人生100年時代といわれる昨今、自分らしい働き方や暮らし方を模索する女性たちが増えている。そんな女性たちに役立つ情報を発信するムック『brand new ME! ブランニューミー 40代・50代から選ぶ新しい生き方BOOK vol.1』(KADOKAWA刊)から抜粋してお届けするインタビューシリーズ。今回は、新聞社を退職後、保育園運営に携わっている及川敬子さんにお話をお聞きした。
「定年後に」の思いが取材を通して思いがけず早期に実現
東京の文京区民が立ち上げた法人「まちのLDK」の代表を務める及川さんは、保育園「ちいさいおうち」を運営している。「ちいさいおうち」は、2017年9月に小石川、2020年4月に春日と大塚に開園し、現在3園。及川さんは48歳で退職するまで長年、新聞記者として働いていた。
「自分が子育てをしているときに子どもを取り巻く環境に感じた課題や、区の保育園民営化計画の際に保護者の方たちと立ち上がったことがきっかけで、定年後は子育て支援に携わりたいなと思っていたんです」
新聞社の中でも子育てに関する記事を担当する部門にいたこともあって、勉強になればという思いから、在職中に保育士資格を取得。取材を重ねるなかで、2015年に小規模保育園が制度化されることを知り、これは参入できるかもしれない、と退職した。51歳のときに保育園を開園するまでの数年は、ボランティアで子育て広場を開設しながら、保育園にふさわしい物件を探したり、地域メディアを立ち上げて人脈作りをした。何かを始めようとするときに、現場に行って人の話を聞き、情報を仕入れる姿勢は記者ならではのもの。
「会社を辞めるって決めたのが2月で、誕生日の5月までおよそ3カ月間、とにかく名刺が使える間、会えるだけの人に会おうと、小規模保育園を取材して回って記事にしました。そこで知り合った人とは今でも連絡を取り合っています。あと、『まちの保育園』(ナチュラルスマイルジャパン株式会社)のコンセプトを見たときに、『これだ』と思って社長さんに会いに行きました。取材に行ったら意気投合して。『ちいさいおうち』を開園するときはご支援をいただいたりもしました。私の場合のインプットは、読書のような座学というより、動いて情報を取りに行くことが多いですね。いまだに煮詰まると、興味のあるイベントに出かけてみるんですよ。そうすると新しい出会いがあったりします」
保育園にとどまらず子どもの居場所を作っていきたい
「今情報を集めているのは、北欧発の『森のようちえん』のような自然体験を中心とする保育について。最近は子どもたちの育つ環境があまりにも制限されているので、存分に遊び込めて、自分たちで考えて活動ができるような園を作りたいと思って、視察に行ったりしています」
「ちいさいおうち」を開園して6年あまり、無我夢中の日々から、少しずつ周りを見渡すこともできるようになった。
「保育園を始めた当初は0、1、2歳のための園を作りたかったんです。ただ、保護者からの要望もあって、やっぱり3歳以上も通える園を作りたいと思ってきて。その次は学童も作りたい……となってくると思う」
今保育の分野ではどんな人材を必要としているのだろうか。
「この5年で、保育を取り巻く環境はものすごく変わりました。保育園は増えて待機児童はゼロに近くなり、今後は「誰でも通園制度」が始まります。働いていなくても保育の必要がある人が定期的に通える制度を国が実施するのですが、文京区がそれを先取りする形で試行的に1日何組か預かる事業を始めたところ、予想以上に応募があって。
そういう制度を担う人材も必要です。あとは、やはり子育て支援ですよね。保育園はたくさんできたけれど、『学童』が足りていません。放課後、塾や習い事に行く子どもが多いですが、それ以外にも地域の中に子どもの居場所を作り、見守る人が求められています」
今いる保育の現場での近い将来を追いかけながら、少し先の及川さんの夢は、駄菓子屋のような場を作ることだという。 「昔でいう駄菓子屋みたいなのが本当は大事で。子どもたちは駄菓子を買う目的で店に来て、店の人とやり取りし、友達と会ったり、しゃべったり、悪さをしたりして怒られるみたいな。そういう自然に交流が生まれるような子どもの居場所が作りたいですね」
さらにその先、もうひとつの夢は、多世代、高齢者のデイサービスと小規模保育園を組み合わせた施設だという。
「武蔵野市だったかな?都内にすでにあるんですよ。障子で仕切ってこっち側はデイサービスで、こっち側が保育園という施設があるんです。長屋みたいなところで、認知症のお年寄りとちっちゃい子が一緒に過ごしている。それはいずれ実現したいです。その長屋に自分の居場所があって、一角で駄菓子を売りたいですね(笑)」
0〜2歳児を対象にした保育園をやってきたが、卒園する方から3歳以上も通える園はないんですか? ときかれるので、やっぱり3歳以上の園も作りたいと思っている。北欧発の自然体験を中心にした保育園「森のようちえん」を実現したい。
Profile:及川敬子
おいかわ・たかこ/一般社団法人まちのLDK代表理事。1966年、東京都生まれ。2014年、48歳で記者として勤めた新聞社を退職。2017年に保育園を開園。開園前は保育士資格を取得し、ボランティアで子どもの居場所作りを行いながら、保育園に適した物件をリサーチした。地域の核となる施設に保育園を位置づけ、子どもたちが様々な人に見守られながら育つ環境作りを目指している。 Webで地域メディアも運営。
一般社団法人まちのLDK http://machino-ldk.org/