「と学会」の新刊が出た。『タブーすぎるトンデモ本の世界』(サイゾー刊)。いわゆる、メディアではタブーとされるテーマに触れた、それでいてトンデモな本ばかり集めた内容だという。
タブーといえば、触れてはいけない、批判してはいけないもの。それを、ギャグのネタに?……死ぬ気か! タブーとはそういうものである。
私がタブーと聞いて思い浮かぶのは天皇制と被差別問題とヤクザぐらいだが、どれも批判しようものなら、怖い電話がかかってきたり東京湾に沈められたり、と触らぬ神に祟りなしだ。ところが、この『タブーすぎるトンデモ本の世界』で、と学会は日本のタブーというタブーをいつもの調子で笑い飛ばしてしまったのだ。大丈夫か、と学会?
本書が扱うタブーは、皇室、宗教、人権問題などはもちろん、大川隆法が呼び出す霊言からキリスト教の浣腸健康法、北朝鮮の殺人教育アニメから石原慎太郎の性教育、オスプレイのウソにUFOが映ったアダルトビデオ……毎度毎度、よくもまあこれだけ変な本や映画を見つけてくると感心する。
トンデモない珍説奇説を笑い飛ばす精神は健在ではあるのだけど、本書で紹介する本の内容をみると、何がタブーなのか、よくわからなくなってしまう。天皇制をギャグにすると右翼が飛んでくる、だから批判できない。だったら「幸福の科学」総裁、大川隆法氏が明治天皇の霊を呼び出した本はいいのか?
―それでは明治天皇の御霊言を賜りたいと思います。
明治天皇 明治です。(『明治天皇・昭和天皇の霊言』幸福の科学出版)
大川氏自らに明治天皇の霊を憑依させ、その第一声が「明治です」。こんなことが許される日本に、本当に“菊のタブー”なんてあるのか?
それどころか、存命の今上天皇や雅子さまの守護霊にインタビューした本も出版されていて、『タブーすぎるトンデモ本の世界』でも紹介されている。この存命の人の守護霊にインタビューするシリーズは、その後も村上春樹、宮崎駿、秋元康と続々と刊行されている。タブーも何もあったもんじゃないね。まさにやりたい放題である。
マンガなどの表現規制を推進し、タブーを拡大させる石原慎太郎氏だが、かつて自分の書いた性教育本『真実の性教育』(光文社)では、「日本の現代の文化を論ずるひとつの指標に、ポルノの解禁是か非かを云々することは、笑止な沙汰でしかない」と述べている。都議会で是か非かやったのは石原氏だろうに。
タブーをタブーとして奉る側が、タブーの対象をギャグにしてしまう倒錯。その向こうに見えてくるタブーの正体は、思い込みと我田引水の小さなエゴの王国だ。
知らぬままに恐れているタブーが、実は恐れるに足らない、矮小なものであることを本書は笑いに包んで教えてくれるのだ。
それにしてもキリスト教。本書の第一章に詳しいが、悪魔が宿便に宿るなんて……勉強になりました! ハレルヤ、浣腸!
(文=コタロー)
『タブーすぎるトンデモ本の世界』
■目次
第1章 皇室・神様・新宗教等にまつわるトンデモ本
第2章 右翼・左翼・任侠・人権問題等を扱ったトンデモ作品
第3章 医療と食を扱ったトンデモ本
第4章 政治・時事・差別問題を扱ったトンデモ本・映画
第5章 芸能界・文壇・オカルトのトンデモ本
<コラム>
・皇室をめぐるトンデモ説
・嫌韓レイシストたちの奇妙な世界
・オススメのサンカ本
・トンデモ放射能デマの世界
・猟奇と佐藤春夫――昭和5年のタブー
・フリーメイソン・おススメ本50連発