本連載の最後におすすめするのは、イギリスのブランド、スタジオニコルソン(STUDIO NICHOLSON)2024年夏 モジュールコレクションのセットアップ。“モジュール”とは、「部品」を意味する建築用語で、それ単独でも使えるが、多くは他のパーツと組み合わせて構築されるもの。スタジオニコルソンでは、ブランドの新作と手持ちのアイテムを組み合わせたタイムレスなワードローブを提唱しており、それを端的に表現したのが先述のモジュールコレクションである。
今夏のモジュールコレクションでは、特に日本産の生地を多用しており、写真のセットアップも綿100%の日本製タイプライター生地を採用したもの。タイプライターとは、経糸と緯糸を高密度に織り上げた生地のことで、独特のハリ感が特徴だ。スタジオニコルソンのデザイナー、ニック・ウェイクマンは元々テキスタイルを専門に学んでいたこともあり、ものづくりにおいても常に“ファブリック ファースト”を掲げている。そのため、こちらのタイプライター生地も打ち込みは強いが、日本の気候に合わせて軽さやサラっとした清涼感を併せ持つ。
ジャケットは、3つボタンにワイドラペルで、狭めのVゾーンがコンテンポラリーなムードを醸す。かなりゆったりとしたボックス型だが、胸元に入れたダーツが立体的なシルエットにひと役買っている。本来、ダーツはジャケットの重心を分散させることで軽さを出す狙いもあるため、肌離れに優れたテクスチャーも含めて、夏に着るジャケットとして理にかなった作りでもある。
共地のパンツは、スタジオニコルソンではおなじみのコクーンシルエットのような独特のフォルムが目を引く。2本のプリーツに加え、タイプライター生地特有の落ち感が優美なシルエットを引き立てる。ウエストはしっかりとベルトループ付きなので、Tシャツやポロシャツをタックインしても収まりがよく、上品さが損なわれることもない。ジャケットを脱いでトップス1枚になってもスタイルが決まるのは、パンツ自体の存在感に加えて“モジュール”という一貫したコンセプトによるところが大きい。
また、ジャケット、パンツ共に家庭で水洗いできるイージーケアもポイント。手軽さはもちろんだが、ペーパーライクな素材感は多少シワが付いても肩肘の張らないこなれた雰囲気へと変換してくれる。細かいことを気にせずサッと着られるラフさもセットアップの魅力である。
かつては、“スーツは戦闘服”なんで言葉もあったように、正統派なスーツスタイルが仕事のスイッチを入れる起動装置であることは紛れもない。とはいえ、気分を高揚させるのがファッションの楽しさであるならば、こんなセットアップを身にまとえば、仕事に向かうモチベーションはいつもよりぐっと上がるに違いない。
問/スタジオニコルソン 青山 03-6450-5773
掲載した商品は税込み価格です。