画像や動画を無制限で保存できることから、大きな人気を集めていた「Googleフォト」。しかし、「無制限保存が2021年の6月に廃止されること」がアナウンスされ、Twitterでもトレンド入りするほどの騒ぎとなった。
この無制限撤廃によって、Googleフォトは大量のユーザー離れを起こすのだろうか? いや、結論からいえば、多くユーザーがGoogleフォトを使い続け、課金するユーザーも増えていくだろう。その裏にはGoogleによる“ユーザーの囲い込み戦略”があるからだ。
まずは、状況を一旦整理しよう。Googleアカウントには、15GBのデータ保存容量が無料で与えられる。この容量はGmailやGoogleドライブなどで共通して使われており、例えばGoogleドライブに1GBのデータをアップロードし、Gmailでのデータのやり取りが500MBあったとすると、残りは13.5GBとなる。この枠を使い切った場合は、新たに課金をすればストレージの上限容量を上げることができる。
しかし、Googleフォトの場合は話が違う。あらかじめ決められた画質でアップロードすれば、15GBのデータ容量を消費することがないのだ。
ちなみに、アップロード時の画質設定は「オリジナル」と「高画質」から選ぶことができる。この際、オリジナルを選ぶと無制限の対象から外れ、「高画質」を選べば無制限の対象となる。この事実から「高画質」とは名だけで、データが圧縮され、画質が著しく落ちてしまうのではないか……、そんなイメージを持つかもしれない。
しかし、ほとんど大差はない。たしかに容量を節約するために圧縮が施されるのだが、画像の場合では、写真のサイズが 16 MP (メガピクセル)を上回る場合に16 MP まで縮小される。だが、そもそも16MPがかなりの高画質。一般的な使い方であれば、気にするレベルではないのだ。
動画の場合、1080p を上回る場合は1080pに縮小される。例えば、iPhone12の動画撮影では、画質が720p・1080p・4Kと選ぶことができるが、日常の動画を4Kで撮影するケースはあまり多くないだろう。基本的には1080p以下で撮影する人が多いと思われるので、普段づかいの動画であれば「高画質」でアップロードしても問題ないのだ。
というわけで、Googleフォトはこれまで画質を著しく落とすこともなく、無制限でアップロードできていた。それが、来年の6月からは15GBの保存容量にカウントされることになり、無制限ではなくなることになった。
状況が整理できたところで、なぜ多くのユーザーがGoogleフォトを使い続けることになるのか、その理由に触れていこう。
撮影した動画や画像は替えが効かない
もし、これが「音楽聴き放題サービス」だった場合、話は全然違う。例えば、「無料で音楽が聴けること」を売りにしていたサービスが、突如「無料で聴けるのは1日5曲まで」などとシステムを変えたとしよう。すると、ユーザーは別のサービスを検討する。検討するだけでなく、安いサービスがあればすぐさま乗り換えるだろう。
しかし、画像や動画はそうはいかない。画像や動画というのは、多くのユーザーにとってかけがえのない存在だ。音楽と違って、自分が撮影した動画や画像は替えが効かない。
「Googleフォトにアップロードした画像や動画をダウンロードして、他のサービスに移し替えればいいのでは?」
そう思う人もいるだろう。しかし、簡単には乗り換えられない。わずかな量であればそれもできるが、この手のサービスにアップロードしている画像や動画は大量になりやすい。それを加速させたのがスマホの存在だ。いまやスマホによって気軽に撮影できる時代。大量に撮影しておいて、そのままアップロードしておくことは珍しくない。
そして、Googleフォトや類似する画像保管サービスを使っている人に聞きたいが、「データをきちんと管理している人」はどれほどいるだろうか? 多くの場合、とりあえずアップロードして放置しているケースが多いだろう。イベントごとにフォルダ分けし、しっかり整理整頓している人は少数派だと思われる。また、子供の七五三や海外の旅行などの単位では整理していても、レストランで撮った料理やペットの画像など、何気ない日常の光景は管理が行き届いていないことも多い。
結局のところ、ほとんど管理されないまま、とりあえずクラウドサービスにデータを“ぶっ込んでいる”ケースが多いのだ。整理整頓していれば他のサービスへ移行もしやすいが、後の祭りの人は多いのではないか。
Googleによる囲い込み?
また、仮にとりあえずアップロードしておいた大量のデータをダウンロードして、他のサービスにアップロードするとしても、移行先が無料で使えるとは限らない。主要なクラウドサービスは、一定の容量を超えると有料になる。
「だったら、無料枠の範疇でデータを分散すればいいのでは?」
いや、ただでさえ管理できていない画像や動画を分散するのは、もっと大きな手間になる。そんな手間をかけなくても、Googleの追加のストレージは「100GB」なら月額250円、200GBなら月額380円で利用できる。大切なデータを保管し、面倒くさい移行作業が不要となれば、財布の紐も緩くなってしまうものだ。
というわけで、Googleフォトをヘビーに使っているユーザーほど、このサービスから逃れられることができない。すでに、Googleによって見事に囲い込まれているのだから。
そして、Googleが戦略的に囲い込みに走っていると思うのは、スマホ内から画像や動画のデータを削除させる仕掛けがところどころに設置されていること。
例えば、スマホでGoogleフォトのアプリを使用すると、スマホ内の画像が自動でバックアップしやすいようになっている。それだけでなく、「このデバイスから○○○○個のファイルを削除できます」と、“スマホの容量の削減”を提案される。もちろん、限られたスマホ容量の節約には有効だが、これを行うと大切な画像や動画のデータが手元(スマホ)からなくなってしまう。そして、Googleフォト上にだけに保存された状態になると、他のサービスへの乗り換えがさらに面倒くさくなる。そして、今回の無制限終了のような状況になると、課金一直線になるのだ。
同じような戦略を取るのは、Googleだけではない。Appleも似たようなことを行っており、Appleの場合は無制限ではないが、iCloudへのバックアップやデータのアップロードを何度も促してくる。iCloudの無料分は5GBで、それ以上は課金が必要。たくさんのデータをアップロードした後に追加で課金が必要となると課金へのハードルが一気に下る。Google同様、iCloudも「ストレージを節約する」という提案は行われる。
アマゾンフォトに注目
まとめると、
・画像や動画はユーザーにとってかけがえのない存在
・スマホの普及によって撮影しやすくなった
・膨大な量になるので、管理を後回しにする
・スマホやパソコンの容量も食うので、とりあえず無料のクラウドサービスにアップロードする
・クラウドには大量の大切なデータが管理されずに保存されているので、他のサービスに乗り換えづらい
・そのときに無料や無制限のサービスが終了しても、仕方なく課金するユーザーが続出
という流れになるのだ。この状況を一言で表せばこうなるだろう。
タダより高いものはない。
しかしながら、なにもGoogleが暴利を貪っているわけではない。名誉のために付け加えておくと、ビジネスを行っているのであり、課金を促す仕組みを開発するのは至極当然の話。また、Googleフォトの使い勝手はかなり良い。Googleの高い検索技術はここでも健在であり、顔認証などの精度も高い。とりあえず大量のデータをアップロードしておき、放置するのも納得だ。旅行やイベントなどの画像は、複数人で共有したいものだが、共有もスムーズにできる。これまでタダで使えていたことを感謝するレベルだろう。
ちなみに、Googleフォトの無制限保存終了に併せて「Amazon Photos」への注目が集まった。これは、Googleフォトのようなサービスなのだが、無制限で使うには、年間4900円(税込み)を支払ったプライム会員でないといけない。無料会員もAmazon Photosを使うことはできるが、上限は5GBまで。それ以上は課金が必要となる。Googleフォトと同じように無制限で使用するには、結局“課金”が必要なのだ。
(文=加藤純平/ライター)