韓国かんこく、慰安いあん婦ふ問題もんだい解決かいけつの日にち韓かん合意ごういを破棄はきか…韓国かんこくと中国ちゅうごく、冷戦れいせん状態じょうたい突入とつにゅう

韓国かんこく・朴ぼく槿むくげ恵めぐみ大統領だいとうりょうが罷免ひめん（Penta Press／アフロ）

　昨年さくねん10月がつ下旬げじゅん以降いこう、政治せいじスキャンダルが韓国かんこく社会しゃかいを混乱こんらんさせている。事ことの発端ほったんは、失職しっしょくした朴ほお槿むくげ恵めぐみ（パク・クネ）元もと大統領だいとうりょうが、演説えんぜつの草稿そうこうなどの機密きみつ情報じょうほうを長年ながねんの友人ゆうじんである崔ちぇ順じゅん実み（チェ・スンシル）被告ひこくに渡わたしていたことが発覚はっかくしたことにある。韓国かんこくの大統領だいとうりょうは、政治せいじ、経済けいざい、軍事ぐんじのあらゆる領域りょういきでの決定けってい権けんを持もち、かなり独裁どくさい色しょくが強つよい。その権力けんりょく者しゃが、一民かずたみ間あいだ人じんを政治せいじに介入かいにゅうさせていた。そして、崔ちぇ被告ひこくの運営うんえいする財団ざいだんを資金しきん面めんから支援しえんするよう、朴ぼく元もと大統領だいとうりょうが大手おおて財閥ざいばつ企業きぎょうに便宜べんぎを求もとめていたことも明あきらかになっている。

　朴ぼく元もと大統領だいとうりょうは、建国けんこくの父ちちである朴ぼく正煕せいき（パク・チョンヒ）元もと大統領だいとうりょうの娘むすめだ。歴代れきだいの大統領だいとうりょう、その親族しんぞくが財閥ざいばつ企業きぎょうから不正ふせい資金しきんを受領じゅりょうしてきたなか、朴ぼく正煕せいき元もと大統領だいとうりょうはスキャンダルとは無縁むえんの、清廉せいれんなリーダーだと見みられてきた。父親ちちおやの姿すがたを娘むすめに重かさね合あわせ、多おおくの有権者ゆうけんしゃが「この人ひとなら社会しゃかいをよくしてくれる」と期待きたいしたはずだ。その期待きたいが裏切うらぎられただけに、韓国かんこく社会しゃかいにおける政治せいじ不信ふしんは強つよい。

　問題もんだいはそれだけではない。北朝鮮きたちょうせんへの対応たいおうをめぐり、韓国かんこくと中国ちゅうごくとの関係かんけいは悪化あっかし始はじめている。朝鮮半島ちょうせんはんとう情勢じょうせいの不安定ふあんてい化かが、国際こくさい社会しゃかいに与あたえる影響えいきょうは小ちいさくない。韓国かんこくの政治せいじ不安定ふあんていは、極東きょくとう、および国際こくさい情勢じょうせいの先行さきゆき不透明ふとうめい感かんを高たかめる要因よういんと考かんがえるべきだ。

過去かこの教訓きょうくんを生いかせない韓国かんこく

　昨年さくねん12月がつ、韓国かんこくの国会こっかいは朴ほお大統領だいとうりょう（当時とうじ）に対たいする弾劾だんがい訴追そつい案あんを圧倒的あっとうてきな賛成さんせい多数たすうで可決かけつした。これを受うけて大統領だいとうりょうの職務しょくむは停止ていしされた。そして、3月がつ10日とおか、憲法けんぽう裁判所さいばんしょは朴ほお大統領だいとうりょうが職権しょっけんを乱用らんようし、国民こくみんの利益りえきに反はんするかたちで職務しょくむを進すすめたことの重大じゅうだいさを認みとめ、弾劾だんがい訴追そついされるのは妥当だとうとの判断はんだんを下くだした。こうして朴ほお大統領だいとうりょうは失職しっしょくし、韓国かんこくは国民こくみんに選えらばれた最高さいこう権力けんりょく者しゃ＝大統領だいとうりょうが不在ふざいという、異例いれいの事態じたいに陥おちいっている。

　この状況じょうきょうに関かんして、さまざまな見方みかたがある。経済けいざいの側面そくめんでは、サムスンを筆頭ひっとうとする“10大だい財閥ざいばつ”の経営けいえいの屋台骨やたいぼねが揺ゆらぎ、経済けいざいの地盤じばん沈下ちんかが進すすむとの懸念けねんが強つよい。10大だい財閥ざいばつの売上うりあげは、韓国かんこくの国内こくない総そう生産せいさん（GDP）の7割わり程度ていどを占しめる。最大手さいおおてのサムスンでは、中核ちゅうかく企業きぎょうであるサムスン電子でんしの李り在ざい鎔（イ・ジェヨン）副ふく会長かいちょうが贈賄ぞうわい容疑ようぎで逮捕たいほされ、今後こんごの経営けいえい不安ふあんが高たかまっている。今後こんごの裁判さいばんの結果けっか次第しだいでは、他たの財閥ざいばつ企業きぎょうに捜査そうさが及およぶこともあるだろう。韓国かんこくは財閥ざいばつ企業きぎょうを優遇ゆうぐうし、その輸出ゆしゅつ収益しゅうえきをテコに経済けいざい成長せいちょうを実現じつげんしてきた。事実じじつ上じょう、経済けいざいは財閥ざいばつ企業きぎょうに支配しはいされてきたといえる。今後こんご、財閥ざいばつ企業きぎょうの経営けいえいがどうなるかは重要じゅうようなチェックポイントだ。

　それ以上いじょうに先行さきゆき不安ふあんを高たかめているのが、韓国かんこくの政治せいじ動向どうこうだ。これまでの韓国かんこくの政治せいじを振ふり返かえると、歴代れきだい政権せいけんが民主みんしゅ主義しゅぎの基盤きばん整備せいびに取とり組くんだとはいいづらい。結果けっか的てきには、私的してきな関係かんけいを重視じゅうしし私腹しふくを肥こやすことを重視じゅうししてきたようにさえみえる。全ちょん斗煥どふぁん（チョン・ドゥファン）元もと大統領だいとうりょう以降いこう、歴代れきだいの大統領だいとうりょう、親族しんぞくによるスキャンダルの歴史れきしは、政財界せいざいかいが癒着ゆちゃくしていた証拠しょうこだ。スキャンダルが発覚はっかくするたび、国内外こくないがいからは財閥ざいばつ企業きぎょうの権力けんりょく分散ぶんさんなどの構造こうぞう改革かいかくを進すすめ、公平こうへいに所得しょとくを再さい分配ぶんぱいする制度せいどをつくるべきだとの指摘してきがなされてきた。

　今回こんかい、朴ほお槿むくげ恵めぐみ氏しは現職げんしょくの大統領だいとうりょうとして初はじめて罷免ひめんされた。結果けっか的てきに、韓国かんこくの政治せいじは数々かずかずのスキャンダルの教訓きょうくんを生いかすことができず、政治せいじの機能きのう不全ふぜんという大おおきなリスクを国民こくみんに押おし付つけている。

緊迫きんぱくする朝鮮半島ちょうせんはんとう情勢じょうせい

　特とくに、朝鮮半島ちょうせんはんとう情勢じょうせいを考かんがえた際さい、韓国かんこくの政治せいじが不安定ふあんてい化かする影響えいきょうは無視むしできない。今いま、朝鮮半島ちょうせんはんとう情勢じょうせいは、軍事ぐんじ的てき挑発ちょうはつを加速かそくさせる北朝鮮きたちょうせん、韓国かんこくと中国ちゅうごくの関係かんけい悪化あっかの2つの面めんから緊迫きんぱく化かしている。まず、北朝鮮きたちょうせんは一貫いっかんして核兵器かくへいきの開発かいはつに固執こしつしている。これには、核かくの脅威きょういをちらつかせれば、米国べいこくを中心ちゅうしんとする国際こくさい社会しゃかいが制裁せいさいを緩ゆるめるなど、有利ゆうりな条件じょうけんを引ひき出だせるとの誤あやまった考かんがえがあるからだ。それゆえに、マレーシアでVXガスを使つかって金正男キムジョンナム（キム・ジョンナム）氏しが殺害さつがいされたことへの国際こくさい的てきな批判ひはんが高たかまるなかでも、北朝鮮きたちょうせんは日本海にほんかいに向むかって弾道だんどうミサイルを4発はつ発射はっしゃし、国際こくさい社会しゃかいへの挑発ちょうはつを続つづけている。

　一方いっぽう、中国ちゅうごくは北朝鮮きたちょうせんの軍事ぐんじ的てき挑発ちょうはつへの対抗たいこう措置そちとして、韓国かんこくが米国べいこくの高こう高度こうどミサイル防衛ぼうえいシステム（THAAD）の配備はいびを進すすめていることを批判ひはんしている。それだけでなく、中国ちゅうごくではミサイル防衛ぼうえいシステム配備はいびへの報復ほうふくが進すすんでいる。一いち例れいとして、韓国かんこくの航空こうくう会社かいしゃの定期ていき便びん増発ぞうはつの認可にんかが下おりない、中国ちゅうごくの旅行りょこう会社かいしゃが韓国かんこくツアーの募集ぼしゅうを取とりやめるなど、さまざまな措置そちが取とられている。韓国かんこくにとって、中国ちゅうごくは全体ぜんたいの25％を占しめる最大さいだいの貿易ぼうえき相手あいて国こくだ。韓国かんこくの輸出ゆしゅつ依存いぞん度ど（GDPに対たいする輸出ゆしゅつ額がくの割合わりあい）が50％程度ていどであることを踏ふまえると、中国ちゅうごくとの関係かんけい悪化あっかは韓国かんこく経済けいざいの下した振ふれリスクに直結ちょっけつする。

　朝鮮半島ちょうせんはんとう情勢じょうせいの安定あんていは、国際こくさい社会しゃかいの安定あんていにとって欠かかせない。歴史れきし的てきに、米国べいこく、中国ちゅうごく、ロシア（旧きゅうソ連それん）は朝鮮半島ちょうせんはんとうをめぐって衝突しょうとつしてきた。韓国かんこくの政治せいじが不安定ふあんてい化かすると北朝鮮きたちょうせんの暴発ぼうはつを抑おさえられなくなるだけでなく、米国べいこくと中国ちゅうごくが直じかに対峙たいじしなければならないという状況じょうきょうが起おきかねない。それは、軍事ぐんじ、政治せいじ、経済けいざい面めんで大国たいこくのエネルギーを消耗しょうもうさせる。韓国かんこくの政治せいじ不安定ふあんていが、極東きょくとう地域ちいきだけでなく国際こくさい社会しゃかい全体ぜんたいの不安定ふあんてい感かんを高たかめるファクターであることは、冷静れいせいに認識にんしきすべきだ。

世界せかいを揺ゆさぶる韓国かんこくの政治せいじ動向どうこう

　今後こんごは、韓国かんこくが政治せいじの改革かいかくを進すすめられるかどうかが重要じゅうようだ。今回こんかいの政治せいじスキャンダルの根底こんていには、韓国かんこくの大統領だいとうりょうの権限けんげんが強つよすぎることがある。そのため、財閥ざいばつ企業きぎょうを中心ちゅうしんに大統領だいとうりょう、その側近そっきんや親族しんぞくに取とり入いり、庇護ひごや経営けいえいに有利ゆうりな条件じょうけんを引ひき出だそうとする考かんがえが生うまれてきた。この結果けっか、財閥ざいばつ企業きぎょうと政権せいけん中枢ちゅうすうの癒着ゆちゃくが続つづき、政治せいじと財閥ざいばつ企業きぎょうの経営けいえいは、持もちつ持もたれつの関係かんけいになった。景気けいきの落おち込こみなどを受うけて内需ないじゅ刺激しげき策さくが打うち出だされることがあっても、多おおくが“バラマキ”に終始しゅうしした。反対はんたいに、中長期ちゅうちょうきの視点してんで構造こうぞう改革かいかくを進すすめ、潜在せんざい成長せいちょう率りつを引ひき上あげる議論ぎろんは進すすんでこなかった。

　こうした政治せいじが続つづいた結果けっか、経済けいざい格差かくさが拡大かくだいした。財閥ざいばつ企業きぎょうの創業そうぎょう者しゃ一族いちぞくなどに富とみが偏在へんざいし、多おおくの国民こくみんは経済けいざい成長せいちょうを実感じっかんできない状況じょうきょうが続つづいてきた。民衆みんしゅうの不満ふまんをそらすために、近年きんねんの韓国かんこく政府せいふは中国ちゅうごくにすり寄より、消費しょうひ需要じゅようを取とり込こもうとした。他方たほう、中国ちゅうごくにとっての韓国かんこくは、北朝鮮きたちょうせんの暴走ぼうそうを抑おさえるためには重要じゅうような存在そんざいだろう。それは、ミサイル防衛ぼうえいシステムをめぐる中国ちゅうごくの対応たいおうを見みれば明あきらかだ。

　そして、韓国かんこくは事ことあるごとに反日はんにち姿勢しせいをとってきた。15年ねん12月、日にち韓かん両国りょうこくは慰安いあん婦ふ問題もんだいに関かんする“最終さいしゅう的てきかつ不ふ可逆かぎゃく的てきな解決かいけつ”に合意ごういした。しかし、次期じき大統領だいとうりょうの座ざを目指めざす有力ゆうりょく候補者こうほしゃらは合意ごういを反故ほごにすべきと主張しゅちょうし、それが支持しじを集あつめている。韓国かんこく社会しゃかい全体ぜんたいが、自国じこくの置おかれた状況じょうきょう、取とり組くむべき課題かだいを冷静れいせいに認識にんしきできているとはいいがたい。

　韓国かんこくは、米国べいこくとの関係かんけいを基礎きそに北朝鮮きたちょうせんへの抑止よくし力りょくを確保かくほし、民主みんしゅ主義しゅぎの基盤きばんを整ととのえる必要ひつようがある。それが、財閥ざいばつ企業きぎょうによる経済けいざいの寡占かせんを是正ぜせいし、公正こうせいな競争きょうそう環境かんきょうを整備せいびすることを可能かのうにするだろう。そのなかでは、わが国くにとの経済けいざい協力きょうりょくも不可欠ふかけつだ。それができないと、韓国かんこくの政治せいじは目先めさきの民衆みんしゅうの不満ふまんを解消かいしょうするために場当ばあたり的てきな政策せいさくを進すすめ、一段いちだんと不安定ふあんていな状況じょうきょうに直面ちょくめんするかもしれない。わが国くにはそうした展開てんかいを見越みこして、米国べいこくを中心ちゅうしんとする安全あんぜん保障ほしょうの強化きょうかを基礎きそに、アジア各国かっこくとの関係かんけい強化きょうかを進すすめていく必要ひつようがある。
（文ぶん＝真壁まかべ昭夫あきお／信州大学しんしゅうだいがく経けい法学部ほうがくぶ教授きょうじゅ）