「酔よっぱらいが変かえた世界せかい史し」書評しょひょう　身みにしみる逸話いつわで酒さけが飲のめるぞ

評者ひょうしゃ：石飛いしとび徳とく樹じゅ／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2021年ねん09月がつ04日にち

酔よっぱらいが変かえた世界せかい史しアレクサンドロス大王だいおうからエリツィンまで著者ちょしゃ：神田かんだ順子じゅんこ出版しゅっぱん社しゃ：原はら書房しょぼうジャンル：歴史れきし・地理ちり・民俗みんぞく

ISBN: 9784562059379
発売はつばい⽇： 2021/08/03
サイズ: ２０ｃｍせんちめーとる／２０３ｐ

「酔よっぱらいが変かえた世界せかい史し」　［著ちょ］ブノワ・フランクバルム

　左党さとうの肩身かたみがどんどん狭せまくなっている。飲のみ会かいは様々さまざまなハラスメントの温床おんしょうである、と厳きびしい批判ひはんを浴あびているところへ、コロナ禍かが追おい打うちを掛かけてきた。今いまや酒さけはすっかり社会しゃかいの敵てきになってしまった。
　そんな逆風ぎゃくふうの中なかで本書ほんしょは刊行かんこうされた。なになに？　１千せん万まん年ねん前まえの人類じんるいの祖先そせんの遺伝子いでんし変異へんいから、１９９４年ねんのチェチェン紛争ふんそうまで「アルコールが世界せかいを変かえた　２１の歴史れきし物語ものがたり！」だって？　歴史れきし上じょうの偉人いじんたちも酒さけが大好だいすきだったらしい。これは左党さとうの失地しっち回復かいふくを目指めざす書物しょもつではないか。
　第だい１章しょうは米国べいこくの研究けんきゅうが紹介しょうかいされる。１千せん万まん年ねん前まえ、人類じんるいの祖先そせんは「エタノールをより速はやく分解ぶんかい（代謝たいしゃ）できるようになる」。酒さけには細菌さいきん汚染おせんを防ふせぎ、食欲しょくよくを増進ぞうしんする効果こうかがある。「アルコールの摂取せっしゅはヒトの進化しんかを加速かそくさせた可能かのう性せいがある」
　そして、ピラミッド建設けんせつも、立憲りっけん君主くんしゅ制せいの誕生たんじょうも、米べい独立どくりつ戦争せんそうも、フランス革命かくめいも、マルクス主義まるくすしゅぎも、日にち露ろ戦争せんそうにも酒さけが絡からんでいるというのだ。軽妙けいみょうな文体ぶんたいもあって、少々しょうしょう酔よっていてもさくさく読よみ進すすめられる。しかしそのうち、本書ほんしょの効能こうのうは必かならずしも左党さとうの失地しっち回復かいふくではないことに気きづく。
　アレクサンドロス大王だいおうはローマとの覇権はけん争あらそいに臨のぞむ前まえに、深酒ふかざけのせいで３２歳さいの若わかさで世よを去さった。リンカーンが暗殺あんさつされたのは、ボディーガードが飲のんだくれていたからだという。
　ロシアが誇ほこるバルチック艦隊かんたいは、喜き望もち峰ほう経由けいゆで極東きょくとうに向むかうという長ながい長ながい旅たびの間あいだ、「ありとあらゆることに祝杯しゅくはいをあげながら時間じかんをつぶし」ていた。しらふで待まっていた日本にっぽんの連合れんごう艦隊かんたいに撃沈げきちんさせられ、「数すう百ひゃく本ほんの酒さけ瓶びんと四よん四よん〇〇名めいのロシア海兵かいへい隊員たいいんの死体したいが海峡かいきょうの海うみにただよっていた」。
　酒さけがろくでもない代物しろものだということが身みにしみてくる。「逆風ぎゃくふうも致いたし方かたない」と反省はんせいしつつ、「しかし」と左党さとうは考かんがえる。「この面白おもしろいエピソードを肴さかな（さかな）に一いち杯はい飲のめるぞ」と。リアルに飲のめる日ひが待まち遠どおしくなる。
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Benoît Franquebalme　ジャーナリスト。１９９７年ねんに「ラ・プロバンス」紙しでデビュー。

石飛いしとび徳とく樹じゅ（イシトビノリキ）朝日新聞社あさひしんぶんしゃ編集へんしゅう委員いいん

1960年ねん、大阪おおさか市し生うまれ。神戸大学こうべだいがく法学部ほうがくぶ卒そつ。84年ねん、朝日新聞社あさひしんぶんしゃに入社にゅうしゃ。現在げんざい、文化ぶんかくらし報道ほうどう部ぶで映画えいがを担当たんとう。編集へんしゅうに関かかわった本ほんに、樹木きき希林きりん著ちょ『この世よを生いき切きる醍醐味だいごみ』、蓮實はすみ重彦しげひこ著ちょ『見みるレッスン』など。2021年ねん4月がつより書評しょひょう委員いいん。