スーツ

アメリカという文化ぶんかを宿やどしたブレザー。

2022.03.28

ファッションエディターの審美しんび眼めにかなった、いま旬しゅんアイテムや知しられざる名品めいひんをお届とどけ。

400_AERA-STYLE-MAGAZINE279458_F01_Q — 生地きじはアメリカンウーレンカンパニー、ボタンはウォーターバリーと、もはや希少きしょうな100％アメリカ製せいブレザー。10年ねん後ごには歴史れきし的てき価値かちがつくかも!? ￥99,000／サウスウィック（シップス銀座ぎんざ店てん　03-3564-5547）

僕ぼくは買かい物ものが大好だいすきだ。なかでも海外かいがい製品せいひんには目めがない。だけど、単たんなるファッション好すきとか、モノ好すきとはちょっと違ちがうと思おもっている。僕ぼくにとっての買かい物ものとは、旅たびをするのと同おなじくらい大切たいせつな、その国くにの文化ぶんかを知しるための手段しゅだんなのである。

たとえば薄うすく柔やわらかな仕立したてで体からだのフォルムを意識いしきさせるイタリア製いたりあせいのジャケットからは、古代こだいローマ人じんの美意識びいしきを。頑丈がんじょうな英国えいこく製せいのグッドイヤーウェルト靴くつからは、産業さんぎょう革命かくめいによる機械きかい化かのルーツを。そして驚おどろくほど適当てきとうに縫ぬわれたキューバ製せいのシャツからは、労働ろうどうに対たいする嫌悪けんお感かんを……（笑）。一いち着ちゃくの洋服ようふくには、その国くにの歴史れきしと哲学てつがく、そして美術びじゅつ史しまで秘ひめられているからこそ面白おもしろい。単純たんじゅんにクオリティーが高たかければいいってもんじゃないのだ。

そういう意味いみでは、最近さいきんのアメリカンブランドの洋服ようふくには少すこしがっかりさせられることも多おおい。トレンドに迎合げいごうしてほかの国くにの要素ようそを中途半端ちゅうとはんぱに採とり入いれた、無味むみ無臭むしゅうの服ふくが多おおいのだ。縫製ほうせいなんて多少たしょう雑ざつでもいいから、多様たよう性せいに富とんだ文化ぶんかや人種じんしゅをガバッと丸まる呑のみするような、おおらかな服ふく――。これこそが“made in U.S.A”でしょう！

そんな僕ぼくたちの思おもいを体現たいげんしたかのようなネイビーブレザーが、この春はる復活ふっかつを遂とげた。つくったのは、かつてブルックスブラザーズの傘下さんかにあったファクトリー、サウスウィック。こちらは２年ねん前まえにいったん操業そうぎょうを停止ていししたものの、シップスが商標しょうひょうを取得しゅとく。今季こんきからブランドとして再始動さいしどうしたのだという。ナチュラルショルダー、３みっつボタンの段だん返かえり、パッチ＆フラップポケット……。アメトラのお約束やくそくとも言いえるデザインに加くわえ、生地きじやボタンに至いたるまでアメリカ製せいにこだわった本物ほんものの一いち着ちゃくは、ステッチ幅はばまであの頃ころと同おなじで、どんな人ひとたちが縫ぬっているのか想像そうぞうすると思おもわずニヤニヤしてしまう。ただのいいモノならもういらない。僕ぼくがいま手しゅに入いれたいのは、お金かねだけでは決けっして買かえない、文化ぶんかと物語ものがたりなんだ。

山下やました英介えいすけ（やました・えいすけ）
ライター・編集へんしゅう者しゃ。1976年ねん生うまれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集へんしゅうや、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事じゅうじした後のち、独立どくりつ。趣味しゅみはカメラと海外かいがい旅行りょこう。