第だい一いち三共さんきょう・研究けんきゅう員いんの妻つまが中毒ちゅうどく死しで再さい注目ちゅうもく…意外いがいと身近みぢかにある猛毒もうどくメタノールの危険きけん性せい

　製薬せいやく大手おおて「第だい一いち三共さんきょう」（東京とうきょう都と中央ちゅうおう区く）の研究けんきゅう員いんが、妻つまを殺害さつがいした疑うたがいで逮捕たいほされるというショッキングなニュースが世間せけんを賑にぎわせている。

　殺人さつじん容疑ようぎで逮捕たいほされた吉田よしだ佳けい右みぎ容疑ようぎ者しゃ（40）は北海道大ほっかいどうだい大学院だいがくいんを修了しゅうりょう後ご、2007年ねんに第だい一いち三共さんきょうに研究けんきゅう員いんとして入社にゅうしゃという華々はなばなしい経歴けいれきを持もつ。急性きゅうせいメタノール中毒ちゅうどくで死亡しぼうした妻つま・容子ようこさん（当時とうじ40歳さい）も京都大きょうとだい大学院だいがくいん修了しゅうりょう後ご、同社どうしゃに入社にゅうしゃ。そこで吉田よしだ容疑ようぎ者しゃと出会であい、結婚けっこん、退職たいしょくしていた。

　容子ようこさんは化学かがく薬品やくひんに関かんしての知識ちしきが十分じゅうぶんにあり、メタノールを誤あやま飲いんする可能かのう性せいは低ひくいと警察けいさつは判断はんだんし、吉田よしだ容疑ようぎ者しゃの逮捕たいほに至いたった。逮捕たいほ後ご、吉田よしだ容疑ようぎ者しゃは容疑ようぎを否認ひにんしている。状況じょうきょうからみて、化学かがく薬品やくひんに詳くわしい吉田よしだ容疑ようぎ者しゃが、メタノールをなんらかの方法ほうほうで容子ようこさんに飲のませ殺害さつがいした可能かのう性せいが濃厚のうこうと判断はんだんされているようだ。

　メタノールによって人ひとを殺害さつがいすることは可能かのうなのか。薬物やくぶつ中毒ちゅうどくに詳くわしい竹内たけうち内科ないか小児科しょうにか医院いいん院長いんちょう、五ご藤ふじ良りょう将はた医師いしに話はなしを聞きいた。

「メタノールとエタノールは、両方りょうほうともアルコールに属ぞくしています。その響ひびきも似にているため、一般いっぱんの方ほうは混同こんどうしやすいかもしれませんが、その性質せいしつや使用しよう目的もくてきは大おおきく異ことなります。メタノールは工業こうぎょう用ようや燃料ねんりょう用ようとして使用しようされますが、非常ひじょうに毒性どくせいが強つよくヒトの消毒しょうどくに使用しようすることはできません。メタノール原げん体からだは劇げき物ぶつに指定していされています。しかし、メタノールを含ふくむ製剤せいざいは劇げき物ぶつに指定していされていないため、今回こんかいのような事件じけんに使つかわれてしまう可能かのう性せいもあると思おもいます」

　五ご藤ふじ医師いしが解説かいせつするように、化学かがく式しきで示しめすとエタノール(エチルアルコール)はC₂H₅OH、メタノール(メチルアルコール)はCH₃OHで、構造こうぞうが異ことなることが一目いちもくでわかる。過去かこにもメタノールの誤あやま飲いんによる事故じこは起おきており、化学かがくや医療いりょうに知識ちしきがある人ひとであればメタノールが危険きけんなものであることは熟知じゅくちしている。

「医学いがくや薬学やくがくに関かかわる人ひとであれば、メタノールの危険きけん性せいを知しらない人ひとはいないと思おもいます。また、アメリカで禁酒きんしゅ法ほうによってアルコールの製造せいぞう、販売はんばい、輸送ゆそうが全面ぜんめん的てきに禁止きんしされていた1920年代ねんだいには、メタノールを含ふくむ工業こうぎょう用ようアルコールを蒸留じょうりゅうしてエタノールのみを取とり出だし、闇取引やみとりひきが行おこなわれていたといわれ、その際さい、十分じゅうぶんに蒸留じょうりゅうせずにメタノールの残のこったアルコールが流通りゅうつうし、多おおくの人ひとが命いのちを落おとしたことは有名ゆうめいな話はなしです」

メタノール中毒ちゅうどくとは

「メタノール中毒ちゅうどくとは、言葉ことばのとおり、メタノールを摂取せっしゅすることによって起おきる中毒ちゅうどく症状しょうじょうです。メタノールは別名べつめい「目め散ちるアルコール」と表現ひょうげんされ、摂取せっしゅすると目めがチカチカするような症状しょうじょうが起おこります。メタノールを摂取せっしゅ後ご、早はやい段階だんかいで酩酊めいてい状態じょうたいとなり、その後ご、メタノールが体からだの中なかで代謝たいしゃされることによって生しょうじる『ギ酸ぎさん』が蓄積ちくせきするため、頭痛ずつう，嘔気，嘔吐おうと，腹痛はらいた、視覚しかく障害しょうがいなどが起おきます。さらに、ギ酸ぎさんが蓄積ちくせきすれば、代謝たいしゃ性せいアシドーシス，過か呼吸こきゅう，昏睡こんすい，痙攣けいれんと症状しょうじょうが進すすみ、死しに至いたります」

　メタノールの致死ちし量りょうは、口くちから摂取せっしゅした場合ばあいは30～100mLといわれるが、それより少すくない量りょうでも死しに至いたる場合ばあいがあるという。

「メタノールは消化しょうか管かんからの吸収きゅうしゅうが非常ひじょうに早はやく、摂取せっしゅ後ご、少すくなくとも1時間じかん以内いないには、胃い洗浄せんじょうなどの解毒げどく処置しょちを行おこなうことが望のぞましいと思おもいます」

　メタノールは、ドラッグストアなどでも販売はんばいされる燃料ねんりょう用ようアルコールに含ふくまれ、エタノールを含ふくむ消毒しょうどく用ようアルコールと同どう棚たなで販売はんばいされているため、意外いがいと危険きけん性せいが一般いっぱんに広ひろく知しられてはいないのだろう。コロナ禍かで消毒しょうどく用ようアルコールが品薄しなうすになった際さい、燃料ねんりょう用ようアルコールを購入こうにゅうする人ひとがいたため、厚生こうせい労働ろうどう省しょうでも注意ちゅうい喚起かんきしている。

　また、コロナ禍かに消毒しょうどく用ようアルコールを幼児ようじが誤あやま飲のまし、急性きゅうせいアルコール中毒ちゅうどくになったという事例じれいもあった。万まんが一いち、燃料ねんりょう用ようアルコールを消毒しょうどく用ように使用しようしていたら、想定そうてい外がいの誤あやま飲いん事故じこが起おきる可能かのう性せいもある。消毒しょうどく用ようアルコールとの取とり違ちがいには十分じゅうぶんに注意ちゅういしてほしい。

　吉田よしだ容疑ようぎ者しゃの事件じけんを模倣もほうしてメタノールが悪用あくようされることがないように、厚生こうせい労働省ろうどうしょうはメタノール含有がんゆう製剤せいざいの取とり扱あつかいについて、なんらかの規制きせいを設もうけるべきかもしれない。

（文ぶん＝吉澤よしざわ恵理えり／薬剤師やくざいし、医療いりょうジャーナリスト）