「二に重じゅうのまち／交代こうたい地ちのうた」書評しょひょう　失うしなわれた記憶きおくの居場所いばしょをつくる

評者ひょうしゃ：温ぬる又また柔やわら／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2021年ねん05月がつ01日にち

二に重じゅうのまち／交代こうたい地ちのうた著者ちょしゃ：瀬尾せお夏美なつみ出版しゅっぱん社しゃ：書肆しょし侃ただし侃ただし房ぼうジャンル：芸術げいじゅつ・アート

ISBN: 9784863854499
発売はつばい⽇： 2021/03/01
サイズ: １９ｃｍせんちめーとる／２５３ｐ

「二に重じゅうのまち／交代こうたい地ちのうた」　［著ちょ］瀬尾せお夏美なつみ

　町まちが、波なみに呑（の）まれる。その後ご、復興ふっこうの名なのもと山やまが一ひとつ潰つぶされその土どを用もちいて、あたらしい町まちはつくられた。時ときは流ながれる。震災しんさい当時とうじ、子こどもだった人ひとたちや、そのずっと後のちに生うまれた人ひとは、だんだん大おおきくなる。かつての町まちを忘わすれたくない人ひとびとも、徐々じょじょに年老としおいてゆく……。
　岩手いわて県けん陸前高田りくぜんたかた市し。嵩かさ（かさ）上あげによる復興ふっこう工事こうじは、「かつての町まち跡あとが失うしなわれていく過程かてい」でもあった。その一連いちれんの出来事できごとを“第だい二にの喪失そうしつ”と呼よぶ土地とちの人ひともいる。
　著者ちょしゃは、「陸前高田りくぜんたかたで出会であってきた人ひとびと」の記憶きおくのよりどころであった風景ふうけいが変容へんようしてゆく「復興ふっこう工事こうじのはざま」で見みたもの、聞きいた話はなし、感かんじたことを、刻々こくこくとスケッチしてきた。
　２０１９年ねん刊行かんこうの前まえ著ちょ『あわいゆくころ』に続つづき、本書ほんしょも、「土地とちの人ひとびとの言葉ことばと風景ふうけいの記録きろくを考かんがえながら、絵えや文章ぶんしょうをつくっている」著者ちょしゃの、書物しょもつというかたちに織おり成なされた結晶けっしょうの一ひとつである。
　やさしい水彩すいさい画がとふくよかな言葉ことばによって綴つづり（つづ）られる絵え物語ものがたりの舞台ぶたいは２０３１年ねん。「ぼくの暮くらしているまちの下したには／お父とうさんとお母かあさんが育そだったまちがある／ある日ひ、お父とうさんが教おしえてくれた」
　あたらしい町まちの地面じめんの下したには、山やまが削けずられ、波なみにさらわれる以前いぜんの町まちが存在そんざいしている。架空かくうの物語ものがたりではあるけれど、そこには確たしかに、かつての町まちにまつわる記憶きおくを語かたってきた幾いく人にんもの人ひとの、その“語かたれなさ”をも含ふくんだ息吹いぶきが宿やどっている。
　「ふたりはわたしよりも、きっと早はやく死しんでしまうでしょう／だから、ふたりがわすれたくないことは／わたしがおぼえていたいと思おもってる」
　祖父母そふぼが絶対ぜったいに忘わすれたくないことを覚おぼえていたいと願ねがう「わたし」。その思おもいに、「誰だれかが抱かかえたままでいる、さみしさ」に深ふかく共感きょうかんし、失うしなわれた風景ふうけいと結むすびついた記憶きおくの肌触はだざわりや、その居場所いばしょを、物語ものがたりの中なかに創つくり出だそうと試こころみる著者ちょしゃの志こころざしが重かさなる。
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せお・なつみ　１９８８年ねん生うまれ。仙台せんだいを拠点きょてんに記録きろく活動かつどうに携たずさわる。『あわいゆくころ』で鉄てつ犬けんヘテロトピア文学ぶんがく賞しょう。