平川ひらかわ新しんさん「世論せろん政治せいじとしての江戸えど時代じだい」インタビュー　専制せんせいのイメージ壊こわしたい

平川ひらかわ新しんさん

　「世論せろん政治せいじ」は「民意みんいを反映はんえいした政治せいじ」という意味いみの政治せいじ用語ようご。「江戸えど時代じだいは封建ほうけん的てきな専制せんせい政治せいじの時代じだいと思おもわれていますが、実際じっさいには民意みんいを吸収きゅうしゅうするシステムが存在そんざいし、その結果けっか、国内こくない政治せいじは安定あんていしていた。これまでのイメージを壊こわしたくて、あえて表題ひょうだいにこだわりました」

　「幕府ばくふ官僚かんりょうと利益りえき集団しゅうだん」などを扱あつかった論文ろんぶん７本ほんを収録しゅうろく。第だい４章しょうの「天保てんぽう期きの社会しゃかいと天保てんぽう改革かいかく」では、老中ろうじゅう・水野みずの忠邦ただくにが独善どくぜん的てきに推進すいしんしたとされてきた天保てんぽうの改革かいかくが、実際じっさいには代官だいかん、勘定かんじょう奉行ぶぎょう、江戸えど町まち奉行ぶぎょうらの意見いけんをすりあわせ、合理ごうり的てきな手続てつづきをへて実施じっしされたことを論ろんじている。

　「水野みずのの政策せいさくは物価ぶっか引ひき下さげなどの面めんで効果こうかがあったし、株かぶ仲間なかまの解散かいさんも自由じゆう市場いちばのさきがけとして評価ひょうかできる。しかし、水野みずのは風俗ふうぞく取とり締しまりなどの庶民しょみんが嫌きらった政策せいさくを実行じっこうしたため、悪評あくひょうを一いち手てに引ひき受うけた感かんがあります」と指摘してきする。

　福岡ふくおか県けん出身しゅっしん。「私わたしが学生がくせいだった１９７０年代ねんだい、歴史れきし学がくでは階級かいきゅう国家こっか論ろんと、対抗たいこうして闘たたかう民衆みんしゅうを論ろんじる階級かいきゅう闘争とうそう論ろんが全盛ぜんせいでした。しかし、それだけでは『なぜ徳川とくがわ政権せいけんが２６０年ねんも政権せいけんと平和へいわを維持いじできたのか』といった問といには答こたえられない。そこで政治せいじの安定あんていシステムとは何なにかを考かんがえるようになりました」

　論集ろんしゅう中ちゅう、現在げんざいまでの研究けんきゅうの流ながれをまとめた序章じょしょう「新あたらしい江戸えど時代じだい像ぞうをめざして」と、自みずからの近世きんせい史し研究けんきゅうを総括そうかつした書かき下おろしの終章しゅうしょう「私わたしにとっての江戸えど時代じだい論ろん」がよくまとまっており、なかなかの切きれ味あじ。

　「ですが、どんな歴史れきし研究けんきゅうであっても江戸えど時代じだいの全体ぜんたい像ぞうを描えがくことはできません。大事だいじなことは独自どくじの視点してんから個別こべつの側面そくめんや歴史れきしの流ながれを切きり出だし、歴史れきし現象げんしょうに対たいする多様たような解釈かいしゃくを提示ていじしていくこと。それが歴史れきしの面白おもしろさを引ひき出だすことになるのではないでしょうか」（文ぶん・宮代みやしろ栄一さかえいち　写真しゃしん・小玉こだま重隆しげたか）＝朝日新聞あさひしんぶん2022年ねん7月がつ2日にち掲載けいさい