前田まえだ知洋ともひろの“マジックとスペックのある人生じんせい” 第だい153回かい

アナログな石油せきゆストーブで生活せいかつが豊ゆたかになる

デジタルに囲かこまれてこそのアナログ

　阪神はんしん大震災だいしんさいのとき、意外いがいに役やくに立たったのが「石油せきゆストーブ」だったというエピソードをご存知ぞんじでしょうか。鋭するどい読者どくしゃならご明察めいさつだと思おもいますが、その理由りゆうは、電源でんげんなしでも「照明しょうめいになる」「温あたたかくなる」という必要ひつようを満みたしていたためだそう。

　そんな石油せきゆストーブの特性とくせいは、最近さいきんのキャンプブームでも再さい注目ちゅうもくされ、一部いちぶの製品せいひんはアマゾンや楽天らくてんではプレミア価格かかくがつくほどの人気にんきになっています。

　筆者ひっしゃは、防災ぼうさい対策たいさくもかねて、数すう年ねん前まえから「1台だいは、石油せきゆストーブが欲ほしいなあ」と強つよく思おもっていました。しかし、そんな物欲ぶつよくがムクムクと湧わく12月ごろには石油せきゆストーブが高値たかねや品薄しなうすになることから、買かうタイミングを逃のがし続つづけ、ようやく今秋こんしゅうに手てに入いれたというわけです。

　購入こうにゅうしたのはトヨトミの「KS-67H」（メーカー希望きぼう小売こうり価格かかくは3万まん580円えん）。ストーブの中心ちゅうしんに火ひが燃もえる部分ぶぶんがあり、ストーブの周まわりすべてに熱ねつが伝つたわる、いわゆる「対流たいりゅう型がたストーブ」です。

　社会しゃかいにデジタルグッズが浸透しんとうするなか「なぜにアナログな機器きき？」と問とわれれば、その理由りゆうとして「暖房だんぼうになる」以外いがいにも、部屋へやにおくと鉄製てつせいのロボットのような存在そんざい感かんと可愛かわいさがあることが挙あげられます。中なかに火ひが灯ともっていることもあり、生命せいめい感かんすら感かんじるところ（「攻殻機動隊こうかくきどうたい」ファンなら「ゴースト（魂たましい）を感かんじる」と説明せつめいするとわかりやすいかもしれません）。

映画えいが「スターウォーズ」に登場とうじょうするロボット「R2-D2」のような存在そんざい感かん

　もちろん、燃料ねんりょうの灯油とうゆさえあれば、100V電源でんげんを使つかわないスタンドアローン（何なにも接続せつぞくしない）で防災ぼうさい対策たいさくになることも大おおきな理由りゆうです。

（対流たいりゅう型がた）石油せきゆストーブのスペック

　やっと手てに入いれたこともあり、恋愛れんあいにたとえるなら「数すう年ねん後おくらしの恋こい」が成就じょうじゅしたようです。ここまでくるまでに、各社かくしゃ、各かく製品せいひんのスペック、口くちコミを調しらべまくりました。

　石油せきゆストーブの口くちコミには「燃費ねんぴが悪わるい」という表現ひょうげんがあります。おそらく、時間じかんあたりの灯油とうゆの消費しょうひ量りょうの意味いみだと想像そうぞうしています。しかし、筆者ひっしゃは異論いろんがあり、本来ほんらいの「燃費ねんぴ」は「エネルギー効率こうりつ」のはず。多おおくの灯油とうゆを消費しょうひしても、多おおく熱ねつを発生はっせいするのなら、燃費ねんぴ（エネルギー効率こうりつ）は良よいことになります。

　ちなみに筆者ひっしゃが購入こうにゅうしたKS-67Hは、出力しゅつりょく6.66kwで、燃料ねんりょう消費しょうひ量りょう0.647L/h。燃料ねんりょう消費しょうひ量りょうは多おおめですが、8畳じょうの仕事しごと部屋へやなら15分ふんほどで19度どから25度どほどに温あたたまります。40畳じょうのリビングなら、1時じ間あいだ強きょうで同様どうようの暖房だんぼう効率こうりつ（ただし、窓まどが壁かべ一いち面めんなので室温しつおんが下さがるのも速はやい）。石油せきゆストーブは出力しゅつりょく調整ちょうせいが苦手にがてな製品せいひんが多おおいこともあり、1時じ間あいだ単位たんいのオンオフで室温しつおんを調整ちょうせいしています。

意外いがいに明あかるい、石油せきゆストーブの火ひ

　購入こうにゅうしてすぐに気きがついたのは、（対流たいりゅう型がた石油せきゆストーブは）ほとんど音おとがしないこと。筆者ひっしゃの住すんでいるのが田舎いなかで、夜よるはほぼ無音むおんなせいもありますが、感動かんどうすら覚おぼえるほどの静寂しじま性せいです。

　もちろん、着火ちゃっか時じ以外いがいでは、電波でんぱも発はっしないのでWi-FiやBluetoothなど、デジタル機器ききの邪魔じゃまをしません。灯油とうゆは燃焼ねんしょうすると、水分すいぶんを放出ほうしゅつするので、特とくに加湿かしつはしていません。それほど喉のどが痛いたくはなりません。

あまり知しられていない遠とお赤外線せきがいせんのマジック

　KS-67Hを選えらんだ1番ばんの理由りゆうは、ボディがホウロウ加工かこうされていること。ホウロウ（琺瑯ほうろう）とは、金属きんぞくの表面ひょうめんにガラス質しつの釉薬を焼やき付つけたもの。古ふるくからある、金属きんぞくとガラスのハイブリッド製品せいひんといえるかもしれません。とくに、加熱かねつ器具きぐに使つかわれるホウロウは赤外線せきがいせん放射ほうしゃ率りつが高たかく、身体しんたいを温あたためる遠どお赤外線せきがいせんを効率こうりつよく放射ほうしゃすることが知しられています。

　エアコンやファンヒーターが、暖あたたかい空気くうきを送風そうふうするのに対たいして、灯油とうゆストーブが人ひとや物ぶつを直接ちょくせつ温あたためられるのには秘密ひみつがあります。それは、石油せきゆストーブが、暖あたたかい空気くうきを循環じゅんかんさせると同時どうじに、波長はちょう3〜1000マイクロメートルの遠とお赤外線せきがいせんが、人ひとや物ぶつの分子ぶんしの熱ねつ振動しんどうを加速かそくさせるから。気温きおんが低ひくいのに太陽光たいようこうを浴あびると暖あたたかくなる原理げんりと同おなじです。

　たまに「遠とお赤外線せきがいせんは内部ないぶから温あたためる」という話はなしも聞ききますが、遠とお赤外線せきがいせんはほとんどが表面ひょうめんで吸収きゅうしゅうされてしまうため、「内部ないぶから温あたたまる感かんじがする」が正解せいかいでしょう。ただし、温風おんぷうを出だすタイプの暖房だんぼうよりも、遠とお赤外線せきがいせんを使つかった暖房だんぼうが暖あたたかくなるのは確たしかです。

石油せきゆストーブと非ひ接触せっしょく型がた温度おんど計けいがあるといろいろと便利べんり

新あたらしいビジネスモデルの参考さんこうにもなる、ストーブ作づくりの哲学てつがく

　石油せきゆストーブのあまりの良よさと楽たのしさと、「これからも買かえるのかなあ……」という心配しんぱい（物欲ぶつよく？）もあり、KS-67Hを造つくっているトヨトミに問とい合あわせをしてみました。そしたら、そのお返事へんじが素敵すてきだったので、読者どくしゃの皆みなさまと共有きょうゆうすることにしてみます。

　石油せきゆストーブが再ふたたび人気にんきになっていることについて「エアコンやファンヒーターが普及ふきゅうするなか、その暖あたたかさとは異ことなる石油せきゆストーブの魅力みりょくを知しらない20代だいのメンバーでチームを結成けっせい」したとのこと。そこから限定げんてい色しょくの販売はんばいや他たブランドとのコラボレーションが生うまれ、最近さいきんではSNSを通つうじて話題わだいになり、人気にんき商品しょうひんになったそう。

焼やき芋いももおいしくできるのも石油せきゆストーブの魅力みりょく

　コラボレーションや限定げんてい品ひんが手てに入はいりにくい（生産せいさん数すうが少すくない）ことについては「すべての（トヨトミの）ストーブ製品せいひんにホウロウが使つかわれているのですが、ホウロウの加工かこうは難むずかしく、時間じかんがかかることで、供給きょうきゅうが間まに合あわず、大変たいへん心苦こころぐるしく思おもっています」とのことでした。「人気にんきを出だすために、出荷しゅっかを制限せいげんしてる可能かのう性せいもあるのかな……」なんて、ゲスな考かんがえがよぎった筆者ひっしゃは深ふかく反省はんせいしました。

　「火ひを使つかう製品せいひんだからこそ、『安全あんぜん、安心あんしん』はもちろん、社やしろ憲けんにある『当社とうしゃは社会しゃかいの報恩ほうおんのために存在そんざいする』『製品せいひんは誠意せいいの塊かたまりにすること』」という哲学てつがくがあることも教おしえてもらいました。

　実際じっさいにユーザーとして使つかってみると、機能きのうやスペックだけでなく、製品せいひんを作つくる人々ひとびとの「想おもい」を確たしかに感かんじる気きがします。時代じだいや価値かち、状況じょうきょうが目めまぐるしく変かわる現代げんだいだからこそ必要ひつようなビジネスモデルの哲学てつがくだと、強つよく受うけ止とめるのは筆者ひっしゃだけではないはずです。

　「よ〜し、筆者ひっしゃのマジックも、社会しゃかいの役やくに立たつぞ〜」と決意けついしてみましたが、そのモチベーションが湧わいたのは、単たんに、次つぎの記念きねんモデルやコラボモデルを「予約よやくしてでも手てに入いれるぞ〜！」という、物欲ぶつよくの対流たいりゅうによるものかもしれません……（笑）。

前田まえだ知洋ともひろ（まえだ ともひろ）

　東京電機大学とうきょうでんきだいがく卒そつ。卒業そつぎょう論文ろんぶんは人工じんこう知能ちのう（エキスパートシステム）。少しょう人数にんずうの観客かんきゃくに対たいして至近しきん距離きょりで演えんじる“クロースアップ・マジシャン”の一人ひとり者しゃ。プライムタイムの特別とくべつ番組ばんぐみをはじめ、100以上いじょうのテレビ番組ばんぐみやTVCMに出演しゅつえん。LVMH（モエ ヘネシー・ルイヴィトン）グループ企業きぎょうから、ブランド・アンバサダーに任命にんめいされたほか、歴代れきだいの総理そうり大臣だいじんをはじめ、各国かっこく大使たいし、財界ざいかい人じんにマジックを披露ひろう。海外かいがいでの出演しゅつえんも多おおく、英国えいこくチャールズ皇太子こうたいしもメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

　著書ちょしょに『知的ちてきな距離きょり感かん』（かんき出版しゅっぱん）、『人ひとを動うごかす秘密ひみつのことば』（日本にっぽん実業じつぎょう出版しゅっぱん社しゃ）、『芸術げいじゅつを創つくる脳のう』（共著きょうちょ、東京とうきょう大学だいがく出版しゅっぱん会かい）、『新入しんにゅう社員しゃいんに贈おくる一いち冊さつ』（共著きょうちょ、日本にっぽん経団連けいだんれん出版しゅっぱん）ほかがある。

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