早稲田わせだアカデミー代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう・山本やまもと豊ゆたかさんの本棚ほんだな・教育きょういくの試行錯誤しこうさくごは、幅広はばひろい読書どくしょから

授業じゅぎょうの「導入どうにゅう」に役立やくだったブルーバックスシリーズ

　私わたしは文学部ぶんがくぶ出身しゅっしんですが、青春せいしゅん時代じだいの読書どくしょは、当時とうじ話題わだいの角川かどかわ映画えいがの原作げんさく本ほんや、海外かいがいの推理すいり小説しょうせつが中心ちゅうしんで、いわゆる文学ぶんがく青年せいねんではありませんでした。ただ、興味きょうみのある本ほんを貪むさぼり読よむタイプで、ある時期じき司馬しば遼太郎ろうなどに傾倒けいとうし、その影響えいきょうも多分たぶんにあって大学だいがくでは日本にっぽん史学しがくを専攻せんこうしました。在学ざいがく中ちゅうはアルバイトで早稲田わせだアカデミーの講師こうしを務つとめ、最初さいしょは中学ちゅうがく3年生ねんせいに社会しゃかいと理科りかを教おしえ、そのうち算数さんすう、数学すうがく、国語こくご、英語えいごも教おしえるようになりましたが、中なかでもいちばん教おしえて楽たのしかったのが算数さんすうでした。もともと理系りけいに行いこうかと悩なやんだほど数学すうがくが好すきで、物事ものごとをロジカルに考かんがえるタイプなので、向むいていたのだと思おもいます。

　就職しゅうしょく活動かつどうでは複数ふくすうの一部いちぶ上場じょうじょう企業きぎょうから内定ないていをもらいましたが、当時とうじはまだ弱小じゃくしょう無名むめいの早稲田わせだアカデミーに入社にゅうしゃしました。教おしえることが好すきでしたし、創業そうぎょう者しゃの須野すの田た誠まことが掲かかげた「本気ほんきでやる子こを育そだてる」という教育きょういく理念りねんに大おおいに共鳴きょうめいしたからです。私わたしが授業じゅぎょうで心こころがけていたのは、生涯しょうがい忘わすれない大切たいせつな記憶きおくとして知識ちしきや教養きょうようを生徒せいとの心しんに刻きざむこと。生徒せいとが初はじめて定理ていりや法則ほうそくを学まなぶ「導入どうにゅう」の授業じゅぎょうは特とくに大切たいせつだと考かんがえていました。例たとえば円周えんしゅう率りつを教おしえた時ときは、糸いとを配くばって計測けいそくさせたり、円周えんしゅう率りつの計算けいさんに生涯しょうがいを捧ささげたオランダの数学すうがく者しゃ・ルドルフについて紹介しょうかいしたり。ネタ元もとは、講談社こうだんしゃブルーバックスの『円周えんしゅう率りつπぱいの不思議ふしぎ』です。ブルーバックスシリーズには授業じゅぎょうに役立やくだつ本ほんがたくさんあり、後輩こうはい講師こうしの指導しどうに際さいし、推薦すいせん本ほんを社内しゃない報ほうで紹介しょうかいしたこともあります。印象いんしょうに残のこる授業じゅぎょうをと試行しこう錯誤さくごした思おもい出深でぶかいシリーズです。

　入社にゅうしゃ4年ねん目めで旗艦きかん校こう「早稲田わせだ校こう」の校長こうちょうを任まかされました。生徒せいとの受験じゅけん成果せいかをいかに上あげるか、入塾にゅうじゅく数すうをいかに伸のばすかといった総合そうごう的てきな視点してんが必要ひつようとなる中なかで、『多た変量へんりょう解析かいせきのはなし』を手てに取とりました。模試もしや受験じゅけんの結果けっか、生徒せいと・講師こうし・保護ほご者しゃのアンケート結果けっか、各かく学年がくねんの人数にんずう構成こうせいなど、多様たような情報じょうほうからその関係かんけい性せいを数値すうち化かし、未来みらいを予測よそくするためです。多た変量へんりょう解析かいせきに関かんする本ほんは複数ふくすう読よみましたが、本書ほんしょが最もっとも理解りかいしやすい内容ないようでした。また、須野すの田たにかけ合あって当時とうじは値ねの張はったパソコンを導入どうにゅうしてもらい、扱あつかい方かたを猛もう勉強べんきょうして解析かいせき結果けっかをデータベース化かしたことで、講師こうし陣じんや保護ほご者しゃに改善かいぜん策さくやより発展はってんした提案ていあんを示しめせるようになりました。当社とうしゃは現在げんざいDX（デジタルトランスフォーメーション）を加速かそくさせていますが、実じつはそのスタートは早はやく、出発しゅっぱつ点てんは読書どくしょでした。

熱ねつの塊かたまりのような創業そうぎょう者しゃの教育きょういく理念りねんが詰つまった一いち冊さつ

　入社にゅうしゃから10年ねんほどして本社ほんしゃの運営うんえい部長ぶちょうに就任しゅうにんし、料金りょうきんの収納しゅうのうや教材きょうざいの在庫ざいこ管理かんり、新しん校舎こうしゃ設立せつりつに向むけた不動産ふどうさん交渉こうしょう、広告こうこく宣伝せんでん、情報じょうほうシステム管理かんりなど、業務ぎょうむの幅はばが一気いっきに広ひろがりました。また、株式かぶしき上場じょうじょうを見据みすえ、その準備じゅんびに向むけた業務ぎょうむも任まかされ、さらに須野すの田たの著書ちょしょ執筆しっぴつの資料しりょう集あつめなども手伝てつだいました。須野すの田たは熱ねつの塊かたまりのような人ひとで、「大おおきな難題なんだいに直面ちょくめんした時ときに必要ひつようなのは、知恵ちえや洞察どうさつ力りょくや判断はんだん力りょく。それを養やしなうのに最もっとも効果こうか的てきな方法ほうほうは、少年しょうねん少女しょうじょ期きの頭脳ずのうトレーニングであり、努力どりょくを惜おしまず本気ほんきで受験じゅけん勉強べんきょうに取とり組くむことだ」と常々つねづね語かたり、その思おもいを『わが子こを救すくう教育きょういくサバイバル術じゅつ』に記しるしました。刊行かんこうされた2002年ねんはゆとり教育きょういくが始はじまるタイミングで、本書ほんしょはその問題もんだいにも触ふれています。刊行かんこうの6年ねん後ごに54歳さいで急逝きゅうせいした須野すの田たの教育きょういく理念りねんが詰つまった書しょです。

　須野すの田たが亡なくなる3年ねんほど前まえから、各校かくこうの校長こうちょうや管理かんり職しょくの研修けんしゅうを任まかされるようになりました。教育きょういく者しゃとしてのあり方かたをどう伝つたえるべきか。自分じぶんの経験けいけんを語かたるだけでは心許こころもとないので、ビジネス書しょや自己じこ啓発けいはつ書しょを読よみあさりました。中なかでも琴線きんせんに触ふれたのが、『生いき方かた』を始はじめとする稲いね盛もり和夫かずおさんの著書ちょしょ群ぐんです。「他たを利りするところにビジネスの原点げんてんがある」「利他りたに徹てっすれば物事ものごとを見みる視野しやも広ひろがる」。数々かずかずの金言きんげんをよりどころにしながら考かんがえを整理せいりし、研修けんしゅうに臨のぞんだ覚おぼえがあります。

　そしてもう一いち冊さつ、考かんがえ方かたの支柱しちゅうとなる本ほんが現あらわれました。『やり抜ぬく力ちから─人生じんせいのあらゆる成功せいこうを決きめる「究極きゅうきょくの能力のうりょく」を身みにつける』です。成功せいこうするために大切たいせつなのは、才能さいのうよりも「GRIT（やり抜ぬく力ちから）」であると、心理しんり学者がくしゃの著者ちょしゃは説ときます。深ふかく興味きょうみを持もったらわき目めもふらずに打うち込こんで、自分じぶんのスキルを上回うわまわる目標もくひょうを設定せっていしてはそれをクリアする。そうした「情熱じょうねつ」と「粘ねばり強づよさ」を持もつ人ひとが結果けっかを出だすという指摘してきは、我々われわれの教育きょういく理念りねんを鮮明せんめいに言語げんご化かした内容ないように思おもえ、膝ひざを打うちました。やり抜ぬく力ちからをどう伸のばすかという実践じっせん的てきな内容ないようも記しるされており、社内しゃないの多おおくの人ひとに本書ほんしょの魅力みりょくを伝つたえ、読よむように勧すすめています。

　文学部ぶんがくぶ卒そつでありながら文芸ぶんげい書しょはあまり読よんでこなかったと改あらためて思おもいますが、「深ふかく興味きょうみを持もったらわき目めもふらず」の読書どくしょが自分じぶんを作つくってくれたと思おもいます。（談だん）

山本やまもと豊ゆたかさんの経営けいえい論ろん

　首都しゅと圏けんを中心ちゅうしんに小学生しょうがくせい、中学生ちゅうがくせい、高校生こうこうせいを対象たいしょうとした進学しんがく塾じゅくを展開てんかいする早稲田わせだアカデミー。難関なんかん校こうへの高たかい合格ごうかく実績じっせきを背景はいけいに業績ぎょうせき拡大かくだいを続つづけている。代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょうの山本やまもと豊ゆたか氏しは、コロナ禍かにおける施策しさくや今後こんごの展望てんぼうについてどのような考かんがえを持もっているのだろう。

学力がくりょくに加くわえ、生いき抜ぬく力ちからを育はぐくむ

　小学しょうがく・中学ちゅうがく・高校生こうこうせい向むけの進学しんがく塾じゅく156校こうを運営うんえいする早稲田わせだアカデミー。開成かいせい高校こうこうや難関なんかん国立こくりつ大学だいがく付属ふぞく高校こうこう、早慶そうけいやMARCHの付属ふぞく高校こうこうなどに高たかい合格ごうかく実績じっせきを誇ほこる。中学ちゅうがく受験じゅけんにおいては首都しゅと圏けん「男女だんじょ御三家ごさんけ」の合格ごうかく実績じっせきを年々ねんねん伸のばしている。教育きょういく理念りねんは「本気ほんきでやる子こを育そだてる」。

　「『本気ほんきでやる』ことで得えられるものは、学力がくりょくに加くわえ、論理ろんり的てき思考しこう力りょく、問題もんだい発見はっけん力りょく、完遂かんすい力りょくといった、これからの時代じだいを生いき抜ぬくために必要ひつような力ちからです。学力がくりょく伸長しんちょうという『本来ほんらい価値かち』と、自みずからの力ちからで幸しあわせな未来みらいを切きり拓ひらく力ちからを養やしなう“ワセ価値かち”、すなわち『本質ほんしつ価値かち』を提供ていきょうする。それが、創業そうぎょう者しゃの須野すの田た誠まことが教育きょういく理念りねんに込こめた思おもいです」

　山本やまもと豊ゆたか社長しゃちょうは、新型しんがたコロナの感染かんせん状じょう況きょうが深刻しんこく化かしていた2020年ねん3月がつに社長しゃちょうに就任しゅうにん。その直後ちょくご、政府せいふから全国ぜんこくの学校がっこうに休校きゅうこう要請ようせいがあり、進学しんがく塾じゅくも対面たいめん授業じゅぎょうの自粛じしゅくを余儀よぎなくされた。

　「緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげんが出でて20年ねんの4・5月がつは対面たいめん授業じゅぎょうができなくなりました。当社とうしゃは対面たいめん授業じゅぎょうに力ちからを入いれてきましたが、できることを最大限さいだいげんやろうと腹はらをくくりました。他た塾じゅくは授業じゅぎょう映像えいぞうを配信はいしんして対応たいおうするところが多おおい中なか、当社とうしゃはZoomを使つかった双方向そうほうこう・少しょう人数にんずう制せいのウェブ授業じゅぎょうの環境かんきょうを全校ぜんこうで一気いっきに整ととのえました。そのスピード感かんは、学校がっこうに通かよえず不安ふあんを募つのらせていた生徒せいとや保護ほご者しゃの皆みなさんから大おおいに支持しじされました」

　講師こうし陣じんは、対面たいめんの授業じゅぎょうをしつつタブレットの操作そうさをし、自宅じたくで受講じゅこうしている生徒せいとたちにも気きを配くばる必要ひつようがある。

　「どの講師こうしも快こころよく協力きょうりょくしてくれました。生徒せいとが自宅じたくで受講じゅこうしている場合ばあいは、保護ほご者しゃの方ほうも脇わきで授業じゅぎょうをご覧らんになれますから、『我わが子こが受うけていた授業じゅぎょうがこんなにもすばらしかったとは』といううれしい声こえも寄よせられました」

対面たいめん授業じゅぎょうとウェブ授業じゅぎょうを併走へいそう

　緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげんが解除かいじょされた昨年さくねん6月がつ以降いこうは、校舎こうしゃでの対面たいめん授業じゅぎょうと双方向そうほうこうのウェブ授業じゅぎょうのいずれかを選択せんたくできる「早稲わせアカDUAL」を開始かいし。さらにウェブ専せん門もんのオンライン校こうやオンライン自習じしゅう室しつ、いつでも復習ふくしゅうできる「オンデマンド授業じゅぎょう映像えいぞう」の配信はいしんなどを拡充かくじゅう。自宅じたくで受うけたテストの解答かいとう用紙ようしや自宅じたくで取とり組くんだ課題かだいをスマートフォンやタブレットで読よみ込こむと、簡単かんたんにアップロードできるアプリ「早稲田わせだアカデミーEAST」の展開てんかいもスタート。アプリを使つかうと最短さいたん即日そくじつで、採点さいてん・添削てんさくされた解答かいとう用紙ようしが返却へんきゃくされるサービスだ。

　「様々さまざまなサービスの組くみ合あわせにより、対面たいめん授業じゅぎょうと同等どうとうの授業じゅぎょうの質しつを担保たんぽしていきたいと考かんがえています。双方向そうほうこうのウェブ授業じゅぎょうや早稲田わせだアカデミーEASTは、早稲田わせだアカデミーの校舎こうしゃがない首都しゅと圏外けんがいや海外かいがいにも生徒せいと数すうを増ふやせる画期的かっきてきなサービスで、成長せいちょうの可能かのう性せいを感かんじています」

　4年ねん前まえまで現役げんえき講師こうしとして算数さんすうを教おしえていた山本やまもと社長しゃちょう。昔むかしの教おしえ子ごが子育こそだて世代せだいになり、受験じゅけん相談そうだんや合格ごうかく報告ほうこくに来くることもあるという。「講師こうし冥利みょうりに尽つきます」と目めを細ほそめる。

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