KADOKAWAは情報じょうほう漏洩ろうえい回避かいひのために身代金みのしろきんの要求ようきゅうに応おうじるべきだったのか？

　サイバー攻撃こうげきを受うけて情報じょうほう漏洩ろうえい（ろうえい）が発生はっせいしているKADOKAWA。攻撃こうげきを仕掛しかけるハッカー集団しゅうだんは、同社どうしゃと行おこなっている身代金みのしろきんに関かんする交渉こうしょうで合意ごういに至いたらなければ、ダウンロードした同社どうしゃの情報じょうほうを公開こうかいするとしていたが、7月がつ1日にちに情報じょうほう漏洩ろうえいが確認かくにんされたため、同社どうしゃは身代金みのしろきんに関かんする要求ようきゅうに応おうじなかったとみられている。一連いちれんの事態じたいを受うけ、身代金みのしろきんの要求ようきゅうに応おうじるべきだったのか否ひかをめぐり議論ぎろんを呼よんでいる。また、ニュースサイト「NewsPicks」がKADOKAWAとハッカー集団しゅうだんの身代金みのしろきんをめぐる交渉こうしょうの詳細しょうさいを報ほうじたことが同社どうしゃの判断はんだんに影響えいきょうを与あたえた可能かのう性せいも指摘してきされている。今回こんかいの情報じょうほう漏洩ろうえいによって同社どうしゃおよびユーザ、取引とりひき関係かんけい者しゃなどがどのような被害ひがいを受うける可能かのう性せいがあるのかも含ふくめ、専門せんもん家かの見解けんかいを交まじえて追おってみたい。

　KADOKAWAに対たいしてランサムウェアを含ふくむサイバー攻撃こうげきを行おこなったとする犯行はんこう声明せいめいを出だしていた「BlackSuit」は、同社どうしゃのネットワークを暗号あんごう化かし、従業じゅうぎょう員いんやユーザの情報じょうほうなどを入手にゅうしゅしており、同社どうしゃが身代金みのしろきんの支払しはらいに応おうじなければ7月がつ1日にちにも盗ぬすんだデータを公開こうかいすると主張しゅちょうしていた。同日どうじつには従業じゅうぎょう員いんの個人こじん情報じょうほうや取引とりひき先さき情報じょうほうなどの漏洩ろうえいが確認かくにんされ、2日にちには同社どうしゃはハッカー集団しゅうだんが追加ついかで情報じょうほうを流出りゅうしゅつさせたと主張しゅちょうしていると発表はっぴょうした。同社どうしゃが現時点げんじてん（7月がつ3日にち）で外部がいぶ流出りゅうしゅつしている可能かのう性せいが高たかいとしている情報じょうほうは以下いかのとおり。

・社外しゃがい情報じょうほう
　　学校がっこう法人ほうじんの角川かどかわドワンゴ学園がくえんが運営うんえいするN中等ちゅうとう部ぶ・N高等こうとう学校がっこう・S高等こうとう学校がっこうの在校生ざいこうせい・卒業生そつぎょうせい・保護ほご者しゃのうち、一部いちぶの方々かたがたの個人こじん情報じょうほう
　　ドワンゴが取引とりひきする一部いちぶのクリエイター、個人こじん事業主じぎょうぬしおよび法人ほうじんとの契約けいやく書しょ
　　ドワンゴの楽曲がっきょく収益しゅうえき化かサービス（NRC）を利用りようしている一部いちぶのクリエイターの個人こじん情報じょうほう
　　ドワンゴの一部いちぶの元もと従業じゅうぎょう員いんが運営うんえいする会社かいしゃの情報じょうほう

・社内しゃない情報じょうほう
　　ドワンゴ全ぜん従業じゅうぎょう員いんの個人こじん情報じょうほう（契約けいやく社員しゃいん、派遣はけん社員しゃいん、アルバイト、一部いちぶの退職たいしょく者しゃ含ふくむ）
　　ドワンゴの関係かんけい会社かいしゃの一部いちぶ従業じゅうぎょう員いんの個人こじん情報じょうほう
　　ドワンゴの法務ほうむ関連かんれんを始はじめとした社内しゃない文書ぶんしょ

　このほか、取引とりひき先さきとの契約けいやく書しょ・見積みつもり書しょ、社内しゃない向むけ文書ぶんしょなども流出りゅうしゅつしたとみられる。

必かならずしも「身代金みのしろきんを支払しはらってはいけない」とはいえない

　コンピューターセキュリティインシデントに対応たいおうする情報じょうほう提供ていきょう機関きかんであるJPCERT/CCは、国際こくさい的てきな基準きじゅんとしてはハッカー集団しゅうだんに対たいして身代金みのしろきんを支払しはらうべきではなく、交渉こうしょうもすべきではないとしている。中堅ちゅうけんIT企業きぎょう役員やくいんはいう。

「事態じたいが進行しんこう中ちゅうなので、現げん段階だんかいでは身代金みのしろきんの要求ようきゅうに応おうじて情報じょうほう漏洩ろうえいを防ふせぐべきだったのか、もしくは要求ようきゅうを拒否きょひしたのが正ただしかったのかは判断はんだんできません。情報じょうほうの漏洩ろうえいによってKADOKAWAやユーザ、取引とりひき関係かんけい者しゃらがどのような損害そんがいをどのレベルで被こうむるのか、もしくは損害そんがいが限定げんてい的てきなものにとどまるのかによるでしょうし、KADOKAWAに対たいして法的ほうてきに損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめる動うごきが出でるのかどうか、損賠そんばい賠償ばいしょうが認みとめられるのかにもよるでしょう。

　もし情報じょうほうを流出りゅうしゅつさせられた場合ばあいに自社じしゃおよびユーザ、取引とりひき先さきが被こうむる被害ひがい・経済けいざい的てき損失そんしつが、身代金みのしろきんの金額きんがくよりも高たかいと考かんがえられれば、つまり身代金みのしろきんの要求ようきゅうに応おうじたほうが損失そんしつが小ちいさいと考かんがえられれば、応おうじるという経営けいえい判断はんだんは合理ごうり的てきです。必かならずしも『身代金みのしろきんを支払しはらってはいけない』とはいえないでしょう。経営けいえい陣じんとしてはギリギリの状況じょうきょうで難むずかしい判断はんだんを下くだし、のちに株主かぶぬしをはじめとするステークホルダーからの評価ひょうかによっては最終さいしゅう的てきには辞任じにんするかたちで責任せきにんを取とる可能かのう性せいもあり、その覚悟かくごのもとで判断はんだんをするわけなので、外部がいぶがどうこう言いう話はなしではないでしょう」

NewsPicks報道ほうどうの影響えいきょう

　KADOKAWAが対応たいおうに追おわれるなか、6月22日にちにはニュースサイト「NewsPicks」が『【極秘ごくひ文書ぶんしょ】ハッカーが要求ようきゅうする「身代金みのしろきん」の全容ぜんよう』と題だいする記事きじを配信はいしんし、同社どうしゃとハッカー集団しゅうだんの交渉こうしょう内容ないようを報道ほうどう。これを受うけ、KADOKAWAは強つよく抗議こうぎする声明せいめいを発表はっぴょう。夏野なつの剛つよし社長しゃちょうは以下いかのようにコメントした。

「このような記事きじをこのタイミングで出だすことは、犯罪はんざい者しゃを利りするような、かつ今後こんごの社会しゃかい全体ぜんたいへのサイバー攻撃こうげきを助長じょちょうさせかねない行為こういです。Newspicksに強つよく抗議こうぎをするとともに、損害そんがい賠償ばいしょうを含ふくめた法的ほうてき措置そちの検討けんとうを進すすめてまいります。なお、本ほん記事きじについてコメントすることはございません」

　KADOKAWAの対応たいおうをより難むずかしくするとして、NewsPicksには批判ひはんも寄よせられた。

「もし仮かりに、KADOKAWAは身代金みのしろきんの要求ようきゅうに応おうじたほうが自社じしゃやユーザ含ふくめた全体ぜんたいでの損害そんがいが小ちいさくなると考かんがえ、要求ようきゅうに応おうじようとしていたのに、NewsPicksの報道ほうどうによって世論せろんを意識いしきして身代金みのしろきんを支払しはらうことができず、多おおくの重要じゅうよう情報じょうほうが流出りゅうしゅつさせられる結果けっかにつながったのだとすれば、報道ほうどうの影響えいきょうがあったということになります。犯罪はんざいの被害ひがい者しゃであり、当事とうじ者しゃとして対応たいおうに当あたっている同社どうしゃの立場たちばをよりいっそう苦くるしくし、その判断はんだんに影響えいきょうを与あたえるような報道ほうどうを正当せいとう化かすることは難むずかしいと考かんがえられます」

一部いちぶサービスは再開さいかい

　同社どうしゃでは6月がつ8日にち以降いこう、動画どうが共有きょうゆうサービス「ニコニコ動画どうが」、KADOKAWAのオフィシャルサイト全体ぜんたい、ECサイト「エビテン（ebten）」に加くわえ「N高等こうとう学校がっこう（N高だか）」「S高等こうとう学校がっこう（S高だか）」など広ひろい範囲はんいで障害しょうがいが発生はっせい。同社どうしゃの出版しゅっぱん物ぶつについて書店しょてんからサイト経由けいゆでの発注はっちゅうや出庫しゅっこ確認かくにんができなくなった。「ニコニコ動画どうが（Re:仮かり）」「ニコニコ生放送なまほうそう（Re:仮かり）」「ニコニコ漫画まんが」など、臨時りんじサービスも含ふくめて一部いちぶサービスが再開さいかいしている。

　同社どうしゃは「当該とうがい組織そしき（編へん注ちゅう：＝「BlackSuit」）が主張しゅちょうするウェブサイトへのアクセスやデータファイルのダウンロードなどの行為こういは、マルウェア感染かんせんなどの危険きけんがありますので、ご注意ちゅういいただきたく存ぞんじます。また、上述じょうじゅつの通とおり当該とうがい組織そしきの主張しゅちょう内容ないようにつきましては現在げんざい調査ちょうさ中ちゅうですが、上記じょうきのデータの拡散かくさんは個人こじん情報じょうほうを侵害しんがいし深刻しんこくな影響えいきょうを及およぼす可能かのう性せいがあるため、SNS等とうによる共有きょうゆうはお控ひかえくださいますよう、皆様みなさまのご理解りかいとご協力きょうりょくを心しんよりお願ねがい申もうし上あげます」とのコメントを発表はっぴょうしている。また、7月がつ中ちゅうには外部がいぶ専門せんもん機関きかんの調査ちょうさ結果けっかに基もとづく正確せいかくな情報じょうほうが得えられる見通みとおしだとしている。

（文ぶん＝Business Journal編集へんしゅう部ぶ）