シンガポールと東京のビルを直結できるetherXEN SGを開始
3年後は「Colt=広帯域」になる?新生Coltの戦略を聞く
2016年04月21日 09時30分更新
文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元
昨年、Coltグループによる買収を経て、Coltテクノロジーサービスと社名を変更したKVH。通信事業者やデータセンターの統合が進み、グローバルプレイヤーとの競争が激化する中、Coltはどのように存在感を出していくのか? 同社の執行役員に聞く。
数字で見るColtグループの現状
KVHは1999年に東京を本社とする外資系通信事業者として設立され、自前の光ファイバ網をベースに金融業界向けの低遅延ネットワークサービスを提供してきた。2002年にはデータセンター事業を開始し、2002年に「TDC1」と呼ばれる東京で初めてのデータセンターを開設した。
2004年にマネージドサービス、2010年にクラウドサービスの展開を開始し、2012年からはアジアを中心とするグローバル進出。そして、2014年12月にColtグループと事業統合し、現在はColtテクノロジーサービスとしてアジア地域におけるColtの事業を担っている。同社執行役員 プロダクトマネジメント本部 星野真人氏は「もともとColtも同じFidelityグループだったので、ネットワークも基本的に同じようなものを使っていた。KVHの時もR&D分野はColtで担ってもらっていたので、現在はスムースに統合が進んでいます」と語る。
Coltテクノロジーサービス 執行役員 プロダクトマネジメント本部 星野真人氏
ColtはCity of London Telecomという名前の通り、ロンドンに拠点を持ち、西ヨーロッパを中心に通信・データセンター事業を展開している事業者。KVHのほぼ10倍近い規模を持つという。現在、Coltは世界28カ国、48の都市で自社保有の光ファイバ網をベースにしたメトロネットワーク、29箇所のデータセンターを展開しており、これらを18万7000kmにおよぶ低遅延ネットワークで結んでいる。星野氏は、「BTやフランステレコム、ドイツテレコム、オレンジなど自国を中心にインフラを展開している他社と異なり、Coltは各都市に自前のメトロネットワークを保有しているのがユニークです」と語る。
数字で見るColtのカバレッジ
低遅延なネットワークで金融機関の支持を得る
Coltグループ内でアジア地域を受け持つColtテクノロジーサービス(旧KVH)は、東京都内に自前の光ファイバ網を持つほか、東京に3つ、大阪に1つ、シンガポール、香港、韓国にそれぞれ1つずつの計7箇所のデータセンターを構えている。低遅延なネットワークを売りに、おもにレスポンスを重視する金融機関で高い実績を誇っているという。
Coltグループと同じ自前のインフラなので、クオリティや対応スピードという点で他の事業者と大きな差別化が図れているという。「他社のサービスに依存していると、障害の復旧に時間がかかる。その点、弊社の自社インフラであれば、コントロールが効くので、障害が起こった時の切り分けや復旧時間が短くて済む」と星野氏は語る。
展開している国においてはなるべく地元のスペシャリストを雇い、現地に合わせたスピード感のある対応をしているという。また、ネットワークに関しても、POP数の少ないシンプルなネットワークを提供している。
シンガポールと東京にあるビル同士を自前インフラで直結
事業統合後も投資の手を休めないColtテクノロジーサービスは、1月にシンガポールにおいてColtグループとして48番目のメトロネットワーク「etherXEN Singapore」をスタートさせた。
シンガポールのメトロネットワークは、商業ビルの集まるオーチャード地区はもちろん、Coltのデータセンターがあるジュロン地区、金融系のデータセンターの多い北部地域、新たにビジネスパークができたチャンギ地区などをカバーし、国内の商業ビルの約80%に直結できる。ネットワーク帯域も、現在1Gbpsから10Gbpsに増速しているところで、大容量の伝送が可能になるという。星野氏は、「シンガポールは東京に比べてもメトロネットワークの値段が3倍近くする。その点、自前の光ファイバ網と余計な機器のないL2ネットワークを持っている弊社のサービスであれば、コスト面でも大きなメリットが得られる」とアピールする。
シンガポール国内のColtのメトロネットワーク
そして、シンガポールと東京を直結する「etherXEN SGサービス」はSDNのテクノロジーを活用した広域Ethernetサービスで、ポイントツーポイント/ポイントツーマルチの専用/共用サービスが用意されている。帯域保証型のメニューのほか、10Gbpsまでのバーストを定額で提供するメニューも提供しており、帯域が必要なバックアップや定期ジョブなどに利用できる。基本的には2013年から展開されているetherXENサービスと同じで、クオリティや帯域面でも金融機関のニーズにミートするという。
Coltとしては日本国外に展開する初のメトロネットワークになるetherXEN Singaporeにより、国内・国際・現地までエンドツーエンドで提供できる。「ローカルキャリアは国内ネットワークしか保有していない。メガキャリアも国内と国際回線までは持っているが、現地のネットワークは他社に依存する。その点、弊社は世界48の都市でお客様のビルからビルまでを自前のネットワークで調達できる」と星野氏はアピールする。
シンガポールと東京のビル間をエンドツーエンドで結ぶetherXEN SG
また、「etherXEN SG for AWS」というサービスを使うと、AWSのシンガポールリージョンに直結することが可能になる。これにより、ユーザー拠点やデータセンター、パブリッククラウドを相互接続したハイブリッドクラウドを容易に実現できるという。「クラウドがPay as You Goの世界に行っているのに、ネットワークはそれに対応していない。われわれはSDNを用いることで、帯域をダイナミックに増やしたり、1時間分だけネットワークを利用するということも可能になっている」と星野氏は語る。
さらにシンガポール国内のサービスで唯一「MEF(Metro Ethernet Forum)2.0」の認証を取得しており、SDN対応機器からトラフィックや遅延などのモニタリングが可能になっているのも大きなメリットと言える。
自前ファイバ網なので、大容量を存分に使って欲しい
最近は国内のメガキャリアがアジア地域に進出しており、シングテルやテレストラなどアジア系のキャリアとの競争も激しくなっている。データセンターやクラウド事業者の統合も進んでおり、国内市場での生き残りは今後の大きなテーマと言える。
こうした中、Coltテクノロジーが積極的に打ち出すのはインテリジェントなSDNを活用したEthernetサービスだ。「データセンター間や国際通信など、L3のIP-VPNを利用するとけっこう高くつく。その点、弊社のように余計な機器のないシンプルなL2でつなぎ混んでしまった方がコスト面では有利」(星野氏)。
そして、Ethernetならではの大容量伝送と足回りの強さも大きなアピールポイント。「自前のファイバを持っている事業者からすれば、100Mbps提供しても、1Gbps提供してもコストはそれほど変わらない。であれば、お客様には大容量を存分に使ってもらいたい」と星野氏。こうしたメリットから、映像配信やゲームなど大容量データを持つ事業者からの引き合いが増えているほか、AWSのようなクラウドサービスに対して大きいパイプが欲しいところの利用が増えている。星野氏は「Colt全体の戦略としても、今後はブロードバンドに向かいます。3年後には『Colt=広帯域』になっていると思います」と語る。
「3年後にはColt=広帯域になっていると思います」(星野氏)