津波つなみのリスクに対たいする意識いしき啓発けいはつを図はかる日本にっぽんの取とり組くみは今週こんしゅう末まつの11月5日にち、初はつの「世界せかい津波つなみの日ひ」として結実けつじつし、大おおきな転機てんきを迎むかえます。この国際こくさいデーには、津波つなみの犠牲ぎせい者しゃを悼いたむことに加くわえて、大おおきな意義いぎがあります。

津波つなみは滅多めったに起おきないものの、極きわめて多おおくの犠牲ぎせい者しゃを出だす災害さいがいです。記録きろくを見みても、1996年ねんから2015年ねんまでの間あいだに、30件けんの津波つなみに襲おそわれた21カ国かこくで、25万まん900人にんが死亡しぼうしています。中なかでも最もっとも甚大じんだいな被害ひがいをもたらした2004年ねん12月26日にちのインド洋いんどよう津波つなみでは、外国がいこく人じん旅行りょこう者しゃ9,000人にんを含ふくむ22万まん人にん以上いじょうが死亡しぼうしました。2011年ねん3月がつ11日にちの東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいによる津波つなみでも、死者ししゃと行方ゆくえ不明ふめい者しゃが合計ごうけいで1万まん8,000人にんを超こえています。

国連こくれん国際こくさい防災ぼうさい戦略せんりゃく事務じむ局きょく（UNISDR）駐ちゅう日にち事務所じむしょ代表だいひょうの松岡まつおか由季ゆきは、国連こくれんニュース・センターのインタビューに答こたえ、「3月がつ11日にちや12月26日にちといった追悼ついとうの日ひでも、悲劇ひげきの日ひでもなく、積極せっきょく的てきな行動こうどうによって多おおくの命いのちが救すくわれた11月5日にちが国際こくさいデーに選えらばれた背景はいけいには、これを『未来みらい志向しこう』の日ひにしたいという想おもいがあります」と述のべています。

この背景はいけいにあるのは、百ひゃく数すう十じゅう年ねん前まえから語かたり継つがれてきた歴史れきし上じょうのある出来事できごとです。1854年ねん11月5日にちに発生はっせいしたマグニチュード8.4の地震じしんにより、紀伊きい半島はんとうは大だい津波つなみに襲おそわれました。当時とうじ、ある村むらの指導しどう者しゃだった濱口はまぐち梧陵は、自みずからの水田すいでんで収穫しゅうかくしたばかりの新米しんまいの稲いね束たばに火ひを放はなち、暗闇くらやみの中なかで村民そんみんを高台たかだいへと誘導ゆうどう、避難ひなんさせました。これによって多おおくの命いのちが救すくわれたことが、記録きろくに残のこされています。

日本にっぽんでは、この話はなしが「稲いねむら（稲いね束たば）の火ひ」として語かたり継つがれています。

国連こくれん総会そうかいは昨年さくねん12月がつ、日本にっぽんがその他たの災害さいがい多発たはつ国こくや、UNISDRをはじめとするパートナーとの協力きょうりょくで起草きそうした決議けつぎ案あんを、142カ国かこくが共同きょうどう提案ていあん国こくとなって採択さいたくし、11月5日にちを「世界せかい津波つなみの日ひ」に制定せいていしました。

松岡まつおか代表だいひょうは「『津波つなみ』という言葉ことばは現在げんざい、英語えいごでも一般いっぱん的てきに使つかわれています。このこと自体じたい、日本人にっぽんじんが古ふるくから、津波つなみ対策たいさくに取とり組くんできたという事実じじつをよく表あらわしています」と述のべるとともに、「日本にっぽんはハード面めんだけでなく、ソフト面めんからも人々ひとびとのレジリエンスを高たかめてきたのです」と述のべています。

松岡まつおか代表だいひょうによると、日本にっぽんでは毎年まいとし、国くにや地方自治体ちほうじちたい、学校がっこう、コミュニティといった異ことなるレベルで、さまざまな形かたちの避難ひなん訓練くんれんが実施じっしされています。松岡まつおか代表だいひょうは「こうした経験けいけんの蓄積ちくせきは、国際こくさい社会しゃかいと共有きょうゆうできる防災ぼうさいの知識ちしきやノウハウの構築こうちくに役立やくだっています」と述のべています。

濱口はまぐち梧陵生誕せいたんの地ちである和歌山わかやま県けん有田ありた郡ぐん広川ひろかわ町まちに2007年ねん設置せっちされた「稲いねむらの火ひの館かん」は、こうしたノウハウを保存ほぞんする役割やくわりを果はたしています。

崎山さきやま光一こういち館長かんちょうは国連こくれんニュース・センターのインタビューに応おうじ「『稲いねむらの火ひ』を教材きょうざいとして活用かつようする主おもな目的もくてきは、素早すばやく避難ひなんする重要じゅうよう性せいを周知しゅうちすることにあります」と述のべました。

崎山さきやま館長かんちょうの説明せつめいによると、津波つなみに襲おそわれやすい地域ちいきでは、護岸ごがんや堤防ていぼうといった構造こうぞう物ぶつの建設けんせつをはじめ、人的じんてき・物的ぶってき被害ひがいを予防よぼうする措置そちが講こうじられています。崎山さきやま館長かんちょうは「こうした大おおきく頑丈がんじょうな構造こうぞう物ぶつが人々ひとびとに安心あんしん感かんを与あたえるのは当然とうぜんですが、現実げんじつ問題もんだいとして、人々ひとびとがこうした施設しせつに頼たよってしまうおそれもあります」と述のべ、知識ちしきの欠如けつじょによって、津波つなみのメカニズムを知しらなければ、間違まちがった行動こうどうにつながりかねないと警告けいこくしています。

崎山さきやま館長かんちょうは「世界せかい津波つなみの日ひを制定せいていするにあたって、稲いねむらの火ひの日ひが選えらばれたという事実じじつを受うけ止とめ、津波つなみが起おきたら直ただちに避難ひなんするというメッセージを世界せかいに発信はっしんする当館とうかんの責任せきにんを果はたしていきたいと思おもいます」と述のべています。

第だい1回かい世界せかい津波つなみの日ひのテーマは「教育きょういくと避難ひなん訓練くんれん」です。

UNISDRジュネーブ本部ほんぶアドボカシー・アウトリーチ・セクションチーフのジェリー・ベラスケス氏しは、国連こくれんニュース・センターのインタビューに応おうじ、津波つなみが多数たすうの死者ししゃを出だす大だい規模きぼ災害さいがいへと発展はってんしないようにするうえで、教育きょういくと避難ひなん訓練くんれんは鍵かぎを握にぎる要素ようそだと述のべました。

ベラスケス氏しは「世界せかい最先端さいせんたんの技術ぎじゅつを駆使くしした早期そうき警報けいほうシステムでも、一般いっぱん市民しみんに情報じょうほうを届とどけ、警報けいほうが出でたときに適切てきせつな行動こうどうをとれるよう働はたらきかけなければ、何なににもなりません」と述のべています。

全ぜん世界せかいで、さまざまな津波つなみ防災ぼうさい啓発けいはつへの取とり組くみが行おこなわれています。

UNISDRによると、成功せいこうの秘訣ひけつは、啓発けいはつ活動かつどうからできるだけ専門せんもん用語ようごを取とり除のぞくことにあります。科学かがく的てきな正確せいかく性せいは重要じゅうようであるものの、そのねらいを達成たっせいするためには、一般いっぱん市民しみんにできるだけ明確めいかくなメッセージを伝つたえねばならないからです。

日本にっぽんの内閣ないかく府ふはユニークな試こころみとして、ご当地とうちキャラクターを津波つなみ啓発けいはつのための「津波つなみ防災ぼうさいひろめ隊たい」に「任命にんめい」しました。ご当地とうちキャラクターたちはさまざまなイベントに参加さんかし、全国ぜんこくで避難ひなん訓練くんれんを指導しどうしています。こうした訓練くんれんでは「津波つなみが来きたら各自かくじがただちに全力ぜんりょくで逃にげること」という明確めいかくなメッセージが発信はっしんされます。家族かぞくと逃にげる場所ばしょを決きめておくこと、そして自みずからの命いのちを守まもるべく全力ぜんりょくを尽つくすことが大切たいせつだからです。

「家族かぞくもちゃんと逃にげていることを信しんじて、自分じぶんは一目散いちもくさんで高たかいところを目指めざすっちゅうこっちゃで。避難ひなんしてから家族かぞくと落おち合あったらええねん」とは、ご当地とうちキャラクターのひとり、ちっちゃいおっさんの弁べんです。

9月7日にちから8日にちにかけて行おこなわれたインド洋いんどよう津波つなみ避難ひなん訓練くんれんには、オーストラリア、バングラデシュ、コモロ、フランス、インド、インドネシア、イラン、ケニア、マダガスカル、マレーシア、モルディブ、モーリシャス、モザンビーク、ミャンマー、オマーン、パキスタン、セーシェル、シンガポール、南みなみアフリカ、スリランカ、タンザニア、タイ、東ひがしティモール、イエメンの24カ国かこくが参加さんかしました。

インドでは、アンダマン・ニコバル諸島しょとう、オリッサ州しゅう、アンドラ・ブラデシュ州しゅう、タミルナドゥ州しゅう、西にしベンガル州しゅう、ケララ州しゅう、グジャラート州しゅう、ゴア州しゅうをはじめとする沿岸えんがん地域ちいきで、約やく3万まん5,000人にんが訓練くんれんに参加さんかしました。

「IOWave16」と命名めいめいされたこの2日間にちかんにわたる避難ひなん訓練くんれんの主催しゅさい者しゃである国連こくれん教育きょういく科学かがく文化ぶんか機関きかん（UNESCO）政府せいふ間あいだ海洋かいよう学がく委員いいん会かい(IOC)は、2004年ねん12月26日にちにインドネシアのスマトラ島すまとらとう沖おきで発生はっせいした海底かいてい地震じしんで大だい津波つなみが引ひき起おこされたことを受うけ、インド洋いんどよう津波つなみ警戒けいかい・減げん災わざわいシステム（IOTWMS）立たち上あげの調整ちょうせいも行おこないました。

今回こんかいの訓練くんれんは、避難ひなんと救助きゅうじょの作業さぎょうだけでなく、メディアとの模擬もぎインタビューも含ふくむ包括ほうかつ的てきなものとなりました。

メキシコ、チリなどを含ふくめ、津波つなみのおそれがある諸しょ大陸たいりくで防災ぼうさい訓練くんれんが実施じっしされています。

9月28日にち、地中海ちちゅうかいその他たの地域ちいきからルーマニアの首都しゅとブカレストに参集さんしゅうした科学かがく者しゃと防災ぼうさい専門せんもん家かは、津波つなみの脅威きょういにどのように対処たいしょすべきかにつき、一般いっぱん市民しみんの意識いしきを高たかめるための取とり組くみをさらに本格ほんかく化かすることを約束やくそくしました。

「啓発けいはつは最もっとも重要じゅうような活動かつどうのひとつです」と語かたるのは、地中海ちちゅうかい及および北東ほくとう大西洋たいせいよう津波つなみ早期そうき警報けいほう・減げん災わざわいシステムのための政府せいふ間あいだ調整ちょうせいグループ（ICG/NEAMTWS）で座長ざちょうを務つとめるトルコの中東ちゅうとう工科こうか大学だいがくのアハメット・セブデット・ヤルシネル教授きょうじゅです。

アドリア海あどりあかいやエえーゲ海げかい、マルマラ海かい、黒海こっかいも含ふくむこの海域かいいきの沿岸えんがんには、約やく1億おく3,000万まん人にんが暮くらしています。夏なつの観光かんこうシーズンには人口じんこうが急増きゅうぞうするため、観光かんこう客きゃくを対象たいしょうとする防災ぼうさいも必要ひつようとなっています。

イタリア市民しみん保護ほご局きょくのマルツィア・サンティニさんは専門せんもん家か会合かいごうにおいて「一般いっぱん市民しみんが理解りかいできるメッセージを発信はっしんするための取とり組くみが肝心かんじんです。イタリアでは、プロではなく一般いっぱん市民しみんのボランティアが、災害さいがいのリスクと、実際じっさいに災害さいがいが発生はっせいした場合ばあいに取とるべき行動こうどう、リスクマネジメントの基礎きそに関かんする知識ちしきを深ふかめる方法ほうほうなどについて、他たの市民しみんに語かたりかけています」と発言はつげんしました。

一方いっぽう、ギリシャには「津波つなみタンク」が設置せっちされています。通行人つうこうにんがそのハンドルを回まわすと、実際じっさいの津波つなみの様子ようすと、そのインパクトが分わかるようになっています。「これによって、人々ひとびとの津波つなみに対たいする関心かんしんが一気いっきに高たかまったので、リスクについて話はなす絶好ぜっこうの機会きかいが生うまれました」と語かたるのは、アテネ国立こくりつ天文台てんもんだい地球ちきゅう力学りきがく研究所けんきゅうじょのアレティ・プレッサさんです。

イスラエルは4月がつ、ギリシャ、イタリア、トルコとの協力きょうりょくにより「ブルーウェーブ」訓練くんれんを実施じっししました。当局とうきょくはその2週間しゅうかん前まえ、津波つなみ標識ひょうしき（常設じょうせつ）を立たて、訓練くんれんに対たいする一般いっぱん市民しみんの注意ちゅうい喚起かんきを図はかっています。

イスラエル国家こっか危機きき管理庁かんりちょうのアミル・ヤハブさんは「これで認識にんしきは一変いっぺんしました」と語かたっています。

こうした措置そちが欠かかせないのは、備そなえがあれば、人命じんめいが救すくえることを立証りっしょうする実例じつれいがあるからです。

UNISDR駐ちゅう日にち事務所じむしょの松岡まつおか代表だいひょうによると、2011年ねんの東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいでは、岩手いわて県けん釜石かまいし市しの小中学生しょうちゅうがくせい約やく3,000人にんのほぼ全員ぜんいんが、津波つなみの犠牲ぎせいとならずに済すみました。

その日ひの午後ごご、マグニチュード9.0の地震じしんが起おきると、釜石かまいし東中ひがしなか学校がっこうの生徒せいとはすぐに校舎こうしゃから飛とび出だし、高台たかだいに避難ひなんしました。この素早すばやい避難ひなんを見みて、隣接りんせつする鵜住居うのずまい小学校しょうがっこうの生徒せいとと教員きょういんがその後ごを追おい、最終さいしゅう的てきには多おおくの地域ちいき住民じゅうみんもこれに続つづきました。

避難ひなんの途中とちゅうで、年長ねんちょうの生徒せいとは年少ねんしょうの生徒せいとを助たすけ、一緒いっしょに安全あんぜんな場所ばしょにたどり着つきましたが、その間あいだに学校がっこうと市街地しがいちは大だい津波つなみに飲のみ込こまれてゆきました。この話はなしは「釜石かまいしの奇跡きせき」として知しられるようになったと、松岡まつおか代表だいひょうは述のべています。

UNISDRによると、その他た世界せかいの各地かくちにも似にたような事例じれいがあります。中なかでも、当時とうじ10歳さいだった英国えいこく人じんのティリー・スミスさんは2004年ねんのインド洋いんどよう津波つなみの際さい、学校がっこうの地学ちがくの授業じゅぎょうで学まなんだ津波つなみの予兆よちょうの話はなしを思おもい出だし、タイのリゾート地ちに滞在たいざいしていた観光かんこう客きゃく100人にんの命いのちを救すくったことで称賛しょうさんされました。

しかし、こうした模範もはん例れいとは異ことなり、災害さいがい時じに適切てきせつな判断はんだんができなかった事例じれいも多おおくあります。

日本にっぽんの報道ほうどうによると、宮城みやぎ県けん石巻いしのまき市しの大川おおかわ小学校しょうがっこうでは、2011年ねんの津波つなみで児童じどう74人にんと教員きょういん10人にんが死亡しぼうまたは行方ゆくえ不明ふめいとなっています。23人にんの児童じどうの遺族いぞくは、公立こうりつ校こうを運営うんえいする宮城みやぎ県けんと石巻いしのまき市しに対たいして、損害そんがい賠償ばいしょうの訴訟そしょうを起おこしました。原告げんこくは、学校がっこうの裏山うらやまに避難ひなんしていれば、児童じどうが津波つなみの犠牲ぎせいにならずにすんだ可能かのう性せいは高たかく、これを怠おこたった学校がっこう側がわに過失かしつ責任せきにんがあるとしています。これに対たいし被告ひこく側がわは、倒木とうぼくの危険きけんがあったため、裏山うらやまは適切てきせつな避難ひなん場所ばしょでなかったと主張しゅちょうしています。

松岡まつおか代表だいひょうは「東北とうほく地方ちほうのこのような事例じれいは実際じっさい、世界せかいに重要じゅうようなメッセージを発信はっしんしています」と述のべています。

「釜石かまいしの奇跡きせきは実じつは『奇跡きせき』ではなく、啓発けいはつと教育きょういくの成果せいかだと言いえます。あの日ひ、効果こうか的てきな避難ひなんができたのは、学まなんだ知識ちしきに基もとづき、正確せいかくな判断はんだんができたからです」

松岡まつおか代表だいひょうは最後さいごに次つぎのように訴うったえます。

「私わたしたちは世界せかい津波つなみの日ひを通つうじて、津波つなみに対たいする認識にんしきを高たかめることにより、人命じんめいを救すくい、津波つなみによる壊滅かいめつ的てきな被害ひがいを軽減けいげんすることができるのです」。

原文げんぶんはこちら　
→FEATURE: Feudal-era Japanese village leader stands as beacon for tsunami education（UN News Centre）