ベストセラー『桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと』　著者ちょしゃ・宇山うやま佳佑けいすけさんの作品さくひんの魅力みりょくを探さぐる

　きっと、涙なみだが止とまらない。桜さくらのように儚はかなく美うつくしい恋こいの物語ものがたり――。宇山うやま佳佑けいすけさんの小説しょうせつ『桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと』（集英社しゅうえいしゃ文庫ぶんこ）をご存ぞんじでしょうか。TikTokで爆発ばくはつ的てきな人気にんきを得えて発行はっこう部数ぶすう59万まん部ぶを突破とっぱしたベストセラーで、Netflix映画えいがとして中島なかじま健けん人じんさん、松本まつもと穂みのる香がさん出演しゅつえんで映像えいぞう化かも決きまった作品さくひんです。宇山うやまさんが手てがける恋愛れんあい小説しょうせつは、ほかにも『この恋こいは世界せかいでいちばん美うつくしい雨あめ』『恋こいに焦こがれたブルー』など、特とくに女性じょせいを中心ちゅうしんに支持しじされています。宇山うやま作品さくひんの人気にんきの理由りゆうを探さぐってみました。

　宇山うやま佳佑けいすけさんの恋愛れんあい小説しょうせつがいま話題わだいを集あつめています。2017年ねんに発売はつばいされた『桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと』は発行はっこう部数ぶすう59万まん部ぶを突破とっぱ。その後ごの『この恋こいは世界せかいでいちばん美うつくしい雨あめ』『恋こいに焦こがれたブルー』も、若わかい女性じょせいを中心ちゅうしんに圧倒的あっとうてきな人気にんきがあります。

　「読後感どくごかんがよく、初はじめて小説しょうせつを読よむ人ひとや小説しょうせつを読よむことに慣なれていない若わかい人ひとたちの入いり口くちにぴったり」。書評しょひょう家かの東あずまえりかさんが語かたるように、宇山うやま作品さくひんは読よみやすく、誰だれもがすぐに小説しょうせつの世界せかいに入はいり込こめます。そんな親したしみやすい作風さくふうは、宇山うやまさんがもともと脚本きゃくほん家かであることも大おおきく関係かんけいしているのでしょう。

宇山うやま佳佑けいすけ・著ちょ『この恋こいは世界せかいでいちばん美うつくしい雨あめ』『恋こいに焦こがれたブルー』

若者わかものから大人おとなまで泣なかせる秘密ひみつ

　主人公しゅじんこうは夢ゆめに向むかって日々ひびを精一杯せいいっぱい生いきている若者わかものたち。仲なかむつまじいカップルが、思おもいもよらぬ不条理ふじょうりな運命うんめいに引ひき裂さかれ、葛藤かっとうし、それでも愛あいする人ひとのために生いきていく……。宇山うやま作品さくひんの多おおくは、そんな恋愛れんあい小説しょうせつの王道おうどうをいくものです。それでありながら号泣ごうきゅうする人ひとが続出ぞくしゅつし、新あらたなファンを生うみ出だし続つづけている。そこに作家さっかとしての宇山うやまさんのすごみを感かんじます。

　「宇山うやま作品さくひんの多おおくは、痛切つうせつな『痛いたみ』とともに、握にぎる手てのあたたかさをよく描写びょうしゃしています。SNSで多おおくの人ひととつながり、共感きょうかんを求もとめながらも、自分じぶんのテリトリーには他者たしゃを入いれたくない。そんな他者たしゃとつながることへの希望きぼうと恐おそれをもつ、今いまの若者わかもの世代せだいの感性かんせいをうまくすくいとっていることも人気にんきの理由りゆうだと思おもいます」（東ひがしさん）

　宇山うやま作品さくひんは10代だけでなく、その親おや世代せだいである40代だい女性じょせいにもよく読よまれています。ピュアで人ひとによっては気き恥はずかしさを感かんじかねない純愛じゅんあい小説しょうせつに、人生じんせい経験けいけん豊富ほうふな40代だい女性じょせいが共感きょうかんしているのはなぜなのか。この点てんについて東ひがしさんはグリム童話どうわとの共通きょうつう性せいを指摘してきします。

　「グリム童話どうわは子こどものための絵本えほんになる過程かていで、原作げんさくがもっていた残酷ざんこくさや怖こわさ、後味あとあじの悪わるさが消きえていきました。でも大人おとなはそんな絵本えほんを読よみながら、そこに書かかれていないことにも思おもいをはせます。宇山うやま作品さくひんにもそんな重層じゅうそう性せいを感かんじます。例たとえば『桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと』は、透明とうめいな海うみを気持きもちよく泳およいでいるような感覚かんかくになる小説しょうせつです。若わかい読者どくしゃはその感覚かんかくを素直すなおに楽たのしみ、大人おとなたちはその背後はいごにある苦にがい部分ぶぶんに共感きょうかんしているのではないでしょうか」（東ひがしさん）

「LAL!ROLE」さんが四季しきのイラストを描えがいた「桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと」の特別とくべつカバー４種しゅ

号泣ごうきゅうした書店しょてん員いんが販促はんそくに力ちからをいれる

　そんな『桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと』の魅力みりょくに、書店しょてん員いんは早はやい段階だんかいから気きづいていました。「発売はつばいしてすぐ、担当たんとうスタッフ全員ぜんいんが読よんで号泣ごうきゅうし、この作品さくひんの話はなしで盛もり上あがりました。こんなことはめったにないことです。そこでこの本ほんを〝当店とうてんで一番いちばん泣なける小説しょうせつ〟として打うち出だすことを決きめました」。三省堂さんせいどう書店しょてん名古屋なごや本店ほんてんの文芸ぶんげい書しょ・文庫ぶんこ担当たんとうの本間ほんま菜月なつきさんはそう語かたります。

　同店どうてんでは鼻はなにやさしい保湿ほしつティッシュをつけ、「可能かのうな限かぎり、お休やすみの前まえの日ひに、読よむのがオススメです。（目めが腫はれます！（笑））」との言葉ことばを添そえた専用せんようPOPを設置せっち。かわいらしい表紙ひょうしにひかれて手てにする若者わかものも多おおく、売うれ行ゆきは最初さいしょから好調こうちょうだったと言いいます。重版じゅうはんのタイミングで、夏なつの花火はなびや秋あきのいちょう並木なみきなど四季しきごとのイラストのカバーが作つくられ、季き節ぶしを問とわず、お客きゃくさんの注目ちゅうもくを集あつめ続つづけたそうです。

三省堂さんせいどう書店しょてん名古屋なごや本店ほんてんの書店しょてん員いんが作つくった「桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと」POP

　さらに昨年さくねんの7月つき以降いこう、全国ぜんこくの書店しょてんで思おもわぬ現象げんしょうが起おきます。これまでに増まして急激きゅうげきに売うり上あげが伸のび、在庫ざいこ不足ふそくに陥おちいったのです。出版しゅっぱん社しゃはあわてて増刷ぞうさつしましたが、最初さいしょはなぜこんなに急きゅうに売うれるようになったのか、不思議ふしぎだったそうです。

小説しょうせつを読よみ慣なれない若者わかものの共感きょうかんを集あつめた一ひとつの動画どうが

　やがてその理由りゆうが判明はんめいします。TikTokにユーザーが投稿とうこうした一ひとつの動画どうがが原因げんいんでした。小説しょうせつの内容ないようを紹介しょうかいしているわけでもなく、単たんに音楽おんがくに合あわせて書しょ影かげを映うつし、短みじかい感想かんそうを載のせただけの動画どうがでした。ところがその動画どうがにたくさんの「いいね」がつき、「私わたしも泣ないた」「最高さいこうだった」などといったコメントが増ふえていったのです。その後ご、コメント欄らんはこの作品さくひんを愛あいする人ひとのコメントで盛もり上あがり、それを読よんだ人ひとが新あらたに本ほんを購入こうにゅうするようになっていきます。

　書店しょてんでは「TikTokを見みて買かいに来きたのですが、この本ほんはどこにあるのですか？」などと尋たずねる人ひとが増ふえました。「小説しょうせつを読よむのは嫌きらいだったけど、この本ほんを読よんだおかげで小説しょうせつが好すきになった」「本ほんなんて面白おもしろくないと思おもっていた自分じぶんが読よんで号泣ごうきゅうした」。そんなコメントが象徴しょうちょうするように、TikTokの動画どうがをきっかけに、それまで小説しょうせつを読よんでいなかった層そうが、宇山うやま作品さくひんを読よむようになったのです。

　それにしても『桜さくらのような僕ぼくの恋人こいびと』は、なぜここまでTikTokユーザーの心しんをひきつけたのでしょうか。TikTokで「#本ほんの紹介しょうかい」キャンペーンなどを担当たんとうする、運営うんえいチーム・石谷いしがや祐ゆう真しんさんに聞ききました。

　「正直しょうじき、私わたしどもも驚おどろいています。ただTikTokは投稿とうこうされた動画どうがを起点きてんに、それに共感きょうかんする人ひとが集あつまり、一種いっしゅのコミュニティーとして盛もり上あがっていく傾向けいこうがあります。著名ちょめい人じんやインフルエンサーではない一般いっぱんの方ほうの投稿とうこうでも、共感きょうかんされればどんどん視聴しちょう者しゃが増ふえ、長期ちょうき的てきに盛もり上あがっていきます。そんなTikTokの特性とくせいが、この作品さくひんへの共感きょうかんを大おおきく広ひろげるうえで一役ひとやくかったのだと思おもいます」（石谷いしがやさん）

　動画どうがプラットフォームであるがゆえに、情緒じょうちょ的てきな共感きょうかんが広ひろがりやすい面めんもあったのでしょう。いずれにしろベストセラーは、ふだん本ほんを熱心ねっしんに読よんでいない層そうが手てにとることで生しょうじる現象げんしょうです。これまでの純愛じゅんあい小説しょうせつのベストセラーも、実際じっさいに本ほんを読よんだ人ひとの「感動かんどうした」「泣なけた」との口くちコミが大おおきな要因よういんとなって人気にんきに火ひがつきました。そういった意味いみではTikTokをきっかけにした宇山うやま作品さくひんのブレークは、極きわめて今日きょう的てきな現象げんしょうでありながら、まさにベストセラーの王道おうどうをいくものだと言いえるでしょう。