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BL小説しょうせつ『いつかくんいろへ』連載れんさいちゅうです。ひと感情かんじょういろ把握はあくできるDKとそのいろをもたない同級生どうきゅうせいのおはなし。ゆっくりこいになっていきます。

『ありえない設定せってい』⇒『かげ遺失いしつしゃ』と『保護ほご監視かんしかん』、『廃園はいえん設計せっけい』や『たいまち対話たいわ』(coming soon!)など。…ですが、現在げんざい日常にちじょうものをいております。ご足労そくろういただけるとうれしいです。

ふう埜なぎさ
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2014/08/13

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  • 【SS】:あさがくるまで

    タクシーの後部こうぶ座席ざせきにおさまった恋人こいびとながめながら、助手じょしゅせき夏生なつお(なつき)はさっきから「ひとりおおい」はなしおもしている。 遠足えんそく引率いんそつをしていた小学校しょうがっこう教師きょうしきかえりの点呼てんこ人数にんずうちがうことにがつくとか、やま遭難そうなんしたよん人組にんぐみかたたたきゲームをしてからくもなんのがれるが、のちになってそのゲームがよんにんではりたないことにがつくとか、そういったるい怪談かいだんばなしだ。ちいさなころにきでよくんでいたこわはなしばかりをあつめ...

  • 【SS】:とおあめをとじる

    とん、とかるく背中せなかにだれかのひじがぶつかった。地下鉄ちかてつえきからじゃあじゃあとあめりしきるよる地上ちじょうようとかさをひらいていたゆうはつんのめってとっさに前方ぜんぽうばす。あめ容赦ようしゃなく背中せなかたれたのは、さっきえきのコンビニでったかさからち、ふうころがっていったからで。これがきっと、最高さいこうについていないいちにちわりだ。もうこの自然しぜん不快ふかいきわまりないシャワーでわりにしてほしい。ついてなさを。「いいじゃない...

  • 【SS】:さらさら

    料理りょうりをしているときの横顔よこがおきだ。栄養えいようと、食事しょくじと、人生じんせいつよしんじているようなぶれない横顔よこがお調味ちょうみりょうをはかるときにすこしだけほそめられる。できがりに満足まんぞくしたときのやわらかな笑顔えがお。 いまは、カラメルソースを煮詰につめるにおいがせまいキッチンに充満じゅうまんしている。 冷蔵庫れいぞうこやされ出番でばんっていた、たまご牛乳ぎゅうにゅう砂糖さとうぜてしあげたすこしかためのプリンにこうばしいカラメルをかけながら、百々とどぼくぶ。「はれふとし、プリン...

  • 【SS】:なつかげ

    いまでも、あのいた感情かんじょう名前なまえをさがしている。ずっと、ずっと、いまも。 大学だいがく受験じゅけんひかえた夏休なつやすみだった。やすみとはばかりの、夏期かき講習こうしゅう模擬もぎ試験しけん判定はんてい一喜一憂いっきいちゆうする日々ひびくされた、スケジュールもメンタルもぎゅうぎゅうにめられるような、あのなつ講習こうしゅうからかえり、ひるはんをかきこみながらリビングのバラエティをながめていた。ひとときの休息きゅうそく時間じかんで、一時いちじあいだくらい昼寝ひるねできるかななどとかんがえるあたま表面ひょうめんにテ...

  • 【SS】:かさをください

    ひとりでいいから。ちいさなうそをつくたびに、すこしずつ孤独こどくにぶくなった。 だれでもいいから。これまたうそをくちにすれば、すこしずつよるえるのがじょうずになった。 ほんとうは、たったひとりがほしい。ずっと。ずっとまえから。 すこしずつ、それをこえせなくなるのは、なぜ。 部屋へやようとすると、よるのなかにあめりしきっていた。一瞬いっしゅん、ごくわずかに躊躇ちゅうちょしたしいさい背中せなかこえがあたって、ころがる。「かさってん...

  • 【SS】:おとなになっても

    記憶きおくのなかからちのぼってきた、なつかしいこえく。自分じぶんの、保育園ほいくえんかよっていたころのこえだろうか。あどけなくてふわふわとした、たかこえ。「あいりせんせい、けっこんしたの?」「そうだよー、ひろくん」「ええとねえ、ええっと……でめとー?おでめとー?」「わあ、ありがとう」 おうじる保育ほいくこえがふっといたずらっぽくれた。「ひろくんはだれとけっこんしたいかなぁ?」「だれと?」「けっこんは、すきなひととずうっとい...

  • 【SS】:Love Letter

    煙草たばこけむりただよってくると、パブロフのいぬもあきれかえいきおいの反射はんしゃかれのことをおもす。ぼくいたのち煙草たばこいたくなるといったかれ。ゆうらりとくゆる一本いっぽんきりのけむり時間じかんをひっそりとベッドのなかから見守みまもっていた。眼鏡めがねをかけるほどではないかる近視きんしだったが、とおくをるようにすがめられる、それがいろっぽくてきだった。あの視線しせんが、なにをうつしていたのかをぼくるすべはもう、どこにもない。 よくれたふゆ日曜日にちようびひるが...

  • 【SS】:やわらかい距離きょり

    「おつかれさま、ふたりとも。さきにあがるね。あ、そうだ!とおる琉(とおる)くんにおしえてもらったレシピ、このまえためしてみたの」「うわあ、ありがとうございます!どうでした?」「レンチンでぜんぶつくれちゃうのね、時短じたんわざはとおる琉くんにけってね」 はじけるわらごえせい(あゆむ)は背中せなかく。話題わだいそのものに、ものすごい遠心えんしんりょくはじばされたのをかんじる。相容あいいれない、みずあぶらのように。 バイト仲間なかまとおる琉はモテる。おもに、パー...

  • 【SS】:宝石ほうせきルーティン

    ルーティンというものはやぶられたときのほうが、まもられたときより「そこにある」ことを主張しゅちょうしはじめる。 よしいと(ゆいと)の場合ばあい、ウィークデーならこんなかんじだ。まった時間じかんきて、毎朝まいあさむサプリメントを服用ふくようし、かるべものをいれて出勤しゅっきんかえってきたら食事しょくじのまえに簡単かんたん風呂ふろをすませ、休日きゅうじつつくいたすうひんやスーパーの半額はんがくシールのられた惣菜そうざい夕食ゆうしょくをとって、ほん新聞しんぶんをめくり、だいたい日付ひづけわるころにベッド...

  • 【SS】:さんがつゆきよる

    こんなことでもなければ、20だいでふるさとのをもう一度いちどむことはなかっただろう。 視線しせんをめぐらせあげるそらから、まぐれに三月さんがつゆきってくる。そういえば、このではんでいくふゆ最期さいごちからしぼるように、こんなゆきることがあるのだった。襟足えりあしから容赦ようしゃなく冷気れいきしのんでくる。薄手うすでのコートいちまいでやってきたことを後悔こうかいした。おともなくゆきに、無沙汰ぶさたとがめられているがして、ゆずまれ(ゆずき)はちいさくかたを...

  • 【SS】:かみさまをさがしている 《最終さいしゅうばなし

    もうなにもないから、もういいから、とうったえても、やめてもらえなかった。なかの刺激しげきがよくてよくて、無意識むいしきにまだ、とかもっと、と口走くちばしってしまうたびになんどもおく射精しゃせいされた。なにもないままでいかされたとき、脳髄のうずいごとけいれんをこすような快感かいかん絶叫ぜっきょうした。おぼれそうでくるしくて、くるしいことがしあわせだった。 てのない交合こうごうわったのは、夜明よあけちかかった。あちこちいた身体しんたいをなだめすかしてがると、ひびきせいが...

  • 【SS】:かみさまをさがしている #5

    だから、なんのためらいもなくひびきせいゆびこうあなをうかがってきたとき、興奮こうふんよりも恐怖きょうふおぼえた。はだはほてっているのにくような、ふしぎな感覚かんかく。「ねぇ、ひびきさ……っ!あの、ねぇ、その、……ほんとにできる、の?」 ひびきせい無言むごんつかむ。そのままみちびかれたさきねつ反射はんしゃてき指先ゆびさきがびくっとした。「にあれだけしといて、おれのが反応はんのうとかそっちのほうが変態へんたいくさいだろ」 かるわらったひびきせいゆび体内たいないにもぐりこんで...

  • 【SS】:かみさまをさがしている #4

    「すごくいまさらなことくけど」 ベッドサイドのあかりだけがきた仄暗ほのぐら部屋へや、ベッドのうえがせがむままのキスをしながら、ひびきせいう。「くんって、ゲイなの?」 こたえないまま、自分じぶんにのしかかっているおとこくちづけをねだる。スプリングをきしませながら、なかばもう自暴自棄じぼうじきなのか、ひびきせい熱心ねっしんにそれにおうじた。「こういうキス、したことある?」 ひびきせい舌先したさきだけをしたにからめ、さそした。ふたつのくちびるの...

  • 【SS】:かみさまをさがしている #3

    数日すうじつひびきせいむアパートの最寄もよえき改札かいさつで、あね恋人こいびとかえりをっていた。 ここで、あねといっしょにひびきせいったことがある。あのよるは、さんにんでたこやきパーティーをした。あねはとてもたのしそうにはしゃいで、そんなあねひびきせいがやさしいていた。 そして今夜こんやは。は、すみながしたようにくらそら見上みあげた。 ――……今夜こんやは、後戻あともどりのできないきをする。「くん?」 背中せなかに、きたがえようのないひびきせいこえが...

  • 【SS】:かみさまをさがしている #2

    「ドナーの適合てきごう検査けんさ……?あの、ぼくも?」 さんにちあさ。ダイニングテーブルをはさんでかいにすわ父親ちちおやかお見上みあげると、父親ちちおやは「すまないが、検査けんさけてくれ。繭子まゆこのためだ」と憔悴しょうすいしきった面持おももちでうなずいた。「がいま、将来しょうらいけて大事だいじなときだっていうことはわかっている。できるだけ、おまえの心身しんしん負担ふたんにならないようにはしたいんだが……きこんでしまって、ほんとうにすまない」 居心地いごこちわるく、椅子いすうえ...

  • 【SS】:かみさまをさがしている #1

    ハイレベル模試もしぜん教科きょうかわり、家路いえじ辿たど途中とちゅう自販機じはんきったスチールかんのココアを片手かたて自宅じたくのドアをひらく。いちどきに、おもしずみ、くらよどみ、つめたくこおりついた空気くうき全身ぜんしんつつまれた。いえじゅうがじた冷蔵庫れいぞうこになってしまったかのような異様いよう雰囲気ふんいきにかすかに身震みぶるいする。ふっと、このさきの人生じんせいには何一なにひとついいことがないんじゃないかというかんがした。 空恐そらおそろしい未来みらい予想よそうはらうように、(ひなた)はしらげい...

  • 【SS】:ネオンライトのように

    ぽた、とひざちたのがけたアイスクリームのしずくだったとき、やっと、わかばなしをされているのだと理解りかいした。なつわりのよるのはじまりはまだあかるく、一瞬いっしゅんでぬるくなった濃紺のうこんのうえのミックスミントアイスのいろはいかにもすずしげだ。 人工じんこうしょくみどり指先ゆびさきでふきり、ふふ、とせんいとぐち(ちお)はちいさくわらう。アイスだって。なみだじゃなくて。たぶん、650えんくらいの値段ねだんこいだったんだ。 なみださえなが価値かちさえないこいだったのだと、だれかに...

  • 【SS】:氷砂糖こおりざとうはゆらゆらひかる

    ふっと、かえってきているがした。くもりガラスのむこうに、あさからしとしととっているあめ足跡あしあときざんで。あさもり(おと)は人参にんじんをさいのきざんでいため、じっと硝子がらすそと気配けはいをうかがう。いぬ甲高かんだかこえ、バイクのはしけるおと昼下ひるさがりの休日きゅうじつの、なんということのないおと光景こうけい。きっと、いたとおりの風景ふうけい硝子がらすしにはひろがっているのだろう。「あさもりこえないこえこえる。れられないうでがそっとこうを...

  • いつかくんいろへ after days 《最終さいしゅうばなし

    あやようのぞきこみ、清音せいおんかんったようにう。「菅原すがわらがちゃんとかんじてくれて、すごく気持きもちよさそうでよかった」「……気持きもちよすぎてあたまがへんになるかとおもった……。いろいろ見苦みぐるしくてごめんね……」 さっきまでのまじわりの名残なごりはもう、身体しんたいおくのこるあまい感覚かんかくと、シーツをよごしているもろもろの体液たいえきにしかのこっておらず、あやようはかすれたこえうときこんだ。その拍子ひょうしこうあなからくぷりと清音せいおんはなったものがあふれ、シーツにつて...

  • いつかくんいろへ after days #12

    「ん、ああんっ、……あぁっ、いい、気持きもちちい……っ、あ、あっ、……いく、いっちゃう」 清音せいおん乳首ちくびをかすめた瞬間しゅんかんじ、かせたこしをふるわせてさらさらとながれるような射精しゃせいをする。存分ぞんぶんしたはずなのに強烈きょうれつ快感かいかんかず、こうまりのままの性感せいかんあやようはもうどうしたらいいのかわからない。ただ、身体しんたいがそうしたいとおもうがままにあられもなくみだれた。あらいきのあいだから、自分じぶんいだうでうったえる。「あぁぁ……ん、清音せいおん、まだ...

  • いつかくんいろへ after days #11

    じわじわと、清音せいおん性器せいき浸食しんしょくされていく。ちっともこわがらずに清音せいおんれたそこが気持きもちよがって、ひくひくときることなくあたらしい異物いぶつすするのがわかった。ゆるくいろどりきしめ、こしすすめる清音せいおんが、あっ、とちいさくかすれたこえらす。「ゃ……、って、菅原すがわら、……なに、なにこれ」 あやよううち蠕動ぜんどう予想よそうしていなかったのだろう。とはいえ、あやよういろどりゆびとはくらべるべくもない質量しつりょうがなかに挿ってくるので、いたくるしいや...

  • いつかくんいろへ after days #10

    こうあなにそろりと最初さいしょゆびまれてからどのくらいつのか、あやようには判然はんぜんとしない。はじまったころは違和感いわかん清音せいおんゆびそうとばかりしていたあやよう粘膜ねんまくは、いまやよろこんでなかでうごめゆびさんほんくわえ、すすり、しゃぶっている。ぬちゃぬちゃという粘着ねんちゃくしつ水音みずおとは、清音せいおんあやようのちあなにたっぷりふくませたローションで。「……だいぶれた?いたくない?」 清音せいおんいに、まくらかかえてあしをおおきくひらいたまま、こえせない快楽かいらくに...

  • いつかくんいろへ after days #9

    清音せいおんこえあやようきこまれるのはいつくしみなのに、はっきりと欲情よくじょうをにじませている。清音せいおんはやいろどり自分じぶんのものにしてしまいたいとおもっているのがわかる。だって、くちびるやさしくくちづけながらも清音せいおんは。「あ、ぅ……ん、あぁ……、んっ、あ」 とうにしとどにれていたあやよう性器せいきれる清音せいおんには、いっさいの躊躇ちゅうちょ遠慮えんりょもなかった。あやよう分泌ぶんぴつしたぬめりをりて、水音みずおとてて、反応はんのうをうかがいながらげてくる。ぎたせい...

  • いつかくんいろへ after days #8

    菅原すがわら」「……どうしたの?」「ここ、こりこりになってきた。すごい、ゆびいじくれそう」 したたるようなこえうやいなや、清音せいおん指先ゆびさきあやようのはっきりとあかみをまとったふたつのとがりをつまんだ。そこからそそがれる快感かいかんいきんだあやようのどから、うわずったこえほとばしる。「あ、あぁ、……っ、や……!」 反射はんしゃてきにぎゅっとをつぶってしまったので、否応いやおうなしに触覚しょっかく聴覚ちょうかくまされる。はっきりわかる。清音せいおんにどんなふうにさわられているか。...

  • いつかくんいろへ after days #8

    菅原すがわら、こら、じっとしてて」「ごめん、想像そうぞう以上いじょうずかしい、これ」「……こら、もう、強硬きょうこう手段しゅだんるよ」 そうって、あやようのパジャマのボタンをベッドのうえでひとつずつはずしながら、真上まうえからあやようさえんでいる清音せいおん器用きようあしあやよううごきをふうじた。直接ちょくせつはだれる清音せいおんゆびがくすぐったくてをよじりたいのにおもうようにうごけない。こんなときなのにわらいだしそうになる。 されるがままにパジャマをはだけられ、素肌すはだの...

  • いつかくんいろへ after days #7

    どうせまたすぐぐんだけどな、とおもいながらも一応いちおうパジャマをて、さきかみかわかしわったあやようはキッチンでペットボトルのみずをごくごくんだ。清音せいおんがドライヤーをつかうおとがする。なんだか生活せいかつってかんじ、と気分きぶんをよくしてみず冷蔵庫れいぞうこもどす。 リビングのソファにおさまりよるのニュースをつけると、清音せいおん脱衣だついしょからてきた。こんのストライプのパジャマをだぼっと清音せいおんあやようのとなりにこしをおろすと、つけたばかりのテレビを...

  • いつかくんいろへ after days #6

    「どうした、きゅうあかくなって」 からかう口調くちょう清音せいおんう。あかくなったほおかく方法ほうほうがない。だから、あやよう清音せいおんをまっすぐにた。「や……あの、これから清音せいおんとするんだなって、ほんとにセックスするんだなって……」 ばしゃんとねて、いだせられる。ぴったりとすきまなく身体しんたいがくっついてしまうと、これ以上いじょうないほどはやまった鼓動こどうられてしまいそうでずかしい。それよりも。「やだ、ちょっ……と、清音せいおん、」 清音せいおん器用きように...

  • いつかくんいろへ after days #5

    パジャマをかかえてふたりで脱衣だついしょはいってしまうと、あやようはもうなんでもいいような気分きぶんになり厚手あつで長袖ながそでTてぃーシャツとジーンズをぽいぽいいで洗濯せんたくかごにほうんだ。下着したぎをかけたところで清音せいおんがうろたえたようなこえす。おもわずかえると、ボタンダウンのシャツを半分はんぶんいだところでうごきがまっている。「菅原すがわらって、ちょっとって」「どうしたの?」「……その、あまりの色気いろけのなさにおどろいた」「ここまできたらあってもな...

  • いつかくんいろへ after days #4

    風呂ふろ、どうする?いっしょにはいるか?」 食事しょくじをすませ、シンクにみずちるおときながら、皿洗さらあらいをする恋人こいびとながめていたところに唐突とうとつかれた。空耳そらみみかとおもったあやようは「え?」といかえす。だから、とって清音せいおんがゆっくりせた。「いっしょにはいるか、別々べつべつはいるか」 まさかそこから選択せんたくのカードがられるとおもってもみなかった。内心ないしん動揺どうよう気取きどられないようにをつけつつ、あやようはしばらくかんがんだ。「いっしょに...

  • いつかくんいろへ after days #3

    「ごめんな、菅原すがわら自分じぶんがこんなに下手へただとはおもいもよらず」「しょうがないよ。はじめてに、失敗しっぱいはつきものだから」 ほぼ完璧かんぺきなできばえの南蛮なんばんけと豚汁とんじる、そしてなんだかべちゃっとした状態じょうたい仕上しあがったおひたしをべながらふたりでくすくすわらう。「さっき、つい台所だいどころりそうになったばちがたったかな」「……はじめてセックスするのがキッチンというシチュエーションがきなのかとおもった」 あやようけっぱなしにした冷蔵庫れいぞうこ...

  • いつかくんいろへ after days #2

    はな紀行きこうかけてった両親りょうしんちがいにやってきた清音せいおんは、手土産てみやげのショートケーキをあやようわたすと「きょう、おれ夕飯ゆうはんづくりを手伝てつだっていいか?」とわくわくした表情ひょうじょうでキッチンをながめた。「もちろん、ありがとう。今晩こんばん白身しろみぎょ南蛮なんばんけと青菜あおなのおひたし、豚汁とんじるにするつもりなんだけど」「……おれ、おひたしのかかりにしてくれ」「だよね」 ケーキを冷蔵庫れいぞうこにしまいつつあやようがこたえると、「わらったな」とうしろからうでびてきてだき...

  • いつかくんいろへ after days #1

    母親ははおやあさ情報じょうほう番組ばんぐみ懸賞けんしょうで『はる房総半島ぼうそうはんとう~おふたりでめぐ一泊いっぱくにちはな紀行きこう~』に当選とうせんしたのは、あやよう清音せいおんとの交際こうさいをはじめて2かげつほどった、ふゆのしっぽをようやくはるつかんだ頃合ころあいだった。「どうしよう、あやよう~。おかあさん、このさきの幸運こううんをぜんぶこれにつかっちゃったかも……」 テレビ局てれびきょくからの当選とうせん案内あんないをダイニングの照明しょうめいかしながら、オレンジしょくをまとった横顔よこがおう。「だいじょうぶ、だいじょうぶ。このさきもはは...

  • いつかくんいろへ #74

    あやようちゃんの初恋はつこい相手あいてって、速水はやみくんだったの?」「そう、だけど……」「お似合にあいとえばお似合にあいなんだよねぇ。あやようちゃんかわいいし、速水はやみくんはかっこいいし……」 ぶつぶつと思考しこううみしずんでいくとおもわれたふたばが、突然とつぜん「あぁ!やっぱ無理むり!」とはっするのであやようむねえた。「瀬戸せとさん、やっぱりおとこどうしでつきあってる……って嫌悪けんおかんがあるよね。ごめん、へんなところせちゃって」 うなだれるいろどりに「ちがうの!」と慌...

  • いつかくんいろへ #73

    「ねぇ、ちょっとちょっとあやようちゃん!」 瀬戸せとふたばがにぎにぎしくいろどりせきまで小走こばしりでやってきたのは、冬休ふゆやすみがあけた全校ぜんこう集会しゅうかいえ、きょうはこれでかえるだけ、という放課後ほうかごだった。がらんとした教室きょうしつで、いろむまでもなく興奮こうふんした表情ひょうじょうかべたふたばは、椅子いすからちあがろうとしていたあやようかたいて「まぁまぁいて」などとう。「どうしたの?いたほうがいいのは瀬戸せとさんのような……」「ちゃくい...

  • いつかくんいろへ #72

    清音せいおんほおばして、あやようう。「清音せいおん、ちゃんとしんいろえるよ」「よかった……」「もうだいじょうぶ。清音せいおんはなくさない、もう、なにも」「ありがとうな。ぜんぶ、菅原すがわらのおかげだ」 あやようきしめているうでちからがこもる。まるで、懸命けんめい身体しんたいのかたちをおぼえようとしているかのようだった。 おぼえていて。きざんでおいて。なくさないように。清音せいおんしんがいまをきざみはじめたのをかんじながら、あやようむねおどらせてその抱擁ほうようけ...

  • いつかくんいろへ #71

    気持きもちはうまくかくとおすつもりだったんだ。でも、おとといのよる菅原すがわらのパジャマ姿すがたて、欲情よくじょう我慢がまんできなくなった。……まぁ、つまり、ようするに、むらむらしたわけだな。怒鳴どなられても、なぐられてもいいから、告白こくはくしようとおもってキスしたらかれてしまってびっくりした。あぁ、そんなにいやなのかって。だから、全力ぜんりょくでごまかした」 あやようはそっと清音せいおん背中せなかきしめかえした。こんなにかわいいひとを、ぼくはほかにらない。「それな...

  • いつかくんいろへ #70

    清音せいおんがなぁ、とう。ちいさなねこがそっとくときのような、なぁ、だった。「菅原すがわらかおあげて」「……やだ」「なんで」「絶対ぜったいあかくなってるから」 清音せいおんがゆっくりといきをつく。そして、身動みうごきする気配けはいのあとであやよう身体しんたいうでまわった。そのまま、きしめられる。あやようねがっていたような、つよねつっぽい抱擁ほうようだった。 パジャマのままでぜんぜんさまにならないのがくやしい、と清音せいおんがちいさなこえでつぶやいた。そして、こたつ布団ふとんかおを...

  • いつかくんいろへ #69

    映画えいがかんかえり、ぼくにマフラーをしてくれたせいで清音せいおん風邪かぜいたんじゃないかっておもったら、なんだかもうわけなくて……」「そんなはずないだろ。おれ映画えいが途中とちゅうねむっちゃって、体温たいおんたかいままそとたからだよ」 言下ごんか否定ひていするかすれた清音せいおんこえきながらりんごのはいった茶碗ちゃわん片手かたて居間いまくと、水色みずいろ半纏はんてん清音せいおんはこたつにはいってゆるくまるめていた。やっぱりだるいのかな、迷惑めいわくじゃなかったかな、とおもいつつ清音せいおんの...

  • いつかくんいろへ #68

    おしえてもらった住所じゅうしょをスマホにんで、清音せいおんいえへとむかった。えき反対はんたいがわはコインパーキングをけるとすぐに住宅じゅうたくがいだ。 左手ひだりてげたふくろのなかのあざやかなりんごのあかあやようほそめる。清音せいおんねつがひどいようなら、すりおろしりんごをつくるつもりだった。 しばらくスマートフォンのガイドにしたがってあるくと、やわらかなこえ目的もくてきについたことをらせる。あやようのまえのいえながめて、まばたきをりかえした。「……ここ、...

  • いつかくんいろへ #67

    翌日よくじつむねをはやらせながら登校とうこうしたところ、いつまでたっても清音せいおん教室きょうしつあらわれない。清音せいおんせきのほうばかりをふりかえっているあやようのところに、瀬戸せとふたばがやってきた。「あやようちゃん、どうしたの?きょろきょろしたってひゃくえんだまちてないよ」「……うん、あの、清音せいおんがこないから」 ほんとになかがいいよね、というふたばの言葉ことばむねおおきくね、視線しせんもどした。のまえのせきこしかけているふたばは「速水はやみくん、風邪かぜだって」とう。...

  • いつかくんいろへ #66

    両親りょうしん帰宅きたくしたのは夕方ゆうがただった。あやように「はい、お土産みやげ」と温泉おんせんまんじゅうのはこせ、きをしている母親ははおや背中せなかながめる。そういえば、かあさんは清音せいおんがおりだ。包装ほうそうをはがしながら、なんとなくそんなことをおもった。「あやよう?どうしたの、ぽーっとして」 こちらをうかがう母親ははおやこえに、リビングの椅子いすにおさまって温泉おんせんまんじゅうをかじりながら、あやようは「ん-ん」と生返事なまへんじをする。 あたまのなかは清音せいおんたいするずかしさ...

  • いつかくんいろへ #65

    昼食ちゅうしょくのあと、名残惜なごりおしい気持きもちで清音せいおんえきまでおくっていった。清音せいおんはいちどだけりかえると、反対はんたいがわ出口でぐちへの階段かいだんりていく。 ひとりになったかえみちかたならべる相手あいてがいないのがさびしい。えた空気くうきによそよそしいほどしろいききながら、やっぱりさむいな、清音せいおんっているようなマフラーをおうかな、などと思考しこうがあてどなくながれる。ずっとはなしていたがするので、かんがえたことを言葉ことばにしない感覚かんかく新鮮しんせんだった。 自室じしつに...

  • いつかくんいろへ #64

    映画えいがのできばえはまあまあそこそこだったかな、というのが原作げんさく読破どくはしているあやよう見解けんかいだった。エンドロールと主題歌しゅだいかながれるなか、清音せいおんはなしかけようととなりるとぐっすりねむりこんでいる。「清音せいおんちしちゃった?」 びかけるとうっすらけた。その、ねむりとげんのあいだにある、完全かんぜんにはここにない視線しせんあやようがはじめてにする清音せいおんのまなざしだった。とろりと半分はんぶんけたような、はじめて世界せかいうつ赤子あかごのような、あま...

  • いつかくんいろへ #63

    たがいに悶々もんもんとしたよるごすのでは、とあやぶんだものの、あやようかるいたせいもあってかごく普通ふつうねむれてしまった。 清音せいおんがどうだったのかはわからないけれど、朝食ちょうしょくべているいま、とくにねむそうなようすもない。食欲しょくよく旺盛おうせいで、丁寧ていねいながらさかんなはしづかいであやようがグリルでいたさかなをほぐしている。「きょう、これからどうしようか?」 清音せいおんいかけに、しばらくかんがえた。どうしよう。なにをしよう。あさから清音せいおんといっしょ...

  • いつかくんいろへ #62

    そうっとかみぜられて、もう一度いちどくちびるかさなってはなれる。心臓しんぞうがせわしなくうごいているのか、しずまりかえってまってしまったのかさえあやようにはわからない。ぎゅっときしめられる。「……清音せいおん」 かすれたこえぶと、おうじるようにいろどりきしめているうでにさらにちからがこめられる。こんなふうにだれかにきしめられたことはない。こんな、とてもこわれやすい大切たいせつなものをどうしようもない気持きもちであつかうときみたいに。 ほおに、清音せいおんほおの...

  • いつかくんいろへ #61

    かる風呂ふろあらって換気扇かんきせんをまわし、すこし緊張きんちょうしながら自室じしつとびらけると、清音せいおんがふとんのはしんでいたほんからをあげた。「なんだかすっかりくつろいでしまった」などといながらほんじる。「おまりって、もっと緊張きんちょうするかとおもっていたのにな」 清音せいおん言葉ことばにうっすらとしたさびしさをおぼえながらも、「ゆっくりしてもらえてよかった」とかえした。ベッドにこしかけると、ふとんにすわった清音せいおんいろどり見上みあげてくる。まつげがちょう...

  • いつかくんいろへ #60

    さらをまとめてはこんだ清音せいおんがシンクでみず使つかおときながら、あやようくちをひらいた。「清音せいおん将来しょうらいのことはなにかまった?奨学しょうがくきんとか、目指めざ学部がくぶとか」「奨学しょうがくきんはたぶん大丈夫だいじょうぶ学部がくぶ就職しゅうしょくりつとかも勘案かんあんしなきゃいけないから、ゆっくりめるよ」「そうかぁ。就職しゅうしょくりつ重要じゅうよう事項じこうだよねぇ」「菅原すがわらはいい図書館としょかん司書ししょになれるよ。おれはそうしんじてるから」 テーブルをはさんで、キッチンカウンターのむこうでさらあらいながら清音せいおんはなんのて...

  • いつかくんいろへ #59

    清音せいおん、ハンバーグつくるのってそんなにすごいことじゃないから。やってみれば簡単かんたんにできちゃうし」「もうそのせりふがすごいよ……菅原すがわらって料理りょうりきだったんだな、らなかった」「うーん、きっていうか、中学生ちゅうがくせいのころから家事かじ分担ぶんたんせいになったせいでできるようになっただけだよ」 ふうん、とうなりながら清音せいおんはカウンターキッチンしにあやようもとを凝視ぎょうししている。どものようなまなざしに小判こばんがたたねととのえるずかしが...

  • いつかくんいろへ #58

    なんで?と湯船ゆぶねにつかりながらあやようなん度目どめかもわからないまま疑問ぎもんしんかべた。 あのとき、『清音せいおんぼく特別とくべつだから』とたしかそうった。あの言葉ことばにどうしてあんなに清音せいおんおどろいたのだろう。わからない。 自分じぶんえてかんがえてみた。もしも清音せいおんが『菅原すがわらおれ特別とくべつだから』ってったら?あのこえで、そんなふうにわれたらどうおもう?あやようはなまでひたりながら、うれしい、という単純たんじゅん結論けつろん即座そくざみちびいた。どんなか...

  • いつかくんいろへ #57

    清音せいおんいが、みみすべんできた。どこかぼんやりとした、おさな口調くちょうだった。「菅原すがわら、いままで友達ともだちめたことないのか?」「じつはね。おまりかい、はじめてなんだ」 みじかくこたえて、清音せいおんる。があうと、すうっとまとしぼるようにいろどりだけを清音せいおん視線しせんがとらえた。 そのときの清音せいおん表情ひょうじょう変化へんか意味いみあやようれなかった。たとえてうなら、くらやみしずんだ地面じめんをさっとつよあざやかなひかりいていくような、そんなふう...

  • いつかくんいろへ #56

    ……にするなって、どういうこと? 清音せいおん言葉ことば意味いみつかめずに、あやようしんかんだまま「どういうこと?」とかえした。清音せいおんはうつむいて、首筋くびすじをかりかりとっかきながらこまったように言葉ことばをさがしている。「おれきな相手あいてのことなら、菅原すがわらにしないでくれ」 まだよくわからないけれど、自分じぶんはいま告白こくはくもしていないのにふられたのだとそれだけはわかる。あやようせいいっぱいにしぼった笑顔えがおかべて「承知しょうちしました!」とげん...

  • いつかくんいろへ #55

    そのかえり、ふゆ夕方ゆうがたしろくてよわひかり昇降しょうこうこう清音せいおんはちわせた。制服せいふくのブレザーのうえから厚手あつでのコートとぐるぐるきのマフラーをにつけていて、ちょっとした越冬えっとうたいのかっこうだ。すくなくとも、学年がくねんないのだれよりも厚着あつぎしているにちがいないとあやようはちょっとわらってしまう。「清音せいおんさむいの苦手にがて?」 告白こくはく事件じけん顛末てんまついてなにをはなせばいいのかわからなくなっていたはずなのに、おかげでそんな軽口かるくちたたくことができた...

  • いつかくんいろへ #54

    呆然ぼうぜん見上みあげるあやよう視線しせんさきで、相変あいかわらずはなのようなかおりのするふたばがたのしげにはなしている。 清音せいおんとはちがうかおり。清音せいおんきしめたときは、どこかこうばしい、牧草ぼくそうみたいなのんびりしたにおいがした。あの瞬間しゅんかん、たしかに清音せいおんのいちばんちかくにいたのはあやようだったはずなのに。「あやようちゃんが仲良なかよくなってから、速水はやみくんもまわりとけてきてたしね。きな女子じょしのひとりくらいいてもおかしくないんだけど」 なにをやっていた...

  • いつかくんいろへ #53

    「ねぇねぇねぇ、あやようちゃん!」 瀬戸せとふたばがばたばたと上履うわばきをらしててい位置いち、つまりあやようつくえまえにやってきたのは、つきがあけ、いよいよ週末しゅうまつには清音せいおんまりにやってこようとしている火曜日かようびあさのことだった。 その興奮こうふんした口調くちょう若干じゃっかん気圧けおされつつ「どうしたの?」とあやようつくえ両手りょうてをついているふたばをる。「速水はやみくんのきなって、だれ?」「……は?」 双方そうほうきょとんとかお見合みあわせたあやようとふたばだったが、ややあって...

  • いつかくんいろへ #52

    両手りょうてでスマートフォンにしがみつくようにして、清音せいおんこえ神経しんけい集中しゅうちゅうさせる。『どうした、菅原すがわらこわゆめでもてたか?』 あたたかくあまみみながんできたのは、清音せいおんにしてはとてもめずらしい、かろやかにからかうような口調くちょうだった。「てないし!それより清音せいおん来月らいげつのことは」『おれひとんちまるのはじめてなんだけど、それでもいいか?なにか不作法ぶさほうがあるかもしれない』「いいよ、ぜんぜんにしないでそんなの。清音せいおんがきてくれる...

  • いつかくんいろへ #51

    自室じしつみ、どきどきしながらベッドに寝転ねころんで天井てんじょうながめる。 だれかがまりにくるなんてはじめてだ。あやようにとってよんろくちゅう他者たしゃといっしょにいることは、つねに機嫌きげんをうかがいつづけることになってしまうので、無意識むいしきのうちに回避かいひしてしまっていたのかもしれない。 そのてんだけでいえば、清音せいおんには感情かんじょういろがないぶんすこしだけ気楽きらくだ。おなじ部屋へやごし、となりでねむる。きっといつになく清音せいおんちかくにかんじられるにちがい...

  • いつかくんいろへ #50

    正直しょうじきなところ、はじめてのことに戸惑とまどいをおぼえつつも、清音せいおんたいしてうっすらと性的せいてき欲求よっきゅうのようなものをおぼえることはある。あのくちびるれてみたら。あのうでいだかれてみたら。 まだそれはいい。しかたがない、健全けんぜん男子だんし高校生こうこうせいたるもの、きな人相にんそうしゅせいいろをまとう衝動しょうどうおぼえるのは至極しごくまっとうなことだろう。 でも手料理てりょうりというのはどうなんだろう。あやよう内心ないしんくびをかしげる。いちとおりの料理りょうりはできる自信じしんがある。でも、清音せいおんにと...

  • いつかくんいろへ #49

    あやよう成績せいせき突然とつぜんよくなったことに、つね日頃ひごろはばかでも元気げんきがいちばん」などとっている母親ははおやよろこびをかくせないようすだった。あかるい黄色おうしょくをまとって、「大学だいがくのこと、ほんとうにいいの?」となんどもあやようたずねる。ちょっと肩身かたみせまい。やっぱり、どもの成績せいせきっていいほうがよかったんだね、と。「おとうさんだってっているの。あやようがもしももっと偏差へんさたか大学だいがく目指めざすなら、うちからかよえるところにしぼらなくても、い...

  • いつかくんいろへ #48

    考査こうさまえおもされる。あやよう清音せいおんこえをかけ、毎日まいにちのようにふたりで試験しけん勉強べんきょうかさねた。勉強べんきょうおしえてもらいたいのが半分はんぶん、なんでもいいから清音せいおんといっしょにいたかったのがのこりの半分はんぶんだった。 あやよう部屋へや図書としょしつでむかいあって黙々もくもく問題もんだいしゅうきながら、ときどきわからない箇所かしょ清音せいおんたずねた。「ねぇ、清音せいおん。ちょっとここて」とノートをすと、清音せいおんあやようのつまづいているところや解答かいとうみちびきかたをすこしもうとんじるよ...

  • いつかくんいろへ #47

    清音せいおんにすべてけた、これでイーブンだ、秘密ひみつもなくなった。 いつものように清音せいおんえきまでおくってきたあと、していたほん自室じしつでしまいながら、あやようはそうおもいかけた。一瞬いっしゅんむねのつかえがとれたようながしたけれど、いまだ清音せいおんおもいをつたえていないことをおもす。おもわず、喉元のどもとをあてる。 あやようのなかで、もうるぎようがないもの。清音せいおんのいちばんちかくにいたいということ、清音せいおんきだということ。 いままでだっ...

  • いつかくんいろへ #46

    あやようなみだ呼吸こきゅうがゆっくりゆっくりいたころ、清音せいおんがそっとう。かすかに緊張きんちょうびたこえだった。「菅原すがわら、じゃあ、おれ感情かんじょうとか気持きもちもずっとえてるわけ?」 くびよこると、清音せいおんが「……え?」と戸惑とまどったこえした。おもわぬ肩透かたすかしをらったように。「清音せいおんのは、えない。いままで出会であってきたひとのなかで、清音せいおんひとりだけ、いろがない。えない。入学にゅうがくしきのときにがついて、になってた」「どうしてだろう。なんでおれ...

  • いつかくんいろへ #45

    「それでね。いろのあふれた世界せかいつかれたとき、いつもほん世界せかいたすけてくれたんだ。読書どくしょしているあいだだけ、だれのいろにしないでいられた。これが、ぼくほんきになったきっかけと理由りゆうあやようはなしているあいだ、清音せいおんはしずかないろどりをただていたけれど、このときそっとくちをはさんだ。「まえってたよな。読書どくしょきな原因げんいんがあるって。だけどいまははなせないって。それが、いま菅原すがわらったこと?」 ぽとりととすよう...

  • いつかくんいろへ #44

    水曜すいようだったかな、三枝さえぐさのなんだかややこしそうなはなしいていたけど、だいじょうぶか?」 いたわるような清音せいおんこえに、あやようかおをあげた。じわっとしん奥底おくそこにやわらかいみずがわく。 三枝さえぐさひかり莉が相談そうだんごとをちかけてきたのは、たしかに水曜すいよう放課後ほうかごのことだ。としはなれたひかり莉のおとうとが、どうしても小学校しょうがっこうきたがらないらしい。だれがどれだけ理由りゆうたずねても、がんとしてなにもわないのだそうだ。こまったよねぇ、とひかり莉のこえがよみ...

  • いつかくんいろへ #43

    清音せいおんをふたたび自室じしつまねいたのは、10月のはじめのよくれた土曜日どようびだった。こんどはいろどりからおもって連絡れんらくし、約束やくそくりつけた。清音せいおんんでほしいほんがある、というのはなかば(というか完全かんぜんに)口実こうじつだ。清音せいおんいたかった。学校がっこうではなく、そのそと清音せいおん姿すがたやまなざしを独占どくせんしたかった。 いずれにしろ、ふしぎと学校がっこうほんりをする気持きもちにはたがいになれないようで、清音せいおんあやようしたほん教室きょうしつってくることは...

  • いつかくんいろへ #42

    あめおんのリズムにあわせるように会話かいわしているうちに、雨脚あまあしよわくなる。たがいのはなごえがくっきりと輪郭りんかくつ。霧雨きりさめのなかにすと、くもからひかりした。「菅原すがわらにじてる」 清音せいおんゆびさすほうをる。灰色はいいろくも背景はいけいに、見事みごとなアーチをえがいてくっきりとにじがかかっていた。けれど。「ぼくにじってあんまりきじゃなくて。なんだか、てるときれいなのにつかめなくて、気持きもちがひんやりするから」 あやよう言葉ことばに、清音せいおん...

  • いつかくんいろへ #41

    木曜もくようあさはよくれていたのに、夕方ゆうがたから雲行くもゆきがあやしくなってきた。にぶ灰色はいいろくも息苦いきぐるしいほどおもれこめ、いまにもしそうだ。図書としょ当番とうばんのカウンターにちながらあやよう三枝さえぐさひかり莉は「あやようちゃん、たたかさってきた?」「ってない、るかな?」と小声こごえでささやきあう。 図書としょしつくち施錠せじょうし、職員しょくいんしつかぎかえしにくころには、本降ほんぶりのあめになった。 ひかり莉はバレー友人ゆうじんからたたかさりたらしく「...

  • いつかくんいろへ #40

    興味津々きょうみしんしんといった様子ようすのふたばに、どうして女子じょしってこうもこいはなしきなのかなぁとおもう。それらしき『進展しんてん』についてぼんやり回想かいそうしていたあやようは「きしめてみたけど、みたいな……?」とうっかり事実じじつはなしてしまう。見開みひらいたふたばは、わざとらしく甲高かんだか悲鳴ひめいをあげた。「ほんと!?やるじゃん、あやようちゃん。それでそれで?お返事へんじは?」「いや、告白こくはくしたとかじゃぜんぜんなくって、たまたまきしめちゃっただけで……」 しり...

  • いつかくんいろへ #39

    瀬戸せとふたばがあやようまえせきにいそいそと「あやようちゃーん」と陣取じんどったのは、それからしばらくった水曜日すいようびあさだった。 ふる椅子いすあしんでこしかけ、うきうきとしたオレンジしょく感情かんじょうびたふたばは、「あやようちゃんのアドバイスにしたがって、彼氏かれしとよりをもどしましたー!」と両手りょうてをあげて報告ほうこくしてくる。そういえば、そんなこともあったっけ。自分じぶんきたはじめてのおぼつかない色恋いろこい沙汰ざたいっぱいのあやようはぼんやりとおも...

  • いつかくんいろへ #38

    清音せいおんにまたほんし、えきまでおくっていった。わかぎわあやよう真剣しんけんて、清音せいおんつむいだ言葉ことばむねのうちをあざやかにめぐっている。「図書館としょかん司書ししょはなし真面目まじめかんがえてみろよ。すごくいいとおもう」 かえをひとりでほたほたあるきながら、図書館としょかんのカウンターにすわっている未来みらい自分じぶんあやよう想像そうぞうしてみる。みたいほん資料しりょうさがしているひとにアドバイスをする、図書としょ資料しりょうえらんで発注はっちゅうをかける。わるくない、やってみたい。どうやって資格しかく...

  • いつかくんいろへ #37

    「……菅原すがわら清音せいおんあやようかたがくせたまましゃべるので、おと振動しんどうでそのこえいた。やわらかで、やさしくて、ひりひりするようなせつなさのにじむこえだった。「おれ、そんなふうにってもらったの、はじめてだ」「うん」 あやようはしずかにこたえる。なにかきたがっている清音せいおんいに、ひびをれないように。 まよまよいといったふうに、清音せいおんう。「そんなふうにってもらって、おれ、どうすればいい?」 あやようまよいなくこたえた。...

  • いつかくんいろへ #36

    はなしははずんだ。小説しょうせつのことにかんするしょうはこのようなしならあやようのおのものだ。したほん執筆しっぴつ裏話うらばなしてきエピソード、ちいさいころにんで印象いんしょうてきだったSF小説しょうせつ衝撃しょうげきてきなオチ、そんなあれやこれやを清音せいおんはなした。清音せいおんはちいさくわらったり、すこしうなずいたりしながら、ときに的確てきかく質問しつもんりだしてくる。「清音せいおん、ちいさいころにんできだったほんってある?」 だから、そんな会話かいわ応酬おうしゅうのなかでまれたあやよういは、ごくな...

  • いつかくんいろへ #35

    清音せいおんって」 清音せいおんならぶため、あやようあしす。さっきまではっきりとかんじていたくつそこ感覚かんかくがあいまいになっている。くもうえあるいているみたいにたよりない。いつもの家路いえじをたどっているだけなのに、みょうにふわふわしている。 あたまのなかにもかすみがかかっているようで、清音せいおんになにをえばいいのかわからず、「ありがとう」とこえにできたのは自宅じたく門扉もんぴのまえであしめたときだった。清音せいおんすこくびをかしげたので、補足ほそくした。...

  • いつかくんいろへ #34

    こんどのわせには、清音せいおんのほうがさきにきていた。姿すがたるなり、あやよう心臓しんぞう小走こばしりになる。ぱたぱたとせわしない鼓動こどうをなだめすかしながら、清音せいおんった。ざわざわといろねるえき改札かいさつまえで、ひとり背筋せすじをしゃんとばして、ひっそりと静謐せいひつをまとっている。いいな、となんの脈絡みゃくらくもなくおもった。なにがどういいのかはわからない。「ごめんね、たせたね」 清音せいおんは「だいじょうぶ」とすこしわらう。あやようはなしているときの...

  • いつかくんいろへ #33

    あやようがあれこれとおもなやんでいるあいだにもせわしなくいち週間しゅうかんはすぎ、清音せいおん約束やくそくした日曜日にちようびがやってくる。 前日ぜんじつ土曜日どようびあやようはショッピングモールまでかけ、シャツとデニムを新調しんちょうしてしまった。ふたたび清音せいおん部屋へやまねくとかんがえるとそわそわかず、なにもにつかないので自分じぶんけるためにかけてみたのだ。 帰宅きたくし、紙袋かみぶくろからした真新まあたらしいふくながめる。あやようがいつもにつけているものより、大人おとなびてしゃれ...

  • 出会であってしまいました(❤️´そうこう`❤️)

    ええと、まだものすごく動揺どうようしているので、うまくおつたえできるかどうかわからないのですが……。わたし、出会であってしまいました(❤️´そうこう`❤️)……そう、なん度目どめかももうわからない、突然とつぜんこいに(無駄むだ倒置とうちほうはなしはきょうの夕方ゆうがたおそく、退勤たいきん電車でんしゃりてアパートにむかおうと国道こくどうわたろうとしていたときにさかのぼります。おぼんやすみがトップシーズンのひとつな業種ぎょうしゅかせいでいるため、わたしにぼんはないです。お正月しょうがつも。コミケにってみたいの...

  • いつかくんいろへ #32

    いかにも、というように瀬戸せとふたばが重々おもおもしくうなずいた。「そうだよ、あやようちゃん!こいだよ。いいなぁ……」 どこかあわうと、あやようかおちかづけ、ぐっとひそめたこえでふたばがたずねる。「もしかして、初恋はつこい?」 あやようがややまよいながらもうなずくと、ふたばがかろやかにわらった。かぜめたようなわらいかただった。「初々ういういしくてかわいいわ、あやようちゃん」といながら、あやようかみをぐしゃぐしゃかきまぜる。 ふたばのこえがした...

  • いつかくんいろへ #31

    「あのさ、あやようちゃーん……、それはこいだよ!」 あやようのまえにすわった瀬戸せとふたばが、にやにやしながらじつたのしそうにう。翌日よくじつのホームルームまえの教室きょうしつで、いつものようにはなしかけにきたふたばに、自分じぶんきている不可解ふかかいしんうごきについてざっくりと相談そうだんしたところだった。 「こい」。あやようにとっては、なぜか「天国てんごく」とか「奇跡きせき」とかとおなじくらいに縁遠えんどおい、自分じぶんとはかけはなれた言葉ことばだとおもっていたのに。それなのに、まさ...

  • いつかくんいろへ #30

    すごくきで。 るようにその文字もじれつながめる。すごくきで。 その言葉ことばていると、さっきから身体しんたいじゅうをはしまわっているちいさなきものがなにかやわらかな歓声かんせいをあげるのがこえるがした。なんと返信へんしんすればいいのか液晶えきしょううえゆびがうろうろさまよっているうちに、かるおととともにつぎのメッセージがとどく。『おやすみ。日曜にちようたのしみにしているな』 なんとかあたまゆびうごかし、『ぼくも。おやすみ』と返信へんしんする。するり...

  • いつかくんいろへ #29

    清音せいおんからメッセージがとどいたのは、それから3にちよるのことだった。まだひるあついけれど、はなったあやよう部屋へやしょうまどからはすずしいよるふう心地ここちよくきこんでいた。 かろやかな着信ちゃくしんおと液晶えきしょう確認かくにんすると、清音せいおん表示ひょうじされている。おおきく、心臓しんぞうねた。ロック解除かいじょももどかしく、メッセージアプリをひらく。『りていたほん、そろそろかえさなくちゃな。今度こんど日曜日にちようびあたり、都合つごうはどうだろう?』 ……これは、清音せいおんぼくかい...

  • いつかくんいろへ #28

    意図いとしなかったあやよう言葉ことばに、清音せいおんがかすかに見開みひらいた。まようようなこえがつづく。「……おれ連絡れんらくしても迷惑めいわくじゃなかった?って、ほん感想かんそうはなしたかったんだけど、どういうふうにメッセージをおくればいいのかわからなくて、ずっとまよってしまって。結局けっきょく夏休なつやすみがあけてしまったな」 ごめんな、対人たいじん関係かんけいスキルがひくすぎるよな。そうってこまったようにわらかおた。 清音せいおんもおなじだったのか。あやようとおなじく、いたくて、でも...

  • いつかくんいろへ #27

    どうにかこうにか宿題しゅくだいえた夏休なつやす初日しょにち、まだまだあつきびしいあさ昇降しょうこうこう清音せいおんかおをあわせた。めずらしく、清音せいおんのほうからこえをかけてくる。「菅原すがわら、おはよう。ひさしぶりだな」 あやよう挨拶あいさつかえし、教室きょうしつまでの廊下ろうかかたならべる。夏期かき講習こうしゅうのあいだにずいぶんと清音せいおんのとなりにいるのもれた。 それでも「長期ちょうき予報よほうだと残暑ざんしょきびしいんだって、いやだなぁ」「でも毎年まいとしそうだから今年ことしもテレビがってるなっておもうだけだな」な...

  • いつかくんいろへ #26

    ほんのおれい宿題しゅくだいのわからない箇所かしょおしえてくれるとうので、ローテーブルに教科書きょうかしょ参考さんこうしょ、ノートをひろげて化学かがく応用おうよう問題もんだいきかたをおそわる。化学かがくはこてこての文系ぶんけいであるあやよう苦手にがて科目かもくだ。 あやようのうないでからまっている箇所かしょ的確てきかくにほどきながらルーズリーフのうえをすべるシャープペンシル。つくえうえからをあげて、あやよう清音せいおん横顔よこがおをやった。そのままぼうっとながめる。せたのまつげがながく、すっきりとした鼻筋はなすじやすこ...

  • いつかくんいろへ #25

    しばらくかけて、3さつほんつくろいくと、清音せいおんいだひとみいろどりている。しずかにわれた。「どうして、こんなに読書どくしょきなんだ、菅原すがわら?」 あやようほんかかえたまま、あしがすくむのをかんじた。つまさきから、つめたい感覚かんかくのぼってくる。 ――……気持きもわるいんだよ! かつて、げつけられた言葉ことば脳裏のうりをよぎる。清音せいおんには、清音せいおんにだけはそんなふうにおもわれたくない。だけど、うそもつきたくない。どうしよう、どうす...

  • いつかくんいろへ #24

    あやようの、背中せなかぜるに、かたまっていたなにかがほぐれていくのか、清音せいおんしずかにかたりつづける。「それからなんだ。ひととかかわるのがこわくなった。とてもとても、こわく。どんなに大事だいじ相手あいてでも、どれだけ大切たいせつにしても、あっというにいなくなってしまうことがある。とても理不尽りふじんうばわれることがある。こわくてこわくて仕方しかたなくて、うしなうくらいなら最初さいしょからにしなければいいっていきかせてとおざかっているうちに、どんどんこわく...

  • いつかくんいろへ #23

    「……え?」 清音せいおんこえがかすかにかすれる。ひとみらぐ。「おじいちゃんとらしているってうからさ」 それに、みたいとほん内容ないようがふだんている清音せいおん雰囲気ふんいきからはほどとおい、という言葉ことばむね内側うちがわだけにとした。とした言葉ことばが、おもひびく。「中学生ちゅうがくせいのころだよ、1ねんのとき、インフルエンザにかかったんだ」 清音せいおんはゆっくりとはなした。ときどき、こえがふるえる。 清音せいおん高熱こうねつしたタイミングは最悪さいあくだった。ちょう...

  • いつかくんいろへ #22

    「ここだよ。ご遠慮えんりょなくどうぞー」 冗談じょうだんめかしてうとカーポートの日陰ひかげとおって、玄関げんかんける。清音せいおんは「お邪魔じゃまします」とちいさなこえい、屋内おくないあしれた。冷房れいぼう空気くうきがふたりの身体しんたいつつむ。清音せいおんがちいさく「すずしい」とった。「部屋へやかいにあがってすぐのとこだからさきってて。なにかみものっていく」 あやよう階上かいじょうしめすと、清音せいおん足音あしおとがゆっくりとかいにあがっていく。あやようはキッチンでやしておいたペット...

  • いつかくんいろへ #21

    えき改札かいさつわせた。さきいたのはあやようだった。しばらくひとながめていると、すずしげなほそいストライプのシャツとくるぶしたけ紺色こんいろのスリムなズボンであらわれた清音せいおんは、あやようつけると片手かたてげる。「わるい。たせたか?」 あやようは「ちょっとだけ」とこたえて、清音せいおんわらいかけた。ひかえめな笑顔えがおかえってくる。 じゃわじゃわとせみがかしましくさわてるなかをあやよういえまでならんであるきながら、清音せいおん疑問ぎもんげかけた。「そつ...

  • いつかくんいろへ #20

    あやようこえ沈黙ちんもくをやぶる。あした、清音せいおん都合つごうはどうだろうか。秀才しゅうさい夏休なつやすみもいそがしいのだろうか。「清音せいおんじゅくとかおこなってる?予備校よびこうとか、そういうの」「いや、ってない。じいちゃんに金銭きんせんめん迷惑めいわくかけらんないから」 えっ、とあやようくびをかしげた。「おじいちゃん?」 清音せいおんはうつむくと、首筋くびすじをかりかりとかく。「おれ両親りょうしんいなくて。じいちゃんのいえでふたりらししてるんだ」「そっか、そうなんだ」 その理由りゆうんだほう...

  • いつかくんいろへ #19

    夏期かき講習こうしゅうめくくりの模試もしわるころには、清音せいおんは2さつともほんわったようだった。むペースははやいほうだ。 肝心かんじん模試もしで、ちかられて対策たいさくをしていたはずの英語えいごのリスニングがまったくのちんぷんかんぷんだったのですこししょげていたあやようは、視聴覚しちょうかくしつせきならべたかえみちの「小説しょうせつっておもしろいんだな」という清音せいおん言葉ことばに、ぱっとかおをあげた。なつ午後ごごみじかかげがふたりの足元あしもとにわだかまっている。自転車じてんしゃのグリップ...

  • いつかくんいろへ #18

    清音せいおんじろぎひとつしないので、あやよう行動こうどう補足ほそくするようにった。清音せいおんといっしょにいると、ときどきこういうことがある。行動こうどう言葉ことばで、自分じぶんがとてつもなくややこしいルービックキューブをわたしてしまったような。そのたびにあやようは、自分じぶんめんわせてしめさなければならない。めんどうくさいな、とおもしろいな、がはんぶんこずつの気持きもちで。あやようが「あのね」とうと、清音せいおんがちいさくしばたいた。「いやじゃないよ、ぜんぜん。...

  • いつかくんいろへ #17

    自転車じてんしゃをからからしながら、清音せいおんかたならべて駅前えきまえ最近さいきんできた本屋ほんやにむかう。 清音せいおんあやようよりあたまひとつぶんくらいたかい。くろかげのまえにちている。 このあつさのなか、徒歩とほける距離きょりとはいえ本屋ほんやなどにさそってしまってもうわけなかったなぁとちらりとおもった。「菅原すがわら読書どくしょきなのか?」 清音せいおんたずねる。個人こじんてききらいにかんしての質問しつもんをされたことに内心ないしんおどろきながら「うん、図書としょ委員いいんになれてよかったなっておもう...

  • いつかくんいろへ #16

    「さっき、正直しょうじきうと緊張きんちょうした」 清音せいおん言葉ことばにウインナーをかじりつつあやようが「さっき?」とかえすと、「あさ、ほら、空席くうせきがどうかいたとき。せきまってないから、どこにすわればいいのかわからなくて」と補足ほそくされる。あやようは「そっか」とうなずくと、ちょっとかんがえた。「じゃあ、清音せいおん夏期かき講習こうしゅうのあいだはずっとぼくのとなりにすわればいいんじゃないかなぁ?」 あやよう提案ていあんに、清音せいおんをみはる。「いいのか?」とおそるおそるというふうに...

  • いつかくんいろへ #15

    数学すうがくといえばさぁー」 ぱたぱたと下敷したじきでかおふうおくりながら、ふたばがなにげなくくちをはさんだ。「前々まえまえから疑問ぎもんだったんだけど、うごてんPって、あれなんでPなんだろうね」「ポイントの、Pなんじゃないか?」 清音せいおん間髪かんぱつれず、ふたばの疑問ぎもんかいしめす。あやようとふたばはかお見合みあわせ、まるくした。「清音せいおん、すごい」「さっすが、速水はやみくん。そっかぁ、そういうことだったのか。積年せきねん疑問ぎもんれたよ」 ふたばが感動かんどうしたよう...

  • いつかくんいろへ #14

    清音せいおんあさこえをかけるようになって2週間しゅうかんぎた。瀬戸せとふたばが「あやようちゃん、どうして速水はやみくんに毎朝まいあさ挨拶あいさつするようになったの?」と心底しんそこ不思議ふしぎそうにたずねてきたのは夏期かき講習こうしゅう初日しょにちだ。この期間きかん自由じゆうせきについていいようになっているので、昇降しょうこうこうでいっしょになったふたばと視聴覚しちょうかくしつせきならべている。「なつのはじめごろ、図書としょ委員いいん仕事しごと手伝てつだってもらったんだよね。それで、すこしはなして」「手伝てつだった?速水はやみくんが、あやようちゃ...

  • いつかくんいろへ #13

    そのばんあやようねむれないままに思考しこううみしずんでいた。清音せいおん言葉ことば意味いみかんがえつづけていたせいだ。他者たしゃとかかわることがこわいという清音せいおん感情かんじょういろはやはりれなかったけれど、そこのしれないふか苦悩くのう気配けはいがした。 寝返ねがえりをち、堂々巡どうどうめぐりをつづけている疑問ぎもんをもう一度いちどしんかべる。べてもいいのだろうか。あれはSOSだったのだろうか。清音せいおんはっした、あやようにしかれない救難きゅうなん信号しんごう。いくらかんがえてもわからない...

  • いつかくんいろへ #12

    おどろきつつもなんとか「……どうして?」とう。フルネームでばれたこと、はなしがしたかったとわれたこと。ちいさなばくだんがつぎつぎにむねのなかでぜる。清音せいおんはそんないろどりて、ゆっくりまばたきした。まるで、あやようかせるように。「大人おとなっぽいから」 こんどこそ、なんとかえしていいのかわからない。 大人おとなっぽくなんかない。教室きょうしつひくくてざらざらしたこえしてあやようにはついていけなさそうな話題わだいわらいあう、半分はんぶん大人おとなのよ...

  • いつかくんいろへ #11

    けれどあやよう返事へんじに、そうか、とそれ以上いじょうちぢめようもなさそうな相槌あいづちつと、清音せいおんはカウンターしに図書としょしつながめている。 なんとなく拍子抜ひょうしぬけしたあやよう見慣みなれた室内しつない視線しせんをめぐらせる。られっぱなしの読書どくしょ週間しゅうかんのポスターや去年きょねんの10がつのままめくられていないカレンダー、額縁がくぶちれられたちいさな自分じぶんのテリトリーにいるはずなのに、あやようきゅうにうろたえた。かない気持きもちが右往左往うおうさおうし、脈絡みゃくらくもない言葉ことば脳裏のうりをめ...

  • いつかくんいろへ #10

    毎週まいしゅう木曜日もくようび放課後ほうかご、くじきで図書としょ委員いいんになったあやようふる貸出かしだしカウンターにつ。 図書としょしつはなかば自習じしゅうしつで、にぎわいのわりにほんりていく生徒せいとはごくすくない。だから、あやようともうひとりの木曜もくようがかりになっているおなじクラスの三枝さえぐさひかり莉(ひかり)という女子じょしは、小声こごえ会話かいわしながら時間じかんごすのがつねだった。「おそくなった。すまない」 背後はいご男子だんし生徒せいとこえがしたとき、だから新着しんちゃく図書としょんでいたあやようはそれが自分じぶんにむけ...

  • いつかくんいろへ #9

    自分じぶん以外いがいにはどうやら感情かんじょういろえないようだとってから、しばらくあやようはひどくふさぎこんだ。 小学校しょうがっこうにあがったばかりのおさないあたまなりに、自分じぶん異常いじょうなのだろうかとか病気びょうきなのだろうかとか、あれこれおもなやんだ。おさなさは、秘密ひみつかかむのでせいいっぱいで、じょうずにしゃべることさえままならなくなった。 あやよう口数くちかずきゅうすくなくなったので、父親ちちおや母親ははおやも「学校がっこう授業じゅぎょうがわからない?」「いじめっがいるの?」など...

  • いつかくんいろへ #8

    活動かつどうのたぐいに青春せいしゅん見出みだせそうにもなかったあやよう帰宅きたくだ。 グラウンドへサッカー練習れんしゅうにむかうまきって、放課後ほうかご駐輪場ちゅうりんじょうかった。ぎゅうぎゅうにならんだ自転車じてんしゃのなかから、高校こうこう入学にゅうがくとともにってもらった自分じぶん愛車あいしゃりだす。 じきにあつぶしになるなぁ、などとかんがえながら片道かたみち20ふんほど、自転車じてんしゃはしらせた。よくれた午後ごご日差ひざしが背中せなからし、襟元えりもとふうけていく。 自宅じたくくころには陽光ようこうあきら...

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