「Gettyimages」より
ネット上でしか見えないマイクロ市場
インターネットの登場により、すべての業界において、競争のルールが変わりました。2000年代には、YahooやGoogleという検索エンジンが流行し、誰もが何かを調べたり、商品を通販で購入したりするために、検索エンジンで検索をするようになりました。検索エンジンには膨大な数の消費者が集まるようになりました。それに気づいた一部の企業は、検索エンジン上で上位に表示されることにより、多くの見込み客を自社サイトに誘導するSEO(=Search Engine Optimization;検索エンジン最適化)に取り組みました。SEOに成功した企業は、たくさんの見込み客を独占しました。ネットショップなどは、検索エンジンで上位に表示されるだけで、売上が数倍にもなったものです。
『なぜ、あなたのウェブには戦略がないのか?』(権成俊、ほか著/技術評論社)
しかし、あっという間にウェブサイトは当たり前のものになりました。たくさんの消費者に対して、ウェブサイトを利用する企業が少なかった頃は、見込み客を独占することができましたが、今やウェブを活用しない企業はありません。検索エンジン上の競争倍率は実店舗の競争倍率を超え、今や検索エンジン上こそもっとも競争の激しい場所となりました。たくさんの選択肢が用意されたなかで、検索エンジン上で1位に表示されても、見込み客はそれほど誘導できなくなりました。「1位でも生き残れない」。これが究極の競争の行きつく先なのです。
さらに、ソーシャルメディア、スマホの普及により、消費者の消費プロセスはとても複雑になりました。消費者は検索エンジンだけに依存せず、ウェブサイトをもっと多角的に利用し、実店舗やマスメディアの情報と比較しながら、複合的に消費行動をとるようになりました。その結果、競争はインターネット上にとどまらず、実店舗やあらゆるメディア、消費者接点を巻き込みました。インターネットを活用した集客は、SEOであっても、SNS活用であっても、スマホ集客であっても、もはや大した効果を発揮しません。
従来のインターネット集客のセオリーでは成果を出すことが難しくなりました。そんななかで、マーケティングオートメーション、AIというような、新しいトレンドに飛びつきたくなります。しかし、それらを活用したところで、もはや大した成果につながらないことは目に見えています。なぜなら、本質的な問題は、集客が足りないことでも、ウェブサイトが使いづらいことでもなく、商品、サービスに優位性がないことだからです。競合と比較されるなかで、消費者に「選ばれる理由」がないのです。
対処療法から根本治療へ
当社は、ウェブコンサルティング会社として、クライアント企業の事業を成功に導くため、インターネットをどのように活用すべきかというテーマに17年間取り組んできました。これまでご紹介してきたように、もともとSEOや検索連動型広告のような検索エンジン集客で成果を出したり、ウェブ解析によるサイトの改善によって成果を出してきました。
しかし、それぞれのトレンドは数年で終わりました。その都度新しいトレンドを追いかけましたが、その効果は低下するばかりです。売上が数倍に伸びた企業でも、3年もすれば同じような悩みに直面するのが常でした。
私たちは考えました、本当の問題はなんなのか。10年にわたって企業を成長に導く方法はないのか。その結果、私たちが出した結論は、対処療法から根本治療に切り換えるべきだ、ということです。
SEOや検索連動型広告(リスティング広告)をどんなにうまく活用しても、ウェブ解析によってサイトを最適化しても、対処療法ではインターネットという大きなうねりには勝てません。敵は隣の企業ではなく、インターネット全体なのです。それでは何をすべきか。一言で言えば、「選ばれる理由」をつくること。具体的には、オンリーワンの商品、サービスを生み出すことです。それに成功すれば、インターネットは力強い味方になってくれるのです。
「そんな話はききた」
そう思う方もいらっしゃるでしょう。多くの方は、
「それはわかっているが、実際にやるのが難しい」
とあきらめているのです。しかし、実はそこまで難しいことではありません。私たちは、この数年だけでも、オンリーワンの商品、サービスを開発し、「選ばれる理由」を生み出すことで、売上を数倍に伸ばした実績をたくさん生み出しています。そして、それらの企業は5年から10年にわたって継続的に成長しています。
絞り込みながら深める
そのポイントになるのが、まさにインターネットの活用なのです。競争社会を生み出し、多くの企業を減収に追い込んだインターネットですが、視点を変えてみれば、オンリーワンの価値を提供する企業にとって、その価値を何倍にも高めてくれるツールでもあるのです。
インターネットを活用してイノベーションを興すためのポイントは3つです。
1.たくさんのお客様に触れ、マイクロ市場を発見する
2.マイクロ市場に向けて、オンリーワンの商品、サービスを開発する
3.その商品、サービスの価値をインターネット上で伝える
インターネットというツールはおもしろいものです。お客様はネット上で調査、分析をし、市場を俯瞰して、自身に最適な商品を選び、購入します。この仕組みによって、自社に来るお客様は、みな「自社で買う理由」を見いだしています。つまり、理由がなければ買いに来ない。ネットで買いに来る人たちは、何かその理由がある、ということです。ネットという競争環境だからこそ、なんとなく買う人はいないのです。これは実店舗の商売とはだいぶ違います。だからこそ、インターネットは自分たちの価値に気づき、それを求めている見込み客がたくさんいることに気づけるツールなのです。つまり、ミッション発見ツールです。
自分たちのミッションが見えたら、市場が求める商品、サービスを開発します。そしてネットを通じてそれをアピールするのです。このとき重要なのが、市場を徹底的に絞り込むことです。絞り込むほど競合は少なくなります。
「しかし、市場を絞り込むと、売上が小さくなってしまうのではないか」
このような声をよく聞きます。確かにその通りですが、1000億円市場の0.01%のシェアでは1000万円ですが、10億円市場の10%のシェアなら1億円です。つまり、市場を絞り込むと同時に、その市場では高いシェアをとること。これがネットでイノベーションを興すためのポイントです。一見とてもニッチな市場でも、インターネットを通じて日本中にアピールできれば、そこそこの売上になります。
もともと、100億円を超えるような売上を目指しているなら、インターネットだけでは足りません。しかし、数億円の売り上げをつくることはインターネットはとても得意です。だからこそ、インターネットは小企業のためのイノベーションツールとしてぴったりなのです。
これから、私たちがご支援したクライアントのイノベーション事例をご紹介していきます。どれもビジョンと工夫にあふれた素晴らしい会社で、イノベーションに至る経緯も「そうきたか!」と思わせるとてもおもしろいものです。ぜひワクワクしながら読んでください。
そして、あなたも、ぜひ一緒にマイクロ市場を発見し、攻略していきましょう。
(文=権成俊/ゴンウェブコンサルティング代表取締役)
これからの連載予定
目次
1.ネットからしか見えない新しい市場
2.事例1 エンジェル宅配 持ち込み宅配サービスでイノベーション
3.事例2 上澤梅太郎商店 「上澤の朝食」で5期連続黒字に
4.事例3 小林大伸堂 「名印想」で購入者が倍増
5.事例4 近江牛.com 和菓子のような牛肉のパッケージでギフト需要開拓
6.事例5 小島屋 バー・レストランの仕入れ需要に特化したコンテンツと商品開発
7.事例6 ヒダカショップ うるさいくても高水圧のニーズに特化
8.事例7 匠の傘 みや竹 傘の置き忘れ時の回収サービス
9.事例8 匠の傘 みや竹 傘の持ち歩きを楽にする ショートアンブレラ
10.ポジションを分析しよう
11.ニーズはどのように変化したか
12.お客様の潜在的なニーズを発見する
13.商品、サービスを開発する
14.コンテンツとして紹介する