最新さいしんユーザー事例じれい探求たんきゅう 第だい47回かい

創業そうぎょう387年ねん目めの一いちの湯ゆ、Oracle Service Cloudで「安やすく／気軽きがるに／便利べんりに」のヒントを得える

箱根はこねの老舗しにせ温泉おんせん旅館りょかんがクラウド型がたFAQ導入どうにゅうで「発見はっけん」したこと

　国内こくない有数ゆうすうの観光かんこう地ちである箱根はこね（神奈川かながわ県けん足柄下あしがらしも郡ぐん箱根はこね町まち）。一いちの湯ゆは、そんな箱根はこねの塔とうノ沢さわ、仙石原せんごくはら、芦ノ湖あしのこの各かく地区ちくに合計ごうけい7つの宿泊しゅくはく施設しせつを持もつ、温泉おんせん旅館りょかん／リゾートホテルグループだ。1630年ねん（寛永かんえい7年ねん）創業そうぎょう、380年ねん以上いじょうの歴史れきしを誇ほこる老舗しにせ旅館りょかんであると同時どうじに、近年きんねんでは「安やすく」「気軽きがるに」「便利べんりに」をモットーに掲かかげ、積極せっきょく的てきな宿泊しゅくはくの低てい料金りょうきん化かを推おし進すすめてきたことでも知しられる。

塔とうノ沢さわ 一いちの湯本ゆもと館かん。明治めいじ後期こうきに現在げんざいの骨格こっかくが作つくられた木造もくぞう4層そう建だて数寄屋造すきやづくりの建築けんちく物ぶつで、国くに指定してい登録とうろく有形ゆうけい文化財ぶんかざいに指定していされている

　その一いちの湯ゆが今年ことし、自社じしゃWebサイト内ないの「よくある質問しつもん（FAQ）」ページに、オラクルのカスタマーサービス向むけクラウドサービス「Oracle Service Cloud」を組くみ込こんだ。その結果けっか、顧客こきゃくサービスの改善かいぜんや問とい合あわせ対応たいおう業務ぎょうむの効率こうりつ化かにつながっただけでなく、宿泊しゅくはく客きゃくが入力にゅうりょくする検索けんさくキーワードからさまざまなビジネスヒントが得えられているという。

　増加ぞうかを続つづける訪日ほうにち旅行りょこう客きゃくへの対応たいおうも含ふくめた顧客こきゃくサービス改善かいぜん、そして老舗しにせ温泉おんせん旅館りょかんの経営けいえい改善かいぜんに、クラウド型がたITがどのように役立やくだっているのか。今回こんかいは、一いちの湯ゆ 常務じょうむ取締役とりしまりやく 商品しょうひん開発かいはつ本部ほんぶ長ちょうの小川おがわ尊たかし也氏、同社どうしゃ 営業えいぎょうマネージャーの福岡ふくおか昭憲あきのり氏しに話はなしを聞きいた。

一いちの湯ゆ 常務じょうむ取締役とりしまりやく 商品しょうひん開発かいはつ本部ほんぶ長ちょうの小川おがわ尊たかし也氏（右みぎ）、一いちの湯ゆ 営業えいぎょうマネージャーの福岡ふくおか昭憲あきのり氏し

「安やすくて気軽きがるに泊とまれる宿やど」を目指めざし、徹底てっていした業務ぎょうむ効率こうりつ化かを進すすめる

　一いちの湯ゆではおよそ30年ねん前まえの1980年代ねんだい後半こうはんから、現げん社長しゃちょう（15代目だいめ）である小川おがわ晴也はるや氏しの方針ほうしんのもと、宿泊しゅくはく料金りょうきんの低てい料金りょうきん化かに取とり組くんできた。

　「30年ねん前まえの当時とうじは1泊はく3万まん円えん、5万まん円えんがふつうだったものを、『お客様きゃくさまのニーズに合あっていない』と1泊はく1万まん円えん前後ぜんこうにし、安やすくて、気軽きがる、便利べんりに泊とまれる宿やどに変かえました」。常務じょうむ取締役とりしまりやく 商品しょうひん開発かいはつ本部ほんぶ長ちょうを務つとめる小川おがわ尊たかし也氏はこう説明せつめいする。当時とうじはほかの旅館りょかんから「箱根はこねの価格かかくを壊こわすのか」と反発はんぱつもあったというが、現在げんざいでは空あき室しつの稼働かどう率りつを高たかめるため格安かくやす料金りょうきんで提供ていきょうすることも一般いっぱん的てきになっており、一いちの湯ゆには“先見せんけんの明あかり”があったと言いえるだろう。

　ただ、当然とうぜんながら単たんに低てい料金りょうきん化かするだけでは利益りえきは減へってしまう。また、宿泊しゅくはく業ぎょうには「部屋へや数すう」という制約せいやくがあるため、いくら稼働かどう率りつを高たかめても売上うりあげの限界げんかいは決きまっている。そこで一いちの湯ゆでは、ビジネス指標しひょうとして「人ひと時じ（にんじ）生産せいさん性せい」を取とり入いれた。人ひと時じ生産せいさん性せいとは、1人ひとりの従業じゅうぎょう員いんが1時じ間あいだあたりで上あげる粗そ利益りえき高だかのことだ。小川おがわ氏しによると、ファミリーレストランでは約やく3500円えん、製造せいぞう業ぎょうでは1～2万まん円えんの人ひと時じ生産せいさん性せいが一般いっぱん的てきだという。「30年ねん前まえの一いちの湯ゆでは1700円えんでしたが、これを5000円えんまで引ひき上あげることを目標もくひょうにしました」（小川おがわ氏し）。

　ここで採用さいようしたのが、近代きんだい的てきなチェーンストア経営けいえいの理論りろんだった。多た店舗てんぽ化か（当時とうじ2店舗てんぽ→現在げんざい7店舗てんぽ）とセンター化か（予よ約やく窓口まどぐちの一元化いちげんかやセントラルキッチンの採用さいよう）を図はかり、部門ぶもん別べつ管理かんりを行おこなうことにした。

　もちろん、サービスの質しつが低下ていかして“安やすかろう、悪わるかろう”になってしまうのでは、中長期ちゅうちょうき的てきには顧客こきゃくが離はなれていってしまう。そこで、人的じんてきコストのかかるサービスについては、本当ほんとうに顧客こきゃくニーズに見合みあっているかどうかを検討けんとうし、たとえば客室きゃくしつでの部屋へや食しょくや下足げそく番ばんといった、従来じゅうらいの温泉おんせん宿やどでは当あたり前まえだったサービスをやめることにした。一方いっぽうで、ニーズのあるもの（アクティビティ付つき宿泊しゅくはくプランなど）については常つねに商品しょうひん化かを検討けんとうし、付加ふか価値かちを高たかめていく。

一いちの湯ゆにおける「人ひと時じ生産せいさん性せい」の説明せつめいビデオ（一いちの湯ゆYouTubeより）

　こうした取とり組くみを徹底てっていしてきた結果けっか、昨年さくねんには人ひと時じ生産せいさん性せいが「5040円えん」となり、目標もくひょうを達成たっせいできた。さらに収益しゅうえき性せいを向上こうじょうすべく、現場げんばレベルでは次つぎの目標もくひょうとなる「6000円えん」を目指めざして努力どりょくを続つづけているという。

訪日ほうにち旅行りょこう客きゃく比率ひりつが40％、オンラインで宿泊しゅくはく客きゃくの心しんをつかむために

　一いちの湯ゆにおけるもうひとつの特徴とくちょうが、宿泊しゅくはく客きゃくに占しめる訪日ほうにち旅行りょこう客きゃく比率ひりつの高たかさだ。箱根はこね町まちがまとめた資料しりょうによれば、町まち全体ぜんたいでは宿泊しゅくはく客きゃくのうちおよそ10％が外国がいこく人じん客きゃく（訪日ほうにち旅行りょこう客きゃく）だが、一いちの湯ゆではその比率ひりつが「約やく40％」と非常ひじょうに高たかい。

取材しゅざい当日とうじつも、国内こくない旅行りょこう客きゃくと並ならんで訪日ほうにち旅行りょこう客きゃくを出迎でむかえる看板かんばんが出でていた

　営業えいぎょうマネージャーの福岡ふくおか氏しによると、とりたてて海外かいがいからの旅行りょこう客きゃくだけを重視じゅうししてきたわけではない。ただ、比較的ひかくてき早期そうきの1996年ねんからWebサイトを開設かいせつしていたこと（当時とうじから簡単かんたんな英語えいご版ばんページを提供ていきょう）、1997年ねんから露天風呂ろてんぶろ付つき客室きゃくしつを提供ていきょうしていること（大だい浴場よくじょうには抵抗ていこう感かんのある訪日ほうにち旅行りょこう客きゃくでも安心あんしん）など、国内こくない旅行りょこう客きゃく向むけに改善かいぜんしてきたことが半なかば偶然ぐうぜんに作用さようして、訪日ほうにち旅行りょこう客きゃく比率ひりつは徐々じょじょに高たかまってきたという。

　「2009年ねんごろから空室くうしつをWebで公開こうかいしていることも理由りゆうのひとつです。海外かいがいから来きたられるお客様きゃくさまは3カ月かげつ前まえ、6カ月かげつ前まえと比較的ひかくてき早はやく予約よやくをいただきますので、国内こくないのお客様きゃくさまが予約よやくしようとしたときにはもう埋うまってしまっている、ということもあります」（福岡ふくおか氏し）

　2010年代ねんだいに入はいり、旅行りょこう客きゃくの予よ約やく行動こうどうはいちだんとWeb／オンライン中心ちゅうしんにシフトしている。特とくに訪日ほうにち旅行りょこう客きゃくの場合ばあいは、Webを使つかって情報じょうほうを収集しゅうしゅうし、プランを立たて、そのままWebやメールで予約よやくに移うつるケースが多おおいはずだ。実際じっさいに一いちの湯ゆの場合ばあいも、自社じしゃWebサイトとオンライントラベルエージェンシー（OTA、じゃらんや楽天らくてんトラベル、Booking.comなどのオンライン旅行りょこう業者ぎょうしゃ）を合あわせ、現在げんざいでは宿泊しゅくはく予約よやくの「およそ70％」はオンライン経由けいゆだという。したがって、オンラインで顧客こきゃくの心しんをつかみ、宿泊しゅくはく予約よやくまでスムーズにつなげることが肝要かんようとなる。

　ちなみに、自社じしゃWebサイトやOTAからの宿泊しゅくはく予約よやくは「サイトコントローラー」と呼よばれる旅行りょこう業ぎょう向むけシステムを介かいして、一いちの湯ゆの基幹きかんシステム（空室くうしつ管理かんりや予よ約やく台帳だいちょうなど）で一元化いちげんかされる。一いちの湯ゆには専任せんにんIT担当たんとう者しゃはおらず、基幹きかんシステム、サイトコントローラー、Webサイトそれぞれを構築こうちくするSIベンダーの間あいだを、福岡ふくおか氏しが仲介ちゅうかいするかたちでシステムを構築こうちくしている。