北村紗衣武蔵大准教授に対してTwitter上で誹謗中傷したとして、2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代考証を担当していた国際日本文化研究センター(日文研)助教の呉座勇一氏が23日、番組から降板した。同日、NHKが発表した。
呉座氏は20日、「ツイッターにおける北村紗衣さんに対する一連の揶揄、誹謗中傷について深く反省し、お詫び申し上げます」などと謝罪していた。しかし、事態は一向に収まる気配がなく、Twitter上ではそれ以降も歴史学者としての資質を問う声があがり続け、呉座氏自らNHK大河からの降板を申し出ることになったようだ。呉座氏が所属する日文研も24日、「個人の表現の自由を逸脱した良識を欠く行為」として謝罪し、同氏に厳重注意したことを発表した。
NHK職員は語る。
「呉座さんは人気の学者ということもあって、大河だけではなく他の番組やコンテンツの監修などにも関わっていたと思います……。Twitter上では、呉座さんの投稿に『いいね』ボタンを押したり、賛同を示す投稿をしたりした研究者、マスコミ関係者にも批判の矛先が向かっています。視聴者から、いろいろなご意見も寄せられているようなので、影響は大河だけでは済まないかもしれません」
ジェンダー的に問題な発言を頻発、伊藤詩織さんらも揶揄?
呉座氏は自らの鍵付きアカウント(フォロワー数約4000人)で、以下のような発言をしていた。文中「さえぼう」は北村氏を指している。
<さえぼうの権利主張こそ「私はこんなにすごい研究者なのに女だから正当に評価されない!」というのが根底にあって、エリートとしての義務を果たそうとしているところを見たことがない>(原文ママ、以下同)
<ぶっちゃけ、さえぼうは「自分は凄いのに(女性だから女性差別の日本社会では?)正当に評価されていない」と言いたいだけだよな。ポスドクが言うならわかるんだが、もう後進を指導していく立場なんだから、社会問題にみせかけた自分語りはそろそろやめたらどうなのか>
また、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏から性的暴行を受けたとして、提訴し損害賠償請求をしたジャーナリストの伊藤詩織さんに関しても言及。「VOGUE JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)の記事『坂本龍一が「いつか推薦したかった人」だと語るのは、ジャーナリストの伊藤詩織。』を共有した上で<いつジャーナリストに?>とコメントした。
また、フォロワーとのやり取りの中で、小説家の川上未映子氏について<ルックスで下駄をはかせてもらっていたのに年を取ったら性的搾取がどうこうい出す川上未映子は小島慶子と同じですね>と投稿していた。
こうした言動を見たフォロワーがスクリーンショットに収め、北村氏に通報したようだ。北村氏は呉座氏の投稿に対して以下のように反応していた。
<呉座勇一さん、私は全く面識がないし著作も読んだことないんですが、鍵アカウントで私にみえないように悪口を言っているというスクショいただきましたー。かわいらしい方ですね>
呉座氏の投稿に賛意を示した出版社代表も謝罪
呉座氏の謝罪に続くような形で、学術系出版社・志学社の平林緑萌代表も以下のように謝罪することとなった。
<このたびの北村さん(@Cristoforou )、そして過去の北守さん(@hokusyu82 )に対する不適切な発言に対し深くお詫びするとともに、その任に留まることが適切でないと判断いたしましたため、中国史史料研究会の顧問を辞任いたします>
<本ツイートにて、北村さんを揶揄し、呉座さんを擁護するようなことを申し述べたことは、明確に誤りでした。改めてここにお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした>
呉座氏に対する北村氏の投稿に、平林氏が次のように発言したことがTwitter上で問題視されたためだという。
<鍵垢のツイートをわざわざスクショしてもらって鬼の首でも取ったように晒したり、あってないような年齢差を強調したり、なんでもジェンダーの問題に回収するようない方もどうかと思うんですが……(なにか見た>
鍵垢付きでもフォロワー4000人なら「講演会での発信と同じ」
Twitter上では、平林氏のように呉座氏の投稿に賛意を示すのはもちろん、差別的な発言をたしなめなかったフォロワーへの批判も続出している。呉座氏の勤務先である日文研への抗議活動をほのめかすような意見も散見される。そうしたネット上の動きに、全国紙文化部の女性記者は次のように話す。
「関連する投稿を呉座氏のフォロワーから見せてもらいましたが、正直、嫌悪感を覚えました。鍵アカウントであったとしても、4000人のフォロワーに向けて発信しているわけですから、講演会で不適切発言をするのと同じだと思います。呉座氏はNHK大河の歴史考証を任される著名な歴史学者ですし、多くの研究者より影響力もあるとは思うので、一定の謝罪は必要だと思います。
つい先日、テレビ朝日系の『報道ステーション』のCMが物議を醸していました。表向きは、ジェンダーフリーを取り繕おうとしている新聞社やテレビ局の女性社員への扱いをはじめ、日本社会にはぬぐい難い偏見がたくさん残っています。
様々な格差を是正することが必要だと強く思います。でも、最近のネット上のこうした攻撃的な議論には少し違和感があります。差別的な言動をする相手を言い負かしたり、発言をした当人だけではなく周囲の人や組織も巻き込んで社会的に葬り去ったりしていくことが、本当に偏見の是正や社会の変革につながるのかという疑問です。
対等の立場で議論をして少しずつ世の中を変えていく方向にできないものなのでしょうか。すべての人に権利意識を持ってもらうことが最上だとは思いますが、『異論はすべて叩き潰す』というやり方は、憎悪や嫌悪感をぶつけ合っているだけで、一向に理解が深っている気がしません。こんなことを言うと『わきまえている女』と言われるのかもしれませんが……」
今回の件が、日本全体でジェンダーのあり方を考える良い契機になればいいのだが。
(文=編集部)