オリラジ藤森ふじもり慎吾しんごさん　周まわりを生いかし、照てらしてもらう「プライドレス」な独立どくりつ後ごの生いき方かた

中田なかた敦彦あつひこさんから「泣ないた」とメール

――「オマエなんて、“生粋きっすい（きっすい）のコウモリ野郎やろう”だ！」「この“関東かんとう一いちの媚こび（こ）び売うりメガネ”！」。舞台ぶたい上じょうで、相方あいかたの中田なかた敦彦あつひこさんから向むけられた酷ひどい悪口わるぐちで始はじまる著書ちょしょが評判ひょうばんとなっていますね。

　「さすがあっちゃん、うまいこと言いうなあ」って感心かんしんしてしまいました。これまで、自分じぶんのことをこんなにしっかりと語かたったことはなかったんです。僕ぼくがどんな人間にんげんなのか、ちょっとでも届とどけば嬉うれしい。相方あいかたからもメールが来きて、ムチャクチャ嬉うれしい感想かんそうを送おくってくれました。

――中田なかたさんのメールには、どんな言葉ことばが記しるされていたのですか。

　「すごく泣ないたし、嬉うれしかった。優やさしさと気遣きづかいのある本ほんだなあ」って。それだけで大だい満足まんぞくです、今回こんかい。

――吉本興業よしもとこうぎょうを退すさ所ところされる際さいの、おふたりのYouTube動画どうがは、まるで結婚けっこん記者きしゃ会見かいけんを見みているようでした。お互たがいを信頼しんらいし、尊敬そんけいし合あっているのを感かんじます。

　いやあ、ありがとうございます。（中田なかたさんとは）いろいろあったけれど、最終さいしゅう的てきに笑顔えがおで話はなせる関係かんけい性せいになれたのは、すごく良よかったです。本ほんにも書かきましたが、僕ぼくは相方あいかたのことを苦手にがてに思おもっていた時期じきがありました。いろんなストーリーが、ここでまとまったな、という感かんじです。

――どちらかと言いうと藤森ふじもりさんは、中田なかたさんと比くらべると、自己じこ主張しゅちょうするタイプではないようにお見受みうけします。この本ほんのように、ご自身じしんの内面ないめんをここまで赤裸々せきららに語かたるのは意外いがいにも思おもえます。

　別べつに、もったいぶっていたわけではないですよ。そもそも「皆みな、そんなに藤森ふじもりに興味きょうみないだろ！」って思おもっていたんで。

――いやいやいや！　そんなことないです。

　あっちゃんが、とにかく発信はっしんするのが好すきだし、自分じぶんの表現ひょうげんを他人たにんに伝つたえたいタイプ。僕ぼくは、あっちゃんの横よこで「オーディエンス」として聞きいているのがすごく楽たのしかったし、それが自分じぶんの「性せい」に合あっていたと思おもっています。

――今回こんかい、出版しゅっぱんしようと考かんがえるに至いたったきっかけは。

　相方あいかたの本ほんが出でた昨年さくねん、前まえのチーフマネジャーから「中田なかたさんだけでなく、藤森ふじもりさんの本ほんも読よみたい」って言いわれて。「え、ホントに？」「少すくなくとも僕ぼくは興味きょうみあります」「ありがとう。じゃ、出だしてみようか」みたいな感かんじで決きまりました。でも、ありがたいですね、そう言いってもらえたのは。

――本ほんをご自身じしんでつくり上あげていく作業さぎょうは、たとえば現在げんざいご出演しゅつえん中ちゅうの情報じょうほう番組ばんぐみ「王様おうさまのブランチ」（TBS系けい）などといった、藤森ふじもりさんの他ほかの活動かつどうの場ばと、どんな違ちがいがありましたか。

　本ほんをつくるにあたって出版しゅっぱん担当たんとうの方々かたがたと、とにかく喋しゃべったんです。僕ぼく自身じしん「こんなに自分じぶんのことが喋しゃべれるのか」と驚おどろくほどでした。楽たのしかった。「ブランチ」ではシチュエーションに応おうじていろんなことをやってきましたけれども、今回こんかいのように、ひとりで吐はき出だすことって楽たのしいな、と初はじめて思おもいました。

「チャラ男おとこ」から頼たよられキャラに

――「ブランチ」といえば、MC渡部わたなべ建けんさんがお休やすみすることになり、佐藤さとう栞里しおりさんがひとりでMCを務つとめることになった日ひ、藤森ふじもりさんは佐藤さとうさんの真横まよこで、熱あつい言葉ことばをかけながら支ささえた姿すがたに、「頼たより甲斐がい」や「リーダーシップ」を感かんじたんです。

　いやいや、そうおっしゃって頂いただけるのはすごく嬉うれしいんですけど、僕ぼく、そんなつもりはなくて。あの日ひ、番組ばんぐみが始はじまる前まえ、裏側うらがわ（のスタッフの雰囲気ふんいき）は和なごやかだったんです。「栞里しおりちゃん、頼たのむねー！」なんて僕ぼくは声こえをかけたんですよ。栞里しおりちゃんは「大丈夫だいじょうぶです、頑張がんばります！」って言いっていた。ところが、オンエアが始はじまると急きゅうに涙なみだぐんじゃった。だから、こっちまで感極かんきわまってしまって……。

　渡部わたなべさんは、僕ぼくらにとって仲間なかまだったというのもあったので、「渡部わたなべ、聴きいているか！」「栞里しおりちゃんにこんな顔がおをさせるんじゃねえよ！」って。そうしたらネットニュースになって、「藤森ふじもりの男気おとこぎに感動かんどう」などと記事きじが出でてしまった。予期よきせぬところで僕ぼくの男気おとこぎが上あがってしまったんです。渡部わたなべさんには申もうし訳わけなかった。何なんだかダシに使つかったみたいで。

――渡部わたなべさんは、藤森ふじもりさんにとってどんな存在そんざいですか。

　僕ぼく、渡部わたなべさんのこと、ずっと本当ほんとうに今いまでも……。お世話せわになった先輩せんぱいです。いろんなことを努力どりょくで勝かち得えた人ひとだと思おもいます。渡部わたなべさんは、いろんなことを冷静れいせいに分析ぶんせきし、今いま、自分じぶんに足たりないものや、それをどう補おぎなえば良よいのか、そして、補おぎなっていけばどんな道みちが切きり拓ひらけるのかを、ずっとコツコツ考かんがえてきた方ほうだった。先輩せんぱいとして尊敬そんけいしていました。そんな（お互たがいの）関係かんけい性せいがあっての発言はつげんだったんです。

――コロナ禍かにおいて、生放送なまほうそうの進行しんこうは試行錯誤しこうさくごの連続れんぞくかと推察すいさつします。そのなかで藤森ふじもりさん、頼たよりがいのあるキャラクターに、急速きゅうそくに変かわっておられるな、って。

　ありがとうございます。でも僕ぼくは、特別とくべつなスキルがあって、番組ばんぐみを引ひっ張ぱってまとめるとかではないんです。共演きょうえん者しゃは皆みな、僕ぼくより年下とししたの子こたちで、若わかい子こは22、23歳さい。皆みながバラエティー特有とくゆうの緊張きんちょう感かんを感かんじずに、和なごやかに、終始しゅうし笑顔えがおでいられる空間くうかんがつくれたら、って気持きもちです。本当ほんとうに皆みな、すごい才能さいのうの持もち主ぬし。任まかせておけば面白おもしろいし、「俺おれが何なんとかしてやろう」というのは、おこがましいし、畏かしこ（おそ）れ多おおいです。佐藤さとう栞里しおりちゃんはホント、ずば抜ぬけているんですよ、能力のうりょくが。のびのびやってもらえたら、僕ぼくは嬉うれしいです。

自分じぶんが傷きずつきたくないから、他人たにんを傷きずつけない

――コンビ結成けっせい前まえ、「お笑わらいの道みちに進すすもう」と最初さいしょにい出いだしたのは、意外いがいにも藤森ふじもりさんでしたよね。

　そうですね、誘さそったのは。

――中田なかたさんが司令塔しれいとうとして突つき進すすむ存在そんざいであるように見みえて、始はじまりの一いち歩ほを踏ふみ出だしたり、要所ようしょを押おさえたりしてきたのは、じつは藤森ふじもりさん。本当ほんとうは芯しんがあって、思おもいが熱あつい人ひとなのかも、などと思おもっているのですが。

　誘さそったのは、たしかに僕ぼくだった。でも、正直しょうじきに言いえば僕ぼくは当時とうじ、お笑わらいのことをすごく好すきだったわけでも、詳くわしかったわけでもない。当時とうじは「相方あいかたとやればうまくいくんじゃないか」ってことだけです。それほど、あっちゃんの才能さいのうに引ひき寄よせられていた。彼かれがなかなか芸人げいにんへの道みちに踏ふみ出だせなかった時ときに、僕ぼくがチョンチョンと突ついた。何なん度どか突つき続つづけたら、ガバッて食くいついてきてくれたんです。

――デビュー直後ちょくごにリズムネタ「武勇ぶゆう伝でん」で大だいブレークして以降いこう、順風じゅんぷう満まん帆ほだったのかと思おもいきや、数々かずかずの葛藤かっとうを抱かかえていたんですね。レギュラー番組ばんぐみが減へることへの焦あせり、キャラ確立かくりつへの迷走めいそう……。そんなご自身じしんの経験けいけんを、後輩こうはい芸人げいにんに伝つたえることは。

　いや、どうですかねえ。「第だい7世代せだい」とかにですか？

――それこそ第だい７世代せだいの「EXIT」は、藤森ふじもりさんの「チャラ男おとこ」芸げいの流ながれを継ついでいるじゃないですか。

　「EXIT」には最初さいしょ、率直そっちょくにビックリしました。「チャラ男おとこ」というジャンルをやってくれる芸人げいにんがついに現あらわれた。嬉うれしかった。「ジャンルとしてあり得えるんだ！」って。MCスキルが高たかい芸人げいにん、コントがすごく面白おもしろい芸人げいにん、ギャグが得意とくいな芸人げいにん、そういったなかに、「チャラ男おとこ」というジャンルを連つらねさせてくれたのが嬉うれしかった。

――その「チャラ男おとこ」のキャラクターを生うみ出だしてくださったのは、「笑わらっていいとも！」（フジテレビ系けい）で共演きょうえんされたタモリさんだったそうですね。

　タモリさん、「キャラを俺おれが引ひき出だしてやったんだ」とか言いうタイプの人ひとではありません。でも、僕ぼくは今いまも感謝かんしゃしている。あれだけの大御所おおごしょなのに偉えらぶらない。そして、面白おもしろい。「何なんでそんなセンスの言葉ことばが出でてくるんですか？」って言葉ことばが出でてくるんです。お人柄ひとがらなんでしょうね。仏ふつのような、凪なぎのような感情かんじょうの持もち主ぬし。いろんな側面そくめんから好すきです、タモリさん。

――「チャラ男おとこ」の「君きみ、かわうぃーね！」、そして「武勇ぶゆう伝でん」の「あっちゃんカッコイイ！」。いずれも、ポジティブな言葉ことばを笑わらいにつなぐ姿勢しせいが、藤森ふじもりさんの最大さいだいの魅力みりょくですよね。ただ、現実げんじつ社会しゃかいはネガティブな言葉ことばに溢あふれ、生いきにくい。藤森ふじもりさんが日々ひびの暮くらしで大事だいじにしておられることは。

　メチャクチャありきたりですけど、「自分じぶんが傷きずつきたくないので、他人たにんを傷きずつけない」ということは心掛こころがけているかも知しれません。SNSは相手あいてが見みえないんで、誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうの言葉ことばは見みない。無視むしすることに限かぎると思おもっています。

　でも、仕事しごとやプライベートで出会であう人ひととは最初さいしょ、「この人ひととは合あわないかな」って思おもったとしても、正面しょうめんからちゃんと向むき合あい、こっちが優やさしさを示しめすんです。そうすれば、意外いがいと向むこうも優やさしさを示しめしてくれる。これは僕ぼくの経験けいけん上じょう、感かんじてきたことですね。何なんだか子こどもみたいな話はなしで恐縮きょうしゅくなんですけど、この年齢ねんれいになってようやく「本当ほんとうにそうだ」ってわかってきた気きがしています。

確固かっこたる自分じぶんより、照てらしてくれる周まわりを大事だいじに

――最近さいきんではミュージカルに出演しゅつえんされるなど、活躍かつやくの場ばを広ひろげておられます。吉本よしもと退すさ所しょ後ご、仕事しごと面めんで大おおきく変かわったことは。将来しょうらい的てきにどんな働はたらき方かたをしていきたいか、ビジョンを描えがいていますか。

　いま、仕事しごとがかなりタイトで、ちょっと詰つめ込こみ過すぎちゃって……。キャパを超こえ、良よいパフォーマンスが出だせなくなっては元もとも子こもありません。現在げんざい、オファーを受うける仕事しごとと、自分じぶんで発信はっしんする仕事しごとと、両面りょうめん持もっています。バランスを取とりつつやっていきたい。忙いそがしくなり過すぎないように気きをつけようと思おもっています。

――週しゅう４日にち、YouTubeを更新こうしんしていますね。かなり頻繁ひんぱんな更新こうしんですが、ぶっちゃけ、ヘビーでは？

　ヘビーなんですけど、「俺おれ、これ楽たのしく続つづけられるかも！」って思おもっているんです。追おわれてやっている感覚かんかくが一切いっさいない。YouTubeは自分じぶん自身じしんのことがすごく伝つたわるし、自分じぶんを知しってもらえるんです。

――（車くるまの助手じょしゅ席せきにゲストを乗のせ、会話かいわをしていく）「ドライブトーク」のコーナーでは、吉田よしだ沙すな保里ほりさん、手て越こし祐也ゆうやさんなど、横よこに乗のったゲストの人ひとたちをリラックスさせ、自分じぶんらしい言葉ことばをポンポン引ひき出だしている。「き方きかたがうまいなあ」って。

　いやいや、ホントにね、意識いしきしてやっていることじゃないんです。でも、僕ぼくは、相手あいてが無理むりなく楽たのしそうに喋しゃべって「藤森ふじもりと一緒いっしょにいる時間じかんが何なんだか楽たのしかったなあ」と思おもってもらえることが嬉うれしいんです。テレビだと成立せいりつしづらいですけど、YouTubeならではのコンテンツだな、と思おもいます。「藤森ふじもりさん、相手あいての良よさを引ひき出だすのがうまいよね」という言葉ことばもコメント欄らんでかけてもらいました。最初さいしょは不安ふあんでいっぱいだったんですけど、自分じぶん自身じしん大おおきな発見はっけんでした。

――今後こんご、２冊さつ目めの出版しゅっぱんの予定よていは。

　また今度こんどは違ちがった観点かんてんで、例たとえばビジネス書しょなどにも挑戦ちょうせんできたらと思おもいます。コミュニケーションに特とく化かしたものなどに興味きょうみを持もっています。ただ、無理むりなことはやらないです。

――あくまで力りきまずにやることが肝要かんようなのですね。ところで、フリーランスの道みちを歩あゆむことになった藤森ふじもりさんにとって、今いま、人生じんせいのロールモデルみたいな存在そんざいはいますか。

　いやあ、あんまり考かんがえたことなかったですけど、高田たかだ純じゅん次じさんみたいな人ひとが理想りそうだなって。ご自身じしんで事務所じむしょをやっているし、テレビで「面白おもしろいおじさん」をやって、ドラマに出でて、舞台ぶたいをやって、ひとに愛あいされて。すごく好すきです、高田たかだ純じゅん次じさん。

――高田たかださんは、ご自身じしんの時間じかんも大切たいせつになさっているイメージがありますよね。

　そうですね。あと、見みた目めもカッコ良よい。僕ぼくと一緒いっしょでクルマやゴルフが好すきだし。もしかしたら僕ぼく、高田たかだ純じゅん次じさんを追おいかけているのかも知しれない。

――今いま、このような社会しゃかい情勢じょうせいのなかで、働はたらくことや人生じんせい設計せっけいなどについて不安ふあんや疑問ぎもんを抱かかえる人ひとたちがたくさんいると思おもいます。新あらたな人生じんせいに踏ふみ出だした藤森ふじもりさんは、どんな言葉ことばをかけますか。

　「自分じぶんでやる」「独立どくりつする」ことだけが、正義せいぎだとは思おもいません。現時点げんじてんの環境かんきょうで最大限さいだいげんのパフォーマンスができるなら、その場ばでしっかりやるべきだと思おもいます。僕ぼくらの場合ばあい、いろいろ考かんがえた上うえで、新あたらしいことに挑戦ちょうせんしたいという結論けつろんに達たっしたから、独立どくりつという選択せんたくをしただけです。

　ただ、皆みなさんも、そんなやみくもに不安ふあんに苛（さいな）まれる必要ひつようはないかな、とも思おもいます。確固かっこたる自分じぶんより、自分じぶんを照てらしてくれる周まわりのほうが大切たいせつ。「プライドレス」に自分じぶんのことは脇わきに置おき、笑顔えがおで過すごす生いき方かたをする人ひとたちが増ふえていけば、世よの中なか、もうちょっとギスギス感かんはなくなるかも、と思おもっているんです。