絡からまる赤あかい糸いと 15

3日にち後ご、俺おれはロスへの飛行機ひこうきに乗のっていた。親父おやじが何なんの目的もくてきでつくしの会社かいしゃを調しらべていたのか、そして同おなじ頃ごろ、遺伝子いでんし情報じょうほう解析かいせきセンターで誰だれのDNAを調しらべていたのか。親父おやじに聞きけば早はやい。でも、俺おれはこの目めでもう一度いちどつくしの息子むすこである冬季とうきの顔かおを見みたかった。「私わたし

絡からまる赤あかい糸いと 14

絡からまる赤あかい糸いと 13

どこから手てをつければいいか…と考かんがえると、やはり執事しつじの坂東ばんどうの周辺しゅうへんを調しらべるべきだと行いき着つく。坂東ばんどうは俺おれが物心ぶっしんついた時ときから道明寺どうみょうじ邸ていで働はたらいていた。歳としは50代だい半なかば、親父おやじやババァと同おなじくらいだろうか。次つぎの日ひ、俺おれは道明寺どうみょうじ邸ていに関かんする資料しりょうが置おかれている書斎しょさいに足あし

絡からまる赤あかい糸いと 12

石橋いしばし家かのパーティーを終おえ道明寺どうみょうじ邸ていに戻もどると、スーツを着替きがえることも無なくソファーで目めを閉とじ、自分じぶんの考かんがえに集中しゅうちゅうさせる。坂東ばんどうと繋つながっているのは石橋いしばし夫妻ふさいではなく娘むすめの希美のぞみだ。だとしたら、何なにが目的もくてきなのか。考かんがえられることはひとつしかない。俺おれと結婚けっこんし、道明寺どうみょうじ

絡からまる赤あかい糸いと 11

婚約こんやくして3年ねん目めで初はじめて石橋いしばし家かの門もんをくぐった。石橋いしばし家かは曽そ祖父そふの代だいに石橋いしばし産業さんぎょうを創設そうせつ、その後ご、祖父そふは政界せいかいにも手てを広ひろげ官房かんぼう長官ちょうかんにまでのし上あがった人物じんぶつだ。曽そ祖父そふと祖父そふで約やく80年ねん余あまり日本にっぽんを代表だいひょうする企業きぎょうとして名なを馳はせ、現在げんざいはその息子むすこである石橋いしばしまことに引ひき

絡からまる赤あかい糸いと 10

その一いち週間しゅうかん後ご、俺おれは日本にっぽんに帰国きこくしていた。年末ねんまつまでロスで過すごすと話はなしていたのに、急きゅうに日本にっぽんに帰かえると言いい出だした俺おれに、「やっぱりあんたに心しん愛あいのお守まもりは無理むりだったのね。」と、姉ねえちゃんが呆あきれて言いう。「ちげーよ。やり残のこした仕事しごとを思おもい出だした。」「リモートワー

絡からまる赤あかい糸いと 9

「逆ぎゃくにあたしが聞ききたい。先さきに手てを離はなしたのはそっちでしょ。信しんじてたのに、裏切うらぎられたのはあたしの方ほう。」静しずかにそう言いったつくしに、俺おれはあの頃ころと同おなじようにい返いかえす。「自分じぶんの浮気うわきを正当せいとう化かしようとすんじゃねーよ。何なん度ども言いうけど、俺おれは後うしろめたい事ことは一いち切せつなし

絡からまる赤あかい糸いと 8

午後ごご2時じ。幼稚園ようちえんへ冬ふゆ李り（とうり）君くんを迎むかえに行いく時間じかん。いつものように部屋へやを出でてマンションの駐車ちゅうしゃ場じょうへ下おりると、そこに1人ひとりの男性だんせいがいた。「あなたは……」「先日せんじつはどうも。」深ふかく頭あたまを下さげるその男性だんせいとは、心こころ愛あいちゃんのお母様かあさまの弟おとうとさんで、つくしさんには「も

絡からまる赤あかい糸いと 7

「ママっ、ねぇ、ママ聞きいてる？」後部こうぶ座席ざせきに座すわるとうりの声こえであたしは我がに返かえる。「ん？ごめん。何なに？」「あのね、僕ぼく、ママに怒おこられることしちゃった。」「怒おこられること？」「うん。今日きょう、チーズたっぷりのピザを食たべたんだ。」いつもなら笑わらって許ゆるすその言葉ことばも

絡からまる赤あかい糸いと 6

「ピザがいい」男おとこの子このリクエストに応こたえて、俺おれはすぐにピザのデリバリーに電話でんわをかけた。アメリカンサイズのピザは想像そうぞう以上いじょうにデカいだろうと予測よそくしてMサイズを2枚まいと、他ほかにもポテトを頼たのむ。「困こまります。」と、遠慮えんりょするベビーシッターを横目よこめに、「そのままあ

絡からまる赤あかい糸いと 5

心しん愛あいのベビーシッターを……と自分じぶんから引ひき受うけたはいいが、現実げんじつはそんな甘あまいものじゃないと早はやくも3日にち目めで後悔こうかいしている。3歳児さいじは怪物かいぶつだ。自分じぶんではほとんど何なにも出来できないくせに、口くちだけは達者たっしゃで、あれをして、これをしてと俺おれにせがんでくる。疲つかれたからと少すこし

絡からまる赤あかい糸いと 4

昨夜さくやは勢いきおいで司つかさの言葉ことばに「お願ねがいします」と飛とびついたはいいけれど、一夜いちや明あけて冷静れいせいになって考かんがえてみるとまずい気きがしてきた。司つかさを連つれてロスに帰かえれば、もしも万まんが一ひとつくしちゃんに遭遇そうぐうしてしまうことがあるかもしれない。何なん年ねんも暮くらしている私わたしでさえ今いままで出で

絡からまる赤あかい糸いと 3

夕方ゆうがた5時じを過すぎた頃ころ、ようやく人気にんき作家さっかの類るいが俺おれたちのいるバーにやってきた。「遅おそくなって悪わるい。」「おつかれ〜。すげぇ、人気にんきじゃん。」「サイン会かいなんてしなくていいって言いってんのに、出版しゅっぱん社しゃ側がわが毎回まいかいうるさいんだよ。こんな事ごとなら顔出かおだしNGにしておけば良よ

絡からまる赤あかい糸いと 2

あの日ひから1ヶ月かげつが経たったが、私わたしの頭あたまの中なかにはあの光景こうけいが忘わすれられない。花江はなえさんに駆かけ寄よる男おとこの子ことその母親ははおや。それは間違まちがいなく、つくしちゃんだった。彼女かのじょと最後さいごに会あったのは5年ねん前まえ。銀座ぎんざの小ちいさな喫茶店きっさてんで人目ひとめを避さけるようにして会あった。お母様かあさまにも司つかさにも知しら

絡からまる赤あかい糸いと 1

紫門さいもん 椿つばき。旧姓きゅうせいは道明寺どうみょうじ 椿つばき。8年ねん前まえ、ホテル王おうである紫門さいもん（さいもん）家かの一人ひとり息子むすこと結婚けっこんしロサンゼルスに移住いじゅうした。結婚けっこんしてからは、紫門さいもん家かの仕事しごとも手伝てつだいつつ、母ははが所有しょゆうする楓かえでホテルのオーナーとなり、旦那だんなとともに忙いそがしく世界中せかいじゅうを飛とび回まわる日々ひび。そんな日常にちじょう

こはるびより 26

4年ねん後ご。「司つかさ、小雪こゆきのお昼寝ひるねバッグ持もった？」「ああ、もう車くるまに積つんだ。」「帰かえりは私わたしが迎むかえに行いくって先生せんせいに伝つたえてね。」「分わかった。こはる、そろそろ時間じかんだぞ。」「あっ、遅刻ちこくしちゃう！じゃあ、行おこなってくるね。」パタパタとリビングを駆かけ回まわり、俺おれと小雪こゆきの頬ほお

こはるびより 25

嫌いやな予感よかんは的中てきちゅうした。道明寺どうみょうじ邸ていから帰かえってきて数日すうじつ、こはるの体調たいちょうが良よくない。食たべすぎたのか胃痛いつうと吐はき気けが続つづき、今日きょうの朝あさは微熱びねつまである。ベッドに横よこになるこはるに「大丈夫だいじょうぶか？」ここ数日すうじつ、俺おれは何なん度ども同おなじ言葉ことばをかけていて、その度たびに「大丈夫だいじょうぶ。」と答こたえてい

こはるびより 24

笹倉ささくら邸ていの俺おれたちの住居じゅうきょスペースには、今日きょうも甘あまい雰囲気ふんいきが流ながれている。いつの間まにか寝室しんしつも一緒いっしょになり、2度目どめの新婚しんこん生活せいかつを満喫まんきつしている俺おれたち。「行いってくる。」「行いってらっしゃい。」そう言葉ことばを交かわし、軽かるくこはるの唇くちびるにキスを落おとす、と同時どうじに俺おれの携帯けいたいが短みじかく

こはるびより 23

最近さいきんの俺おれたちは、まるで新婚しんこんのような暮くらしをしている。別々べつべつだった寝室しんしつもいつしか一緒いっしょになり、仕事しごと中ちゅう以外いがいは常つねに一緒いっしょ。どこに行いくにも2人ふたりで……が当あたり前まえになった。そして今日きょうは、月つきに一いち度どのこはるの検診けんしん日び。午後ごごから仕事しごとの休やすみを取とって俺おれも一緒いっしょに病院びょういんに付つい

こはるびより 22

店みせを出でてタクシーに飛とび乗のると、類るいから携帯けいたいに動画どうがが送おくられてきた。さっき見みたあの動画どうがだ。まさか4年ねん前まえのあの呑のみ会かいで動画どうがを回まわしていたとは夢ゆめにも思おもわなかった。けれど類るいには感謝かんしゃしてもしきれない。これをこはるに見みせれば、こはるに対たいする俺おれの気持きもちが証明しょうめい出で

こはるびより 21

あきらが日本にっぽんに帰国きこくした。半年はんとし後ごの結婚式けっこんしきを控ひかえて色々いろいろと準備じゅんびが忙いそがしそうだ。あきらの婚約こんやく者しゃはアジア系けいアメリカ人じんで、仕事しごとの付つき合あいで3年ねん前まえに知しり合あい、その後ごゆっくりと関係かんけいを深ふかめていった。昔むかしはマダムキラーと呼よばれていたあきらだが、結婚けっこん相手あいてとして選えらんだ

こはるびより 20

あの日ひ以来いらい、俺おれたち夫婦ふうふはお互たがいを意識いしきしあっている。それもそのはず、あんなに濃厚のうこうなキスをしたあと、普通ふつうに何なにも無なかったようには暮くらせない。正直しょうじき、近頃ちかごろはあのキスを思おもい出だし夜よるも眠ねむれなくなるほどだ。攻せめて攻せめてこはるの舌したを誘さそい出だし、吸すい上あげ唾液だえきを絡からま

こはるびより 19

出張しゅっちょう最終さいしゅう日びの夜よる。父ちちと夫おっとは経済けいざい界かいの重鎮じゅうちんらが集あつまるパーティーに招まねかれていて夕方ゆうがたからその準備じゅんびでバタバタとしていた。「こはるも一緒いっしょに行いかないか？」そう父ちちに聞きかれ、即座そくざに首くびを振ふってみたけれど、テーブルに置おかれた招待客しょうたいきゃくリストを何気なにげなく眺ながめているうちに、

こはるびより 18

事故じこを目まの当あたりにして、どうやら私わたしたち夫婦ふうふは感情かんじょうのコントロールがおかしくなってしまったようだ。まぁ、こんな事ごとは珍めずらしいことでは無ない。病院びょういんに勤つとめていると、生死せいしをさまよう患者かんじゃやそれを見守みまもる家族かぞくらが、時ときに慰なぐさめあったり時ときに喧嘩けんかをしたり、揺ゆれ動うごく感情かんじょうを

こはるびより 17

次つぎの日ひ、午後ごごから本屋ほんやを数すう件けん周まわり最新さいしんの医学いがく書しょを探さがしたり、NYで一番いちばん大おおきなシューマーケットでスニーカーを購入こうにゅうしたりしたあと、約束やくそくの17時じ少すこし前まえに老舗しにせのデパートであるバーグドルフグッドマンへ向むかった。一いち日にち中ちゅう歩あるき回まわっていたから足あしがもうヘトヘトに疲つかれ

こはるびより 16

こはるが仕事しごとをやめて1ヶ月かげつがたった。もともと、活発かっぱつに出歩であるくタイプでもないし、仲なかの良よい友達ともだちが沢山たくさんいる訳わけでもない。だから、この1ヶ月かげつほぼ邸やしきの中なかだけで過すごしていると言いってもおかしくない。今いままでバリバリ働はたらいていたから、さぞかし退屈たいくつで憂鬱ゆううつなのでは…と

お知しらせ（追記ついき）

読者どくしゃ様さまから情報じょうほう提供ていきょう頂いただきました。最近さいきん『iPhone15が当あたりました』などといった詐欺さぎサイトへの誘導ゆうどうが頻繁ひんぱんに出でるようです。心当こころあたりのある方ほうはこちらのサイトをご参考さんこうまでに決けっして個人こじん情報じょうほうなどは入力にゅうりょくしませんように。ブックマークから入はいると詐欺さぎサイトが

こはるびより 15

次つぎの日ひ、6時じに目覚めざめてしまった。今日きょうから仕事しごとは行いかなくてもいいのに、そんな日ひに限かぎってこんなに目覚めざめがいいなんて。寝室しんしつのカーテンを開あけて大おおきく伸のびをする。『今日きょうから自由じゆうだぁー』と思おもわず叫さけびそうになって思おもい出だした。そうだ、リビングを隔へだてた向むこう

こはるびより 14

邸やしきに入はいると、こんな時間じかんにも関かかわらずたくさんの使用人しようにんたちが出迎でむかえてくれた。「お帰かえりなさいませ、お嬢様じょうさま。」「ただいま。……遅おそくなりました。」申もうし訳わけなく思おもい頭あたまを下さげると、一斉いっせいに使用人しようにんたちも頭あたまを下さげる。本当ほんとうに申もうし訳わけない。グダグダと街まちを歩あるき回まわり帰かえるの

こはるびより 13

耳みみの不調ふちょうが出でるようになってから3ヶ月かげつが過すぎた。初はじめは耳みみに何なにかが詰つまったようで聞きこえにくい程度ていどだったが、今いまは右みぎ耳みみはほとんど聞きこえない状態じょうたいにまで悪化あっかしている。特とくに、夜勤やきんが続つづき疲つかれていたり、夜よる眠ねむれずに寝不足ねぶそくで目覚めざめた翌日よくじつは、聞きこえる方ほうの左ひだり耳みみにまで

こはるびより 12

パーティー会場かいじょうから抜ぬけ出だした私わたしたちはホテルの前まえからタクシーに乗のった。「楓かえでホテルまで。」夫おっとがそう告つげるのを聞ききながら、義母ぎぼが所有しょゆうする高級こうきゅうホテルを思おもい出だす。確かくか、結婚けっこんしたての頃ころはよく楓かえでホテルのバーで2人ふたりでお酒さけを呑のみ、そのまま夫おっとのプライベートルー

こはるびより 11

三吉みよし会長かいちょうの喜寿きじゅのパーティー当日とうじつ。こはるは病院びょういんでの仕事しごとを終おえてから到着とうちゃくする予定よていなので、俺おれは義ぎ両親りょうしんと共ともに先さきに会場かいじょうに入はいっていた。20時じからのパーティー。なかなかこはるは現あらわれない。きっとまた緊急きんきゅうの手術しゅじゅつが入はいって来こられないのだろうか。笹倉ささくら邸ていを出でてから一いち

こはるびより 10

笹倉ささくら邸てい夫おっとが家いえを出でてから5日にちが過すぎた。父ちちは私わたしたち夫婦ふうふが不仲ふなかで別居べっきょしたことを知しっているけれど、母ははは何なにも知しらない。もともとお嬢様じょうさま育そだちの母ははは、人ひとを疑うたがうということを知しらない人ひとだ。だから、夫おっとが道明寺どうみょうじ家かの仕事しごとの関係かんけいで長ながく出張しゅっちょうになったと告つげても、明あかるく『大だい

こはるびより 9

緊急きんきゅうで入はいった手術しゅじゅつを終おえて、ドクタールームへ戻もどろうとしていた時とき、背後はいごから「笹倉ささくらっ！」と、切羽詰せっぱつまった声こえで呼よび止とめられた。「本田ほんだ先生せんせい、どうしたんですか？」また急患きゅうかんが来きたのだろうか、そう思おもったが、本田ほんだ先生せんせいの次つぎの言葉ことばで面食めんくらう。「笹倉ささくら、マジでごめん

こはるびより 8

こはるを勤務きんむする病院びょういんまで車くるまで送おくるようになって2週間しゅうかんが過すぎた。もちろん、夜勤やきんの日ひもあるから毎日まいにちではないけれど、週しゅう4日にちは一緒いっしょに邸やしきを出でる。車中しゃちゅうでは相変あいかわらずほとんど会話かいわはない。その日ひの手術しゅじゅつの確認かくにんなのか、タブレットで臓器ぞうきの生々なまなましい画像がぞうを見みたり、論文ろんぶん

こはるびより 7

治療ちりょうを終おえたこはるが部屋へやに戻もどってきた。その腕うでには白しろい包帯ほうたいが巻まかれている。「大丈夫だいじょうぶか？」「平気へいき。」そう答こたえて自分じぶんの部屋へやに入にゅうろうとするこはるに俺おれは直球ちょっきゅうで言いった。「こはる、右みぎ耳みみはいつから聞きこえていない？」こはるが驚おどろいた顔かおで振ふり向むく。「どうしてっ、

こはるびより 6

昨夜さくや、こはるにメールをしたが既すんで読になったまま返信へんしんはない。あいつは家いえに帰かえってくるだろうか、それとも今日きょうもまた病院びょういんに泊とまるのだろうか。どちらとも分わからないまま時間じかんだけが過すぎていき、20時じを回まわった頃ころ、俺おれたちの部屋へやの扉とびらが開ひらいた。「……ただいま。」「

こはるびより 5

結局けっきょく、昨夜さくやは笹倉ささくら邸ていに帰かえらず、勤務きんむする大学だいがく病院びょういんの当直とうちょく室しつで一夜いちやを明あかした。そして今日きょう、寝不足ねぶそくのまま白衣はくいに着替きがえ病棟びょうとうに行いき、いつものように朝あさの回診かいしんを済すませたあと、コーヒーを片手かたてに病院びょういんの屋上おくじょうにあがった。そして、ベンチに座すわり空そらを見上みあげる。キーーーーン

こはるびより 4

笹倉ささくら家かの義父ぎふは昔むかしから、国内こくないにある優秀ゆうしゅうな大学だいがくや企業きぎょうの研究けんきゅうチームを支援しえんするため多おおくの寄付きふ金きんを出だしてきた。そのうちの一ひとつが、こはるが勤つとめる大学だいがく病院びょういんの新井あらいドクターのチームで、先日せんじつ国内こくない初はつの移植いしょくを成功せいこうさせ世間せけんを賑にぎわせたばかりだ。その祝賀しゅくがパーティーとも言げん

こはるびより 3

午前ごぜん中ちゅうに1件けん、少すこし休やすんで午後ごごから1件けんの手術しゅじゅつを終おえ、体力たいりょく的てきにも精神せいしん的てきにもクタクタだ。ドクタールームの「笹倉ささくらこはる」というプレートが置おかれた自分じぶんの席せきに深ふかく腰こしを下おろし、ガンガンに張はった肩かたを揉もみほぐしながら「はぁーーー」と息いきを吐はく。ここのところかな

こはるびより 2

こはるとの冷さめた夫婦ふうふ生活せいかつはもう3年ねん以上いじょうも続つづいている。笹倉ささくら邸ていの西にし棟とうは俺おれたち若わか夫婦ふうふのために広ひろいリビングと大おおきな2つのベッドルームがある専用せんようスペースだ。そのベッドルームは元々もともと夫婦ふうふのものと、生うまれてくる子供こどものために作つくられたものだが、言いうまでもなく俺おれ

こはるびより 1

この作品さくひんは道明寺どうみょうじ司しのラブストーリーです。相手あいて役やくはつくしではありません。キュンキュンするような作品さくひんになれば…と思おもっています。どうぞお付つき合あいください。………………ここは都内とないの高級こうきゅう住宅じゅうたくが並ならぶ一いち等地とうち。そこに道明寺どうみょうじ邸ていよりもさらに広ひろい敷地しきちを誇ほこる笹倉ささくら邸てい

新作しんさくについて

前ぜんサイトも含ふくめて約やく10年ねん、色々いろいろな設定せっていのつかつくを書かいて参まいりました。その中なかでも書かきたくても書かけなかった設定せっていがありまして、それはつくしの方ほうが司つかさよりもお嬢様じょうさまだという設定せっていです。何なん度どか書かいてみたのですが、どうしてもイメージが合あわなくて（笑）ボツにして

眠ねむれない夜よる 41（最終さいしゅう話ばなし）

…………半年はんとし後ご…………数日すうじつ前まえに町長ちょうちょう宛あてに一いち通つうの書類しょるいが届とどいた。それはあの視察しさつ団だんからの報告ほうこく書しょだ。視察しさつ団だんが帰かえって以降いこう、なんの音沙汰おとさたもなく季き節ぶしは冬ふゆを迎むかえようとしている。役場やくばの職員しょくいんや町民ちょうみんの間あいだでは、ホテル建設けんせつの話はなしは白紙はくしになったのだろうと、最近さいきんでは話題わだいに

眠ねむれない夜よる 40

テントの中なか。並ならんで座すわり、ポツポツと鳴なり響ひびく雨あめ音おんを聞きく。「帰かえれそうにないね。」牧野まきのがそう呟つぶやくから、「俺おれはそのつもりで来きたけど、おまえは大丈夫だいじょうぶなのかよ。」と、聞きく。「明日あしたは仕事しごと休やすみだからへーき。」その答こたえに、俺おれは首くびをかすかに横よこに振ふりながら言いって

眠ねむれない夜よる 39

視察しさつ団だんの訪おとずれ町まちも残のこすところあと2日にちになった。今日きょうは特とくに予定よていも入はいっていなく、それぞれが観光かんこうを楽たのしむことになっている……と昨夜さくや、道明寺どうみょうじから電話でんわで聞きいた。正式せいしきに付つき合あうことになったあたしたち。なんだか夢ゆめのようだけど、毎日まいにちかかってくるメールや電話でんわに、

眠ねむれない夜よる 38

家いえに着つくなり、後悔こうかいする。道明寺どうみょうじが来くるなんて思おもってもいなかったから、脱ぬぎ捨すてた服ふくなどがリビングに散乱さんらんしている。「ちょっ、ちょっと3分ふんだけここで待まってて！」そう言いって、道明寺どうみょうじを玄関げんかんで待またせて、慌あわてて片付かたづけた後のち、「どーぞ。」と、息いきを切きらしながら中なか

眠ねむれない夜よる 37

視察しさつ団だんが来きたという噂うわさは、次つぎの日ひにはあっという間まに町中まちなかに広ひろがっていた。昼過ひるすぎに役場やくばに顔かおを出だしたげんさんが言いうには、町まちに古ふるくからあるホテルと民宿みんしゅくのオーナーたちが猛もう反発はんぱつをしていて、抗議こうぎ活動かつどうをすると意気込いきごんでいるらしい。彼かれらの孫まごの顔かおまで知しっている役やく

眠ねむれない夜よる 36

一いち行ぎょうが視察しさつに出でかけてから、役場やくばの中なかは騒然そうぜんとなった。「牧野まきのさんっ、さっきのイケメンと知しり合あいなの？」「……えーと、」「彼かれは、どこの誰だれ？」「どこのって……、」あたしのデスク周まわりは人ひとだかり。「高校こうこう、大学だいがくの同級生どうきゅうせいです。」「同級生どうきゅうせい？そういえば、牧野まきのさ

眠ねむれない夜よる 35

「牧野まきのさーん、今月こんげつの広報こうほうに載のせる写真しゃしん、これでいい？」「はい、それでお願ねがいします！それと、お祭まつりの日程にっていも目立めだつところに大おおきく入いれたいんですけど。」「了解りょうかい〜！！」ここは北海道ほっかいどうにある人口じんこう5万まん人にん弱じゃくの小ちいさな町まち。大だい自然しぜんに囲かこまれたこの町まちは、夏なつはキャンプ、

眠ねむれない夜よる 34

牧野ぼくやと想おもいが通つうじたというのに、年としが明あけてもなかなか距離きょりが縮ちぢまらない。それに追おい打うちをかけるように、卒業そつぎょう式しきを前まえにして俺おれはNY支社ししゃでの研修けんしゅうが始はじまり、牧野まきのは就職しゅうしょく準備じゅんびのため実家じっかに帰かえることが決きまった。牧野ぼくやがこの邸やしきで暮くらし始はじめて10ヶ月かげつ。ババァや姉あねちゃ

眠ねむれない夜よる 33

「で？司つかさとは最近さいきんどーなの？」大学だいがく内ないにあるベンチでいつものように講義こうぎの合間あいまの休憩きゅうけいを取とっていると、横よこのベンチで昼寝ひるねをしていると思おもっていた類るいが急きゅうにそんなことをい出いだした。「コホッ！な、なに、急きゅうにっ。」「んー、司つかさの機嫌きげんがあんまり良よくないから、牧野ぼくやと

眠ねむれない夜よる 32

翌日よくじつ、いつもより30分ふん早はやくエントランスへ下おりて行いくと、運転うんてん手しゅの焦あせった声こえが聞きこえてくる。「お待まちくださいっ、もう少すこしで司つかさ様さまもいらっしゃいますので！」それに、「大丈夫だいじょうぶです。ちょっと寄よるところがあるので今日きょうはバスで行いきますので。」と、牧野まきのの声こえ。思おもえ

眠ねむれない夜よる 31

ドンッ！ボンッ！バシッ！！「痛やめってぇ！おまえさ、少すこしは手加減てかげんしろよっ。」「はぁ？突然とつぜんおかしなことしてきて、何なによあんたっ！」バシッ！！もう一度いちど俺おれの胸むねを思おもいっきり叩たたく牧野ぼくやの耳みみが照てれているのか真まっ赤かなのに気付きづき、俺おれの顔かおが緩ゆるむ。「な、なに笑わらってんの

眠ねむれない夜よる 30

新潟にいがたから東京とうきょうに戻もどり、邸やしきに着ついたのは夜よるになっていた。エントランスに近付ちかづくと、そこには見慣みなれた車くるまがとまっている。類るいのポルシェだ。「あっ、花沢はなざわ類るいの車くるま？」と、牧野ぼくやもその車くるまに気付きづき嬉うれしそうに呟つぶやく。気きに食くわねぇ。類るいの車くるまを見みただけで、こんなに素直すなおに喜よろこぶの

眠ねむれない夜よる 29

昨夜さくやは寝付ねつけなかった。朝方あさがたまでウトウトを繰くり返かえし、ようやくうっすらと明あかるくなりかけてきた頃ころ、深ふかい睡眠すいみんが訪おとずれた。そのせいで、目覚めざめたのは9時半じはんすぎ。ダイニングに炭酸たんさん水すいを取とりに行いき、そのついでに……とわざわざ1回かいに下くだりエントランスに近ちかい牧野ぼくやの部ぶ

眠ねむれない夜よる 29

昨夜さくやは寝付ねつけなかった。朝方あさがたまでウトウトを繰くり返かえし、ようやくうっすらと明あかるくなりかけてきた頃ころ、深ふかい睡眠すいみんが訪おとずれた。そのせいで、目覚めざめたのは9時半じはんすぎ。ダイニングに炭酸たんさん水すいを取とりに行いき、そのついでに……とわざわざ1回かいに下くだりエントランスに近ちかい牧野ぼくやの部ぶ

眠ねむれない夜よる 28

部屋へやに戻もどりタバコの悪臭あくしゅうが染しみ付ついた服ふくを脱ぬぎ捨すてると、ようやく少すこしだけ頭痛ずつうが和やわらいできた。今日きょうは長ながい1日にちだった。このまま目めを閉とじて、明日あしたの朝あさになれば全すべてを忘わすれてしまっていたい。そう逃避とうひしてしまいそうになる思考しこうを、トントンとノックする音おとが再ふたたび現げん

眠ねむれない夜よる 27

9月がつ中旬ちゅうじゅん、類るいとふたりで出掛でかける約束やくそくをした。脅迫きょうはく文ぶんや嫌いやがらせ、就活しゅうかつなどでバタバタとした日々ひびを過すごしていたから、こうしてのんびりと過すごすのは久ひさしぶりだ。大おおきな公園こうえんで草くさむらに並ならんで座すわり、時間じかんを気きにすることなくダラダラするのがこんなに幸しあわせに感かんじると

眠ねむれない夜よる 26

警察けいさつで聴取ちょうしゅを受うけ、その後ご病院びょういんで検査けんさをし、全すべてが終おわったのは次つぎの日ひの正午しょうご近ちかかった。その間あいだ、牧野まきののそばにはずっと姉ねえちゃんが付つき添そっていて、こういう時ときは男おとこの俺おれは何なにも役やくにたない。ただひたすら、ヤキモキした気持きもちを抱かかえながら車くるまの中なかで終おわるのを待まつだ

眠ねむれない夜よる 25

牧野まきのの肩かたの怪我けがが治なおりかけてきた頃ころ、事件じけんが起おきた。金曜きんようの夜よる、部屋へやで寛くつろいでいるとタマが血相けっそうを変かえて俺おれの部屋へやに飛とび込こんできた。「坊ぼっちゃん！」「っ！なんだよ、ノックもしねーで。」「これ、見みてくださいな。」タマがそう言いって俺おれに差さし出だしたのは、2センチ

眠ねむれない夜よる 24

それから数日すうじつたったある日ひ。いつものように大学だいがくの図書館としょかんで自習じしゅうしている途中とちゅう、トイレに席せきを立たった。数すう分ふん後ご、席せきに戻もどりそこに広ひろげていた教科書きょうかしょを見みてあたしは唖然あぜんとする。そこには赤あかペンで大おおきく、「泥棒どろぼう猫ねこ！！」と殴なぐり書がきがされていたのだ。意味いみがわからない。

眠ねむれない夜よる 23

その夜よる、22時じをすぎた頃ころあたしの部屋へやの扉とびらが小ちいさくノックされた。タマさんか？そう思おもったけれど、いつもならこの時間じかんは寝ねているはず。「はい？」「俺おれだ。」扉とびらの向むこうから道明寺どうみょうじの声こえ。道明寺どうみょうじがあたしの部屋へやまで来くるなんて初はじめてのこと。静しずかに扉とびらを開あけると、

眠ねむれない夜よる 22

夏休なつやすみも残のこすところ1週間しゅうかん。就活しゅうかつやバイトに追おわれ、結局けっきょく夏休なつやすみ中ちゅうに花沢はなざわ類るいと会あったのもほんの数日すうじつ、しかもキャンパス内ないでだけだった為ため、「少すこしは俺おれに時間じかんを割さいてよ。」と言いわれ、今日きょうは2人ふたりでドライブに行いってきた。少すこし遠出とおでをして、街まちをプラプラ散策さんさくし、美味びみ

眠ねむれない夜よる 21

花沢はなざわ類るいに連つれられて、美音みねさんが入院にゅういんしている病院びょういんにまで来きてしまった。美音みねさんと特別とくべつ親したしい訳わけでもない。あたしなんかが.........と思おもったけれど、断ことわれずに付ついて来きてしまった理由りゆうはただ1つ。道明寺どうみょうじに会あいたかったから。別べつに変へんな意味いみでは無ない。ただ

眠ねむれない夜よる 20

新潟にいがたの実家じっかから道明寺どうみょうじ邸ていに戻もどり3日にちが過すぎた。その間あいだ、一いち度ども道明寺どうみょうじの姿すがたを見みていない。あの日ひ、新潟にいがたから急遽きゅうきょ東京とうきょうに戻もどった道明寺どうみょうじに「無事ぶじに着ついた？」とメールを送おくったけれど、未いまだに返事へんじは無ない。美音みねさんに何なにがあったのだろうか。道明寺どうみょうじに会あったら聞きいてみよう

眠ねむれない夜よる 19

総そう二に郎ろうの電話でんわで呼よび出だされ、東京とうきょうの大学だいがく病院びょういんに着ついたのは22時じを回まわっていた。病室びょうしつの前まえに行いくと、あきらと総そう二に郎ろうが硬かたい表情ひょうじょうで立たっていて、俺おれを見みつけると、「おう、待まってたぞ。」と、肩かたに手てを置おく。「美音びおんは？」「安静あんせいに…って言いわれて眠ねむってる。中なかに美音びおんの両りょう

眠ねむれない夜よる 18

次つぎの日ひ、目めを覚さますとあたしの両隣りょうどなりの布団ふとんは空そらだった。慌あわてて下したにおりると、リビングでパパとママ、進すすむ、そして道明寺どうみょうじが仲良なかよく朝あさごはん中ちゅう。「つくし、遅おそいわよ〜。」ママにそう言いわれ時計とけいを見みると、まだ8時じ前まえ。「えっ、みんなが早はやくない？」困惑こんわくしながら急いそいで

眠ねむれない夜よる 17

新潟にいがた行いきの新幹線しんかんせんの中なか。あたしの隣となりには長ながい足あしを窮屈きゅうくつそうに組くみ、座すわる道明寺どうみょうじがいる。新幹線しんかんせんに乗のるまでは何なにかの冗談じょうだんだと思おもっていたのに、まさか本当ほんとうに新潟にいがたまでくるとは思おもいもしなかった。だから、もう何なん度ども聞きいたセリフをもう一度いちどこの人ひとに言いう。「本当ほんとうに付ついて

眠ねむれない夜よる 16

パーティーの日ひ以来いらい、道明寺どうみょうじの機嫌きげんが悪わるい。会あえば突つっかかってくるし話はなせば口論こうろんになる。「喧嘩けんかでもした？」椿つばきさんにも心配しんぱいされるけど、思おもい当あたる節ふしは全まったくない。今日きょうも朝あさから登校とうこう中ちゅうの車くるまの中なかで、「おまえさ、」と、喧嘩腰けんかごしにあたしを睨にらむこの男おとこ。「何なによっ。」「

眠ねむれない夜よる 15

パーティーが終おわり邸ていは静しずけさを取とり戻もどしたというのに、俺おれの部屋へやではまだこいつらがうだうだと長居ながいをして騒さわいでいる。「早はやく帰かえれよお前まえらも。」「司つかさー、いーだろ久ひさしぶりにおまえの部屋へやに来きたんだから。」「どうせ、俺おれのコレクションを呑のみてぇだけだろ。」長ちょう

眠ねむれない夜よる 14

毎年まいとし恒例こうれいの会長かいちょうのバースデーパーティーが始はじまった。招待客しょうたいきゃくは300人にんほど、邸やしきの中庭なかにわをメインにオーケストラの演奏えんそうと三ツ星みつぼしシェフの料理りょうりが並ならんでいる。パーティーには花沢はなざわ家か、西門にしもん家か、美作みさく家かももちろん招待しょうたいされていて久ひさしぶりにF4の両親りょうしんが顔かおを合あわせた。そし

眠ねむれない夜よる 13

それから3週間しゅうかんがたった頃ころ、邸やしきの中なかがいつもより慌あわただしい事ことに気付きづき椿つばきさんに聞きいてみる。「何なにかあるんですか？」「来週らいしゅうの日曜日にちようび、おじい様さまのお誕生たんじょう日びなの。毎年まいとし、邸やしきにお客様きゃくさまをお呼よびしてパーティーを開ひらくのよ。今年ことしはもちろんつくしちゃんも参加さんかしてね。そう

眠ねむれない夜よる 12

「最近さいきん、司つかさとはどう？」大学だいがく内ないにあるいつものベンチ。邸やしきで作つくってきたお弁当べんとうを食たべているあたしに花沢はなざわ類るいが聞きく。「どうって相変あいかわらず態度たいどだけは大おおきいけど…、まぁ、以前いぜんよりは近付ちかづきやすくなったかな。」「へぇ、話はなしたりするんだ。」「するよ。でも、あの人ひと