確実に調子悪いわ〜って。(「Thinkstock」より)
生化学分野に精通し、サイエンス・コミュニケーターとしても活動するほか、教育機関で教鞭も執っているへるどくたークラレ氏が、薬局で買える医薬品や健康・栄養食品を分析! 配合成分に照らし合わせて、大げさに喧伝されている薬や、本当に使えるものをピックアップする。
頭痛薬や痛み止め……ちゃんと選べてますか?
ワタシがTwitterやFacebookでリクエストをとったところ、頭痛薬や痛み止めについての話が多くあったので、今回ここで取り上げてみる次第。時期的にも日照量が急激に増えて、体のバランスを崩して頭痛を起こす人が多い時期です。そんなわけで、薬局に売られている「内服用痛み止め」について見ていきましょう。
医薬(※医薬用医薬品。名前の通り、医師による処方箋がなければ販売できないクスリのこと)用語だと、これらのクスリを“解熱鎮痛薬”と呼ばれ、やれアントラニル酸系だの、アリール 酢酸系だの、プロピオン酸系だの用法と種類も多彩で、医療従事者の頭を悩ます薬品群です。それが、薬局で買えるクスリに限定すると、なんと、わずか数種類の成分しかないため、医薬に詳しくない人でも覚えきれるのです。
多くの人が「なんとなく」選んでいる内服用痛み止めについて、パッケージだけで漠然と選ばず、成分を今一度見直して、自分で選べる・賢い買い物をしましょう。
●有効成分はわずか数種類。見るべきはクスリの成分欄
薬局にいくと山のように内服用痛み止めが売られていますが、先述のとおり、薬局で買える内服用痛み止めの有効成分は、非常に数が少ないので、成分自体をひとつずつ紹介していきましょう。
・アスピリン(アセチルサリチル酸)
その成分の半分が、やさしさとぼったくりでできていると有名な頭痛薬の主成分。アスピリンというのは、もともとは商標登録であり、本来の名前はアセチルサリチル酸というもの。クスリによっては成分表示名がアスピリンであったり、アセチルサリチル酸であったりするのだが、実際には同一成分です。
クスリとしては100年以上の歴史があるもので、完全合成された初めての医薬品として知られています。
アスピリンは、あの「バファリン」(LION)でさえ胃への負担がゼロではなく、胃の弱い人は注意が必要です。アスピリンという名前ですが、ほかの「〜ピリン」というクスリとは違ってピリン系ではないので、ピリンアレルギーの人でも使うことができます。鎮痛効果は“並”というところでしょうか。
ただ、15歳以下の人はライ症候群などの強い副作用を起こす危険性があるため、飲まないほうがよいとされており、お子さんがいる場合は、うっかり飲まないように薬箱に置いておかないほうがいいかもしれません。
・アセトアミノフェン
鎮痛作用も解熱作用も高く、さらに副作用もまずないと、良いことずくめなので、十数年前から、アスピリンを押しのけて、「解熱鎮痛成分といえばコレ!」という定番の位置にあるクスリが、このアセトアミノフェン。注意が必要なのは飲みすぎ。胃に負担がないからといってガンガン飲んでしまうと、肝臓が代謝できる限界を超えたとたん、急激に毒性を持つので、説明書に書かれた分量以上飲まないようにしないといけません。また総合風邪薬にも多く含まれているので、頭痛薬に風邪薬を飲んで……というだけで許容量を超えてしまうこともあるので注意です。さらに、酒によって毒作用が出る危険性が上がるので、酒との併用も原則やめておいたほうがいいですね。
とはいえ、それ以外は安全だし、アスピリンよりも効果が高いという人が多いのです(作用機構が少し違うので、併せて飲むと効果が高まることもあります)。
・イソプロピルアンチピリン
ピリン系の内服用痛み止め。一度でも風邪薬を飲んでじんましんや紅斑が現れたことがある人は飲めませんが、それ以外の人には効果の高いクスリ。イソプロピルアンチピリンが好まれるのは、かつて多く使われていたほかのピリン系の薬剤に比べ、仮にアレルギーを起こしても、その作用が激化しにくいという配慮から、最近はピリン系といえばこの成分になっています。薬局薬である内服用痛み止めの成分の中では、ロキソプロフェンに次いで強くて効果も高いです。塩野義製薬の「セデス・ハイ」が人気なのは、この成分に加えてアセトアミノフェンがさらに入っているため、鎮痛効果がかなり高いから。あまり知られていませんが「セミドン顆粒」(全薬工業)というのもあり、セデス・ハイよりさらに鎮痛成分が多く配合されています。
・イブプロフェン
エスエス製薬の「イブ」が代表的な製品で、アスピリンより強い鎮痛効果を持ちます。ただし、胃への負担も同様に強いので、きちんと説明書の通り、食後に服用するなどの注意が必要です。
また、ごくまれに湿疹やかゆみ、めまい、ぜんそくなどの呼吸症状の副作用を起こすことが知られています。ぜんそく持ちやぜんそく家系の人で呼吸器が弱い人は、避けたほうがいいかもしれません。
・エテンザミド
アスピリンの効果はそのままに、胃への負担を下げることを念頭に開発された薬。こちらはライ症候群の危険性はないため、アスピリンに近いとはいえ、15歳以下でも服用しても大丈夫です。アラクスの「ノーシン」シリーズのACE処方(アセトアミノフェン・カフェイン・エテンザミド)のように、単品ではなく合わせ成分として使われていることが多いです。それ以外の効果はアスピリンに準じます。
・ロキソプロフェンナトリウム
2011年から薬局売りされるようになった新顔で、“市販薬最強”の成分を持っています。
系統的にはイブプロフェンの上位版であり、現在薬局で買える痛み止めの中ではぶっちぎって最強の効力を持ちます。その効果は、親知らずを抜いた後に歯科医院で処方されることからも、高い鎮痛効果があることが分かるでしょう。当然、ほかの成分とはその取り扱いも別格で、薬剤師が不在だと購入ができない第1類医薬品として販売されています。
しかしその強い効果の半面、胃粘膜を荒らす副作用も強いので、エーザイの「セルベール」などの胃粘膜を保護する成分の薬と併用したほうがいいもの。購入時に、薬剤師に相談してください。また、ガスターなどのH2ブロッカーとの相性は、場合によってはよくないこともあるので、原則として併用は避けましょう。
ほかの薬にも言えることですが、飲み合わせに問題が出ることもあるので、病院に行った際、必ずその時どんな薬を飲んでいるかを報告することが大切です。
●市販薬はほぼ効果のない「偏頭痛」に注意
さて、痛みを止めるためにクスリを飲んでも、まったく効かない……・そんな経験はないでしょうか? 人によっては、自分の頭痛はクスリを飲んでも、ほとんどよくならない、と思っている人もいるでしょう。
そんな頭痛は、もしかすると偏頭痛かもしれません。困ったことに偏頭痛に効果のある薬局薬は皆無です。内服用痛み止めであるイソプロピルアンチピリンやアスピリン、アセトアミノフェンなどは、効果がゼロではない程度で、効いても誤差の範囲です。
偏頭痛は、血管拡張性頭痛と言われており診断が難しいのですが、多くの場合、痛みが頭の左右どちらかに偏っている(もしくは左右差が顕著)、騒音やまぶしい光によって悪化することが多いのが特徴です。運動した後に頭痛がするという人もおり、そういったものは「体質かな?」と、あきらめてしまう人も多く、実際に病院で専用のクスリ(トリプタン製剤など)をもらっている人は少ないのが現状です。
とはいえ、ある程度原因も治療薬もしっかり確立された症状なので、専門医の診断を受け、よく効く薬を処方してもらうのが得策です。
専門医は、日本頭痛学会(http://www.jhsnet.org/index.html)というのがあるので、そこの認定医を検索して、最寄りの病院を探すとよいでしょう。いろいろあきらめていた人でも、偏頭痛治療薬で人生が変わる人もいるので、痛みにくじけず専門医に診てもらいましょう。
●生理痛の正体
最後に生理痛です。生理痛の特効薬が、実は薬局でひっそりと売られています。その成分はブチルスコポラミン。生理痛は神経の圧迫などによるものではなく、内臓が収縮することによって起きる内臓痛です。
内臓の多くには痛神経がないため、内臓の異常な収縮を体が感知すると、脳に信号を送り、そこで初めて「痛い」と認識される痛みです。食べてすぐ走ったときに感じる脇腹の痛みなんかも内臓痛、腹痛の大半はこの内臓痛なわけです。
これらの痛みには、先ほど紹介した痛み止めはあまり効果がなく、内臓痛のクスリを使うと、てきめんに効果を表すのです。
生理痛専用薬としては、11年に興和から「エルペイン」が発売されていますが、第1類医薬品なので薬剤師がいなければ購入できません。急な生理痛のときに薬剤師不在で購入できない……なんてこともままあります。ブチルスコポラミンは、エルペインにも含まれていますが、もともと「ブスコパン」(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社)として売られており、第2類医薬品なので、これなら薬剤師が不在でも購入できます。
エルペインの正体は、イブプロフェンとブチルスコポラミンの合わせ剤なだけなので、ブスコパンとイブブロフェン鎮痛剤で代用ができるというわけです。
単品でも、生理痛の原因である子宮の収縮やらを抑えてくれるので、痛みは相当軽減されます。
意外なほどこの生理痛薬は認知されていないのですが、知っているといないのでは断然違うので、是非、痛みに苦しむ前に飲んでみてはいかがでしょうか?
ただし、緑内障の人がこれらのクスリを服用することは禁忌。もちろん、どんなクスリも飲む前に持病や体質に合うかどうか、説明書をよく読みましょう。
生理痛はあまりにひどい場合、産婦人科でピルなどを処方してもらうことで、止めることができます。月経前症候群として、保険の適用も可能です。
理不尽な痛みは、何かの異常のシグナルかもしれないので、女性は2年に1回は諸々検査を受けた方がいいですし、その時に相談してみると案外アッサリ解決することも。
餅は餅屋ってことで……この記事が定期検診を受けるきっかけになれば幸いです。
【尚、本記事は、サイエンス・ライターがつづる化学コラムです。報道の見地から行っているものであり、再現性やその内容を保証するものではありません。一切の責任を編集部及び著者は負いかねます。また薬を服用する際は、医師や薬剤師にご相談ください。】