2000年ねんに世界せかい初はつの観客かんきゃく向むけダイヤルアップ接続せつぞくを提供ていきょう、球団きゅうだんCIOにファン体験たいけん進化しんかの取とり組くみを聞きいた

MLB サンフランシスコ・ジャイアンツが「球場きゅうじょうのネットワーク」にこだわる理由りゆう

2024年ねん07月がつ08日にち 17時じ15分ふん更新こうしん

文ぶん● 末岡すえおか洋子ようこ　編集へんしゅう● 大塚おおつか／TECH.ASCII.jp

米べいメジャーリーグ、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地ほんきょち「Oracle Park」。海沿うみぞいの港湾こうわん地区ちくにあり、打球だきゅうが海うみまで飛とぶこともある

　米べいメジャーリーグ（MLB）、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地ほんきょちである「Oracle Park」。サンフランシスコ市しのベイエリアにある球場きゅうじょうとして知しられるが、もうひとつ重要じゅうような特徴とくちょうがある。実じつはおよそ四半世紀しはんせいき前まえの2000年ねん、世界せかいで初はじめて観客かんきゃくにインターネット接続せつぞくを提供ていきょうした“ハイテク球場きゅうじょう”なのだ。さらに、観客かんきゃく向むけのWi-Fi環境かんきょうも2004年ねんから提供ていきょうしている。

　そして同どう球場きゅうじょうでは昨年さくねん（2023年ねん）、新あらたなWi-Fi環境かんきょうをExtreme Networksの機器ききをベースに構築こうちくしている。筆者ひっしゃは今回こんかい、Oracle Parkを訪問ほうもんし、サンフランシスコ・ジャイアンツのCIOを務つとめるビル・シュロフ氏しに、このハイテク球場きゅうじょうの歴史れきしと、先進せんしん的てきなファン体験たいけんに取とり組くむ背景はいけいについて話はなしを聞きいた。

サンフランシスコ・ジャイアンツ CIO兼けんSVPのビル・シュロフ（Bill Schlough）氏し。1999年ねん、同どう球団きゅうだんがプロスポーツチームで初はじめてCIO職しょくを設もうけた際さいに就任しゅうにんした“プロスポーツチーム界かい初はつのCIO”である

世界せかいに先駆さきがけた“ハイテク球場きゅうじょう”、きっかけはバリー・ボンズ選手せんしゅだった!?

　空そらには雲くもひとつなく、海うみからは気持きもち良よいそよ風かぜが吹ふく金曜日きんようびの午前ごぜん。スタンド3階かい席せきから見下みおろしたグラウンドでは、数すう人にんのスタッフが芝しばの整備せいびをしていた。サンフランシスコ・ジャイアンツは今日きょう、このホームグラウンドで“宿敵しゅくてき”ロサンゼルス・ドジャースを迎むかえての試合しあいを控ひかえている。あと数すう時じ間あいだもすれば、およそ4万まん2000の観客かんきゃく席せきは両りょうチームのファンで埋うめ尽つくされ、選手せんしゅたちの活躍かつやくに熱あつい声援せいえんが贈おくられることになる。まさに嵐あらしの前まえの静しずけさ、緊張きんちょうすら感かんじる時間じかんだ。

　シュロフ氏しはまず「この球場きゅうじょうそのものがイノベーションだ」と述のべ、この球場きゅうじょうの生おい立たちについて誇ほこらしそうに説明せつめいした。

　話はなしは1997年ねんまでさかのぼる。ジャイアンツではそれ以前いぜんからサンフランシスコ市内しないに新あらたな球場きゅうじょうを建設けんせつしようと検討けんとうしていたが、同年どうねん、サンフランシスコ市しが投資とうししないという決定けっていが下くだり、新しん球場きゅうじょうの構想こうそうは暗礁あんしょうに乗のり上あげた。当時とうじ、ジャイアンツはフロリダ州しゅうからの誘致ゆうちも受うけており、フロリダへの本拠地ほんきょち移転いてんも現実味げんじつみを帯おびてきていた。そんな危機ききを救すくおうと、新あらたに就任しゅうにんしたオーナーが民間みんかん企業きぎょうに資金しきんを募つのった。

　折おりしもドットコム・バブルに向むかう時代じだい、サンフランシスコのシリコンバレーには潤沢じゅんたくな資金しきんが流ながれ込こんでいた。球場きゅうじょうの建設けんせつには3億おく2000万まんドルが必要ひつようだったが、ペット用品ようひんの新興しんこうEC企業きぎょう「Pets.com」、エネルギー企業きぎょうのEnron（後年こうねん、大だい規模きぼな会計かいけい不祥事ふしょうじで有名ゆうめいになる）などが快こころよく寄付きふに応おうじたことでまかなえた。このように、公的こうてき資金しきんを投入とうにゅうせず100％民間みんかん資金しきんで建設けんせつされたMLBの球場きゅうじょうは、1962年ねんにオープンしたドジャー・スタジアムに続つづく2例れい目めだという。

　そうして2000年ねん3月がつにオープンしたのが「Pacific Bell Park」だった。球場きゅうじょう名めいのPacific Bellは通信つうしん会社かいしゃの名前なまえで、以後いご、同社どうしゃの社名しゃめい変更へんこうに伴ともなって「SBC Park」「AT&T Park」と名前なまえを変かえていく。そして2019年ねん、ソフトウェア会社かいしゃのOracleがネーミングライツを獲得かくとくして、現在げんざいの「Oracle Park」という球場きゅうじょう名めいになった。

球場きゅうじょう建設けんせつはサンフランシスコの“ドットコム・バブル”の影響えいきょうも受うけて実現じつげんした

　Oracle Parkになる以前いぜんの19年間ねんかん、ずっと通信つうしん会社かいしゃの名前なまえを冠かんしていたことを考かんがえると、この球場きゅうじょうが世界せかいで初はじめて観客かんきゃくにインターネット接続せつぞくを提供ていきょうする“コネクテッド・スタジアム”になったのも必然ひつぜんだと思おもうかもしれない。だが実じつは、そのきっかけとなったのは通信つうしん会社かいしゃではなく、当時とうじサンフランシスコ・ジャイアンツで活躍かつやくしていたバリー・ボンズ選手せんしゅだったという。

　当時とうじ、ボンズ選手せんしゅの友人ゆうじんがダイヤルアップモデムのビジネスを手てがけており、球場きゅうじょう内ないでインターネット接続せつぞくができるようにすることを提案ていあん。その結果けっか、すべてのスイートルームにインターネット通信つうしん用ようのポートが設置せっちされた。

　なお、ダイヤルアップ方式ほうしきだったインターネット接続せつぞくは、2年ねん後ごの2002年ねんにxDSLへとアップグレードされる。これも時代じだいを感かんじさせるエピソードだ。

スイートルームの壁かべには現在げんざいでもダイヤルアップ用ようのポートが残のこされている

　そして、2004年ねんには観客かんきゃく向むけのWi-Fi環境かんきょうがもたらされた。シュロフ氏しは「まだiPhone登場とうじょうの3年ねん前まえだったが、Pacific Bellには『いつか携帯けいたい電話でんわがWi-Fi接続せつぞくすることになる』というビジョンがあった」と説明せつめいする。とはいえ、当時とうじの米国べいこくでは高機能こうきのうな携帯けいたい電話でんわがまだ普及ふきゅうしておらず、Wi-Fi接続せつぞくできるデバイスといえば、Wi-Fiカードを挿入そうにゅうしたノートPCか、Compaqの「iPAQ」、Palmの「Zire」といったPDA（携帯けいたい情報じょうほう端末たんまつ）と呼よばれるデバイスくらいだったという（ちなみに当時とうじのWi-Fiはまだ802.11a/bが主流しゅりゅうだった）。

　それでもWi-Fi環境かんきょうを用意よういしたもうひとつの理由りゆうが、球場きゅうじょう名めいの変更へんこうだった。社名しゃめい変更へんこうに伴ともなって球場きゅうじょう名めいもSBC Parkに変かわることになっていたが、それまでの「Pacific（太平洋たいへいよう）」というイメージの良よい言葉ことばからSBCに変かわるのは、ファンが快こころよく思おもわないのではないかと懸念けねんされた。ファンを引ひき付つけるためには、球場きゅうじょうでの観戦かんせん体験たいけんをより良よいものにするしかない。そこで用意よういされたのがWi-Fiだった。

　こうして、同どう球場きゅうじょうは初はじめてWi-Fiを完備かんびした球場きゅうじょうとなった。とはいえ、4万まん2000人にん規模きぼのスタジアムをWi-Fiでカバーするのは技術ぎじゅつ的てきにハードルの高たかいチャレンジであり、「当時とうじはCiscoでしか実現じつげんできなかった」ため、Ciscoのアクセスポイントが1300台だい導入どうにゅうされた。