10月から消費税率が10%に引き上げられた。増税後は消費者の節約意識が強まり、消費の二極化は一段と強まる。消費増税をビジネスチャンスと捉える企業は少なからずある。
「驚安の殿堂」ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は消費増税が追い風になる。ディスカウント店ドン・キホーテは、10月の消費税増税を前に日用品や家電製品などを本体価格から一律8%値引きするセールを実施した。セールは9月14日から30日まで。食料品や酒などを除く商品全体の7割程度が対象となった。通常は仕入れや値付け、商品配置を現場の担当者に任せており、全国の店舗で一斉にセールを打ち出すのは異例だ。過去最大規模の100億円の消費者還元策である。消費増税前に話題づくりすることで、ドン・キホーテに来店したことのない顧客を取り込み、将来の客数増につなげる作戦だ。
9月は値下げセール効果で既存店の客数は前年同月比7.6%増えた。売上高は13.0%増と2ケタの伸びを記録した。洗剤やトイレットペーパーなど生活必需品は想定を超えて大幅に伸びた。10月は消費増税直前の駆け込み需要の反動で、既存店売上高は前年同月比6.9%減だった。
PPIHは20年6月期の連結業績予想を上方修正した。売上高は前期比24.9%増の1兆6600億円になる見通し。従来予想から100億円増額した。8%値引きセールで需要を喚起した効果があった。営業利益は7.7%増の680億円。従来予想は660億円だった。純利益は6.7%減の450億円とする予想を据え置いた。
吉田新社長が創業者から与えられた使命
伊藤忠商事の子会社であるファミリーマートとPPIHが連合を組む計画が暗礁に乗り上げた。2019年1月、PPIHは旧ユニー・ファミリーマートホールディングスから総合スーパー、ユニーを買収して子会社にした。その見返りに旧ユニー・ファミマがPPIHの株式を取得。伊藤忠・ファミマ・ドンキ連合が形成される予定だった。
旧ユニー・ファミマはPPIHを持分法適用会社にするために18年11月~12月、1株6600円でTOB(株式公開買い付け)を実施して20.19%の取得を目指した。だが、PPIHの株価が買い付け価格を上回る水準で推移したため、0.02%の取得にとどまった。その後、市場で買い付けを進め、今年8月までにPPIH株を5.02%取得。9月から社名をユニー・ファミマからファミリーマートに変更。21年8月までにPPIH株を追加取得し、出資比率を最大15%に引き上げる方針を改めて打ち出した。1~2年かけて持分法適用会社にする方針だ。
PPIHでは9月25日の株主総会で大原孝治社長兼CEOが退任し、専務の吉田直樹氏が4代目社長に就いた。コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で店舗での勤務経験はない。以前から親交のあった創業者の安田隆夫氏(現・創業会長兼最高顧問)の強いオファーを受けて、07年、米ハワイでの店舗運営などを担うドン・キホーテUSAの社長に就任した。
近年は大原氏の右腕として、ガバナンスやコンプライアンス関連の業務をこなす一方、M&A(合併・買収)を推進。今年1月のユニーの完全子会社化などの案件をまとめあげた実績がある。大原氏は「吉田は、私にない素晴らしい知見と資質を身につけており、彼なら安心してバトンを託すことができる。当社にとって安田が父親ならば、私はその長男。そして、吉田は非常にできのよい次男だ」と高く評価した。
8月中旬に開いた決算説明会では安田氏がビデオ出演。吉田氏を次期社長に選出する理由について、「(売上高)2兆円規模の会社となり、営業出身の経営だけでは金融機関や政府、総合商社などの折衝がとても回っていかない。不可欠なのは経営のプロであり、それは吉田においてない」と語った。
PPIHの伊藤忠=ファミマグループ入りは実現するのか。その折衝を行うのが吉田新社長だ。これが創業者から課せられたミッション(使命)である。
(文=編集部)