん近世きんせい資料しりょうかん収蔵しゅうぞう(資料しりょうめい魚津うおづ蜃気楼しんきろう見城けんじょうこれだん)されています。

このような江戸えど時代じだい蜃気楼しんきろう記録きろくのこ魚津うおづ御旅屋おたやあとは、「さかな津浦つのうら蜃気楼しんきろう(御旅屋おたやあと)」として2020ねんくに登録とうろく記念きねんぶつ(名勝めいしょう関係かんけい)となりました。

魚津うおづ以外いがい国内こくない蜃気楼しんきろうについては、東北とうほく地方ちほう蜃気楼しんきろう記録きろくした菅江すがえ真澄ますみ(すがえますみ)の紀行きこうぶん絵図えずや、四日市よっかいち蜃気楼しんきろう紹介しょうかいした東海道とうかいどう名所めいしょ図会ずえ浮世絵うきよえなど、江戸えど時代じだいなか以降いこうに、記録きろくえてきます。

また、美術びじゅつ工芸こうげい分野ぶんやでも、ハマグリと楼閣ろうかくわせた「蜃気楼しんきろう文様もんよう」が、江戸えど時代じだいなか以降いこうひろまり、陶磁器とうじき漆器しっき絵画かいが着物きもの袱紗ふくさ欄間らんま彫刻ちょうこくかたなの鐔、根付ねつけまつり山車だし彫刻ちょうこくまくかさぼこなどさまざまなところにもちいられるようになりました。りゅうるいの蜃も霊獣れいじゅう一種いっしゅとして、江戸えど時代じだい以降いこう寺社じしゃどう製品せいひん装飾そうしょくもちいられるれいられます。

江戸えど時代じだい中国ちゅうごくからおお輸入ゆにゅうされた「本草ほんぞう綱目こうもく」やその書物しょもつ蜃気楼しんきろう普及ふきゅうにつながっているのではないかとおもわれます。

蜃気楼図小皿
蜃気楼しんきろう小皿こざら個人こじんぞう江戸えど末期まっき

龍類の蜃の飾りがついた銅灯篭
りゅうるいの蜃のかざりがついたどう灯篭どうろう東京とうきょう上野うえの東照宮とうしょうぐう江戸前えどまえ