3年ねん以内いないに潰つぶれるカフェの共通きょうつう点てん

「Getty Images」より

「春はるは出会であいと別わかれの季き節ぶし」と言いわれるが、カフェ（喫茶店きっさてん）でも同おなじことがいえる。出会であい（開店かいてん）もあれば、別わかれ（閉店へいてん）もある。もともとカフェは開業かいぎょうも多おおいが閉店へいてんも多おおい“多産たさん多た死し”の業態ぎょうたいだ。業界ぎょうかい関係かんけい者しゃへの取材しゅざいでは「3年ねん続つづく店みせは半数はんすう」とも言いわれる。3年ねん以内いないで閉店へいてんする理由りゆうの大半たいはんは、売うり上あげ不振ふしんだ。

　帝国ていこくデータバンクの調査ちょうさ数字すうじ（全体ぜんたい）を紹介しょうかいすると、2017年ねんの「外食がいしょく関連かんれん業者ぎょうしゃの倒産とうさん件数けんすう」は707件けん（2000年ねん以降いこうで最多さいた件数けんすう）で、喫茶きっさ業ぎょうは66件けんだった。内訳うちわけは関東かんとう（19件けん）・中部ちゅうぶ・近畿きんき（ともに20件けん）が大半たいはんだ。これ以外いがいの小ちいさな店みせの閉店へいてんは数多かずおおいだろう。

　長年ながねん続つづいた繁盛はんじょう店てんでも、やむを得えず閉店へいてんする場合ばあいもある。今回こんかいは事例じれいをもとに、人気にんき店てんを取とり巻まく「閉店へいてん理由りゆう」を考かんがえたい。

ケニヤンの入口いりくち

「紅茶こうちゃのゼリー」

「ビルの老朽ろうきゅう化か」でやむなく閉店へいてん

　3月18日にち、東京とうきょう都と世田谷せたがや区くの「紅茶こうちゃの店みせ ケニヤン」烏山からすやま店てんが閉店へいてんした。閉店へいてん理由りゆうは「ビルの取とり壊こわし」によるものだ。以前いぜんから入居にゅうきょするビルの老朽ろうきゅう化かは進すすみ、取とり壊こわし予定よていとなっていた。昨年さくねんには1階かいで長年ながねん営業えいぎょうした食料しょくりょう品ひん店てんも退去たいきょし、地元じもとでは「ケニヤンもそろそろでは……」とささやかれていた。関係かんけい者しゃによると「代替だいたい地ちを探さがしたが、いい店舗てんぽ物件ぶっけんが見みつからなかった」という。ビルは4月がつから取とり壊こわしとなるようだ。

　東京とうきょう・渋谷しぶやと世田谷せたがやに店みせを持もつケニヤンは、1970年代ねんだい、80年代ねんだいから続つづく人気にんき店てんで、継続けいぞくして営業えいぎょう中ちゅうの渋谷しぶや店てんが1号ごう店てんだ。「日本にっぽん紅茶こうちゃ協会きょうかい」が認定にんていする「おいしい紅茶こうちゃの店みせ」に早はやくから選えらばれていた。昭和しょうわ時代じだいのアイドル歌手かしゅだった柏原かしわばら芳恵よしえさんのヒット曲きょくの歌詞かしにある「紅茶こうちゃのおいしい喫茶店きっさてん」だったのだ。筆者ひっしゃも20年ねん以上いじょう前まえから時々ときどき利用りようした。

　3月3日にちの土曜日どようびの夜よる、烏山からすやま店てんを視察しさつした。閉店へいてんを惜おしむかのように、次々つぎつぎにお客きゃくさんが訪おとずれる。夜よるも座席ざせき予約よやくは受うけ付つけておらず、先着せんちゃく順じゅんの着席ちゃくせきだ。今回こんかいは数カ月すうかげつ前まえの訪問ほうもん時じにはなかった「生なま演奏えんそう」も実施じっしされていた。

ディナータイム時じの生なま演奏えんそう

「飲食いんしょくレベル」が高たかい店みせは長続ながつづきする

「紅茶こうちゃをおいしく飲のんでもらうために『ミルクティー』で訴求そきゅうした」（関係かんけい者しゃ）という同店どうてんの飲食いんしょくレベルは高たかい。今回こんかいは「ケニヤン特製とくせいハンバーグステーキ」と「海辺うみべのドリア」（各かく1200円えん）を注文ちゅうもん。手ての込こんだ味あじで人気にんきだ。夜よるに食事しょくじしても、この値段ねだんで自慢じまんの紅茶こうちゃがつく。

「お客きゃくさんからは『ドリンクまでついていてリーズナブルね』と、よく言いわれます。場所ばしょ柄がら、近隣きんりんにお住すまいの方ほうも多おおく、常連じょうれんさんも目立めだちました。私わたしも親おやに連つれられて子供こども時代じだいから来きていました」（勤務きんむ歴れき3年ねんの女子大じょしだい生せいアルバイト）

近隣きんりんの常連じょうれん客きゃくが支持しじする店みせは強つよい。筆者ひっしゃは時々ときどき、放送ほうそうメディアでも「カフェ」の成なり立たちを解説かいせつするが、「基本きほん性能せいのう」と「付加ふか価値かち」の視点してんで説明せつめいしてきた。

(1)「基本きほん性能せいのう」＝飲食いんしょくの味あじ。場所ばしょの提供ていきょう
(2)「付加ふか価値かち」＝その店みせならではの独自どくじ性せい

(1)はいうまでもないが、(2)の付加ふか価値かちはさまざまだ。自家じか焙あぶ煎せんじ珈琲こーひー店てんであれば「高こう品質ひんしつのコーヒーの味あじにこだわる」ことだろう。付加ふか価値かちに独自どくじ性せいを持もたせる店みせも多おおく、たとえば、愛犬あいけんと一緒いっしょに行いくことができる店みせは「ドッグカフェ」となる。店内てんないでスポーツ中継ちゅうけいが楽たのしめれば「スポーツカフェ」、メイド姿すがたの女性じょせいが接客せっきゃくする店みせは「メイドカフェ」となる。日本にっぽん国内こくないのカフェは、付加ふか価値かちが非常ひじょうに幅広はばひろいことが特徴とくちょうといえる。

　ただし、付加ふか価値かちだけでは一過いっか性せいの話題わだいで終おわってしまう。以前いぜん、軽井沢かるいざわで人気にんきを呼よんだドッグカフェを取材しゅざいしたが、フードの味あじがイマイチだった。現在げんざいは存在そんざいしない。カフェは、基本きほん性能せいのう（＝飲食いんしょくの味あじ）がよくないと長続ながつづきしないのだ。

ケニヤンの「特製とくせいハンバーグ」

「海辺うみべのドリア」

「店主てんしゅ」も「常連じょうれん客きゃく」も歳としをとる

　長年ながねん続つづいた店みせの閉店へいてん理由りゆうで多おおいのは、店主てんしゅと常連じょうれん客きゃくの高齢こうれい化かだ。たとえば、35歳さいで店みせを開業かいぎょうして30年ねん続つづけば、店主てんしゅは65歳さいになる。仮かりにその店みせの常連じょうれん客きゃくが40歳さいだったとすると70歳さいになる。現役げんえき時代じだいは頻繁ひんぱんに通かよっても、退職たいしょくして年金ねんきん生活せいかつになると、自宅じたく近ちかくにある店みせでも次第しだいに足あしが遠とおのく例れいがほとんどだ。筆者ひっしゃの事務所じむしょ近ちかくに古ふるくからある喫茶店きっさてんは、週しゅうに2～3回かいしか店みせを開あけず、月つきごとに開店かいてんする日ひが変かわる。

　ケニヤン烏山からすやま店てんは創業そうぎょう者しゃの子息しそくが店長てんちょうを務つとめていたので当あてはまらないが、後継こうけい者しゃ難なんで閉店へいてんする店みせも多おおい。以前いぜんの取材しゅざいでは「昔むかしに比くらべて、喫茶店きっさてんは儲もうかる業種ぎょうしゅでなくなったので、自分じぶんの子供こどもにも『跡あとを継ついでくれ』と勧すすめられない」という話はなしも聞きいてきた。店主てんしゅの高齢こうれい化かで「もう身体しんたいの無理むりが利きかない」と、2店てんあった店みせを1店てんにした例れいもある。

　もちろん、経営けいえい状態じょうたいは店みせごとに異ことなるが、大都市だいとしで賃貸ちんたい物件ぶっけんに入はいっていると、家賃やちんの値上ねあがりもあり、2年ねんごとの更新こうしんを機きに閉店へいてんする例れいも目立めだつ。ビルの建たて替かえなどで退去たいきょして別べつのビルに入居にゅうきょしても、引ひっ越こし代だいや改装かいそう費ひなど移転いてんにかかる諸しょ費用ひようの負担ふたんも増ます。近年きんねん、意欲いよく的てきな若手わかて店主てんしゅが手てがける店みせは、売うり上あげ拡大かくだいのためにインターネットでコーヒー豆まめを売うるところも多おおい。こうした事業じぎょうが軌道きどうに乗のれば、「店みせ売うり＋通販つうはん」で売うり上あげ拡大かくだいとなる。

時代じだいの趨勢すうせい「全面ぜんめん禁煙きんえん」をどう考かんがえるか

　2020年ねん開催かいさいの東京とうきょう五輪ごりんに向むけて、「飲食いんしょく店てんの禁煙きんえん問題もんだい」がクローズアップされている。欧米おうべいに比くらべて日本にっぽんの対策たいさくが遅おくれているのは事実じじつだが、仮かりにすべての店みせを「全面ぜんめん禁煙きんえん」にすると、中高年ちゅうこうねんの喫煙きつえん客きゃくで支ささえられた個人こじん店てんは立たち行ゆかなくなり、閉店へいてん理由りゆうになるだろう。

　筆者ひっしゃはかつて「カフェと喫煙きつえん」を調しらべたこともある。この話はなしも紹介しょうかいしつつ考かんがえたい。

　業界ぎょうかい団体だんたいである全日本ぜんにほんコーヒー協会きょうかいの調査ちょうさ（2006年ねん10月がつ）によれば、お客きゃくが喫茶店きっさてん（カフェ）に行いく理由りゆうは「ホッとできること」「ゆっくりと時間じかんを過すごせること」「心しんが和なごむ・くつろげること」だという。そのための条件じょうけんを下表かひょうに掲かかげた。「コーヒーがおいしい」が圧倒的あっとうてきに高たかいが、「タバコを吸すえる」という理由りゆうもなかなか高たかく、男性だんせいでは「食たべ物ものがおいしい」を上回うわまわっていた。ちなみにこれ以降いこう、同どう調査ちょうさは実施じっしされていない。

■喫茶店きっさてん（カフェ）に対たいして求もとめる条件じょうけん　※理由りゆう　男性だんせい・女性じょせい（％）
コーヒーがおいしい　68.8・63.6
気楽きらくに行いける、入はいりやすい　34.4・29.2
居心地いごこちがよい　24.8・24.0
立たち寄よるのに便利べんりな場所ばしょ　25.2・21.6
リラックスできる、落おち着つける　21.2・23.2
食たべ物ものがおいしい　14.0・19.2
タバコを吸すえる　16.8・7.2
※資料しりょう出所しゅっしょ：全日本ぜんにほんコーヒー協会きょうかい。18歳さい～69歳さいの500名めい（男女だんじょ各かく250名めい）に行いった調査ちょうさ

　前述ぜんじゅつしたように、12年ねん前まえの調査ちょうさだ。現在げんざい同おなじ調査ちょうさをすれば、「タバコを吸すえる」を選えらぶ人ひとはどれぐらいになるのだろうか。

10年ねん前まえのコメダには「吸煙きゅうえん機き」があった

　こちらは10年ねん前まえに取材しゅざいしたコメダの記事きじだ（出所しゅっしょ『日本にっぽんカフェ興亡こうぼう記き』＜日本経済新聞にほんけいざいしんぶん出版しゅっぱん社しゃ／高井たかい尚之なおゆき＞）。

　名古屋なごやに本拠地ほんきょちを置おく巨きょ大だいチェーンのコメダ珈琲こーひー店てん葵あおい店てんでは、各かくテーブルにちょっと不思議ふしぎなものが置おかれている。「吸煙きゅうえん機き」である。

　一見いっけんすると、焼肉やきにく店てんの無煙むえんロースターを小ちいさくしたような機器きき。喫煙きつえんする客きゃくの煙けむりを吸すい取とり、循環じゅんかんさせて空気くうきを清浄せいじょうする装置そうちだ。取材しゅざい関係かんけい者しゃが喫煙きつえんして試ためしてみたが、他人たにんの紫煙しえんが気きにならない程度ていどには吸煙きゅうえんしていた。

「分煙ぶんえん席せきを設もうけるなど、いろいろな方法ほうほうを考かんがえたが、どうしても座席ざせきの広ひろさが犠牲ぎせいになり、店みせで過すごす快適かいてき性せいが損そこなわれてしまう。そこで設備せつびが動うごかせない既存きそん店てんでは、この機械きかいを取とり入いれた」と同社どうしゃの北川きたがわ直樹なおき氏しは説明せつめいする。

　店内てんないにはタバコの自動じどう販売はんばい機きも設置せっちしてある。「銘柄めいがらの好このみはあるが、お客きゃくさまがタバコを買かうために、わざわざ外そとに出でなくてすむようにしている。自販機じはんきは全ぜん店舗てんぽの9割わりに置おいてある」（同どう）

　そんなコメダも､2017年ねんに横浜よこはま市しで開業かいぎょうした姉妹しまい店てん「おかげ庵あん」は全席ぜんせき禁煙きんえんとなった。

　ビジネス環境かんきょうの変化へんかで従来じゅうらいの手法しゅほうが立たち行ゆかなくなるのは、どの業種ぎょうしゅでもある。今回こんかい紹介しょうかいした例れいは、「時代じだいの推移すいい」（ビルの老朽ろうきゅう化か／高齢こうれい化か／消費しょうひ者しゃ意識いしきの変化へんか）だ。昔むかしも今いまも「カフェ開業かいぎょう」を志こころざす人ひとは多おおいが、本気ほんきで事業じぎょうを行おこなうのなら中長期ちゅうちょうき的てきな経営けいえい視点してんが欠かかせない。
（文ぶん＝高井たかい尚之なおゆき／経済けいざいジャーナリスト・経営けいえいコンサルタント）